お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
61 / 161
この先の道は

しおりを挟む
「…んっ。ソフィアさんっ!」

目を開くと、佐々木さんが視界に映った。

「佐々木さん…」

よく見ると、佐々木さんも顔が赤くなっている。あいつに殴られたのだろう。

「ご、ごめんなさい、佐々木さん、私のせいで…っ」

私の恋人みたいに認識されてしまったせいで佐々木さんまで巻き込んでしまい、傷つけてしまった。情けなくて、悔しくて涙がボロボロこぼれる。

「何を言ってるの!?自分を心配しなよ!腕、大丈夫!?顔も腫れてるし…あいつ…っ!なんてことしやがる…っ」

カラダをかろうじて起こすと、先ほどの女性の姿はなく、しかし夢ではなかった証拠のように血だまりが残されていた。

「…さっきの女性のカラダは、見たことのない男がふたりで運び出していった。ソフィアさん。あいつが言ってたんだけど、」

私と佐々木さんは恋仲だと思われているため、ふたりで駆け落ちしたということにする。ソルマーレ国から国王夫妻が来るため、佐々木さんと離されてしまうのではないかという懸念のためだ、探さないでくれ、という内容で私の部屋に置き手紙をしたそうだ。

「明日の就任式が終わったら自分が朱雀州の知事になるから、その祝いにたっぷりおまえの目の前で可愛がってやる。あとはふたり仲良くあの世に送ってやるから安心しろ、って…!クソッ、この縄さえ解ければ…っ!」

佐々木さんの声は聞こえているのだが、だんだん頭がボンヤリしてくる。うまく、頭が、回らない…。熱が出てきたようにカラダが熱くなってくる。

前世でセックスレスの挙げ句浮気夫のせいで死んで、今度は望みもしないセックスを強要され、最後は殺される…。ソフィアのカラダは、まだ純粋な処女のままだったのに…。愛情を交わした相手とではなく、あんなイカれ野郎に犯されてしまうなんて…ソフィアに申し訳なくて、後から後から涙があふれてくる。

「…ギデオンさん…」

ごめんね。指輪、返せない。大事に持って帰るよ、って言ったのに。

悪魔と口づけたあの夜が浮かび、切なくなる。ペットロスが、現実になっちゃって、

「…ごめんね、ギデオンさん」

途切れる意識の片隅で、「フィー!」と私を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がした。












「ではこれより、新皇帝、並びに新州知事の就任式を始めます。名前をお呼びしますので、順番に陛下の前にお並びください」

就任式の式進行を務めるのは、現青龍州知事の拝田誠人。羅刹の後ろ楯になる、というこの彼は、羅刹に負けず劣らずの脳筋であるのだが、長年秘書官に容赦なく鍛え上げられたお陰で今は質実剛健の知事に成長した。

「新皇帝、拝田英樹」

「…はい」

現朱雀州知事は立ち上がると、国賓であるソルマーレ国国王夫妻に一礼し、壇上に上がる。陛下の前でまた一礼し、居並ぶ面々に正対する。その顔にはなんの表情も浮かんでいない。

「続いて、新玄武州知事、拝田蘇芳」

「はい」

同じように壇上に進む蘇芳からも、なんの感情も読み取れなかった。

「続いて、新青龍州知事、拝田羅刹」

羅刹は国賓席に一礼すると、誠人の前まで進み、「叔父上、ありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。

「…楽しみだ。よろしくたのむ」

そう言った誠人に一瞬だけ微笑んだ羅刹は、蘇芳の隣に立ってじっと下を見下ろした。

「…続いて」

名前を呼ばれる前に、立ち上がったのは上総。だが、

「新朱雀州知事、拝田織部」

「はい」

「…なっ!?なにを…っ」

立ち上がった織部の腕を掴もうとした上総の腕はギリギリと締め上げられた。その相手は、朝霧だ。

「衛兵、捕縛しろ。ついでに猿轡もしておけ」

夫が捕まえられたのを見た紫陽は何事かと目を見開いたが、隣に潜んでいた影に同じく捕縛された。

織部は何事もなかったかのように壇上に進む。

「最後に。新白虎州知事、拝田朝霧」

「はい」

朝霧が立ち上がると、会場の一角から大歓声が上がった。それを窘めるように、「父上…っ。兄上も…っ」と、彼の愛しい妻の声があがる。

朝霧が壇上にあがり、全員が揃って一礼すると、会場から大きな拍手が沸き上がった。

現皇帝である拝田啓一郎は、「みな、よくきてくれた。この晴れの日を迎えられたこと、心より感謝する」と微笑み、ひとりひとりに任命状を手渡した。

再度、壇上の全員が一礼すると、会場からもまた拍手が沸き上がる。それが鎮まるのを待ち、

「では、別会場に立食の準備がしてある。そちらで、今日のよき日を皆で祝おう」

啓一郎の声で、会場にいた人間たちが動き出す。後に残されたのは、啓一郎、英樹、蘇芳、羅刹、織部、朝霧、そしていまや罪人として捕らえられている上総と紫陽…。さらに、ソルマーレ国国王とその近衛騎士として同行した、ギデオンの姿があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...