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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
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私は医者ではないから専門的な知識があるとは言えないけど、
「勃起しないのは、いくつか理由が考えられますよね」
その言葉を聞いて、ふたりがようやく口づけをやめてくれた。目の前で他人の口づけを見たのなんて初めて…ディープじゃなかったのがせめてもの救い、と思うしかない。
「あの、お姉さまは、その理由をご存知なのですか?」
撫子さんは真っ赤な瞳のまま私を見た。
「…私は、専門家ではないので、あっているかどうかはわかりませんし、責任は持てません。私、前世、と言っていいのかわからないけど、この世界にくるまえはドラッグストアの店員だったんです。いろいろ、本を読んだり調べたりするのが好きで…」
あとは、BLで、「なぜか勃たなくなった…!」みたいな内容もあったりしたからね。公言できないけど。
「可能性の話でも構いません、教えてください!」
蘇芳さんの目がマジすぎてちょっと怖い。でもそこまで…撫子さんのことが本当は大好きなのに、自分が悪いからって身を引こうとするくらいに思い詰めてたんだもんね。
「まずひとつは、…仕事のしすぎによるストレスです」
「…仕事のしすぎ、ですか?」
ポカンとした顔になる蘇芳さんに、「先ほど皇帝陛下にお聞きしましたが」と続ける。
「蘇芳さんも撫子さんも、一生懸命でありがたいけど無理をしすぎる傾向があると仰ってました。仕事の内容もデスクワークが中心ですよね?カラダは動かさず体力は低下、しかも頭だけは冴えている。これではリラックスできないし、…エッチしたいってムラムラしないんじゃないですか」
蘇芳さんは考え込むような顔つきになった。
「…確かに、なんだか疲れすぎていて、撫子を抱きたい気持ちはあるものの、睡眠をとりたい気持ちのほうが勝っていたかもしれません」
「私もです、お姉さま。明日の仕事のために寝坊もしたくないし早く眠らなくては、と」
「おふたりとも、スキンシップはとってるみたいですけどそれもまだまだ足りないんじゃないですかねぇ。イチャイチャする時間がないと、お互いにムラムラもしないと思いますよ」
確かに、と考え込むふたり。
「次に考えられるのは、…私も人のことは言えないんですけど、敢えて言います、すみません。蘇芳さん、太りすぎです」
「…太りすぎと、勃起しないのは関係するのですか?」
驚いたような顔の蘇芳さん。良かった、怒らなくて。
「…そういう記事を読んだことがあります」
そう言うと、蘇芳さんは「ソフィアさん、それは言葉にすると、『肥満と勃起不全の関係性』ということで間違いないですか」と言った。
…まあ、言葉にすればそういうことかな?
コクリ、と頷いてみせると、蘇芳さんは「撫子、ソフィアさんと待ってて」と言ってドアから出ていってしまった。
後に残された撫子さんをそっと見ると、少し顔色が良くなっていた。
「お姉さま、ありがとうございます」
「…え?」
「私、…このまま、蘇芳様の言う通り、離縁しなくちゃいけないのかって…思い詰めてて…こんなに好きになってしまったのに、蘇芳様を諦めなくてはいけないのかと絶望しかなくて…っ」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、私を見て「ありがとうございます」と泣き笑いの表情になった。
「…撫子さんは、本当に蘇芳さんが好きなんですね」
「はい。…蘇芳様は、先ほどご自分でデブだしブサイクだし、なんて言ってましたけど…確かに、少しふくよかではありますけど、抱きしめるととっても気持ちよくて安心できますし、お顔も可愛らしいし…。お姉さまは、蘇芳様のご兄弟にお会いになりましたか?」
首を横に振ってみせると、
「私は、拝田家4人兄弟の3番目の…上総様に嫁ぐ予定だったのです」
「…お聞きしました。ひどいことを言われたと」
「ええ。上総様に言葉を投げつけられる前に、私は…顔合わせの場で蘇芳様しか目に入らなくて…なんて優しそうな、誠実そうな方なんだろうと。だから、陛下に上総様が私の相手だと言われた時、とてもガッカリしまして…お姉さまは、私がトゥランクメント族だということは知っていますか?」
「はい、それも聞きました」
撫子さんはそっと目を伏せると、「実は、トゥランクメント族は、目の前の人間の本性がわかってしまう一族なのです」と言った。
人間の本性がわかってしまう…?
「この国に日本人を召還したのはトゥランクメント族…それは魔術を使えるから、というのが表向きの理由ですが…300年前、日本人が召還されたころは、他の部族も魔術を使えたのです。そのなかでトゥランクメント族が召還の儀の立ち会いとして選ばれたのは、召還された人間に悪意があるか否かを見極めるためだったと言われています」
「勃起しないのは、いくつか理由が考えられますよね」
その言葉を聞いて、ふたりがようやく口づけをやめてくれた。目の前で他人の口づけを見たのなんて初めて…ディープじゃなかったのがせめてもの救い、と思うしかない。
「あの、お姉さまは、その理由をご存知なのですか?」
撫子さんは真っ赤な瞳のまま私を見た。
「…私は、専門家ではないので、あっているかどうかはわかりませんし、責任は持てません。私、前世、と言っていいのかわからないけど、この世界にくるまえはドラッグストアの店員だったんです。いろいろ、本を読んだり調べたりするのが好きで…」
あとは、BLで、「なぜか勃たなくなった…!」みたいな内容もあったりしたからね。公言できないけど。
「可能性の話でも構いません、教えてください!」
蘇芳さんの目がマジすぎてちょっと怖い。でもそこまで…撫子さんのことが本当は大好きなのに、自分が悪いからって身を引こうとするくらいに思い詰めてたんだもんね。
「まずひとつは、…仕事のしすぎによるストレスです」
「…仕事のしすぎ、ですか?」
ポカンとした顔になる蘇芳さんに、「先ほど皇帝陛下にお聞きしましたが」と続ける。
「蘇芳さんも撫子さんも、一生懸命でありがたいけど無理をしすぎる傾向があると仰ってました。仕事の内容もデスクワークが中心ですよね?カラダは動かさず体力は低下、しかも頭だけは冴えている。これではリラックスできないし、…エッチしたいってムラムラしないんじゃないですか」
蘇芳さんは考え込むような顔つきになった。
「…確かに、なんだか疲れすぎていて、撫子を抱きたい気持ちはあるものの、睡眠をとりたい気持ちのほうが勝っていたかもしれません」
「私もです、お姉さま。明日の仕事のために寝坊もしたくないし早く眠らなくては、と」
「おふたりとも、スキンシップはとってるみたいですけどそれもまだまだ足りないんじゃないですかねぇ。イチャイチャする時間がないと、お互いにムラムラもしないと思いますよ」
確かに、と考え込むふたり。
「次に考えられるのは、…私も人のことは言えないんですけど、敢えて言います、すみません。蘇芳さん、太りすぎです」
「…太りすぎと、勃起しないのは関係するのですか?」
驚いたような顔の蘇芳さん。良かった、怒らなくて。
「…そういう記事を読んだことがあります」
そう言うと、蘇芳さんは「ソフィアさん、それは言葉にすると、『肥満と勃起不全の関係性』ということで間違いないですか」と言った。
…まあ、言葉にすればそういうことかな?
コクリ、と頷いてみせると、蘇芳さんは「撫子、ソフィアさんと待ってて」と言ってドアから出ていってしまった。
後に残された撫子さんをそっと見ると、少し顔色が良くなっていた。
「お姉さま、ありがとうございます」
「…え?」
「私、…このまま、蘇芳様の言う通り、離縁しなくちゃいけないのかって…思い詰めてて…こんなに好きになってしまったのに、蘇芳様を諦めなくてはいけないのかと絶望しかなくて…っ」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、私を見て「ありがとうございます」と泣き笑いの表情になった。
「…撫子さんは、本当に蘇芳さんが好きなんですね」
「はい。…蘇芳様は、先ほどご自分でデブだしブサイクだし、なんて言ってましたけど…確かに、少しふくよかではありますけど、抱きしめるととっても気持ちよくて安心できますし、お顔も可愛らしいし…。お姉さまは、蘇芳様のご兄弟にお会いになりましたか?」
首を横に振ってみせると、
「私は、拝田家4人兄弟の3番目の…上総様に嫁ぐ予定だったのです」
「…お聞きしました。ひどいことを言われたと」
「ええ。上総様に言葉を投げつけられる前に、私は…顔合わせの場で蘇芳様しか目に入らなくて…なんて優しそうな、誠実そうな方なんだろうと。だから、陛下に上総様が私の相手だと言われた時、とてもガッカリしまして…お姉さまは、私がトゥランクメント族だということは知っていますか?」
「はい、それも聞きました」
撫子さんはそっと目を伏せると、「実は、トゥランクメント族は、目の前の人間の本性がわかってしまう一族なのです」と言った。
人間の本性がわかってしまう…?
「この国に日本人を召還したのはトゥランクメント族…それは魔術を使えるから、というのが表向きの理由ですが…300年前、日本人が召還されたころは、他の部族も魔術を使えたのです。そのなかでトゥランクメント族が召還の儀の立ち会いとして選ばれたのは、召還された人間に悪意があるか否かを見極めるためだったと言われています」
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