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この先の道は
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「…義姉上。ソフィア様も。ずいぶん、痩せましたね。別人としか思えません」
びっくりしたような顔でそんなことを言うのは、5ヶ月ぶりに城に帰ってきた朝霧さんだが…。
「朝霧さんに言われたくありません」
「…本当に…壮絶な5ヶ月だったのですね…」
目の前に立つ朝霧さんは、身長こそ変わらないものの、着ている服の上からでもわかるくらいに筋肉がついていた。半袖のこの時期、ポロシャツから伸びる腕はガッシリとしていて、ところどころ傷がついている。色も日焼けで真っ黒だ。あの甘いマスクは、いまや精悍な顔つきに変わり、目付きも羅刹さんよりの鋭さに変わっていた。
「僕が伽藍さんにつけた傷に比べたらこんなの…。ところで、あの、伽藍さんは、」
とたんに赤くなりそわそわする様子を見ると、伽藍さんに対する想いは変わっていないのだな、と思いホッとする。まぁ、そうじゃなければこんなに変わるまで頑張れないよね。
「朝霧さんが城に着く時間は知っているはずなんだけど…伽藍さん、どうしたのかな」
その時、芙蓉さんの「伽藍様、はやく…!」という声が聞こえた。そちらを見ると、芙蓉さんに手を引かれた伽藍さんが真っ赤な顔で引きずられていた。
「…伽藍さんっ!!」
朝霧さんはものすごい速さで駆け寄ると、伽藍さんを抱き上げて横抱きにし、ギュウッとした。
「あ、朝霧、あ、あ、あの、」
未だ真っ赤な顔のままの伽藍さんを見る朝霧さんの蕩けそうな瞳。
「ただいま、伽藍さん。僕のこと、待っててくれた?違うの?僕なんか、もう、忘れちゃった?ねぇ、伽藍さん。待っててくれたのなら、その証にキスして。待っててくれたってことは、僕を夫として認めてくれたってことでしょ?」
伽藍さんは、「キ、キス…?」と目を白黒させている。
その真っ赤な伽藍さんをなんとも愛おしげに見つめる朝霧さん。伽藍さんは、意を決したように、目をギュッとつぶると素早くチュッ、として顔を両手で覆ってしまったのだが…朝霧さんが片手でその手をどかし、思い切り深く口づけた。
伽藍さんにドンドンと叩かれても朝霧さんは一向に離す気配はなく、そのうち伽藍さんのカラダがぐにゃりとなった。
「…伽藍さん?あれ?」
「もうっ!朝霧様、やりすぎです!伽藍様は免疫も経験もないんですよっ!ましてや、昨夜はそわそわしすぎて落ち着かず眠れなかったそうですのに…!」
芙蓉さんのお叱りを嬉しそうに聞いている朝霧さんは、「このまま父上と陛下にご挨拶にいきます」と足取り軽く中へ入って行った。…ものすごく、逞しくなり。さらに、伽藍さんへの愛情は増したようだ。伽藍さん、御愁傷様です。願わくは、監禁されませんよう…。
英樹さんと陛下は定期的に連絡を受けていたそうだ。もちろん影もついていたらしいが、基本的には放置していたらしい。困ったら手を貸すけど、せっかく朝霧が頑張ろうとしているのだからと。そのふたりも、朝霧さんを見てかなり驚いていた。
「…朝霧。ものすごく、逞しく育ったね。みるからに強そうだ」
「父上、ありがとうございます。伽藍さんのことも、ありがとうございました。おかげさまで、小平の義父にもようやく僕が伽藍さんの夫であると認めさせることができました。これで憂いなく、伽藍さんと夫婦になることができます」
朝霧さんは腕の中の伽藍さんをそれはそれは愛しげに見つめていたそうだ。当の伽藍さんは気を失っていたのだが。
…朝霧さんに「痩せて別人」と言われた私と撫子さん。この5ヶ月、鬼のしごきにひたすら耐えて、ふたりとも体重を50キロまで落とすことに成功したのだ。私は残念ながら胸も落ちてしまい、かろうじてCカップだが、撫子さんは胸は豊満なままだった。まさにボンキュッボンの体型である。夫である蘇芳さんはそれはそれは喜んだ。
「ぽっちゃりしてたのも可愛いけど、今のほうが断然可愛いよ、撫子!」
その蘇芳さんもかなりの頑張りを見せ、体重は75キロまで落ちた。羅刹さんに筋トレを強いられ、大変だったと思うがその甲斐あってポヨポヨした部分がなくなり引き締まった。撫子さん曰く、「お風呂の時間が長くなりすぎて大変」とのこと。蘇芳さんはかなりエロ方面を開花させてしまった。勉強熱心なのも時として考えものだ。焚き付けた身としては撫子さんに申し訳なく思う。
長男、次男夫婦ともに仲良く過ごし、今日朝霧さんが帰ってきたことで四男夫婦も親密になるだろう…対して三男夫婦は…というのが際立つ夕食時となった。
三男夫婦は、この2か月ほど、食事時会話がなかった。それまでは私を見たり長男夫婦を見たりしてクスクスふたりで笑い合っていたのだが。
「朝霧、おまえ、帰ってきたなら挨拶に来るべきではないのか」
そう言って朝霧さんを睨み付けた上総さんに目も向けず、「伽藍さん、そのトマト、僕に食べさせて。ね、あーん、ってして?」と完全に無視していた。伽藍さんが気にして「朝霧、」と声をかけるも、「なぁに?キスして欲しいの?」とチュッと口づけ、伽藍さんは気を失いそうに真っ赤になっていた。
「朝霧!」
「…うるさいな。気安く話かけるなよ、クズ野郎が」
「な、…っ、なんだとっ」
「おまえみたいなヤツのせいで僕は伽藍さんを喪うところだったんだ。もし喪ってたら、おまえはこの世にいないけどな」
朝霧さんからかなりの威圧を感じてびっくりする。ほんとにものすごく強く逞しくなったんだなぁ…。でもって、伽藍さんへの愛情表現も、タガが外れちゃったんだなぁ…。伽藍さん…耐えてね…。
びっくりしたような顔でそんなことを言うのは、5ヶ月ぶりに城に帰ってきた朝霧さんだが…。
「朝霧さんに言われたくありません」
「…本当に…壮絶な5ヶ月だったのですね…」
目の前に立つ朝霧さんは、身長こそ変わらないものの、着ている服の上からでもわかるくらいに筋肉がついていた。半袖のこの時期、ポロシャツから伸びる腕はガッシリとしていて、ところどころ傷がついている。色も日焼けで真っ黒だ。あの甘いマスクは、いまや精悍な顔つきに変わり、目付きも羅刹さんよりの鋭さに変わっていた。
「僕が伽藍さんにつけた傷に比べたらこんなの…。ところで、あの、伽藍さんは、」
とたんに赤くなりそわそわする様子を見ると、伽藍さんに対する想いは変わっていないのだな、と思いホッとする。まぁ、そうじゃなければこんなに変わるまで頑張れないよね。
「朝霧さんが城に着く時間は知っているはずなんだけど…伽藍さん、どうしたのかな」
その時、芙蓉さんの「伽藍様、はやく…!」という声が聞こえた。そちらを見ると、芙蓉さんに手を引かれた伽藍さんが真っ赤な顔で引きずられていた。
「…伽藍さんっ!!」
朝霧さんはものすごい速さで駆け寄ると、伽藍さんを抱き上げて横抱きにし、ギュウッとした。
「あ、朝霧、あ、あ、あの、」
未だ真っ赤な顔のままの伽藍さんを見る朝霧さんの蕩けそうな瞳。
「ただいま、伽藍さん。僕のこと、待っててくれた?違うの?僕なんか、もう、忘れちゃった?ねぇ、伽藍さん。待っててくれたのなら、その証にキスして。待っててくれたってことは、僕を夫として認めてくれたってことでしょ?」
伽藍さんは、「キ、キス…?」と目を白黒させている。
その真っ赤な伽藍さんをなんとも愛おしげに見つめる朝霧さん。伽藍さんは、意を決したように、目をギュッとつぶると素早くチュッ、として顔を両手で覆ってしまったのだが…朝霧さんが片手でその手をどかし、思い切り深く口づけた。
伽藍さんにドンドンと叩かれても朝霧さんは一向に離す気配はなく、そのうち伽藍さんのカラダがぐにゃりとなった。
「…伽藍さん?あれ?」
「もうっ!朝霧様、やりすぎです!伽藍様は免疫も経験もないんですよっ!ましてや、昨夜はそわそわしすぎて落ち着かず眠れなかったそうですのに…!」
芙蓉さんのお叱りを嬉しそうに聞いている朝霧さんは、「このまま父上と陛下にご挨拶にいきます」と足取り軽く中へ入って行った。…ものすごく、逞しくなり。さらに、伽藍さんへの愛情は増したようだ。伽藍さん、御愁傷様です。願わくは、監禁されませんよう…。
英樹さんと陛下は定期的に連絡を受けていたそうだ。もちろん影もついていたらしいが、基本的には放置していたらしい。困ったら手を貸すけど、せっかく朝霧が頑張ろうとしているのだからと。そのふたりも、朝霧さんを見てかなり驚いていた。
「…朝霧。ものすごく、逞しく育ったね。みるからに強そうだ」
「父上、ありがとうございます。伽藍さんのことも、ありがとうございました。おかげさまで、小平の義父にもようやく僕が伽藍さんの夫であると認めさせることができました。これで憂いなく、伽藍さんと夫婦になることができます」
朝霧さんは腕の中の伽藍さんをそれはそれは愛しげに見つめていたそうだ。当の伽藍さんは気を失っていたのだが。
…朝霧さんに「痩せて別人」と言われた私と撫子さん。この5ヶ月、鬼のしごきにひたすら耐えて、ふたりとも体重を50キロまで落とすことに成功したのだ。私は残念ながら胸も落ちてしまい、かろうじてCカップだが、撫子さんは胸は豊満なままだった。まさにボンキュッボンの体型である。夫である蘇芳さんはそれはそれは喜んだ。
「ぽっちゃりしてたのも可愛いけど、今のほうが断然可愛いよ、撫子!」
その蘇芳さんもかなりの頑張りを見せ、体重は75キロまで落ちた。羅刹さんに筋トレを強いられ、大変だったと思うがその甲斐あってポヨポヨした部分がなくなり引き締まった。撫子さん曰く、「お風呂の時間が長くなりすぎて大変」とのこと。蘇芳さんはかなりエロ方面を開花させてしまった。勉強熱心なのも時として考えものだ。焚き付けた身としては撫子さんに申し訳なく思う。
長男、次男夫婦ともに仲良く過ごし、今日朝霧さんが帰ってきたことで四男夫婦も親密になるだろう…対して三男夫婦は…というのが際立つ夕食時となった。
三男夫婦は、この2か月ほど、食事時会話がなかった。それまでは私を見たり長男夫婦を見たりしてクスクスふたりで笑い合っていたのだが。
「朝霧、おまえ、帰ってきたなら挨拶に来るべきではないのか」
そう言って朝霧さんを睨み付けた上総さんに目も向けず、「伽藍さん、そのトマト、僕に食べさせて。ね、あーん、ってして?」と完全に無視していた。伽藍さんが気にして「朝霧、」と声をかけるも、「なぁに?キスして欲しいの?」とチュッと口づけ、伽藍さんは気を失いそうに真っ赤になっていた。
「朝霧!」
「…うるさいな。気安く話かけるなよ、クズ野郎が」
「な、…っ、なんだとっ」
「おまえみたいなヤツのせいで僕は伽藍さんを喪うところだったんだ。もし喪ってたら、おまえはこの世にいないけどな」
朝霧さんからかなりの威圧を感じてびっくりする。ほんとにものすごく強く逞しくなったんだなぁ…。でもって、伽藍さんへの愛情表現も、タガが外れちゃったんだなぁ…。伽藍さん…耐えてね…。
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