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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
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「な…っ、なぜ、なぜダメなんだ!」
「おまえが行ったら、朝霧の男としての矜持が粉々になる。小平家にしてもそうだ。結局、伽藍に助けてもらわなければ何もできない情けない名ばかりの夫、という位置付けから変わらない」
伽藍さんは、ハッとしたように羅刹さんを見て、唇を噛んだ。
「…朝霧は、俺から見ると軽薄な努力の嫌いな男だ。末っ子だから仕方ないかと思っていた。何事かあればすぐに逃げるしな。そんな男が、今回わざわざ虎の穴に挑んで行ったんだぞ。伽藍、おまえに認めて欲しくて。他の女を抱いてきた自分のカラダを禊ぎたいという気持ちもあるんだろう。あの小平家だ、そう簡単にはいかないだろう。だが、朝霧が、おまえを手に入れたくて決心したことだ。…待っててやってくれ。頼む」
「羅刹…おまえ、そんなふうに考えることできたんだ!?お父さん、びっくりしたよ!まさか、蘇芳にシナリオ書いてもらったの?」
「父上!怒りますよ!…俺には、朝霧の気持ちがわかります。上総なんかに騙されて、芙蓉を傷つけてしまった俺には」
芙蓉さんは、そっと羅刹さんの頬に手をあて、優しく微笑んだ。
「羅刹様、もういいのです。わたくしたちは、昨日から新しく夫婦になったのですから…」
「芙蓉…」
ふたりの世界に入ってしまった一角はスルーすることにして、私は伽藍さんに「他に、何か書いてありましたか」と聞いた。
「とにかく、待っていて欲しい、と…半年後、知事として白虎州に行くまでには一度帰るから、その時まで自分を見捨てないで欲しいと…。私は、自分に自信がなかっただけで、朝霧を嫌悪したりしていないのに。朝霧は、私をずっと待っていてくれたんだな。私が、朝霧を受け入れるまで…」
芙蓉さんは俯くと、手紙をそっと抱き締めた。朝霧さんのことを思っているんだろう。
「伽藍、朝霧のこと…待っていられるかい?」
「もちろんです、義父上。私は、朝霧の妻です。朝霧が私をイヤだと言うまでは、私を朝霧の妻でいさせてください」
英樹さんはじっと伽藍さんを見つめると、「…ありがとう」とポツリと呟いた。
「父上、それなら、3階に羅刹夫婦を引っ越させてはどうですか?伽藍さんは今ソフィアさんと一緒の部屋ですが、ふたりとも支障がないならこのままふたりでいたほうがいいと思います。ついでに、空けたままにしておくと、上総たちが朝霧の居住区に移ると言い出すかもしれない。昨日の話を聞いただけでも、相当嫌がらせを楽しんでいるようですから。ソフィアさん、伽藍さんに嫌がらせをするために朝霧の居住区に目をつけられては困ります。羅刹たちが来てくれたほうが安心です」
蘇芳さんの言葉に、英樹さんが頷く。
「そうだね。朝霧が戻ってきたら、また移動すればいいんだし。羅刹たちの今の居住区は、物理的に閉じよう。24時間体制で衛兵を置く。羅刹、芙蓉、いいか?」
「はい」
「そのように、お義父様」
それを聞いて私は違和感を覚える。確かにかなりヤなヤツだけど、そこまで警戒するほどなのかな…?そんな、物理的に入れないようにするなんて…。
「じゃあ、ここにいるメンバーが同じ階で生活を共にできるのですね!嬉しいです、芙蓉様、伽藍様!お姉さまも、改めてよろしくお願いいたします!」
撫子さんはニコニコ嬉しそうだけど、
「英樹さん、なんか、三男夫婦だけ仲間外れみたいにしちゃって、後々大丈夫なんですか?」
英樹さんは私に視線を移すと、「自分たちが蒔いた種ですから、構いません」とニコリとした。まぁ…他国の私がつべこべ言うことじゃないけど、なんか心配で…。
その後、夜だというのに体力バカはさっさと引っ越してきた。曰く、「あんなクズがいる空間に大事な芙蓉を置いておきたくない」だそうだ。ちょいちょい惚気るのはやめて欲しい。
…朝霧さんが戻ってきたのは、この日から5ヶ月後。新皇帝並びに新州知事就任式の、わずか1か月前だった。
「おまえが行ったら、朝霧の男としての矜持が粉々になる。小平家にしてもそうだ。結局、伽藍に助けてもらわなければ何もできない情けない名ばかりの夫、という位置付けから変わらない」
伽藍さんは、ハッとしたように羅刹さんを見て、唇を噛んだ。
「…朝霧は、俺から見ると軽薄な努力の嫌いな男だ。末っ子だから仕方ないかと思っていた。何事かあればすぐに逃げるしな。そんな男が、今回わざわざ虎の穴に挑んで行ったんだぞ。伽藍、おまえに認めて欲しくて。他の女を抱いてきた自分のカラダを禊ぎたいという気持ちもあるんだろう。あの小平家だ、そう簡単にはいかないだろう。だが、朝霧が、おまえを手に入れたくて決心したことだ。…待っててやってくれ。頼む」
「羅刹…おまえ、そんなふうに考えることできたんだ!?お父さん、びっくりしたよ!まさか、蘇芳にシナリオ書いてもらったの?」
「父上!怒りますよ!…俺には、朝霧の気持ちがわかります。上総なんかに騙されて、芙蓉を傷つけてしまった俺には」
芙蓉さんは、そっと羅刹さんの頬に手をあて、優しく微笑んだ。
「羅刹様、もういいのです。わたくしたちは、昨日から新しく夫婦になったのですから…」
「芙蓉…」
ふたりの世界に入ってしまった一角はスルーすることにして、私は伽藍さんに「他に、何か書いてありましたか」と聞いた。
「とにかく、待っていて欲しい、と…半年後、知事として白虎州に行くまでには一度帰るから、その時まで自分を見捨てないで欲しいと…。私は、自分に自信がなかっただけで、朝霧を嫌悪したりしていないのに。朝霧は、私をずっと待っていてくれたんだな。私が、朝霧を受け入れるまで…」
芙蓉さんは俯くと、手紙をそっと抱き締めた。朝霧さんのことを思っているんだろう。
「伽藍、朝霧のこと…待っていられるかい?」
「もちろんです、義父上。私は、朝霧の妻です。朝霧が私をイヤだと言うまでは、私を朝霧の妻でいさせてください」
英樹さんはじっと伽藍さんを見つめると、「…ありがとう」とポツリと呟いた。
「父上、それなら、3階に羅刹夫婦を引っ越させてはどうですか?伽藍さんは今ソフィアさんと一緒の部屋ですが、ふたりとも支障がないならこのままふたりでいたほうがいいと思います。ついでに、空けたままにしておくと、上総たちが朝霧の居住区に移ると言い出すかもしれない。昨日の話を聞いただけでも、相当嫌がらせを楽しんでいるようですから。ソフィアさん、伽藍さんに嫌がらせをするために朝霧の居住区に目をつけられては困ります。羅刹たちが来てくれたほうが安心です」
蘇芳さんの言葉に、英樹さんが頷く。
「そうだね。朝霧が戻ってきたら、また移動すればいいんだし。羅刹たちの今の居住区は、物理的に閉じよう。24時間体制で衛兵を置く。羅刹、芙蓉、いいか?」
「はい」
「そのように、お義父様」
それを聞いて私は違和感を覚える。確かにかなりヤなヤツだけど、そこまで警戒するほどなのかな…?そんな、物理的に入れないようにするなんて…。
「じゃあ、ここにいるメンバーが同じ階で生活を共にできるのですね!嬉しいです、芙蓉様、伽藍様!お姉さまも、改めてよろしくお願いいたします!」
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英樹さんは私に視線を移すと、「自分たちが蒔いた種ですから、構いません」とニコリとした。まぁ…他国の私がつべこべ言うことじゃないけど、なんか心配で…。
その後、夜だというのに体力バカはさっさと引っ越してきた。曰く、「あんなクズがいる空間に大事な芙蓉を置いておきたくない」だそうだ。ちょいちょい惚気るのはやめて欲しい。
…朝霧さんが戻ってきたのは、この日から5ヶ月後。新皇帝並びに新州知事就任式の、わずか1か月前だった。
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