お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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「父上、これはなんの真似ですか!?」

猿轡を外され開口一番にそう叫んだ上総に、「おい」と声をかけたのはギデオンだ。

「…なんだ、貴様は…、っ!?」

上総の頭を片手でギリギリと締め上げたギデオンは、

「俺は、ソフィアの唯一の男だ。俺の大事な大事なソフィアに、ずいぶんな真似をしてくれたな…?」

鋭い眼光で睨み付けると、続けざまに上総の腹に拳を落とし、そのまま手を離す。ドサリと崩れた上総を面白くもなさそうにチラリと見ると、そのままの眼光で新皇帝に視線を移した。

「…あなた方は、この害虫を仕留めんがために、わたくしの大切なフィーを傷つけましたね。要は囮にしたわけだ。フィーは、お飾りとは言え我が国の…ソルマーレ国の皇太子妃ですよ、今はまだ。ええ、今はまだ書類上は皇太子の妻です、不本意ではありますが。フィーがいくらぼんやりで、そんな風に見えないからと言って、あんな目に遭わされる謂れはない。この落とし前はどのようにつけてくださるのですか。こんな害虫のやっすい薄汚い命で、購えるとは思わないでくださいよ」

英樹が応える前に、今度はソルマーレ国国王が転がる上総の髪を引っ張り上げた。

「おい、あんちゃんよ。あのソフィアは、俺の娘になる女だぞ。その大事な俺の娘に、ずいぶんと悪どい真似をしてくれたなぁ。顔は腫れて真っ赤だし、まだ目覚めねぇときた。もしあいつが万が一にも目覚めねぇなんてことになったら、俺は何するかわからねぇぜ。おめえが責任取れるとは思えねぇが、とりあえず今の時点でてめぇにやられたぶんだけは、俺がきっちり返させてもらうわな」

そう言うと、徐に上総の腕を掴み上げ、手の指を一本、通常曲がる方向の反対側にグイッと折り曲げた。
バキリ、と小枝が折れるような音がする。

「グワーッ!!」

絶叫する上総を異ともせず、一本ずつ順番に、淡々と折り曲げていく。片手が終わろうとする時、ギデオンが声をかけた。

「陛下。わたくしに残していただかないと困ります。少しは遠慮してください」

「そうは言うがな、ギデオン。俺は、ソフィアが可愛くて仕方ねぇんだぞ。あいつを小突いたり虐めたりしていいのは俺だけなのに、あんな目に遭わされて腹の虫がおさまらねぇんだよ。そしておまえ、どさくさに紛れて、ソフィアの唯一の男とは何事だ」

「フィーはわたくしのものなのですから、わたくしがフィーの唯一に決まっているではありませんか。フィーを虐めていいのも触れていいのもわたくしだけの特権です。フィーはわたくしのものです!」

ギギギと睨み合う異国の二人には、喚く上総の声は耳に入らないようだった。

「ち、父上っ!こんな暴挙を、」

「気安く呼ぶな。わたくしはおまえの父ではない」

「…なにを?俺が父上の子どもだということは紛れもない事実、きちんと証明されております!」

「遺伝子上の父であることは間違いないが、おまえは昨夜の時点で廃嫡された。ついでに縁も切ったから、おまえはもう拝田家の人間ではない。ただの罪人だ」

上総はその言葉を聞いて驚愕に目を見開く。

「俺が罪人だと…!?なんの証拠があって…っ」

その時目の前に、麻袋がそっと置かれた。運んできた男たちは、先ほど紫陽を捕縛したふたりの影だった。

「その中に、昨夜おまえが切り捨てた女性の遺体が入っている。検視させたがずいぶん残酷なことをしたようだな。おまえたちがいた紫陽の実家からはどこかしらが切断された女性の遺体が多数でてきた」

「それを俺がやったと…?そんな証拠どこに、」

英樹は上総に目を向けることなく、「佐々木をここへ」と影に声をかけた。佐々木、と聞いてとたんに上総の顔色が悪くなる。

両脇を抱えられるようにして現れた佐々木を椅子に座らせるよう指示した英樹は、

「上総、佐々木からすべて聞いた。それでもまだ申し開きがあるのか」

「ち、父上は、俺よりこんなやつを信じるというのですか…っ」

「わたくしはおまえの父ではない。何度言えばわかるんだ」

そのまま今度は、真っ青な顔でガタガタ震える紫陽に目を向けた。

「紫陽。おまえの家は取り潰しだ。見て見ぬふりどころか、この男と一緒になって女性たちをいたぶったおまえの家族…両親、兄ふたりはすでに処刑した。唯一、姉の藤乃だけは生きている。上総に傷つけられ、堕胎までさせられたそうだな」

「ち、ちがいます!あの女は既に妊娠していて、」

「黙れ!」

初めて声を荒げた英樹に、ビクッとカラダを縮こませる上総。その様子を蔑むように見た英樹は、

「彼女は婚約者がいたのに、その前でわざわざ犯したらしいな。妹と違い結婚するまで純潔を守っていた彼女を。舌を噛んで自害しようとしたから、興が覚めて一度だけにしたんだろ?その代わりに彼女の婚約者を彼女の目の前で惨殺した。妊娠がわかると、子宮ごと取り出すよう命じたそうではないか。そんなことができるのは人間ではない。鬼畜の成せる業だ」

「わ、わたくしは、夫に脅されて仕方なく…っ!」

「黙れ、淫売が!貴様が藤乃を犯せと唆したのではないか!」

「わたくしが、姉をそんな目に遭わせるはずがございません…っ」

「見苦しいぞ、貴様ら」

ハッとして声の主を見上げたふたりの目に映ったのは、蘇芳だった。

「藤乃の証言がある。言い訳はうんざりだ」

すると紫陽が、

「蘇芳様、本来はわたくしが貴方様の妻だったのです!今からでも遅くありません、撫子なんかっ、離縁してわたくしを妻に、」

「僕の大事な妻を呼び捨てる許可を出した覚えはないんだが」

蘇芳は容赦なく紫陽に蹴りをいれる。今までみたことのない蘇芳の様子に、それを見ている上総のカラダがガタガタ震え始めた。





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