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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
羅刹、芙蓉の事情1
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真っ青な顔になった羅刹さんは、
「…説明、します。…初夜を、完遂しなくてはならないと聞いて、」
…完遂?
「あの、羅刹さん、完遂って」
「いや、その、結婚したその日の夜、必ず妻になった女性に自分のモノを挿入しないと、夫婦として成り立たないと聞いて、」
そんなの聞いたことない。ジャポン皇国の伝承なの?
英樹さんを見ると、英樹さんもビックリした顔になっていた。
「羅刹、そんなこと誰から、」
「…上総が、そう言ってました。『兄上は剣しかやってこなかった童貞でしょ?芙蓉を満足させられるの?今夜挿入できなければ夫婦にはなれないし、できなければ芙蓉は俺の愛人にするからね。妻じゃないんだから文句言えないよ』って言われて…。芙蓉を手放すなんて、絶対にイヤだって思って…」
羅刹さんの目からみるみる涙があふれでる。
「陛下から聞きましたけど、会って次の日には結婚したんですよね…一目惚れだったんですか?」
羅刹さんはボロボロこぼれる涙をぬぐいもせず、私を見た。
「芙蓉のことは、…前から知ってたんだ。上総と同学年で、俺が三年の時に入学してきた。上総がかなり強引に付き合おうとしてたんだけど、皇族相手でも毅然として退かない姿勢に心が惹かれて…気づいたら目で追うようになってて…上総は、たぶん俺の気持ちを知ってたんだと思う。俺は、顔合わせの日、芙蓉が俺の嫁だって聞いて、すごく嬉しかった。けど、初夜を迎えられなければ夫婦として認められないって聞いて…」
上総さんはギュッと眉をしかめると、
「痛がってたのに…無理矢理、挿入してしまったんだ。潤滑油も準備したけど、かなり痛そうで…何度も謝ったけど、芙蓉は、何も言わなくて…」
そう言って羅刹さんは、「父上」と英樹さんを見た。
「なんだい」
「…俺は、芙蓉を離縁します。いや、俺が捨てられたようにしてください。芙蓉にはなんの咎もない。俺が無理矢理うばってしまったせいで、もう処女ではないけど…っ」
そう言って羅刹さんは声をあげて泣き出した。ていうか、
「あの、泣いてるところ悪いんですけど、羅刹さん。どんなふうにセックスしたんですか」
「…え?」
「芙蓉さんと、どんなことしたんですか。まず、キスしました?」
「し、し、してない…っ!そ、そんなふしだらな…っ!芙蓉はそんな女ではないっ!」
まさか…。
「…潤滑油つけて、無理矢理突っ込んだんですか?前技もなにもせず!?」
羅刹さんは真っ赤な目のまま英樹さんを見て、「父上、前技とはなんですか」と聞いた。英樹さんはそのまま頭を抱えた。こいつもか…。
「あの、羅刹」
蘇芳さんがそっと声をかける。
「僕もついさっきまで知らなかったんだけど、セックスというのはその、挿入するだけではないんだよ。ええと、その、まだ童貞の僕が言うことじゃないんだけど」
「童貞…?兄上は、まだ撫子様と契ってないと?契っていないのに、あんなに仲がいいのですか?そもそも、契ってないのに、夫婦じゃないじゃないですか!上総が、」
「羅刹、それは嘘だよ。上総が言ったことは、質の悪い嘘だよ。契らなくたって夫婦は夫婦だ。法律で認められてるだろう、きちんと届け出をしたんだから…。上総はさっきのおまえの話からすると、芙蓉を手に入れられなくておもしろくなかったんだろう。だから、意趣返しのつもりで、なんにもわからないおまえにそんなことを言ったんだろう。無理矢理やられれば恐怖を抱くようにもなる、女性はな」
英樹さんは冷酷な目を羅刹さんに向けた。
「一番悪いのは上総だ。だが、剣にかまけて他のことに目を向けなかったおまえにも非があるぞ、羅刹。あんなクズの罠にひっかかって、おまえは大事な芙蓉を壊してしまったんだ」
羅刹さんはまたボロボロ涙をこぼすと、
「だから…っ!せ、責任をとって離縁します…っ!」
私は立ち上がり、羅刹さんの腕を掴んでソファから引っ張りあげ、そのままビンタしてやった。
「…な、」
「羅刹さん。責任とって離縁てなに?芙蓉さんの純潔を奪っておいてポイ捨てすんの?それでも男なの?あんたは、ただ単に、芙蓉さんから憎まれてるかもしれない、そんな自分が可哀想だから離縁したい、ただそれだけでしょ。何が責任をとる、よ。卑怯者」
「俺は、卑怯なんかじゃ…っ」
「責任取るっていうのは、どんなに憎まれても何しても、芙蓉さんの側にいて愛情を注ぎ続けることでしょ!自分がツラくて芙蓉さんから逃げ出そうとしてる、あんたのどこが卑怯じゃないっていうの!」
羅刹さんは呆然とした顔で私を見下ろした。
「芙蓉のそばに、…芙蓉のそばに、俺は、いてもいいのか…?」
「側にいる、って、ずっと隣にいろってことじゃないよ。あんたが無理矢理突っ込んだせいで芙蓉さんはあんたのこと怖いかもしれないでしょ。でも、彼女を見守ることはできるじゃないですか。…英樹さん」
「はい」
「芙蓉さん、ここに呼びましょう。きちんと話をしないと、無理矢理された意味がわからなくて拗れたままになっちゃいますよ。たぶん、自分の夫のアホさ加減に嫌気がさすとは思いますけど…。羅刹さん、芙蓉さんの方から離縁したいと言われたらそれは受け入れないとダメですよ。あなたには拒絶する権利はない」
「…説明、します。…初夜を、完遂しなくてはならないと聞いて、」
…完遂?
「あの、羅刹さん、完遂って」
「いや、その、結婚したその日の夜、必ず妻になった女性に自分のモノを挿入しないと、夫婦として成り立たないと聞いて、」
そんなの聞いたことない。ジャポン皇国の伝承なの?
英樹さんを見ると、英樹さんもビックリした顔になっていた。
「羅刹、そんなこと誰から、」
「…上総が、そう言ってました。『兄上は剣しかやってこなかった童貞でしょ?芙蓉を満足させられるの?今夜挿入できなければ夫婦にはなれないし、できなければ芙蓉は俺の愛人にするからね。妻じゃないんだから文句言えないよ』って言われて…。芙蓉を手放すなんて、絶対にイヤだって思って…」
羅刹さんの目からみるみる涙があふれでる。
「陛下から聞きましたけど、会って次の日には結婚したんですよね…一目惚れだったんですか?」
羅刹さんはボロボロこぼれる涙をぬぐいもせず、私を見た。
「芙蓉のことは、…前から知ってたんだ。上総と同学年で、俺が三年の時に入学してきた。上総がかなり強引に付き合おうとしてたんだけど、皇族相手でも毅然として退かない姿勢に心が惹かれて…気づいたら目で追うようになってて…上総は、たぶん俺の気持ちを知ってたんだと思う。俺は、顔合わせの日、芙蓉が俺の嫁だって聞いて、すごく嬉しかった。けど、初夜を迎えられなければ夫婦として認められないって聞いて…」
上総さんはギュッと眉をしかめると、
「痛がってたのに…無理矢理、挿入してしまったんだ。潤滑油も準備したけど、かなり痛そうで…何度も謝ったけど、芙蓉は、何も言わなくて…」
そう言って羅刹さんは、「父上」と英樹さんを見た。
「なんだい」
「…俺は、芙蓉を離縁します。いや、俺が捨てられたようにしてください。芙蓉にはなんの咎もない。俺が無理矢理うばってしまったせいで、もう処女ではないけど…っ」
そう言って羅刹さんは声をあげて泣き出した。ていうか、
「あの、泣いてるところ悪いんですけど、羅刹さん。どんなふうにセックスしたんですか」
「…え?」
「芙蓉さんと、どんなことしたんですか。まず、キスしました?」
「し、し、してない…っ!そ、そんなふしだらな…っ!芙蓉はそんな女ではないっ!」
まさか…。
「…潤滑油つけて、無理矢理突っ込んだんですか?前技もなにもせず!?」
羅刹さんは真っ赤な目のまま英樹さんを見て、「父上、前技とはなんですか」と聞いた。英樹さんはそのまま頭を抱えた。こいつもか…。
「あの、羅刹」
蘇芳さんがそっと声をかける。
「僕もついさっきまで知らなかったんだけど、セックスというのはその、挿入するだけではないんだよ。ええと、その、まだ童貞の僕が言うことじゃないんだけど」
「童貞…?兄上は、まだ撫子様と契ってないと?契っていないのに、あんなに仲がいいのですか?そもそも、契ってないのに、夫婦じゃないじゃないですか!上総が、」
「羅刹、それは嘘だよ。上総が言ったことは、質の悪い嘘だよ。契らなくたって夫婦は夫婦だ。法律で認められてるだろう、きちんと届け出をしたんだから…。上総はさっきのおまえの話からすると、芙蓉を手に入れられなくておもしろくなかったんだろう。だから、意趣返しのつもりで、なんにもわからないおまえにそんなことを言ったんだろう。無理矢理やられれば恐怖を抱くようにもなる、女性はな」
英樹さんは冷酷な目を羅刹さんに向けた。
「一番悪いのは上総だ。だが、剣にかまけて他のことに目を向けなかったおまえにも非があるぞ、羅刹。あんなクズの罠にひっかかって、おまえは大事な芙蓉を壊してしまったんだ」
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「だから…っ!せ、責任をとって離縁します…っ!」
私は立ち上がり、羅刹さんの腕を掴んでソファから引っ張りあげ、そのままビンタしてやった。
「…な、」
「羅刹さん。責任とって離縁てなに?芙蓉さんの純潔を奪っておいてポイ捨てすんの?それでも男なの?あんたは、ただ単に、芙蓉さんから憎まれてるかもしれない、そんな自分が可哀想だから離縁したい、ただそれだけでしょ。何が責任をとる、よ。卑怯者」
「俺は、卑怯なんかじゃ…っ」
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「はい」
「芙蓉さん、ここに呼びましょう。きちんと話をしないと、無理矢理された意味がわからなくて拗れたままになっちゃいますよ。たぶん、自分の夫のアホさ加減に嫌気がさすとは思いますけど…。羅刹さん、芙蓉さんの方から離縁したいと言われたらそれは受け入れないとダメですよ。あなたには拒絶する権利はない」
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