お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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朝食後、悪魔はチンピラに「もう帰る」宣言をして殴られていた。

「ソフィアは目覚めたばっかりなんだぞ!啓一郎さんたちだって改めて謝罪したいってのに、おまえが離さないから、」

「必要ありません。もうフィーはジャポン皇国に来ることはありません」

「ギデオンさん、勝手に決めないで…。私、これから撫子さんたちと一緒に玄武州に行くんだよ」

上からジロリと私を見下ろした悪魔は、

「ダメです。フィーは利き手を折られたんですよ。どうやって生活する気です」

「でも…!」

「じゃあソフィアちゃん、治ったらまたお邪魔すればいいんじゃない?」

ああ、天使の声が…!

「王妃陛下…」

うるうるした目で見つめると、王妃様は悪魔の耳をギュウッと引っ張った。

「痛いです、やめてください」

「まったく…ソフィアちゃんはこんなにキレイになったって言うのに、貴方はなんにも変わらないどころかますます酷くなってるわよ?このまま行くと、ソフィアちゃんに嫌われるわよ」

その言葉を聞いた悪魔はまた私を見下ろしてきたが、瞳が混乱している。

「フィー、あの、…え?フィーは、わたくしが嫌いなのですか?」

なぜそんなに狼狽えているのか…。

「ギデオンさんが、私のことを心配なのはわかります。私を駄豚と思っているわけですし、飼い主としては躾がなってないペットを放し飼いにはできないと思ってるんですよね、でも私、」

「飼い主?飼い主とはなんなんです。フィーは、こちらに来る前にもペットがうんぬん言ってましたが、」

「だってギデオンさん、私のことペットだと思ってるんでしょ。だから夜、一緒のベッドに寝たりするんでしょ、ペットとたくさんスキンシップとりたい派だから」

「…なんですって?」

低い声にビクリとし、そっと伺うと王妃様が魔王に変身していた。

「ギデオン!どういうことなの!ソフィアちゃんと一緒に寝てるですって!?」

「寝てる、ではありません。フィーをジャポン皇国に送られてしまったせいで、約半年寝ていません。昨夜寝れなかったのはわたくしのせいですから仕方ありませんが、今夜からはずっとずっと一緒に寝ます。そんなことより、」

「そんなことですって!?ギデオン、貴方まさか、ソフィアちゃんに手を出したりしてないでしょうね!?」

「まだ口づけしかしていません。そんなことより、フィー、わたくしが嫌いなのですか、だから、ジャポン皇国に来たのですか」

いや、違うでしょ。ジャポン皇国に来たのは、お米が食べたいから来たんです。…ん?

「ギデオンさん、って、私が好きなの?」

私の言葉を聞いた悪魔は表情が無になった。

「まさか…まさか、ぜんぜん通じてなかったんですか?」

「え?」

悪魔は私を抱え直すと、「ふたりきりで話をしましょう。ここは外野がうるさくて集中できない」と言って走り出した。外野がうるさい、って…不敬って言葉、存在しないの?悪魔には?

「ギデオン、待ちなさい!」

と叫ぶ王妃様を無視して、悪魔はものすごい速さで私が借りているゲストルームに入りカギを閉めた。

私を横抱きにしたまま、ベッドにのり背もたれに寄りかかる。

「フィー」

悪魔は私の顔を自分に向けさせた。あいかわらずキレイな顔。

「わたくしは、フィーが好きです」

突然愛の告白をされても面喰らうしかない。あんなに人を虐めていながら、好き?

「好きだから、一緒に寝たいと思ったんです。好きな女性だから、一緒に寝たいと、」

「でもギデオンさん、私を抱き枕にしたいって言ったんだよ」

「抱き枕ですよ!?最高じゃないですか、最高の抱き枕ですよ!好きな女性を抱っこして眠れるなんて、これ以上の枕はこの世に存在しません!」

…でも、ギデオンさんが私を抱き枕にする、って言ったのは、

「会ってすぐに、私を好きになったの?」

悪魔は表情を変えることなく、至極真面目に「そうです」と頷いた。…自分のカラダながら、あんなに太っていたソフィアを好きになった…?

「ギデオンさんは、その、…太ってる人が好きなの?」

すると悪魔に頬をつねられた。

「痛い!ギデオンさん、痛い!」

「なんですか、わたくしがデブ専だと言いたいのですか?わたくしが、太っている女性ならば誰でも好きになると?」

悪魔の瞳が冷酷に煌めいている。イケメンすぎて怒ると迫力がすごい。怖い。

「だって…!会って、ほんとにすぐでしょ!話だってろくにしてない時だったし、」

「フィーは、人間に見えたんです」

…人間ですが?

「だから、好きになりました。わたくしを遠ざけようとしたのも、わたくしに媚びをうったりしないのも、すごく好ましかった。そんなふうにしてくれる女性はほとんどいない。王妃陛下、アネットさん、妹たち…ええと、ディーン、ゼイン王子たちの妹である王女たちくらいです。あとは、ものすごくお年を召したおばあちゃん」

「それは、ギデオンさんがモテる証拠じゃない。いいことでしょ」

悪魔は一瞬考える顔になると、

「フィーには、わたくしの秘密を教えます」

と言った。

秘密、と聞いてゾワリと背中に悪寒が走る。そんな重要そうなこと聞きたくない…!

「ギデオンさん、いい、聞きたくない」

「いいえ、知るべきです。わたくしの好きな女性なのですから、わたくしの秘密を打ち明けてしかるべきです。フィーも、わたくしのことを好きだと思っていたので、特に言わなくてもいいかと思っていたのですが、」

「いや、だから、好きじゃなければ余計に聞かせるべきでは、」

「…好きじゃないんですか?」

悪魔からの圧がすごい。なんだろう。拷問されてるのかな。

「フィーは、わたくしを好きではないんですか?」

「…あのさ、ギデオンさん。どうなると、私がギデオンさんを好きになると思うの?初対面でほっぺた挟まれてギリギリ締め上げられて、駄豚とか平気で言う相手を好きになる人ってどのくらいいるのかな?私は、ギデオンさんがイケメンの部類であっても、カッコいいとは思っても好きになったりはしないし、」

悪魔は突然ベッドから降りると、私をベッドに横たえた。

「王妃陛下に…言われた通りだったとは…」

そのままベッドの傍らに崩れおち、頭をベッドに打ち付け始めた。

「ちょっと!ギデオンさん!」

慌てて起き上がり、悪魔の頭をギュッと胸に抱き止める。いきなり何をしはじめるんだ、この悪魔は…!

「フィー…。わたくしがやってきたことは、フィーには嫌がらせだったのですか?王妃陛下が、」

「嫌がらせというか、虐め?」

悪魔はソロリと私の背中に手を回すと、ポツポツ話を始めた。






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