51 / 161
拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
朝霧、伽藍の事情1
しおりを挟む
「芙蓉…?」
芙蓉さんは涙で濡れた瞳でまっすぐに羅刹さんを見上げた。
「わたくし、あの時…確かに、痛くて、無理矢理、繋げるだけで、口づけもしてくださらないし、触れてもくださらないし、義務としてわたくしと嫌々しなくてはならないから、だから、あんなふうにされたんだ、って…っ」
「ち、違う、違うんだ、芙蓉!あの日、初夜をきちんと完遂しなければ、上総がおまえを愛人にすると言ったから…っ!」
「…え?」
「お、俺が、バカだから、きちんと考えもしなくて、上総になんて絶対に取られたくなくて、だから、とにかくカラダを繋いでさえしまえば、おまえを離さなくていいって、そう思って…っ」
芙蓉さんは呆けたように羅刹さんを見上げると、羅刹さんの頬にそっと手を当てた。
「三男の方が、わたくしを愛人にすると言ったのですか?わたくしは、羅刹様の妻なのに?」
「お、俺、その、…性交とか、正直興味もなくて、どんなふうにするかわからなくて、でも、とにかく挿入さえすれば夫婦として認められるって、…父上に、法律で認められてるのに、ってさっき言われて初めて気づいて…バカで、本当に、ごめん、芙蓉を傷つけて、ごめん…っ」
芙蓉さんは羅刹さんの頬に当てた手でピシャリと叩いた。
「…芙蓉っ」
「羅刹様。大事なことを聞いていません」
「な、なに、」
「ご自分で考えてくださいっ」
プイッと横を向いてしまった芙蓉さんをオロオロと見る羅刹さん。図体ばかりでかくて…まったく。
慌てたように、「芙蓉、」「大事なことって、」「芙蓉、教えて、」と繰り返す羅刹さんを呆れたように見た芙蓉さんは、
「…羅刹様は、誰が好きなのですか」
「え?」
「…ですからっ」
その瞬間、羅刹さんが芙蓉さんを自分の膝に抱き上げ、ギュッと抱き締めた。
「俺が好きなのは、芙蓉、おまえだけだ。おまえが学園に入ってきたときからずっと好きだった。ずっと、おまえだけに心を奪われてきた。愛してる、芙蓉。愛してる。あんなに酷いことをして、赦されるなんて思ってない。だけど、俺が側にいることは赦してくれないか。芙蓉、愛してる」
耳元で囁かれるように言われた芙蓉さんは、耳が真っ赤に染まっていた。
「わ、わたくし、だけですね」
「そうだ、芙蓉。おまえだけだ。おまえだけが欲しい」
「…なら、赦しますっ」
嬉しそうにクシャリと破顔した羅刹さんは、「ありがとう」と言って芙蓉さんの髪を撫ではじめた。
その甘い雰囲気をぶち壊したのは朝霧さんだ。
「羅刹兄さんばっかり…っ!うまくまとめて…っ!ねぇ、伽藍さん、他の女が好きな男に操をたててまで僕に抱かれたくないの!?」
伽藍さんは、キッと朝霧さんを睨み付けると、「私は、羅刹を好きだなど一度も言ったおぼえはないし、好きでもないっ」と叫び、またボロボロ泣き出した。
「じゃ、じゃあ、じゃあなんで!?なんで、僕のことを拒むの!?僕のことがそんなに嫌いなの!?ねぇ、伽藍さん!ちゃんと言って!教えてもらえなきゃ、わからないよ!」
伽藍さんは視線を上げると、朝霧さんをじっと見た。
「…は、…んだろう?」
「え?」
「おまえはっ!たくさんの女と経験があるんだろう!」
「…え?」
ピシッと固まる朝霧さん。
「朝霧…?おまえ…?」
英樹さんに睨み付けられて、「ひ、避妊はきちんとしてます…っ!」と叫ぶ朝霧さん。ああ…自白しちゃってる…。撫子さん、芙蓉さんの蔑むような視線がかなり痛いだろう。
「いや、あの、え?伽藍さん、誰がそんなこと!?」
「上総殿だ」
「…なっ、」
伽藍さんはギッと朝霧さんを睨み付けた。
「たくさんの女性と経験のある朝霧が、おまえみたいなカラダになんの魅力もない処女を相手に気持ちよくなれると思うか?あいつも気の毒にな、おまえみたいな女を押し付けられて、と…っ。わ、私は、確かに、処女だし…っ。経験なんてないし…っ。今まで朝霧が抱いてきた女性と比べられるのかと思ったら…っ」
「…殺す」
「…え?」
スッと立ち上がった朝霧さんは、陛下と同じ笑顔…目がまったく笑っていなかった。
「父上。今からあのクズを成敗して参ります。罪状は、僕の大事な大事な伽藍さんを傷つけ、僕の初夜を台無しにしたことです…っ」
「いや、朝霧、普通におまえが悪いから。なんだ、女遊びって。おまえは何をやってるんだ」
英樹さんに冷たく言われて「でも、元はと言えばあいつが…っ」と悔しそうに呻く朝霧さん。
「上総が?どうした?」
「…あいつが、女ひとり満足させられなくちゃ、男とは言えないって、」
「上総がクズだとわかっているのに、それに乗っかった時点でおまえ自身が誘惑に負けたということだろう。複数人とその場限りとは言え関係を結ぶとは…。伽藍」
「はい、義父上」
「おまえが、朝霧を汚いと思うなら婚姻は解消して構わない」
「父上…っ!?」
「朝霧、おまえは口を出す権利はない!自分がしたことがまだわからないのか!」
英樹さんに言われて、グッと詰まった朝霧さんは、すがるような目で伽藍さんを見たが、伽藍さんは目を合わせようとしなかった。
「…すぐに結論は出さなくていい」
「…はい。ただ、」
「なんだい?」
「…朝霧とは、部屋を別にしたく…」
「伽藍さんっ!ごめん、ごめんなさい!僕がバカだった、だから…っ」
「じゃあ、私の部屋に来ますか?」
「…ソフィア殿」
「私の部屋は、朝霧さんの住んでいる3階なので顔を合わせるかもしれませんけど、それでよければ」
なんか…浮気されてたみたいで放っておけないし。誰かと一緒のほうが、気が紛れるんじゃないかな…。
「ソフィア殿、かたじけない。では、お言葉に甘えて。よろしくたのむ」
朝霧さんに睨み付けられたのは、言うまでもない…。いや、悪いのはあなたですから…!
芙蓉さんは涙で濡れた瞳でまっすぐに羅刹さんを見上げた。
「わたくし、あの時…確かに、痛くて、無理矢理、繋げるだけで、口づけもしてくださらないし、触れてもくださらないし、義務としてわたくしと嫌々しなくてはならないから、だから、あんなふうにされたんだ、って…っ」
「ち、違う、違うんだ、芙蓉!あの日、初夜をきちんと完遂しなければ、上総がおまえを愛人にすると言ったから…っ!」
「…え?」
「お、俺が、バカだから、きちんと考えもしなくて、上総になんて絶対に取られたくなくて、だから、とにかくカラダを繋いでさえしまえば、おまえを離さなくていいって、そう思って…っ」
芙蓉さんは呆けたように羅刹さんを見上げると、羅刹さんの頬にそっと手を当てた。
「三男の方が、わたくしを愛人にすると言ったのですか?わたくしは、羅刹様の妻なのに?」
「お、俺、その、…性交とか、正直興味もなくて、どんなふうにするかわからなくて、でも、とにかく挿入さえすれば夫婦として認められるって、…父上に、法律で認められてるのに、ってさっき言われて初めて気づいて…バカで、本当に、ごめん、芙蓉を傷つけて、ごめん…っ」
芙蓉さんは羅刹さんの頬に当てた手でピシャリと叩いた。
「…芙蓉っ」
「羅刹様。大事なことを聞いていません」
「な、なに、」
「ご自分で考えてくださいっ」
プイッと横を向いてしまった芙蓉さんをオロオロと見る羅刹さん。図体ばかりでかくて…まったく。
慌てたように、「芙蓉、」「大事なことって、」「芙蓉、教えて、」と繰り返す羅刹さんを呆れたように見た芙蓉さんは、
「…羅刹様は、誰が好きなのですか」
「え?」
「…ですからっ」
その瞬間、羅刹さんが芙蓉さんを自分の膝に抱き上げ、ギュッと抱き締めた。
「俺が好きなのは、芙蓉、おまえだけだ。おまえが学園に入ってきたときからずっと好きだった。ずっと、おまえだけに心を奪われてきた。愛してる、芙蓉。愛してる。あんなに酷いことをして、赦されるなんて思ってない。だけど、俺が側にいることは赦してくれないか。芙蓉、愛してる」
耳元で囁かれるように言われた芙蓉さんは、耳が真っ赤に染まっていた。
「わ、わたくし、だけですね」
「そうだ、芙蓉。おまえだけだ。おまえだけが欲しい」
「…なら、赦しますっ」
嬉しそうにクシャリと破顔した羅刹さんは、「ありがとう」と言って芙蓉さんの髪を撫ではじめた。
その甘い雰囲気をぶち壊したのは朝霧さんだ。
「羅刹兄さんばっかり…っ!うまくまとめて…っ!ねぇ、伽藍さん、他の女が好きな男に操をたててまで僕に抱かれたくないの!?」
伽藍さんは、キッと朝霧さんを睨み付けると、「私は、羅刹を好きだなど一度も言ったおぼえはないし、好きでもないっ」と叫び、またボロボロ泣き出した。
「じゃ、じゃあ、じゃあなんで!?なんで、僕のことを拒むの!?僕のことがそんなに嫌いなの!?ねぇ、伽藍さん!ちゃんと言って!教えてもらえなきゃ、わからないよ!」
伽藍さんは視線を上げると、朝霧さんをじっと見た。
「…は、…んだろう?」
「え?」
「おまえはっ!たくさんの女と経験があるんだろう!」
「…え?」
ピシッと固まる朝霧さん。
「朝霧…?おまえ…?」
英樹さんに睨み付けられて、「ひ、避妊はきちんとしてます…っ!」と叫ぶ朝霧さん。ああ…自白しちゃってる…。撫子さん、芙蓉さんの蔑むような視線がかなり痛いだろう。
「いや、あの、え?伽藍さん、誰がそんなこと!?」
「上総殿だ」
「…なっ、」
伽藍さんはギッと朝霧さんを睨み付けた。
「たくさんの女性と経験のある朝霧が、おまえみたいなカラダになんの魅力もない処女を相手に気持ちよくなれると思うか?あいつも気の毒にな、おまえみたいな女を押し付けられて、と…っ。わ、私は、確かに、処女だし…っ。経験なんてないし…っ。今まで朝霧が抱いてきた女性と比べられるのかと思ったら…っ」
「…殺す」
「…え?」
スッと立ち上がった朝霧さんは、陛下と同じ笑顔…目がまったく笑っていなかった。
「父上。今からあのクズを成敗して参ります。罪状は、僕の大事な大事な伽藍さんを傷つけ、僕の初夜を台無しにしたことです…っ」
「いや、朝霧、普通におまえが悪いから。なんだ、女遊びって。おまえは何をやってるんだ」
英樹さんに冷たく言われて「でも、元はと言えばあいつが…っ」と悔しそうに呻く朝霧さん。
「上総が?どうした?」
「…あいつが、女ひとり満足させられなくちゃ、男とは言えないって、」
「上総がクズだとわかっているのに、それに乗っかった時点でおまえ自身が誘惑に負けたということだろう。複数人とその場限りとは言え関係を結ぶとは…。伽藍」
「はい、義父上」
「おまえが、朝霧を汚いと思うなら婚姻は解消して構わない」
「父上…っ!?」
「朝霧、おまえは口を出す権利はない!自分がしたことがまだわからないのか!」
英樹さんに言われて、グッと詰まった朝霧さんは、すがるような目で伽藍さんを見たが、伽藍さんは目を合わせようとしなかった。
「…すぐに結論は出さなくていい」
「…はい。ただ、」
「なんだい?」
「…朝霧とは、部屋を別にしたく…」
「伽藍さんっ!ごめん、ごめんなさい!僕がバカだった、だから…っ」
「じゃあ、私の部屋に来ますか?」
「…ソフィア殿」
「私の部屋は、朝霧さんの住んでいる3階なので顔を合わせるかもしれませんけど、それでよければ」
なんか…浮気されてたみたいで放っておけないし。誰かと一緒のほうが、気が紛れるんじゃないかな…。
「ソフィア殿、かたじけない。では、お言葉に甘えて。よろしくたのむ」
朝霧さんに睨み付けられたのは、言うまでもない…。いや、悪いのはあなたですから…!
27
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる