お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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「あ、にうえ…?」

「先ほどの父上の話をまだ理解できていないのか?おまえは廃嫡された身、しかも罪人となった今、拝田を名乗る資格はない。ただの上総だ」

冷たく見下ろす蘇芳は、今まで上総が見たことのない顔をしていた。自分にバカにされ、暴言を吐かれ、それでも抵抗などせず弱々しく笑っていたあの蘇芳とはまったくの別人である。

「だ、だいたい、俺がこんなふうになったのは、おばあ様が俺を甘やかしたせいで…っ!それをそのまま放置していたあんたたちのせいじゃないか…っ!」

「それは違う」

その声の主は啓一郎だ。

「違う…?違うはずがないじゃないかっ!あんたたちは俺を見殺しにしたようなもんだっ」

「水仙は、おまえの前に蘇芳を同じように連れ去っているんだ」

「…え?」

驚いて蘇芳を見上げる。兄も、同じ境遇に置かれていた…?

「早苗は蘇芳を生んだ後、体調を崩してしまって、それにも関わらず英樹が無理に抱いたりしたものだからすぐに羅刹を妊娠してしまって…」

「申し訳ありません反省しております」

「そんなだったから、水仙が蘇芳を連れて行ってしまっても、特になんの対策もできず…むしろ、子育てを手伝ってもらえて助かる、くらいの認識でしかなかったんだ。でも、羅刹が生まれて少し落ち着いたら水仙がおかしいことに気がついた。蘇芳を迎えに行っても、返そうとしなかった。上総が生まれるまでは、英樹も早苗もほとんど蘇芳に会えずじまいだったんだ。
羅刹には見向きもしなかったが、水仙は次に生まれた上総をことのほか気に入った。それについては今まで話してきているからわかるだろう」

祖母の奇行の犠牲者だと言い逃れたかった上総は、まさかの真実に茫然となる。

「…蘇芳も、かなりわがままでひどい子どもだったよ。3歳で我々の元に戻ってきたのは、おまえも、蘇芳もおんなじだ。だが蘇芳は、幼いながらも変わっていった。時折凶暴性を覗かせながらも、少しずつ変わっていったんだ。上総。おまえは蘇芳をよく豚呼ばわりしていたが、蘇芳はわざと太ったんだよ。少しでも、自分を優しくみせたくて」

蘇芳はそっとため息をついた。

「まあ、最初のきっかけはそうでしたけど、その後は明らかに食べ過ぎの運動不足でしたし、言い訳にはなりません。そのせいで撫子と離縁にならずに済んで、本当に良かったです」

ははは、と和やかに笑う面子に上総は

「ふざけるなっ!」

と怒鳴り付けた。

「そんな、今となってはいい思い出、みたいな!俺がこんなふうになった責任を取れっ!」

「誰にも責任はない。おまえが自分で選択し、自分で楽しんできたんじゃないか。おまえは自分の意志で女性を虐げ殺してきたんだ」

蘇芳は上総を一瞥することなく、傍らに立つ異国のふたりに深々と頭を下げた。

「ソフィアさんのお陰で僕は不能が解消されたのに、」

「…なんですって?」

地獄の底から聞こえてきたような低く冷たい声に、その場の空気が凍り付く。いい笑顔で蘇芳の肩を掴んだギデオンは、「蘇芳さん」と名前を呼んだ。ギリギリと力を加えられ、伝わる威圧が突き刺さる。

「え、えっと…?」

蘇芳がみるみる顔を青くしてギデオンを見ると、

「まさか。わたくしのフィーを抱いたのですか。答えてください」

「え、ええっ!?」

「…それは、肯定と受け取ります。あの害虫の命では足りませんが更に足りなくなりました。まずは貴方から、」

「ちっ、違います!僕が、不能である理由をソフィアさんが解決してくれたんですっ!…あ、あのっ、ソフィアさんを抱いたりしていませんっ!」

据わりきったギデオンの目に心底怯えた様子の蘇芳は、「父上っ!早く、ご説明してくださいっ!」と英樹を振り返った。

「あ、あのですね、」

「おい、ギデオン。英樹さんからきちんと報告は受けてる。あいつは、前世の知識持ちだろ?それで思い付くことを教えてやったんだと」

ソルマーレ国王がギデオンの肩を掴み、宥めるように言うと、

「そ、その通りですっ」

「私たちも、」

と羅刹、朝霧が蘇芳を庇うように声を上げたのだが、ギデオンは、

「私たちも…?」

と今度はふたりを睨み付けた。

「おい、ギデオン!きちんと話を聞きやがれ!…ったく、ソフィアのことになると頭に血がのぼっちまうんだからなぁ…近衛から外すぞ。国王命令だ」

「イヤです。では、このお三方がフィーに手を出していないという血判状を請求します。もし偽りで、フィーが処女ではなくなっていた場合、あなた方を斬り殺しても構いませんね」

ソフィアが処女ではないかどうかをどうやって判断するのかと疑問に思ったが、ギデオンのあまりの迫力に3人は一も二もなく頷いた。

「…さて。この害虫にフィーが傷つけられた分は、どのように償っていただけるのでしょうか」



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