お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
62 / 161
この先の道は

しおりを挟む
「父上、これはなんの真似ですか!?」

猿轡を外され開口一番にそう叫んだ上総に、「おい」と声をかけたのはギデオンだ。

「…なんだ、貴様は…、っ!?」

上総の頭を片手でギリギリと締め上げたギデオンは、

「俺は、ソフィアの唯一の男だ。俺の大事な大事なソフィアに、ずいぶんな真似をしてくれたな…?」

鋭い眼光で睨み付けると、続けざまに上総の腹に拳を落とし、そのまま手を離す。ドサリと崩れた上総を面白くもなさそうにチラリと見ると、そのままの眼光で新皇帝に視線を移した。

「…あなた方は、この害虫を仕留めんがために、わたくしの大切なフィーを傷つけましたね。要は囮にしたわけだ。フィーは、お飾りとは言え我が国の…ソルマーレ国の皇太子妃ですよ、今はまだ。ええ、今はまだ書類上は皇太子の妻です、不本意ではありますが。フィーがいくらぼんやりで、そんな風に見えないからと言って、あんな目に遭わされる謂れはない。この落とし前はどのようにつけてくださるのですか。こんな害虫のやっすい薄汚い命で、購えるとは思わないでくださいよ」

英樹が応える前に、今度はソルマーレ国国王が転がる上総の髪を引っ張り上げた。

「おい、あんちゃんよ。あのソフィアは、俺の娘になる女だぞ。その大事な俺の娘に、ずいぶんと悪どい真似をしてくれたなぁ。顔は腫れて真っ赤だし、まだ目覚めねぇときた。もしあいつが万が一にも目覚めねぇなんてことになったら、俺は何するかわからねぇぜ。おめえが責任取れるとは思えねぇが、とりあえず今の時点でてめぇにやられたぶんだけは、俺がきっちり返させてもらうわな」

そう言うと、徐に上総の腕を掴み上げ、手の指を一本、通常曲がる方向の反対側にグイッと折り曲げた。
バキリ、と小枝が折れるような音がする。

「グワーッ!!」

絶叫する上総を異ともせず、一本ずつ順番に、淡々と折り曲げていく。片手が終わろうとする時、ギデオンが声をかけた。

「陛下。わたくしに残していただかないと困ります。少しは遠慮してください」

「そうは言うがな、ギデオン。俺は、ソフィアが可愛くて仕方ねぇんだぞ。あいつを小突いたり虐めたりしていいのは俺だけなのに、あんな目に遭わされて腹の虫がおさまらねぇんだよ。そしておまえ、どさくさに紛れて、ソフィアの唯一の男とは何事だ」

「フィーはわたくしのものなのですから、わたくしがフィーの唯一に決まっているではありませんか。フィーを虐めていいのも触れていいのもわたくしだけの特権です。フィーはわたくしのものです!」

ギギギと睨み合う異国の二人には、喚く上総の声は耳に入らないようだった。

「ち、父上っ!こんな暴挙を、」

「気安く呼ぶな。わたくしはおまえの父ではない」

「…なにを?俺が父上の子どもだということは紛れもない事実、きちんと証明されております!」

「遺伝子上の父であることは間違いないが、おまえは昨夜の時点で廃嫡された。ついでに縁も切ったから、おまえはもう拝田家の人間ではない。ただの罪人だ」

上総はその言葉を聞いて驚愕に目を見開く。

「俺が罪人だと…!?なんの証拠があって…っ」

その時目の前に、麻袋がそっと置かれた。運んできた男たちは、先ほど紫陽を捕縛したふたりの影だった。

「その中に、昨夜おまえが切り捨てた女性の遺体が入っている。検視させたがずいぶん残酷なことをしたようだな。おまえたちがいた紫陽の実家からはどこかしらが切断された女性の遺体が多数でてきた」

「それを俺がやったと…?そんな証拠どこに、」

英樹は上総に目を向けることなく、「佐々木をここへ」と影に声をかけた。佐々木、と聞いてとたんに上総の顔色が悪くなる。

両脇を抱えられるようにして現れた佐々木を椅子に座らせるよう指示した英樹は、

「上総、佐々木からすべて聞いた。それでもまだ申し開きがあるのか」

「ち、父上は、俺よりこんなやつを信じるというのですか…っ」

「わたくしはおまえの父ではない。何度言えばわかるんだ」

そのまま今度は、真っ青な顔でガタガタ震える紫陽に目を向けた。

「紫陽。おまえの家は取り潰しだ。見て見ぬふりどころか、この男と一緒になって女性たちをいたぶったおまえの家族…両親、兄ふたりはすでに処刑した。唯一、姉の藤乃だけは生きている。上総に傷つけられ、堕胎までさせられたそうだな」

「ち、ちがいます!あの女は既に妊娠していて、」

「黙れ!」

初めて声を荒げた英樹に、ビクッとカラダを縮こませる上総。その様子を蔑むように見た英樹は、

「彼女は婚約者がいたのに、その前でわざわざ犯したらしいな。妹と違い結婚するまで純潔を守っていた彼女を。舌を噛んで自害しようとしたから、興が覚めて一度だけにしたんだろ?その代わりに彼女の婚約者を彼女の目の前で惨殺した。妊娠がわかると、子宮ごと取り出すよう命じたそうではないか。そんなことができるのは人間ではない。鬼畜の成せる業だ」

「わ、わたくしは、夫に脅されて仕方なく…っ!」

「黙れ、淫売が!貴様が藤乃を犯せと唆したのではないか!」

「わたくしが、姉をそんな目に遭わせるはずがございません…っ」

「見苦しいぞ、貴様ら」

ハッとして声の主を見上げたふたりの目に映ったのは、蘇芳だった。

「藤乃の証言がある。言い訳はうんざりだ」

すると紫陽が、

「蘇芳様、本来はわたくしが貴方様の妻だったのです!今からでも遅くありません、撫子なんかっ、離縁してわたくしを妻に、」

「僕の大事な妻を呼び捨てる許可を出した覚えはないんだが」

蘇芳は容赦なく紫陽に蹴りをいれる。今までみたことのない蘇芳の様子に、それを見ている上総のカラダがガタガタ震え始めた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...