お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
57 / 161
この先の道は

しおりを挟む
「兄に向かって、」

「あんたも同じだろ。蘇芳兄さんや羅刹兄さんにえっらそうな口きいてるじゃん。特に蘇芳兄さんになんて、兄さんが何も言わないのをいいことに、豚とかなんとか言いたい放題だっただろうが。今はあんたのほうが豚みたいだけどな。僕は優しいから、あんたを豚なんて言わないよ。一緒にされる豚が気の毒だ」

「…なっ、」

「上総君。今日は、朝霧君が帰ってきたお祝いの席なの。邪魔するなら出ていって、隣のお嬢さんと」

陛下の優しい口調ながら辛辣な言葉に顔を青くする上総さん。紫陽さんはガタンッと椅子を倒して立ち上がると、「気分が悪いので失礼しますっ」とものすごい足音を立てて出て行った。

「…上総も出たら?」

英樹さんにまで冷たく言われたが、上総さんは出て行こうとしなかった。

「父上、なぜ私にばかりそんなふうに当たるのですか!?私が何をしたと、」

「…まだ言うべき時じゃない」

「…は?」

上総さんはポカンとしているが、私も今の英樹さんの言葉にびっくりした。「まだ」「言うべき時じゃない」…?

女性陣は揃って驚いている感じに見えるが、陛下をはじめ男性陣は何も変わらない雰囲気で食事を続けている。

「父上、どういうことですか!」

「うるさいな。僕の帰還を祝ってくれない、自分勝手な人間は出ていけよ。せっかくの食事が不味くなるだろ。あんたの妻も出て行ったんだ、早く消えろ」

朝霧さんはスッと立ち上がると、上総さんを後ろ手に掴み上げ、食堂のドアから突き飛ばした。

しばらくドアを叩く音がしたが、諦めたのか静かになる。そっと英樹さんを見てみたが、まったく表情は変わっていなかった。

「…そういえば、朝霧。白虎州で、従兄の織部には会ったか?」

「はい、父上。叔父上ともども、大変世話になりました。明後日にはこちらに来るそうです」

「そうか。…みんなにも言っておく。明後日、白虎州知事の息子である拝田織部がこちらに来る。ソフィアさんは、はじめて会うと思うのですが…撫子、芙蓉も会ったことはないかな?」

「はい、わたくしはお会いしたことはありません」

「私もありません。織部様という方は、おいくつなのですか?」

「上総、芙蓉と同じ21歳だ。彼は、武道の達人でね。素手の闘いでは、たぶん彼に勝てる人間はいないのではないかな」

「どうしてこちらに…?」

英樹さんは、スッと目を細めると、

「いよいよ1ヶ月後に迫った、就任式のためだよ」

と短く言って、その後は何も話さなかった。女性陣は目を合わせて戸惑っている様子だが、蘇芳さん、羅刹さん、朝霧さんにはまったく動揺が感じられない。…いったい、何が進行しているのだろう?

モヤモヤしていると、「デザートです」と目の前に桃が置かれた。

「あ、佐々木さん!こんばんは!」

「ソフィアさん、昨日の本、めっちゃ良かったわー。ぜひ語り合いたいんだけど!いつならいい?」

そう言いながら他の方々の前にも桃を素早く並べていく。ぽっちゃり体型だったシェフの佐々木さんは、低糖質ダイエットを勉強してくれて、自分も実験台になりほっそりとした体型に変わった。料理の腕は変わらず天才的であり、そして彼はゲイだった。

彼の秘密を知ってしまったのは、私の何気無い独り言…佐々木さんに言わせると、かなりデカイ独り言だったらしいが…それがきっかけだった。「女流剣士のような凛々しい伽藍さんがもし男性だったら、羅刹さんとのカップリングでかなり萌えるのにぃー!!」との叫びを佐々木さんは聞いてしまったのだ。そこから、BL話で盛り上がり、ここ最近はもっぱら「彼氏が欲しい!」という佐々木さんの叫びを粛々と受け止める毎日である。ちなみに佐々木さんは攻めであり、一筋縄ではいかない受けを屈伏させたいという野望を抱いている。

「いつでも…伽藍さん、今夜からお部屋移りますもんね」

朝霧さんの帰還に合わせて居住区を元に戻したため、今日からは伽藍さんも朝霧さんと過ごすようになるだろう。

「あ、…今夜、そうか、今夜から…」

またもや真っ赤になる伽藍さんを熱く見つめる朝霧さんの瞳には、間違いなく欲望が見てとれる。ああ…狼にウサギを差し出してしまう気分…頑張って、伽藍さん…。

「じゃ、仕事終わって…20時30分にはお邪魔していいかな」

「どうぞ」

ただ、ひとつ困ったことに、佐々木さんはゲイだと公表していないため、私とイイナカだと思われてしまっているのだ…否定したのだが、「どうせ離縁すると決まってるのだから、恋人を作ってもいいじゃないですか」と聞き耳を持ってもらえなかった。誰にも。まぁ、当の佐々木さんが迷惑そうじゃないからいいんだけど。BLについて話し合えるの、かなり楽しいし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...