お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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この先の道は

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「そういえばソフィアさん、その1ヶ月後の就任式に、ソルマーレ国の国王陛下夫妻をお呼びしました。出席してくださるそうです」

「え、そうなんですか!?」

定期的に手紙でやり取りはしているものの、会えるのは嬉しい。チンピラであっても。

「その時、護衛騎士の方がお一人付いてくるそうで、3人でこちらにいらっしゃるそうです。ソフィアさんの書類上の夫は来ないそうですから、良かったですね。あまり会いたくないでしょう?」

英樹さん、チラリと佐々木さんを見るのやめて欲しい。当の佐々木さんはドアから出ていくところだった。

「そういえばお姉さま。1ヶ月後の就任式が終わったら、私たちはそれぞれの州に旅立つのですが…お姉さまはどうされるのですか?もう、ご予定は決まっているのですか?」

撫子さんに言われて、そうか、と思い至る。ここに残るのは…正直、イヤだ。上総さんが知事になるこの州にいたいとは思えない。

「…まだ、なんにも考えていませんでした」

貿易協定も結んでお米がソルマーレ国で流通するようになり、料理人のおふたりがおにぎりや丼ものを広めてくれているらしい。許可制で、お米屋さんも開店したと聞いているし…ソルマーレ国に帰るべきなんだろうか。そんなふうに考えていたら、撫子さんが、

「ならお姉さま、私たちと一緒に玄武州に来ませんか?」

と言った。

「え、…でも、」

「実は、撫子とふたりでそう話してまして…初日、健康診断という制度についてお話してくださったでしょう、ソフィアさん。そういう、私たちではわからないことや、気づかないことを教えてもらって、玄武州をもっと元気にしたいと思いまして…。ソフィアさんさえ、よければ、なんですが」

「私、働いてないのに…食い扶持が増えるのに、いいんですか?」

蘇芳さんは、面白そうに笑うと、「食い扶持なんて、気にすることありませんよ。僕と撫子がこうしていられるのは、ソフィアさんのお陰なんですよ?ソフィアさんがいいなら、いつまでもいてください」と言ってくれた。嬉しくてジン、とする。思わず涙がこぼれそうになり、慌てて上を向いてごまかした。

「…ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」

「まぁ、ずるいですわ、撫子様!ソフィア様、青龍州にもぜひ来てくださいませ!」

「ソフィア殿、白虎州にも来てくれ。私の家族にも、恩人だと紹介したい」

芙蓉さんと伽藍さんもそう言ってくれて、温かい気持ちになった。楽しくてすっかり忘れてたけど、離縁するための条件もクリアしなくちゃならないし…クリアできたら、その後どうやって生きていくのか考えなくちゃならない。ジャポン皇国なら言葉の心配もないし、こうして大好きな仲間もできたし…許してもらえるなら、移住してきてもいいかもなぁ。

「皆さん、ありがとうございます。本当に嬉しいです」

「ソフィアさん、こちらこそ…改まって御礼も言わず、申し訳なかったね。ソフィアさんのお陰で、蘇芳、羅刹、朝霧は晴れて仲睦まじい夫婦になれた…本当にありがとう。ソフィアさん、ありがとう」

陛下が深々と頭を下げている姿に焦る。

「そ、そんなっ、私は何もしてないです…っ」

「ソフィアさんは本当に慎み深いというか…自分が成した事の大きさがわからないんだねぇ。ソフィアさんがうまく取り持ってくれなかったら、この子たちみんな今頃離縁してたかもしれないんだよ?そうしたら、英樹の皇位も白紙、一からやり直しだよ」

「え、でも、離縁したからと言って、皇位になんの関係が…?」

子どもの離縁が親の皇位継承に関係するってこと?

「…陛下。喋りすぎです」

英樹さんに視線を向けられ、陛下は「ごめん、つい」と苦笑いした。それ以上、話すことはなく、なんだか有耶無耶な感じにされてしまった。

夜、部屋に佐々木さんが来て一緒に本を読んで過ごす。『言われた通りに出しちゃうもん』で、気になるワードのBL漫画を出してもらったので、私の部屋は佐々木さんにとっては天国らしい。

「はー…いいなぁ…。僕もこんな、燃えるような恋をしたい。ついでにセックスもしたい!ソフィアさん、僕にぴったりの男性を紹介してくれないか?」

「佐々木さんにぴったりの男性に心当たりがないです、残念ながら。私も恋をしたいですよ」

ふたりでため息をつく。まぁ、漫画を読んで悶えてる時点で恋に恋してるようなもんなんだけど。

「そういえばソフィアさん、1ヶ月後の就任式が終わったら蘇芳さまたちに着いて玄武州に行くんだって?」

「情報が早いですね、佐々木さん。まだ本決まりではないですけど、朱雀州に残るのはちょっと…抵抗があるというか…上総さんがイヤなので」

佐々木さんは眉をしかめると、「僕もイヤなんだよね、あの人。…ソフィアさんと一緒に玄武州に行けるように料理長にお願い事してみようかな」

「え、でも、私は根なし草みたいな感じなのに」

「だって、せっかく自分の性癖を心置きなく話せる相手ができたんだよ?ソフィアさんがいなくなっちゃったら、また悶々しちゃうよ…」

しゅん、と項垂れる佐々木さんは、35歳には見えない可愛らしさだ。

「…僕さ。自分の性癖から目をそらして、女性とセックスしたこともあるんだけど…なんか、しっくりこないっていうか…心が燃えないから、カラダも燃えなくてさぁ…だいたい、エッチすると相手に振られるんだよね。ヤル気のなさがバレてるのかなぁ。一応勃ってはいるんだけどね」

そう言われても、佐々木さんと試してみるつもりはないので曖昧に頷いた。

「…最近痩せたせいで、また女性からお誘いが来るようになっちゃったんだけど、正直鬱陶しさしかない…。痩せたのは嬉しいけど…ヤツラも、あまりに現金じゃない?今までデブとかかげぐち叩いてたくせにさ」

…まあ、そんなもんですよ。私だって最近、上総さんの舐めるような気持ち悪い視線にゾワゾワしてます。豚呼ばわりしてたくせに、痩せたとたんこれだよ。そう考えると、あの悪魔は凄いよね。いくらペット枠とは言え、あんなに太っていた私を抱き締めて、「気持ちいい」なんていうんだから。抱き枕にして寝たいなんていうんだから。…痩せた今の私を見たら、どんな反応をするんだろう、悪魔は。
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