お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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「調印式で王宮を訪れた日、わたくしが王妃陛下に怒られたのを覚えていますか」

「うん。ご飯の時だよね。私が泣いたりしたから、ごめんね」

悪魔は私の腕の中でブンブンと首を横に振った。

「ギデオンさん、その格好苦しくないの?」

「フィーの匂いがします。苦しくないです。むしろ気持ちいいです」

…悪魔の感覚がよくわからない。

「…あの日、王妃陛下に言われたのです。ソフィアちゃんを好きだからって、貴方がやってることは好きな子の気を引きたくてつい手を出したり囃し立てたりしてしまう幼い男の子と同じよ、って」

「え!?王妃陛下は、ギデオンさんが私を好きって知ってるの!?」

悪魔はコクリと頷くと、

「フィーを、ジャポン皇国に来させてあげたかったのは本当でしょうが、わたくしからフィーを遠ざける意味合いもあったのです。わたくしが会いたい会いたいってばかり言うから、手紙も握り潰されるし…わたくしとフィーを引き裂くなんてと腹立たしく思っていましたが、フィーはわたくしを好きではないのですから、むしろ離れて良かったのですね。…だから、帰ってこないのですね」

ギュウッとカラダを締め上げられ、息苦しくなる。悪魔よ、少しは手加減を覚えてくれ。

「…だれか、好きな人ができてしまいましたか。だから、フィーは、こんなにキレイになってしまったのですか」

「ギデオンさん、私は、ソルマーレ国から出て来るときも言ったけど、3年後…もう、3年ないけど、皇太子と離縁するために国王陛下に出された課題をどうにかしなくちゃいけないんだよ。今回お米の輸入をはじめ、貿易も開始されたけど、」

「大豆も栽培が始まりましたよ。農家の方々が喜んでいました」

「そうなんだ…。とにかく、何か利益になることを探したいから、恋愛とかはちょっと…」

悪魔はガバッと顔を上げると、

「では、まだ、フィーは好きな男性はいないのですね!?」

と叫んだ。そんなに真剣な顔をしなくても…。

「あのさ、ギデオンさん。ギデオンさんはこんなにイケメンなんだから、私じゃなくても、」

「わたくしはフィーが好きなんですよ。聞こえませんでしたか」

途端に悪魔のカラダから冷気が漏れ出す。

「…先ほどの、わたくしの秘密ですが」

「ギデオンさん、だから」

悪魔は私の口を手で塞ぎ、ギラギラした瞳で睨み付けた。

「いいえ、聞いてもらいます。フィー、わたくしは、自分の血縁者以外の未婚女性の顔が動物に見えるのです」

「…はい?」

「…物心ついたときには、もうその状態でした。このことを知っているのは、陛下と王妃陛下、…です」

なにその中途半端な切り方。

口からなんとか悪魔の手を離そうとしたら、そのままギュッと抱き込まれた。

「…陛下は、いろいろ調べてくださったのですが原因はわからずじまいで。婚約者を決める年齢になってもまったく治ることはなく、顔合わせをしても、ドレスを着た犬やら猫やらウサギやらにしか見えないわけですから。しかも、舌舐めずりまで見えるんです。ベロベロ、自分の口の回りを舐めて、涎を垂らして…一緒に立ち合っていた人によれば、大人しいお淑やかな令嬢だというのですが、わたくしにはそうは見えないのですから、いくら家同士の結婚だと言われても受け入れることはできなくて。だから、騎士になって、剣にすべてを捧げることにしたんです。子作りどころか、女性と口づけることすらできない自分を、本当に哀しく思いました。あの日…」

悪魔はふ、と何かを思い出すように上を見た。

「騎士になったのに、動物にしか見えない王宮の女性たちのアプローチに辟易して、いっそのことどこか別の国で生きていこうかと考えていたら、陛下が、ソフィアの近衛はどうか、と。なぜ皇太子のお飾り妃の元にいかなくてはならないのかと思いましたが、うるさい動物の群れにいるよりはマシかと、行くことにしたんです。群れよりは、一匹のほうが我慢できますからね。陛下に付いて、部屋に入ったら、」

悪魔は私の顔をまた上げさせて、じっと覗き込んだ。

「動物の顔ではない、人間の女性がそこにいたんです。あまりに驚いて、…ああ、この人が、わたくしの運命の女性なのだと理解したのです」

…え?

「…あのさ、ギデオンさん。なんで、…この先、他にも、」

「わたくしが言っていることを嘘だと思っているのですか」

「ううん、そうじゃなくて、私が運命だなんて、」

「フィー。わたくしは、ソフィア様も動物に見えたのですよ。でも、中身が貴女になって、人間に見えたんです。だから運命なのです。…フィーは、こんな変な人間はイヤですか」

変な人間というより、性格に難があるのはそういう事情があったからなのか、となんとなく納得する。

「ギデオンさん、誰とも触れあったことなかったのに、私にはグイグイ来たよね、初めから」

悪魔は顔を真っ赤にすると、「…嬉しくて、すみません」と呟いた。

「…誰とも、性的な交わりができないと諦めて、自分はなんのために生まれてきたのか、性欲だってあるのに、女性の柔らかさや温かさを知らないまま一生を終えなくてはならないのかと、…自慰行為のたびに、虚しくて…だから、フィーを見つけて、本当に、天にも昇る気持ちになってしまって…。だから、触れたくて、一緒に寝たいと言ったんです。すごく柔らかくて、ああ、女性のカラダというのはこんなにも…触れるだけで、気持ちのいいものなんだ、って。とてもとても感動しました。…19歳になるまで、まともに女性と口をきいたこともなくて、どんなふうにすれば女性が喜ぶのか、なんてことももうすっかり考えられなくて。それについては、謝ります。だけど、フィーに触れていたいんです。今夜から、また一緒に寝てください。そして、あの、」

悪魔は真剣な顔で私を見つめた。

「…あの約束を。果たしても、いいですか」

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