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まさかのリアルBL
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次の日朝食を摂っていると、アネットさんが「そう言えばソフィア様」と言うので、口をモゴモゴしながら目だけ向けると、
「昨夜遅く、宰相閣下の近衛騎士が変わると発表されました。スティーブ様は、」
「ええええええええっ!?」
思わず立ち上がり、アネットさんに駆け寄る。
「え、え、な、なぜ、なぜですか、」
私をじっと見つめるアネットさんは、口元を綻ばせた。
「スティーブ様の想いが通じたようですよ」
え?
「な、な、なん、なんで、なんっ、」
「ソフィア様、とりあえず落ち着いて座ってください。座らないなら話しませんよ」
仕方がないのでおとなしく座ることにする。なんで…
「わ、私のせいで、」
「ソフィア様、相変わらず知能が低い豚のままなのですか?私は先ほど、スティーブ様の想いが通じたようですよ、と申し上げたのですが」
「だ、って、じゃあ、なんで、」
「宰相閣下が、仕事とプライベートは完全に分けたいから、と陛下にお願いしたそうです」
「…へ?」
今、陛下、って言った?
「へ、陛下にも、」
「ええ。宰相閣下がお伝えしたようです。陛下も、ようやくエリオットが前に進む気になってくれて嬉しいとお喜びでした」
「え、あの、」
「偏見を持っている人間もたくさんいるでしょう、同性同士の恋愛について。でも陛下はあの通り頭も気持ちも軟らかい方ですし。何よりも、宰相様の幸せを願っておいでですから」
そうなんだ…。さすがチンピラ。男前だ。
「ということで、スティーブ様は本日より宰相閣下の近衛騎士を外れて、ソフィア様の近衛騎士になることになりました」
「え!?」
ということは、
「じゃあ、ギデオンさんが離れるんだ!?うわー、」
「うわー、なんですか、フィー」
後ろから悪魔に肩を掴まれ、思わず「ひいっ」と悲鳴がこぼれる。ひっくい声には怒りが込められているようだ。威圧が痛い。
「フィー。わたくしがフィーの近衛から離れるというのはどこから来た情報ですか」
「だ、だって、私にふたりも、」
悪魔はスッと私の隣に座ると、「フィー」と真剣な顔になった。
「…どうしたの」
「昨日いた皇太子のミューズですが、彼女は昨夜子爵家を追い出されました。貴族籍も剥奪され、平民になったようです」
「え!?」
スティーブさんの話をしてたはずなのに…ミューズが…平民に?
「な、なんで!?」
「スティーブ先輩がフィーの近衛騎士に任命されたのは、その一件があったからです。わたくしにしてみれば、宰相閣下にしか興味のないスティーブ先輩がこの任に着くことに否やは」
「ギデオンさん、そっちじゃなくて!なんでミューズがそんな」
悪魔は一瞬にして凶悪な顔になった。
「あのボンクラ皇太子が、フィーを手に入れんがために今回の件を仕組んだようです」
…は?
「私を手に入れるのと、ミューズの追放になんの関係があるの!?」
「あの離縁誓約書には、『ライラ・ダレンと結婚』と記されています。ボンクラ皇太子は、『ライラ・ダレン』がいなくなれば離縁誓約書も無効にできると考えたのでしょう。皇太子の名前で子爵家に命じたそうで、昨夜のうちにあの女性はひとりで追い出されたそうです」
…私は、ミューズを好きではない。昨日初めてまともに挨拶を交わしたくらいだし、元々私のことを見下していた人だし、だけど…!
「ねえ、ミューズはどうなったの!?」
悪魔の代わりにアネットさんが淡々と答える。
「子爵家からすれば皇太子に逆らうわけにはいかないので除籍したようですが、一応路銀は持たせたそうです。昨夜は町の宿に泊まったのが確認できています」
「…そんな」
そもそも、あの腐れ皇太子が「ミューズと結婚する」って言って、私とは離縁するって言ったのに、体型が逆転したからって、そんな…そんな酷い真似を、
「私っ!ミューズを探しに行ってくる!」
「何を言い出すんですか、フィー。貴女はお飾りでも皇太子妃なんですよ。そんな行動許されるわけがないでしょう」
「だって!子爵家がしばらくは面倒見てくれるかもしれないけど、一生そうしてくれる保証なんてないじゃない!貴族として生活してきたのに、平民に、…なんの準備もできないまま急に平民になんて、死ねって言ってるのと同じじゃない!」
「貴女の書類上の夫は、そう思っているのでしょう。だからなんの猶予も与えず、夜の町に追い出したのですよ、フィー。そんなクズが、フィーを狙っているのです。だからスティーブ先輩もこちらに来てくださるのです」
皇太子に対する怒りで手は震え、胸がバクバクと脈打つ。息が苦しい。自分の妃にしようとした女性に、
「ソフィア様、」
「フィー」
ふたりの声がしたかと思うと、悪魔にキュッと抱きしめられた。
「…泣かないで、フィー」
私は悪魔に抱かれたまま、ただ涙を流すことしかできなかった。
「昨夜遅く、宰相閣下の近衛騎士が変わると発表されました。スティーブ様は、」
「ええええええええっ!?」
思わず立ち上がり、アネットさんに駆け寄る。
「え、え、な、なぜ、なぜですか、」
私をじっと見つめるアネットさんは、口元を綻ばせた。
「スティーブ様の想いが通じたようですよ」
え?
「な、な、なん、なんで、なんっ、」
「ソフィア様、とりあえず落ち着いて座ってください。座らないなら話しませんよ」
仕方がないのでおとなしく座ることにする。なんで…
「わ、私のせいで、」
「ソフィア様、相変わらず知能が低い豚のままなのですか?私は先ほど、スティーブ様の想いが通じたようですよ、と申し上げたのですが」
「だ、って、じゃあ、なんで、」
「宰相閣下が、仕事とプライベートは完全に分けたいから、と陛下にお願いしたそうです」
「…へ?」
今、陛下、って言った?
「へ、陛下にも、」
「ええ。宰相閣下がお伝えしたようです。陛下も、ようやくエリオットが前に進む気になってくれて嬉しいとお喜びでした」
「え、あの、」
「偏見を持っている人間もたくさんいるでしょう、同性同士の恋愛について。でも陛下はあの通り頭も気持ちも軟らかい方ですし。何よりも、宰相様の幸せを願っておいでですから」
そうなんだ…。さすがチンピラ。男前だ。
「ということで、スティーブ様は本日より宰相閣下の近衛騎士を外れて、ソフィア様の近衛騎士になることになりました」
「え!?」
ということは、
「じゃあ、ギデオンさんが離れるんだ!?うわー、」
「うわー、なんですか、フィー」
後ろから悪魔に肩を掴まれ、思わず「ひいっ」と悲鳴がこぼれる。ひっくい声には怒りが込められているようだ。威圧が痛い。
「フィー。わたくしがフィーの近衛から離れるというのはどこから来た情報ですか」
「だ、だって、私にふたりも、」
悪魔はスッと私の隣に座ると、「フィー」と真剣な顔になった。
「…どうしたの」
「昨日いた皇太子のミューズですが、彼女は昨夜子爵家を追い出されました。貴族籍も剥奪され、平民になったようです」
「え!?」
スティーブさんの話をしてたはずなのに…ミューズが…平民に?
「な、なんで!?」
「スティーブ先輩がフィーの近衛騎士に任命されたのは、その一件があったからです。わたくしにしてみれば、宰相閣下にしか興味のないスティーブ先輩がこの任に着くことに否やは」
「ギデオンさん、そっちじゃなくて!なんでミューズがそんな」
悪魔は一瞬にして凶悪な顔になった。
「あのボンクラ皇太子が、フィーを手に入れんがために今回の件を仕組んだようです」
…は?
「私を手に入れるのと、ミューズの追放になんの関係があるの!?」
「あの離縁誓約書には、『ライラ・ダレンと結婚』と記されています。ボンクラ皇太子は、『ライラ・ダレン』がいなくなれば離縁誓約書も無効にできると考えたのでしょう。皇太子の名前で子爵家に命じたそうで、昨夜のうちにあの女性はひとりで追い出されたそうです」
…私は、ミューズを好きではない。昨日初めてまともに挨拶を交わしたくらいだし、元々私のことを見下していた人だし、だけど…!
「ねえ、ミューズはどうなったの!?」
悪魔の代わりにアネットさんが淡々と答える。
「子爵家からすれば皇太子に逆らうわけにはいかないので除籍したようですが、一応路銀は持たせたそうです。昨夜は町の宿に泊まったのが確認できています」
「…そんな」
そもそも、あの腐れ皇太子が「ミューズと結婚する」って言って、私とは離縁するって言ったのに、体型が逆転したからって、そんな…そんな酷い真似を、
「私っ!ミューズを探しに行ってくる!」
「何を言い出すんですか、フィー。貴女はお飾りでも皇太子妃なんですよ。そんな行動許されるわけがないでしょう」
「だって!子爵家がしばらくは面倒見てくれるかもしれないけど、一生そうしてくれる保証なんてないじゃない!貴族として生活してきたのに、平民に、…なんの準備もできないまま急に平民になんて、死ねって言ってるのと同じじゃない!」
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皇太子に対する怒りで手は震え、胸がバクバクと脈打つ。息が苦しい。自分の妃にしようとした女性に、
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「フィー」
ふたりの声がしたかと思うと、悪魔にキュッと抱きしめられた。
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