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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
蘇芳、撫子の事情1
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蘇芳さんにソファを勧められ、おとなしく座る。向かいに座った蘇芳さんは隣に撫子さんを抱き寄せ、頭を撫でていた。…こんな状態で、なんで離縁したいなんて。あからさまに妻を大事にしてる夫でしかないじゃない。
私がじっと見ているのに気付いた蘇芳さんは、ヘニャリと眉を下げて笑った。
「すみません、ソフィアさん。…撫子、落ち着いた?大丈夫?何かお茶を淹れてこようか、ね?撫子の好きなハイビスカスのお茶はどうかな」
優しい。妻に愛情しか感じられない。いったい何がどうなると離縁に?
「蘇芳様、大丈夫です。私が淹れてきます。お姉さま、ちょっとお待ちくださいね」
真っ赤な瞳で恥ずかしそうにしながら撫子さんは出ていった。
「あの…」
「はい」
「今日会ったばかりで不躾なんですけど、すごく仲良し夫婦にしか見えないんですけど、蘇芳さんからは撫子さんを好きだという気持ちしか伝わってこないんですけど、なんで離縁なんて言い出したんですか!?説明してください!納得できない、あんなの見せつけられて!」
そうよ!私なんて、あんなふうに裕さんにしてもらったことないよ!なんて羨ましい…!しかも、会った次の日には結婚したっていう、文字通り政略結婚だったのにふたりの絆をきちんと深めてるじゃない!何が不満なのよ!
声に出さない私の呪詛めいた気持ちを感じとったのか、蘇芳さんは引きつった笑顔になった。ほんと、しょーもない理由だったら勉強して呪い殺してやる!やさぐれ女の怨念を甘く見るなよ。
「実は、その…」
蘇芳さんが口を開いた時、撫子さんが戻ってきたためにまた口をつぐむ。しばし沈黙のなか、撫子さんが準備する茶器のカチャカチャという音だけが響く。
撫子さんがソファに座ると、蘇芳さんがすかさず腰を引いて撫子さんを自分に抱き寄せる。…殴っていいかな。ほんとに呪い殺してもいいかな。離縁したいって言いながらなんじゃその行動は!
「ソフィアさん。撫子も、聞いて。あの、実は僕は、…不能なんです」
「不能…?」
不能、って、あの、
「つまり、勃起しないってことですか?」
「ソフィアさん!言い方!言葉選んでください!直接すぎ!」
慌てて見ると撫子さんは真っ赤になりながら「ぼ、勃起…?」と小さい声で呟き、そのあと今度は真っ青になった。
「蘇芳様、…蘇芳様は、私には欲情できないということなんですね。だから離縁したいと…」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、「蘇芳様、申し訳ありませんでした」と顔を覆い声をあげて泣き出した。
「ち、違う!撫子、違うんだよ!聞いて、僕の話を聞いて!」
蘇芳さんはギュウッと撫子さんを抱きしめ、顔を自分に向けさせた、そして、…口づけた。…呪い殺してもいいよね?何見せつけられてるの、私?
「蘇芳様、…んっ」
撫子さんは必死に抵抗しているが蘇芳さんはまったく離す気配がない。もう我慢ならん。私は目の前のテーブルに両拳を叩きつけた。
ビクッとカラダを震わせ離れる蘇芳さんと撫子さん。
「あの。そういうのは後でふたりきりでやってくれますか。とりあえず、話の続きをお願いします」
ギロリと蘇芳さんを睨み付けてやる。離縁したい、は、どこから出てきたんだよ!なんじゃ、その愛情まみれのキスは!
「す、すみません、つい、…ええと。あのね、撫子。僕、はね。結婚したとは言え、戸籍上夫婦になったとは言え、すぐにキミのカラダを暴くつもりはなくて、…僕はこんな、…その、デブだし。ブサイクだし。だから、少しでも、僕を好きになってくれてから、と思って、撫子を抱くのは我慢してたの。でも、1ヶ月過ぎたころ、撫子がキスしてくれて、僕、嬉しくて…それからは、なんか、許された気がして、手を繋いだり、抱きしめたり、その、…一緒に寝てみたりしてみたんだけど。少しずつ、距離を縮められたら、って」
だけど、と悲しそうな顔になった蘇芳さん。
「…撫子が求めてくれてる、って思って、撫子を抱きたい、って、思って、でも、…勃たなくて…医師にこっそりかかったんだけど、相手が魅力的じゃないからです、相手を変えたら勃起しますよ、なんていい加減なこと言われてそれ以上相談できなくて…」
「蘇芳様、やっぱり、私が太ってるから…魅力がないから、」
「撫子!自分のこと、そんなふうに言うのはやめて!何度も言ってるでしょ?僕は撫子だけが好き。誰が何て言おうと、僕にとって撫子は魅力的だよ。抱きたいんだよ、本当に!でも、カラダが、反応してくれなくて…」
そう言うと蘇芳さんも泣き出した。
「ごめん、撫子。僕が不甲斐ないばかりに。キミを抱くこともできなくて、子どもを作ることもできない。こんな男にいつまでも捕まってたら撫子が幸せになれない…っ!…だから、離縁して欲しいんだ。撫子を、カラダも心も愛して、幸せにしてくれる男と…っ」
「蘇芳様!」
今度は撫子さんが蘇芳さんの頬に手をそっと添えて口づけた。…私、お邪魔虫でしかないよね、これ。
私がじっと見ているのに気付いた蘇芳さんは、ヘニャリと眉を下げて笑った。
「すみません、ソフィアさん。…撫子、落ち着いた?大丈夫?何かお茶を淹れてこようか、ね?撫子の好きなハイビスカスのお茶はどうかな」
優しい。妻に愛情しか感じられない。いったい何がどうなると離縁に?
「蘇芳様、大丈夫です。私が淹れてきます。お姉さま、ちょっとお待ちくださいね」
真っ赤な瞳で恥ずかしそうにしながら撫子さんは出ていった。
「あの…」
「はい」
「今日会ったばかりで不躾なんですけど、すごく仲良し夫婦にしか見えないんですけど、蘇芳さんからは撫子さんを好きだという気持ちしか伝わってこないんですけど、なんで離縁なんて言い出したんですか!?説明してください!納得できない、あんなの見せつけられて!」
そうよ!私なんて、あんなふうに裕さんにしてもらったことないよ!なんて羨ましい…!しかも、会った次の日には結婚したっていう、文字通り政略結婚だったのにふたりの絆をきちんと深めてるじゃない!何が不満なのよ!
声に出さない私の呪詛めいた気持ちを感じとったのか、蘇芳さんは引きつった笑顔になった。ほんと、しょーもない理由だったら勉強して呪い殺してやる!やさぐれ女の怨念を甘く見るなよ。
「実は、その…」
蘇芳さんが口を開いた時、撫子さんが戻ってきたためにまた口をつぐむ。しばし沈黙のなか、撫子さんが準備する茶器のカチャカチャという音だけが響く。
撫子さんがソファに座ると、蘇芳さんがすかさず腰を引いて撫子さんを自分に抱き寄せる。…殴っていいかな。ほんとに呪い殺してもいいかな。離縁したいって言いながらなんじゃその行動は!
「ソフィアさん。撫子も、聞いて。あの、実は僕は、…不能なんです」
「不能…?」
不能、って、あの、
「つまり、勃起しないってことですか?」
「ソフィアさん!言い方!言葉選んでください!直接すぎ!」
慌てて見ると撫子さんは真っ赤になりながら「ぼ、勃起…?」と小さい声で呟き、そのあと今度は真っ青になった。
「蘇芳様、…蘇芳様は、私には欲情できないということなんですね。だから離縁したいと…」
またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、「蘇芳様、申し訳ありませんでした」と顔を覆い声をあげて泣き出した。
「ち、違う!撫子、違うんだよ!聞いて、僕の話を聞いて!」
蘇芳さんはギュウッと撫子さんを抱きしめ、顔を自分に向けさせた、そして、…口づけた。…呪い殺してもいいよね?何見せつけられてるの、私?
「蘇芳様、…んっ」
撫子さんは必死に抵抗しているが蘇芳さんはまったく離す気配がない。もう我慢ならん。私は目の前のテーブルに両拳を叩きつけた。
ビクッとカラダを震わせ離れる蘇芳さんと撫子さん。
「あの。そういうのは後でふたりきりでやってくれますか。とりあえず、話の続きをお願いします」
ギロリと蘇芳さんを睨み付けてやる。離縁したい、は、どこから出てきたんだよ!なんじゃ、その愛情まみれのキスは!
「す、すみません、つい、…ええと。あのね、撫子。僕、はね。結婚したとは言え、戸籍上夫婦になったとは言え、すぐにキミのカラダを暴くつもりはなくて、…僕はこんな、…その、デブだし。ブサイクだし。だから、少しでも、僕を好きになってくれてから、と思って、撫子を抱くのは我慢してたの。でも、1ヶ月過ぎたころ、撫子がキスしてくれて、僕、嬉しくて…それからは、なんか、許された気がして、手を繋いだり、抱きしめたり、その、…一緒に寝てみたりしてみたんだけど。少しずつ、距離を縮められたら、って」
だけど、と悲しそうな顔になった蘇芳さん。
「…撫子が求めてくれてる、って思って、撫子を抱きたい、って、思って、でも、…勃たなくて…医師にこっそりかかったんだけど、相手が魅力的じゃないからです、相手を変えたら勃起しますよ、なんていい加減なこと言われてそれ以上相談できなくて…」
「蘇芳様、やっぱり、私が太ってるから…魅力がないから、」
「撫子!自分のこと、そんなふうに言うのはやめて!何度も言ってるでしょ?僕は撫子だけが好き。誰が何て言おうと、僕にとって撫子は魅力的だよ。抱きたいんだよ、本当に!でも、カラダが、反応してくれなくて…」
そう言うと蘇芳さんも泣き出した。
「ごめん、撫子。僕が不甲斐ないばかりに。キミを抱くこともできなくて、子どもを作ることもできない。こんな男にいつまでも捕まってたら撫子が幸せになれない…っ!…だから、離縁して欲しいんだ。撫子を、カラダも心も愛して、幸せにしてくれる男と…っ」
「蘇芳様!」
今度は撫子さんが蘇芳さんの頬に手をそっと添えて口づけた。…私、お邪魔虫でしかないよね、これ。
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