お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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次の日、朝食の時間に悪魔が迎えに来た。チンピラ国王、王妃様と共に悪魔も同席して食事をするらしい。他国にまで自分の国の習慣を強要するチンピラの度胸に目眩を覚える。

「…フィー。昨夜はすみませんでした。あんな目に遭わされたばかりなのに、」

「大丈夫だよ、ギデオンさん。心配してくれてありがとう」

悪魔はチラチラこちらを見ていたが、私の言葉を聞くとホッとしたような顔になった。

「あのさ、ギデオンさん。昨日言ってた手紙のことなんだけど、」

悪魔は私をサッと横抱きにした。

「ギデオンさん!?」

「フィー、骨が折れていますから」

「折れているのは腕ですから!」

「大丈夫です」

話がまったく噛み合わない。少し離れている間に、さらに悪魔は進化してしまったのだろうか。

「…手紙。わたくしの手紙は、王妃陛下に握り潰されていました」

「…え?」

「こんなこと書いて、ソフィアちゃんに恐怖を与えたいのか、と。陛下も噛んでました。まったくあの夫婦は…」

ギリギリ歯ぎしりをする悪魔の顔が凶悪に変わる。恐怖、確かに恐怖しかない。

「あの、…王妃陛下に、手紙読まれたの?」

「…一応、検閲すると言われてはいたのですが。わたくしは、自分の素直な気持ちを書いただけなのですが、何がいけなかったのか未だに不明です」

首を傾げる悪魔に、なんて書いたのかを尋ねてみて、即座に後悔した。

「会いたい、フィー、会いたい、早く帰って来てほしい、帰ってこれない理由はなんなのかわたくしの納得がいくように800字以上で」

「わかった、もう大丈夫。ありがとう」

800字以内、は聞いたことあるけど、800字以上って…どれだけ言い訳すれば…。

悪魔は途中で遮られて不満そうだったが、そのまま黙って歩いて行った。

「ギデオンさん、私、歩ける」

「フィー。骨が折れているんです」

なんなら足の骨を折りましょうか、という副音声が聞こえてきて私も黙ることにした。

「…フィー」

「なに?」

「あの、約束。フィーが覚えていないと言った、約束のことなんですが」

ああ、悪魔と契約してしまった内容だね。教えてくれるのだろうか。

「…まだ、思い出しませんか」

「…あのさ。覚えてないんだから、思い出せないよね」

「そうですか」

また沈黙がおりる。教えてくれるつもりは毛頭ないらしい。

「フィー、とりあえず、今日帰りましょうね。明日にはソルマーレに着けます」

「え!?」

いつの間にそんな話に!?

「だ、ギデオンさん、あの、」

「…なんです。帰りたくない理由があるんですか。まさかやはり、あの3人に手込めに…っ」

またもや凶悪な顔になる悪魔を必死で宥める。また斬りかかられたりしたら、国際問題に成りかねない…私の未来の居場所がなくなってしまう…!

「ギデオンさん!私は、誰ともエッチしてないから!」

「…本当ですか」

「あのさ、こんなこと嘘ついてもなんの得もないよね」

「フィー、痩せて性欲は出ましたか」

…またそれ?

「出ません」

「なぜです?痩せたら性欲が出ると、」

「でも出てないから仕方ないですよね!」

まったくこの悪魔は、いつまで人の揚げ足を取り続ければ気が済むのか…!!

悪魔はとたんに嬉しそうな顔になると、「良かった」と呟き、私の唇に口づけた。…一度したから、スキンシップも進んでしまったようだ。

「ギデオンさん、」

誰か相手はできなかったのか、と聞こうとする前に食堂に着いてしまった。

中にはもうみんな揃っていた。私は悪魔に抱き抱えられたままだが、あえてみんな見ないふりをしてくれているようだ。いや、王妃様だけは「ギデオン!ソフィアちゃんを離しなさい!」と怒っている。まったく気にしない悪魔は、私を藤乃さんの隣に座らせ、自分は私の隣に座った。

「では、いただきましょう」

啓一郎さんの声で食事が始まる。

「あの、ソフィア様、」

藤乃さんにコソッと呼ばれ、視線を移すと藤乃さんはうっすら赤くなっていた。私の視界に、こちらを向く織部さんの姿も入った。よく見ると、ニッコリされ、「ありがとな」と言われた。

「…え?」

「わ、私、織部様に、妻にしていただくことにしました」

みるみる真っ赤になる藤乃さんの可愛いこと。

「ほんとに!?良かった、おめでとう!エライ、藤乃さん!織部さん、」

「フィー。たとえ織部さんでもわたくしの前で話をするのはやめてください」

後ろから悪魔に目を塞がれビクッとなる。

「ギデオンさん、何してんの!」

「さ、わたくしが食べさせてあげます」

私の目から手を離すと、立ち上がり私を抱き上げ、そのまま横抱きにして椅子に座った。藤乃さんの隣の椅子はご丁寧に空けて。ペットをいくら好きだからと言って、

「ギデオンさん、私、自分で食べるから!」

「ダメです。フィーは、右手を折られたのですよ。さ、口を開けて」

まったく話を聞かない悪魔にイライラしてギュッと口を閉じていたら、悪魔が私の耳元で囁いた。

「…口移しのほうがいいのですか?わたくしはそのほうがいいですが」

…慌てて口を開けたのは、言うまでもない。
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