42 / 161
拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
2
しおりを挟む
私は医者ではないから専門的な知識があるとは言えないけど、
「勃起しないのは、いくつか理由が考えられますよね」
その言葉を聞いて、ふたりがようやく口づけをやめてくれた。目の前で他人の口づけを見たのなんて初めて…ディープじゃなかったのがせめてもの救い、と思うしかない。
「あの、お姉さまは、その理由をご存知なのですか?」
撫子さんは真っ赤な瞳のまま私を見た。
「…私は、専門家ではないので、あっているかどうかはわかりませんし、責任は持てません。私、前世、と言っていいのかわからないけど、この世界にくるまえはドラッグストアの店員だったんです。いろいろ、本を読んだり調べたりするのが好きで…」
あとは、BLで、「なぜか勃たなくなった…!」みたいな内容もあったりしたからね。公言できないけど。
「可能性の話でも構いません、教えてください!」
蘇芳さんの目がマジすぎてちょっと怖い。でもそこまで…撫子さんのことが本当は大好きなのに、自分が悪いからって身を引こうとするくらいに思い詰めてたんだもんね。
「まずひとつは、…仕事のしすぎによるストレスです」
「…仕事のしすぎ、ですか?」
ポカンとした顔になる蘇芳さんに、「先ほど皇帝陛下にお聞きしましたが」と続ける。
「蘇芳さんも撫子さんも、一生懸命でありがたいけど無理をしすぎる傾向があると仰ってました。仕事の内容もデスクワークが中心ですよね?カラダは動かさず体力は低下、しかも頭だけは冴えている。これではリラックスできないし、…エッチしたいってムラムラしないんじゃないですか」
蘇芳さんは考え込むような顔つきになった。
「…確かに、なんだか疲れすぎていて、撫子を抱きたい気持ちはあるものの、睡眠をとりたい気持ちのほうが勝っていたかもしれません」
「私もです、お姉さま。明日の仕事のために寝坊もしたくないし早く眠らなくては、と」
「おふたりとも、スキンシップはとってるみたいですけどそれもまだまだ足りないんじゃないですかねぇ。イチャイチャする時間がないと、お互いにムラムラもしないと思いますよ」
確かに、と考え込むふたり。
「次に考えられるのは、…私も人のことは言えないんですけど、敢えて言います、すみません。蘇芳さん、太りすぎです」
「…太りすぎと、勃起しないのは関係するのですか?」
驚いたような顔の蘇芳さん。良かった、怒らなくて。
「…そういう記事を読んだことがあります」
そう言うと、蘇芳さんは「ソフィアさん、それは言葉にすると、『肥満と勃起不全の関係性』ということで間違いないですか」と言った。
…まあ、言葉にすればそういうことかな?
コクリ、と頷いてみせると、蘇芳さんは「撫子、ソフィアさんと待ってて」と言ってドアから出ていってしまった。
後に残された撫子さんをそっと見ると、少し顔色が良くなっていた。
「お姉さま、ありがとうございます」
「…え?」
「私、…このまま、蘇芳様の言う通り、離縁しなくちゃいけないのかって…思い詰めてて…こんなに好きになってしまったのに、蘇芳様を諦めなくてはいけないのかと絶望しかなくて…っ」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、私を見て「ありがとうございます」と泣き笑いの表情になった。
「…撫子さんは、本当に蘇芳さんが好きなんですね」
「はい。…蘇芳様は、先ほどご自分でデブだしブサイクだし、なんて言ってましたけど…確かに、少しふくよかではありますけど、抱きしめるととっても気持ちよくて安心できますし、お顔も可愛らしいし…。お姉さまは、蘇芳様のご兄弟にお会いになりましたか?」
首を横に振ってみせると、
「私は、拝田家4人兄弟の3番目の…上総様に嫁ぐ予定だったのです」
「…お聞きしました。ひどいことを言われたと」
「ええ。上総様に言葉を投げつけられる前に、私は…顔合わせの場で蘇芳様しか目に入らなくて…なんて優しそうな、誠実そうな方なんだろうと。だから、陛下に上総様が私の相手だと言われた時、とてもガッカリしまして…お姉さまは、私がトゥランクメント族だということは知っていますか?」
「はい、それも聞きました」
撫子さんはそっと目を伏せると、「実は、トゥランクメント族は、目の前の人間の本性がわかってしまう一族なのです」と言った。
人間の本性がわかってしまう…?
「この国に日本人を召還したのはトゥランクメント族…それは魔術を使えるから、というのが表向きの理由ですが…300年前、日本人が召還されたころは、他の部族も魔術を使えたのです。そのなかでトゥランクメント族が召還の儀の立ち会いとして選ばれたのは、召還された人間に悪意があるか否かを見極めるためだったと言われています」
「勃起しないのは、いくつか理由が考えられますよね」
その言葉を聞いて、ふたりがようやく口づけをやめてくれた。目の前で他人の口づけを見たのなんて初めて…ディープじゃなかったのがせめてもの救い、と思うしかない。
「あの、お姉さまは、その理由をご存知なのですか?」
撫子さんは真っ赤な瞳のまま私を見た。
「…私は、専門家ではないので、あっているかどうかはわかりませんし、責任は持てません。私、前世、と言っていいのかわからないけど、この世界にくるまえはドラッグストアの店員だったんです。いろいろ、本を読んだり調べたりするのが好きで…」
あとは、BLで、「なぜか勃たなくなった…!」みたいな内容もあったりしたからね。公言できないけど。
「可能性の話でも構いません、教えてください!」
蘇芳さんの目がマジすぎてちょっと怖い。でもそこまで…撫子さんのことが本当は大好きなのに、自分が悪いからって身を引こうとするくらいに思い詰めてたんだもんね。
「まずひとつは、…仕事のしすぎによるストレスです」
「…仕事のしすぎ、ですか?」
ポカンとした顔になる蘇芳さんに、「先ほど皇帝陛下にお聞きしましたが」と続ける。
「蘇芳さんも撫子さんも、一生懸命でありがたいけど無理をしすぎる傾向があると仰ってました。仕事の内容もデスクワークが中心ですよね?カラダは動かさず体力は低下、しかも頭だけは冴えている。これではリラックスできないし、…エッチしたいってムラムラしないんじゃないですか」
蘇芳さんは考え込むような顔つきになった。
「…確かに、なんだか疲れすぎていて、撫子を抱きたい気持ちはあるものの、睡眠をとりたい気持ちのほうが勝っていたかもしれません」
「私もです、お姉さま。明日の仕事のために寝坊もしたくないし早く眠らなくては、と」
「おふたりとも、スキンシップはとってるみたいですけどそれもまだまだ足りないんじゃないですかねぇ。イチャイチャする時間がないと、お互いにムラムラもしないと思いますよ」
確かに、と考え込むふたり。
「次に考えられるのは、…私も人のことは言えないんですけど、敢えて言います、すみません。蘇芳さん、太りすぎです」
「…太りすぎと、勃起しないのは関係するのですか?」
驚いたような顔の蘇芳さん。良かった、怒らなくて。
「…そういう記事を読んだことがあります」
そう言うと、蘇芳さんは「ソフィアさん、それは言葉にすると、『肥満と勃起不全の関係性』ということで間違いないですか」と言った。
…まあ、言葉にすればそういうことかな?
コクリ、と頷いてみせると、蘇芳さんは「撫子、ソフィアさんと待ってて」と言ってドアから出ていってしまった。
後に残された撫子さんをそっと見ると、少し顔色が良くなっていた。
「お姉さま、ありがとうございます」
「…え?」
「私、…このまま、蘇芳様の言う通り、離縁しなくちゃいけないのかって…思い詰めてて…こんなに好きになってしまったのに、蘇芳様を諦めなくてはいけないのかと絶望しかなくて…っ」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、私を見て「ありがとうございます」と泣き笑いの表情になった。
「…撫子さんは、本当に蘇芳さんが好きなんですね」
「はい。…蘇芳様は、先ほどご自分でデブだしブサイクだし、なんて言ってましたけど…確かに、少しふくよかではありますけど、抱きしめるととっても気持ちよくて安心できますし、お顔も可愛らしいし…。お姉さまは、蘇芳様のご兄弟にお会いになりましたか?」
首を横に振ってみせると、
「私は、拝田家4人兄弟の3番目の…上総様に嫁ぐ予定だったのです」
「…お聞きしました。ひどいことを言われたと」
「ええ。上総様に言葉を投げつけられる前に、私は…顔合わせの場で蘇芳様しか目に入らなくて…なんて優しそうな、誠実そうな方なんだろうと。だから、陛下に上総様が私の相手だと言われた時、とてもガッカリしまして…お姉さまは、私がトゥランクメント族だということは知っていますか?」
「はい、それも聞きました」
撫子さんはそっと目を伏せると、「実は、トゥランクメント族は、目の前の人間の本性がわかってしまう一族なのです」と言った。
人間の本性がわかってしまう…?
「この国に日本人を召還したのはトゥランクメント族…それは魔術を使えるから、というのが表向きの理由ですが…300年前、日本人が召還されたころは、他の部族も魔術を使えたのです。そのなかでトゥランクメント族が召還の儀の立ち会いとして選ばれたのは、召還された人間に悪意があるか否かを見極めるためだったと言われています」
38
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる