お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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まさかのリアルBL

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前日ほとんど眠れなかったのが効いたのか、お風呂を上がってベッドに横になってからの記憶がない。悪魔は「フィーの寝顔、久しぶりに見れました。可愛いのは変わりませんね」とニコニコしていた。コメントがしづらいことを言うのはやめて欲しい。

パジャマから着替えて、また悪魔に抱き上げられる。朝食を食べて行け、とチンピラから伝言されたそうだ。

「ギデオンさん、また太っちゃうから歩かせて」

「フィー、もう少し太ってもいいと思います」

話の通じなさ具合は相変わらずである。仕方なくそのまま食堂まで運ばれてしまった。席についた面々を見て、そういえば、とふと思う。

「あの、陛下」

「なんだ」

チンピラは優雅に水を飲んでいた。美しいグラスに入っていると、ただの水も美味しそうだ。

「ただの疑問なんですけど、側妃…様、と皇太子は一緒に食事はしないんですね」

私の顔をじっと見ると、

「あいつらは家族じゃねえから、一緒に食事をする必要はない」

と言って、「さ、食え。おまえは米がいいかもしれねえが、今日は久しぶりにパンを食え」とニカッと笑った。

家族じゃない、という言葉の意味がわからなかったが、確かに王妃様と側妃に囲まれる食卓は、なんかいたたまれないかも。

そんなふうに思いながら黙々と食べ進める。

「そういえばソフィアちゃん」

王妃陛下に呼ばれ、「はい」と視線を向けると、

「公務は免除するけど、3ヶ月の間にジレッタ共和国とアミノフィア国の言語を勉強してくれる?半年後までに、読み書きはもちろんだけど会話もこなせるようにして。あわせて、文化や歴史も学んでちょうだい。本を読むことでわかることもたくさんあるだろうけど、言語に関してはギデオンに習うといいわ。頼んだわよ、ギデオン」

「お任せください」

サラリと応える悪魔にビックリする。近衛騎士って、多国語習得が条件なの?

悪魔は私を見ると、ニコリ、とした。…ずるいな。顔がいいうえにそんなスペックもあるとは。負けられん。

「僕たちもお役にたてると思います、ソフィア様」

「いいえ、お気持ちだけで十分です。フィーにはわたくしが責任を持って教えます」

せっかくのゼイン王子のご好意を…。しかしゼイン王子は気を悪くした風もなく、「何かありましたら申し付けください」となぜか悪魔に言った。王子にそんなふうに言わせるなんて…まったく、なんてヤツだ、悪魔め。

朝食後、食堂を出るとチンピラが付いてきた。「馬車まで見送ってやる」と言ったあと、悪魔に向かって、

「おい、ギデオン。1日1回は俺にソフィアを見せに来いよ。来なかったら、ソフィアは王宮に住ませるからな」

「…陛下。こんなときばかり、権力振りかざすのやめていただけませんか」

ふたりがそんなやり取りをしているのを聞いていると、「ソフィア嬢!」と呼ばれた。洩れなく無視する。

近づいてくる足音にウンザリしていると、チンピラがクルリと後ろを振り向いた。

「リチャード、なんの用だ」

「…父上、その、…もう一度、考え直していただけませんか。あの時と今では状況が違います!」

「何も違わねぇよ。ソフィアが痩せてキレイになったから、ってだけの話だろ。おめえが見た目でしか相手を見れねえ、ただそれだけの話だ。でっけえ魚を逃がしちまったなぁ、気の毒に」

皇太子は私を見ると、

「キミだって、このままいれば王妃になれるんだぞ!そのほうがいいだろ!よく考えるんだ!」

と叫んだ。こいつ、ほんと話を聞かないヤツだなあ…。

そんなふうに思っていると、「リチャードさまぁ!」と甘ったるい声がした。入り口の方からやってくるのは、

「…え?」

ドスドス、と効果音がしそうに逞しい脚でこちらに向かってくるのは、…ミューズ?

「リチャード様、どうして迎えに来てくださらないのですか?キャッ、ギデオン様!朝からお会いできるなんて、ライラ感激ですぅ!」

…ミューズって、あんなにほっそい腰つきだったのに、半年でこんなに変わっちゃったの?なんで?

「おい、ボンクラ。おまえの恋人を王宮に入れんじゃねえと言っただろうが」

そう言いながらもチンピラの顔は嬉しそうである。あれ、絶対に楽しんでるよね。

「こ、恋人ではありません!」

「リチャードさまぁ、照れてるんですかぁ?ライラが可愛いからって…もうっ」

その後、ミューズの視線がこちらに向き、ニヤァ、とイヤらしい嗤いを浮かべた。

「あなた、どなた?私はリチャード様の妃になるのよ。挨拶もできないの?」

「ご無沙汰しております、ライラ・ダレン子爵令嬢。わたくしは、ソフィア・エヴァンスです」

私の言葉を聞いたミューズの瞳が見開かれ、ワナワナと震え出した。

「なんですって!?いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるのよ、そんなこともわからないの!?あんな豚の名前を騙ってまでリチャード様に取り入りたいの!?…ふん、おあいにくさま!リチャード様は私しか愛してないの!」

カラダに見合わない俊敏な動きを見せたミューズは、私を突き飛ばそうとし、スカッと空振りしてそのまま床につんのめった。

「…汚い手で、わたくしの大切なフィーに触れるな、ゴミが」

冷たく吐き捨てた悪魔は、一転蕩けそうな顔になると私の頬にチュッと口づけた。

「ああ…わたくしのフィーは、本当に可愛い…」

うっとりしたように呟く悪魔は、クルリとチンピラを見ると、

「では、陛下、失礼します。1日1回はご容赦ください」

「ダメだ。俺と夕食を共にすることがおめえとソフィアの性交を認める条件にする。連れて来なかったら、ソフィアに貞操帯つけてやるからな。カギは俺の下着に入れててやる」

悪魔は「卑怯すぎる…」と呟くと、腕の中の私をじっと見下ろし、ため息をついた。

「フィー、ではそう言うわけなので、夕食はこちらで」

「ソフィアは僕の妻なんだぞ!性交なんて、認められるわけがないだろう!」

「離縁誓約書の第8項にて認められております。ソフィア様が、ギデオン…騎士と、セックスしようが子どもができようが、殿下が口を出す権利はございません」

「お、エリオット。早いな」

宰相様の口から「セックス」とは…なんだか淫靡すぎて、朝から刺激が強い。

宰相様はニコリとして皇太子を見ると、振り向いて「衛兵!」と呼んだ。

「殿下と恋人の令嬢を外にお連れしろ。令嬢がいる限り、殿下も中に入れるな」

チンピラも「そうしろ、俺が赦す。ちっとばかりケガさせてもかまわねえぜ、暴れるようならやっちまえ」と皇太子を睨み付けた。

「父上っ!どうか、」

「やだぁ、リチャードさまぁ、痛いぃ」

衛兵の方々が容赦なくふたりを摘まみ出す。ミューズが、あんなふうになったから、

「だからフィーを正妃のままになどと始まったのですね。愛しているなら、どんな容姿であれ受け入れられるでしょうに」

…確かに悪魔は、太っている私に口づけとかしてた。なんだか、悪魔の気持ちを突きつけられたようで胸が落ち着かなくなる。

モヤモヤをごまかすために視線を移すと、宰相様の後ろになぜかスティーブさんがいなかった。
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