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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
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「朝霧が、私の実家に…?」
「はい…そのことで、また、知事の…お義父上の部屋に来て欲しいと。お風呂を上がりましたら参りましょう」
「私に、」
「いえ、みんなで来てほしいそうです。朝霧様はいませんが、昨日と同じメンバーで話したいそうです」
「…わかった。ソフィア殿、お付き合いくださるか」
英樹さんからの呼び出しなのだから行かないわけにはいかないだろう。朝霧さんがなんでいなくなっちゃったのかも知りたいし。
「もちろんです、行きます」
英樹さんの部屋に女子4人で行くと、すでに蘇芳さんと羅刹さんはソファに座っていた。それぞれ立ち上がって自分の妻の手を取り、ソファに横抱きにする。体力バカに至っては芙蓉さんの首筋に顔を埋め、「芙蓉、とてもいい薫りがする…舐めたい」と宣っていた。おい。「ふ、ふしだらな…っ」はどこに行ったんだよ。
英樹さんも「おまえ本当に羅刹なの」と疑わしそうに見ていたが、当の本人はどこ吹く風で本当に芙蓉さんの肌を舐め、真っ赤になった芙蓉さんに怒られていた。
「可愛い芙蓉が悪い」
とニコニコしている…一晩で何がどうなるとああなるの?漫画効果凄すぎる。
「さて、とりあえずあいつは置いといて…伽藍、朝霧がおまえの実家にお邪魔することになった。しばらく帰ってこないそうだ。くれぐれも、上総なんぞに伽藍を傷つけさせてくれるなと、何度も言い置いて出て行ったよ。これは、おまえに宛てた手紙だ。今、良かったら読んでくれるか?」
「…はい」
部屋にしばし沈黙が落ちる。伽藍さんの、紙をめくる音だけがひそやかに響く。
読み終えた伽藍さんは、「義父上…」と英樹さんに視線を移した。
「なんだい」
「義父上は、この内容をご存知なのですか」
「いや。さすがに、妻への手紙を読むわけにはいかないから…ただ、朝霧がわたくしに言っていったことがある。たぶん、その手紙の内容と被るところがあるだろう。みんなに集まってもらったのは、昨日の一件があるから、知っててもらったほうがいいかと思ってね」
そう言って英樹さんは話し始めた。
「朝霧が、昨日自分でも言っていたけど、もう10年も前に伽藍を見初めていたんだよね。ただ、陛下からは『政略結婚させる』と早い段階で言われたみたいで…どうせ自分が選べないなら誰でも同じだ、っていうのも、上総の誘いに乗った理由のひとつらしい。伽藍以外は、誰でも同じ。ならば効率よく子どもを作ったほうがいいだろう、って」
「確かに、俺も陛下に言われた時は絶望しました。芙蓉を妻に望むことすらできないのかと」
「あの、政略結婚にしても、候補としてこの人がいい、っては言えなかったんですか?」
羅刹さんはフルフルと首を振り、「陛下が決めることに口出しはできない」と答えた。各州知事の配置にしても陛下の一存で決まっちゃうし…そこに絶対に誰かの思惑が絡んでない、なんて言いきれるのかな。
「まあ、だからさ。朝霧が女遊びしたことを赦せるわけではないんだけど、一応、そういう思いがあってのことだ、ってことは知ってて欲しい。
…次に、朝霧は、伽藍の父上はじめご兄弟に『あなたを伽藍の夫とは認めない』と言われたらしいね」
「え!?」
英樹さんの言葉に伽藍さんが驚きの声をあげた。
「あ…あれ、手紙に書いてなかったかな…?」
英樹さんが「しまった」という顔になったが、どうやら書いてなかったようだ。伽藍さんから「あの人たちは、私には何も言わず朝霧にそんな酷いことをコソコソと…!」と怒りに満ちた声があがった。
「…言っちゃったついでだから言うね、伽藍。『せめて羅刹殿なら良かったのに、あなたは剣の腕も中途半端、しかも伽藍より年下ときてる』って言われたらしくて、」
「父上。…伽藍、おまえの家族を悪く言うようだが許せ。俺は伽藍のお父上に、『あなたみたいな剣しか能がない男に伽藍は嫁がせません!どうしても欲しいなら、我々小平家を全員倒してからにするんですな!』と、突然難癖をつけられたことがあります。しかも、これから大会の決勝というときに…。正直、何を言われているのかさっぱりだったので気にもしませんでしたが、ですから、俺だったら良かったなんて言葉は嘘っぱちです」
「私もそう思います。父は、私をどこにも嫁に出さない、婿も取らせない、ずーっと自分が面倒を見ると公言していて、母上によく殴られていました。朝霧でなくても、誰がきたとしても、私の夫とは認めないでしょう」
…娘ラブが激しすぎるお父様なんだね、伽藍さん。それはそれで気の毒すぎる。だから、余計に女性らしいことから遠ざけられていたのかも。
「朝霧は、別に認めてもらわなくても、陛下の命による結婚だし、構わないって思ってたみたい。だけど昨日の一件で、自分の性根を叩き直してもらうには小平家にお世話になり、剣の腕もあげたいと。伽藍の夫だと、小平家の面々に認めさせるまで帰ってこないと言っていた」
「…絶対、認めるわけがない!義父上、私も実家に帰ります、朝霧を連れて帰ってきます!」
「ダメだ、伽藍」
そう言ったのは、まさかの体力バカ…羅刹さんだった。
「はい…そのことで、また、知事の…お義父上の部屋に来て欲しいと。お風呂を上がりましたら参りましょう」
「私に、」
「いえ、みんなで来てほしいそうです。朝霧様はいませんが、昨日と同じメンバーで話したいそうです」
「…わかった。ソフィア殿、お付き合いくださるか」
英樹さんからの呼び出しなのだから行かないわけにはいかないだろう。朝霧さんがなんでいなくなっちゃったのかも知りたいし。
「もちろんです、行きます」
英樹さんの部屋に女子4人で行くと、すでに蘇芳さんと羅刹さんはソファに座っていた。それぞれ立ち上がって自分の妻の手を取り、ソファに横抱きにする。体力バカに至っては芙蓉さんの首筋に顔を埋め、「芙蓉、とてもいい薫りがする…舐めたい」と宣っていた。おい。「ふ、ふしだらな…っ」はどこに行ったんだよ。
英樹さんも「おまえ本当に羅刹なの」と疑わしそうに見ていたが、当の本人はどこ吹く風で本当に芙蓉さんの肌を舐め、真っ赤になった芙蓉さんに怒られていた。
「可愛い芙蓉が悪い」
とニコニコしている…一晩で何がどうなるとああなるの?漫画効果凄すぎる。
「さて、とりあえずあいつは置いといて…伽藍、朝霧がおまえの実家にお邪魔することになった。しばらく帰ってこないそうだ。くれぐれも、上総なんぞに伽藍を傷つけさせてくれるなと、何度も言い置いて出て行ったよ。これは、おまえに宛てた手紙だ。今、良かったら読んでくれるか?」
「…はい」
部屋にしばし沈黙が落ちる。伽藍さんの、紙をめくる音だけがひそやかに響く。
読み終えた伽藍さんは、「義父上…」と英樹さんに視線を移した。
「なんだい」
「義父上は、この内容をご存知なのですか」
「いや。さすがに、妻への手紙を読むわけにはいかないから…ただ、朝霧がわたくしに言っていったことがある。たぶん、その手紙の内容と被るところがあるだろう。みんなに集まってもらったのは、昨日の一件があるから、知っててもらったほうがいいかと思ってね」
そう言って英樹さんは話し始めた。
「朝霧が、昨日自分でも言っていたけど、もう10年も前に伽藍を見初めていたんだよね。ただ、陛下からは『政略結婚させる』と早い段階で言われたみたいで…どうせ自分が選べないなら誰でも同じだ、っていうのも、上総の誘いに乗った理由のひとつらしい。伽藍以外は、誰でも同じ。ならば効率よく子どもを作ったほうがいいだろう、って」
「確かに、俺も陛下に言われた時は絶望しました。芙蓉を妻に望むことすらできないのかと」
「あの、政略結婚にしても、候補としてこの人がいい、っては言えなかったんですか?」
羅刹さんはフルフルと首を振り、「陛下が決めることに口出しはできない」と答えた。各州知事の配置にしても陛下の一存で決まっちゃうし…そこに絶対に誰かの思惑が絡んでない、なんて言いきれるのかな。
「まあ、だからさ。朝霧が女遊びしたことを赦せるわけではないんだけど、一応、そういう思いがあってのことだ、ってことは知ってて欲しい。
…次に、朝霧は、伽藍の父上はじめご兄弟に『あなたを伽藍の夫とは認めない』と言われたらしいね」
「え!?」
英樹さんの言葉に伽藍さんが驚きの声をあげた。
「あ…あれ、手紙に書いてなかったかな…?」
英樹さんが「しまった」という顔になったが、どうやら書いてなかったようだ。伽藍さんから「あの人たちは、私には何も言わず朝霧にそんな酷いことをコソコソと…!」と怒りに満ちた声があがった。
「…言っちゃったついでだから言うね、伽藍。『せめて羅刹殿なら良かったのに、あなたは剣の腕も中途半端、しかも伽藍より年下ときてる』って言われたらしくて、」
「父上。…伽藍、おまえの家族を悪く言うようだが許せ。俺は伽藍のお父上に、『あなたみたいな剣しか能がない男に伽藍は嫁がせません!どうしても欲しいなら、我々小平家を全員倒してからにするんですな!』と、突然難癖をつけられたことがあります。しかも、これから大会の決勝というときに…。正直、何を言われているのかさっぱりだったので気にもしませんでしたが、ですから、俺だったら良かったなんて言葉は嘘っぱちです」
「私もそう思います。父は、私をどこにも嫁に出さない、婿も取らせない、ずーっと自分が面倒を見ると公言していて、母上によく殴られていました。朝霧でなくても、誰がきたとしても、私の夫とは認めないでしょう」
…娘ラブが激しすぎるお父様なんだね、伽藍さん。それはそれで気の毒すぎる。だから、余計に女性らしいことから遠ざけられていたのかも。
「朝霧は、別に認めてもらわなくても、陛下の命による結婚だし、構わないって思ってたみたい。だけど昨日の一件で、自分の性根を叩き直してもらうには小平家にお世話になり、剣の腕もあげたいと。伽藍の夫だと、小平家の面々に認めさせるまで帰ってこないと言っていた」
「…絶対、認めるわけがない!義父上、私も実家に帰ります、朝霧を連れて帰ってきます!」
「ダメだ、伽藍」
そう言ったのは、まさかの体力バカ…羅刹さんだった。
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