お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
78 / 161
まさかのリアルBL

しおりを挟む
馬車にゴトゴト揺られながらさきほどのことを思い返す。

「ねえ、ギデオンさん。ギデオンさんは、なんでミューズがあんなに太っちゃったのか、理由を知ってる?」

「まったく興味がないのでわかりません」

…そうだよね。聞いた私が間違ってました。

以前のソフィアまでは…いや、同じくらい…あの可憐な容姿のミューズは見る影もない太りっぷりだ。あの調印式以来、見かけることもなかったからなぁ。

離宮に着くと、アネットさんが出迎えてくれた。

「ソフィア様、お帰りなさいませ」

ジャポン皇国に行く前は『妃殿下』と呼ばれていたので名前で呼ばれるとこそばゆい感じがする。にやけそうな口元をなんとかごまかし、「ただいま帰りました」と伝えた。

アネットさんは、「皇太子のミューズと、一戦交えたそうですね。今や体型は逆転しましたが」とニヤリとする。ついさっきの出来事を、なぜ知っているのか。恐るべし、アネットさん。そうだ、

「アネットさん、ミューズはなんであんなに太っちゃったの」

「調印式の時にボールドウィン伯爵家から離縁されて、母親の実家に帰ったのですが。ダレン子爵家では、ミューズが皇太子の次の妻になる、と聞いて大喜びしたそうで。ボールドウィン伯爵は、領民のお陰で自分たちの生活が成り立っているという思考の元、質素倹約を是とする方なのですが、その反動もあったのでしょうね。祖父母が乞われるままに与えたおかげであのような立派な体型に生まれ変わったのです。本人は『ちょっとぽっちゃりしたけど、胸も大きくなったし色気が増したわ』と未だに自分が太ったことを認識できていないようですがね。色気なんてどこにもないんですけどねぇ。自分にどれだけ自信があるのでしょうね」

そうなんだ…。確かにボールドウィン伯爵は、スラリとした方だったもんね。自分にも厳しそうな人だったし。

「皇太子ははじめこそ何も言わなかったようですが、ここ最近は何かと理由をつけて会わないようにしていたらしいです。あんなに王宮に来させて、人目も憚らずやりたい放題でしたのに」

「でも、王妃様がよく来てるって言ってたよ」

「ええ、あの女性は皇太子が嫌がっていることをまったく意に介さないようで、王宮に現れるんですよ。即追い返されてるようですが」

鋼のメンタル…。

「あ、そう言えばソフィア様、スティーブ様がいらしてますよ」

「え!?」

あれ?今日、昼休みに来るって言ってなかったっけ?

急いで応接間に行くと、スティーブさんがしょんぼりした様子で項垂れていた。

「スティーブさん」

「あ、ソフィア様…申し訳ありません、朝から…」

立ち上がったスティーブさんは心なしか青ざめた顔をしている。

「…何か、あったんですか?」

スティーブさんは一度口を開きかけて、私の後ろに目を向けた。釣られて振り向くと、まあ予想通り悪魔が立っている。

「ギデオンさん、スティーブさんと話をするから席を外して」

「イヤです。フィーからは離れません」

…この悪魔は、ほんとに融通が効かないな。

お互い睨み合っていると、スティーブさんが、

「ギデオン…が、いても構いません」

と言って、悪魔に視線を移した。

「良かったら、一緒に聞いてください」

スティーブさんに申し訳なく思いながらソファに座ろうとすると、悪魔にヒョイッと抱き上げられてしまった。もれなく膝にのせられる。

「ギデオンさん!」

「フィー、わたくしは先ほど言いましたよ。フィーから離れないと。半年、閉じ込めたっていいんですよ。そうなると、結婚式には参列できなくなりますが…藤乃さんはさぞや哀しまれるでしょうね、招待したのに来てくれなくて」

悪魔め…ほんとに悪魔だよ!

内心ムカムカしつつ、本当にやられかねないので我慢することにした。絶対にいつか仕返ししてやる。

「すみません、スティーブさん。それであの、私に相談とは、」

スティーブさんは、サッと顔を赤らめると、

「ソフィア様がお持ちの本を読ませていただいたのですが…あの、お、俺は、」

その後、しばらく沈黙がおりる。…これ。どうするべきなんだろう。

とりあえず待っていると、スティーブさんは意を決したように勢いよく顔を上げ、私をまっすぐに見据えた。

「俺は、あの本に描かれているように、閣下を…エリオット様を、愛したいんです。どうか、ご教授いただけないでしょうか、ソフィア様っ」

エリオット様、が宰相様だとようやく繋がり、…え?

「愛したい、って、宰相様とセックスしたいってことなんですか?」

スティーブさんは私の言葉に真っ赤になると、「ソフィア様…さすがですね。俺はなかなか言えません」と言った。…褒めてないよね、それ。

「ええと…スティーブさんは、その、…恋愛の対象として、宰相様を見ているということでいいんです、か…?」

「はい。…気持ち悪いですか」

私は悪魔の膝から降りて、スティーブさんの手を握りしめた。なんて…なんて、尊い!

「フィー!なぜスティーブ先輩の手を握るのですか!」

「スティーブさん、是非応援します!是非宰相様をモノにしてください!むしろありがとうございます!いえ、大丈夫です、残念ですが、おふたりのまぐわいを覗かせてくれ、なんてはしたないことは言いません、言いませんから、まぐわい具合を是非聞かせてください、それで我慢します!いやぁーっ!嬉しい!尊い!神!」

「ソ、ソフィア様…?」

狂喜乱舞する私を悪魔がギュッと抱き上げソファに縫い付ける。

「フィー、わたくしの手を握ってください」

強制的に手を握られるが、それどころではない。

「スティーブさん、宰相様にご自分の気持ちは伝えたんですか?」

「まだです…昨日の一件で、なんだか閣下のご機嫌が悪くて…追いかけて行きましたら、『明日は一日休暇を与える。思う存分ソフィア様と過ごすがいい』と、冷たく仰って…目も合わせてくださらなくて…」

…やっぱり昨日の感じ、勘違いじゃなかったんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...