お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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まさかのリアルBL

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馬車にゴトゴト揺られながらさきほどのことを思い返す。

「ねえ、ギデオンさん。ギデオンさんは、なんでミューズがあんなに太っちゃったのか、理由を知ってる?」

「まったく興味がないのでわかりません」

…そうだよね。聞いた私が間違ってました。

以前のソフィアまでは…いや、同じくらい…あの可憐な容姿のミューズは見る影もない太りっぷりだ。あの調印式以来、見かけることもなかったからなぁ。

離宮に着くと、アネットさんが出迎えてくれた。

「ソフィア様、お帰りなさいませ」

ジャポン皇国に行く前は『妃殿下』と呼ばれていたので名前で呼ばれるとこそばゆい感じがする。にやけそうな口元をなんとかごまかし、「ただいま帰りました」と伝えた。

アネットさんは、「皇太子のミューズと、一戦交えたそうですね。今や体型は逆転しましたが」とニヤリとする。ついさっきの出来事を、なぜ知っているのか。恐るべし、アネットさん。そうだ、

「アネットさん、ミューズはなんであんなに太っちゃったの」

「調印式の時にボールドウィン伯爵家から離縁されて、母親の実家に帰ったのですが。ダレン子爵家では、ミューズが皇太子の次の妻になる、と聞いて大喜びしたそうで。ボールドウィン伯爵は、領民のお陰で自分たちの生活が成り立っているという思考の元、質素倹約を是とする方なのですが、その反動もあったのでしょうね。祖父母が乞われるままに与えたおかげであのような立派な体型に生まれ変わったのです。本人は『ちょっとぽっちゃりしたけど、胸も大きくなったし色気が増したわ』と未だに自分が太ったことを認識できていないようですがね。色気なんてどこにもないんですけどねぇ。自分にどれだけ自信があるのでしょうね」

そうなんだ…。確かにボールドウィン伯爵は、スラリとした方だったもんね。自分にも厳しそうな人だったし。

「皇太子ははじめこそ何も言わなかったようですが、ここ最近は何かと理由をつけて会わないようにしていたらしいです。あんなに王宮に来させて、人目も憚らずやりたい放題でしたのに」

「でも、王妃様がよく来てるって言ってたよ」

「ええ、あの女性は皇太子が嫌がっていることをまったく意に介さないようで、王宮に現れるんですよ。即追い返されてるようですが」

鋼のメンタル…。

「あ、そう言えばソフィア様、スティーブ様がいらしてますよ」

「え!?」

あれ?今日、昼休みに来るって言ってなかったっけ?

急いで応接間に行くと、スティーブさんがしょんぼりした様子で項垂れていた。

「スティーブさん」

「あ、ソフィア様…申し訳ありません、朝から…」

立ち上がったスティーブさんは心なしか青ざめた顔をしている。

「…何か、あったんですか?」

スティーブさんは一度口を開きかけて、私の後ろに目を向けた。釣られて振り向くと、まあ予想通り悪魔が立っている。

「ギデオンさん、スティーブさんと話をするから席を外して」

「イヤです。フィーからは離れません」

…この悪魔は、ほんとに融通が効かないな。

お互い睨み合っていると、スティーブさんが、

「ギデオン…が、いても構いません」

と言って、悪魔に視線を移した。

「良かったら、一緒に聞いてください」

スティーブさんに申し訳なく思いながらソファに座ろうとすると、悪魔にヒョイッと抱き上げられてしまった。もれなく膝にのせられる。

「ギデオンさん!」

「フィー、わたくしは先ほど言いましたよ。フィーから離れないと。半年、閉じ込めたっていいんですよ。そうなると、結婚式には参列できなくなりますが…藤乃さんはさぞや哀しまれるでしょうね、招待したのに来てくれなくて」

悪魔め…ほんとに悪魔だよ!

内心ムカムカしつつ、本当にやられかねないので我慢することにした。絶対にいつか仕返ししてやる。

「すみません、スティーブさん。それであの、私に相談とは、」

スティーブさんは、サッと顔を赤らめると、

「ソフィア様がお持ちの本を読ませていただいたのですが…あの、お、俺は、」

その後、しばらく沈黙がおりる。…これ。どうするべきなんだろう。

とりあえず待っていると、スティーブさんは意を決したように勢いよく顔を上げ、私をまっすぐに見据えた。

「俺は、あの本に描かれているように、閣下を…エリオット様を、愛したいんです。どうか、ご教授いただけないでしょうか、ソフィア様っ」

エリオット様、が宰相様だとようやく繋がり、…え?

「愛したい、って、宰相様とセックスしたいってことなんですか?」

スティーブさんは私の言葉に真っ赤になると、「ソフィア様…さすがですね。俺はなかなか言えません」と言った。…褒めてないよね、それ。

「ええと…スティーブさんは、その、…恋愛の対象として、宰相様を見ているということでいいんです、か…?」

「はい。…気持ち悪いですか」

私は悪魔の膝から降りて、スティーブさんの手を握りしめた。なんて…なんて、尊い!

「フィー!なぜスティーブ先輩の手を握るのですか!」

「スティーブさん、是非応援します!是非宰相様をモノにしてください!むしろありがとうございます!いえ、大丈夫です、残念ですが、おふたりのまぐわいを覗かせてくれ、なんてはしたないことは言いません、言いませんから、まぐわい具合を是非聞かせてください、それで我慢します!いやぁーっ!嬉しい!尊い!神!」

「ソ、ソフィア様…?」

狂喜乱舞する私を悪魔がギュッと抱き上げソファに縫い付ける。

「フィー、わたくしの手を握ってください」

強制的に手を握られるが、それどころではない。

「スティーブさん、宰相様にご自分の気持ちは伝えたんですか?」

「まだです…昨日の一件で、なんだか閣下のご機嫌が悪くて…追いかけて行きましたら、『明日は一日休暇を与える。思う存分ソフィア様と過ごすがいい』と、冷たく仰って…目も合わせてくださらなくて…」

…やっぱり昨日の感じ、勘違いじゃなかったんだ。

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