55 / 161
拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
5
しおりを挟む
「な…っ、なぜ、なぜダメなんだ!」
「おまえが行ったら、朝霧の男としての矜持が粉々になる。小平家にしてもそうだ。結局、伽藍に助けてもらわなければ何もできない情けない名ばかりの夫、という位置付けから変わらない」
伽藍さんは、ハッとしたように羅刹さんを見て、唇を噛んだ。
「…朝霧は、俺から見ると軽薄な努力の嫌いな男だ。末っ子だから仕方ないかと思っていた。何事かあればすぐに逃げるしな。そんな男が、今回わざわざ虎の穴に挑んで行ったんだぞ。伽藍、おまえに認めて欲しくて。他の女を抱いてきた自分のカラダを禊ぎたいという気持ちもあるんだろう。あの小平家だ、そう簡単にはいかないだろう。だが、朝霧が、おまえを手に入れたくて決心したことだ。…待っててやってくれ。頼む」
「羅刹…おまえ、そんなふうに考えることできたんだ!?お父さん、びっくりしたよ!まさか、蘇芳にシナリオ書いてもらったの?」
「父上!怒りますよ!…俺には、朝霧の気持ちがわかります。上総なんかに騙されて、芙蓉を傷つけてしまった俺には」
芙蓉さんは、そっと羅刹さんの頬に手をあて、優しく微笑んだ。
「羅刹様、もういいのです。わたくしたちは、昨日から新しく夫婦になったのですから…」
「芙蓉…」
ふたりの世界に入ってしまった一角はスルーすることにして、私は伽藍さんに「他に、何か書いてありましたか」と聞いた。
「とにかく、待っていて欲しい、と…半年後、知事として白虎州に行くまでには一度帰るから、その時まで自分を見捨てないで欲しいと…。私は、自分に自信がなかっただけで、朝霧を嫌悪したりしていないのに。朝霧は、私をずっと待っていてくれたんだな。私が、朝霧を受け入れるまで…」
芙蓉さんは俯くと、手紙をそっと抱き締めた。朝霧さんのことを思っているんだろう。
「伽藍、朝霧のこと…待っていられるかい?」
「もちろんです、義父上。私は、朝霧の妻です。朝霧が私をイヤだと言うまでは、私を朝霧の妻でいさせてください」
英樹さんはじっと伽藍さんを見つめると、「…ありがとう」とポツリと呟いた。
「父上、それなら、3階に羅刹夫婦を引っ越させてはどうですか?伽藍さんは今ソフィアさんと一緒の部屋ですが、ふたりとも支障がないならこのままふたりでいたほうがいいと思います。ついでに、空けたままにしておくと、上総たちが朝霧の居住区に移ると言い出すかもしれない。昨日の話を聞いただけでも、相当嫌がらせを楽しんでいるようですから。ソフィアさん、伽藍さんに嫌がらせをするために朝霧の居住区に目をつけられては困ります。羅刹たちが来てくれたほうが安心です」
蘇芳さんの言葉に、英樹さんが頷く。
「そうだね。朝霧が戻ってきたら、また移動すればいいんだし。羅刹たちの今の居住区は、物理的に閉じよう。24時間体制で衛兵を置く。羅刹、芙蓉、いいか?」
「はい」
「そのように、お義父様」
それを聞いて私は違和感を覚える。確かにかなりヤなヤツだけど、そこまで警戒するほどなのかな…?そんな、物理的に入れないようにするなんて…。
「じゃあ、ここにいるメンバーが同じ階で生活を共にできるのですね!嬉しいです、芙蓉様、伽藍様!お姉さまも、改めてよろしくお願いいたします!」
撫子さんはニコニコ嬉しそうだけど、
「英樹さん、なんか、三男夫婦だけ仲間外れみたいにしちゃって、後々大丈夫なんですか?」
英樹さんは私に視線を移すと、「自分たちが蒔いた種ですから、構いません」とニコリとした。まぁ…他国の私がつべこべ言うことじゃないけど、なんか心配で…。
その後、夜だというのに体力バカはさっさと引っ越してきた。曰く、「あんなクズがいる空間に大事な芙蓉を置いておきたくない」だそうだ。ちょいちょい惚気るのはやめて欲しい。
…朝霧さんが戻ってきたのは、この日から5ヶ月後。新皇帝並びに新州知事就任式の、わずか1か月前だった。
「おまえが行ったら、朝霧の男としての矜持が粉々になる。小平家にしてもそうだ。結局、伽藍に助けてもらわなければ何もできない情けない名ばかりの夫、という位置付けから変わらない」
伽藍さんは、ハッとしたように羅刹さんを見て、唇を噛んだ。
「…朝霧は、俺から見ると軽薄な努力の嫌いな男だ。末っ子だから仕方ないかと思っていた。何事かあればすぐに逃げるしな。そんな男が、今回わざわざ虎の穴に挑んで行ったんだぞ。伽藍、おまえに認めて欲しくて。他の女を抱いてきた自分のカラダを禊ぎたいという気持ちもあるんだろう。あの小平家だ、そう簡単にはいかないだろう。だが、朝霧が、おまえを手に入れたくて決心したことだ。…待っててやってくれ。頼む」
「羅刹…おまえ、そんなふうに考えることできたんだ!?お父さん、びっくりしたよ!まさか、蘇芳にシナリオ書いてもらったの?」
「父上!怒りますよ!…俺には、朝霧の気持ちがわかります。上総なんかに騙されて、芙蓉を傷つけてしまった俺には」
芙蓉さんは、そっと羅刹さんの頬に手をあて、優しく微笑んだ。
「羅刹様、もういいのです。わたくしたちは、昨日から新しく夫婦になったのですから…」
「芙蓉…」
ふたりの世界に入ってしまった一角はスルーすることにして、私は伽藍さんに「他に、何か書いてありましたか」と聞いた。
「とにかく、待っていて欲しい、と…半年後、知事として白虎州に行くまでには一度帰るから、その時まで自分を見捨てないで欲しいと…。私は、自分に自信がなかっただけで、朝霧を嫌悪したりしていないのに。朝霧は、私をずっと待っていてくれたんだな。私が、朝霧を受け入れるまで…」
芙蓉さんは俯くと、手紙をそっと抱き締めた。朝霧さんのことを思っているんだろう。
「伽藍、朝霧のこと…待っていられるかい?」
「もちろんです、義父上。私は、朝霧の妻です。朝霧が私をイヤだと言うまでは、私を朝霧の妻でいさせてください」
英樹さんはじっと伽藍さんを見つめると、「…ありがとう」とポツリと呟いた。
「父上、それなら、3階に羅刹夫婦を引っ越させてはどうですか?伽藍さんは今ソフィアさんと一緒の部屋ですが、ふたりとも支障がないならこのままふたりでいたほうがいいと思います。ついでに、空けたままにしておくと、上総たちが朝霧の居住区に移ると言い出すかもしれない。昨日の話を聞いただけでも、相当嫌がらせを楽しんでいるようですから。ソフィアさん、伽藍さんに嫌がらせをするために朝霧の居住区に目をつけられては困ります。羅刹たちが来てくれたほうが安心です」
蘇芳さんの言葉に、英樹さんが頷く。
「そうだね。朝霧が戻ってきたら、また移動すればいいんだし。羅刹たちの今の居住区は、物理的に閉じよう。24時間体制で衛兵を置く。羅刹、芙蓉、いいか?」
「はい」
「そのように、お義父様」
それを聞いて私は違和感を覚える。確かにかなりヤなヤツだけど、そこまで警戒するほどなのかな…?そんな、物理的に入れないようにするなんて…。
「じゃあ、ここにいるメンバーが同じ階で生活を共にできるのですね!嬉しいです、芙蓉様、伽藍様!お姉さまも、改めてよろしくお願いいたします!」
撫子さんはニコニコ嬉しそうだけど、
「英樹さん、なんか、三男夫婦だけ仲間外れみたいにしちゃって、後々大丈夫なんですか?」
英樹さんは私に視線を移すと、「自分たちが蒔いた種ですから、構いません」とニコリとした。まぁ…他国の私がつべこべ言うことじゃないけど、なんか心配で…。
その後、夜だというのに体力バカはさっさと引っ越してきた。曰く、「あんなクズがいる空間に大事な芙蓉を置いておきたくない」だそうだ。ちょいちょい惚気るのはやめて欲しい。
…朝霧さんが戻ってきたのは、この日から5ヶ月後。新皇帝並びに新州知事就任式の、わずか1か月前だった。
34
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる