お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
41 / 161
拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)

蘇芳、撫子の事情1

しおりを挟む
蘇芳さんにソファを勧められ、おとなしく座る。向かいに座った蘇芳さんは隣に撫子さんを抱き寄せ、頭を撫でていた。…こんな状態で、なんで離縁したいなんて。あからさまに妻を大事にしてる夫でしかないじゃない。

私がじっと見ているのに気付いた蘇芳さんは、ヘニャリと眉を下げて笑った。

「すみません、ソフィアさん。…撫子、落ち着いた?大丈夫?何かお茶を淹れてこようか、ね?撫子の好きなハイビスカスのお茶はどうかな」

優しい。妻に愛情しか感じられない。いったい何がどうなると離縁に?

「蘇芳様、大丈夫です。私が淹れてきます。お姉さま、ちょっとお待ちくださいね」

真っ赤な瞳で恥ずかしそうにしながら撫子さんは出ていった。

「あの…」

「はい」

「今日会ったばかりで不躾なんですけど、すごく仲良し夫婦にしか見えないんですけど、蘇芳さんからは撫子さんを好きだという気持ちしか伝わってこないんですけど、なんで離縁なんて言い出したんですか!?説明してください!納得できない、あんなの見せつけられて!」

そうよ!私なんて、あんなふうに裕さんにしてもらったことないよ!なんて羨ましい…!しかも、会った次の日には結婚したっていう、文字通り政略結婚だったのにふたりの絆をきちんと深めてるじゃない!何が不満なのよ!

声に出さない私の呪詛めいた気持ちを感じとったのか、蘇芳さんは引きつった笑顔になった。ほんと、しょーもない理由だったら勉強して呪い殺してやる!やさぐれ女の怨念を甘く見るなよ。

「実は、その…」

蘇芳さんが口を開いた時、撫子さんが戻ってきたためにまた口をつぐむ。しばし沈黙のなか、撫子さんが準備する茶器のカチャカチャという音だけが響く。

撫子さんがソファに座ると、蘇芳さんがすかさず腰を引いて撫子さんを自分に抱き寄せる。…殴っていいかな。ほんとに呪い殺してもいいかな。離縁したいって言いながらなんじゃその行動は!

「ソフィアさん。撫子も、聞いて。あの、実は僕は、…不能なんです」

「不能…?」

不能、って、あの、

「つまり、勃起しないってことですか?」

「ソフィアさん!言い方!言葉選んでください!直接すぎ!」

慌てて見ると撫子さんは真っ赤になりながら「ぼ、勃起…?」と小さい声で呟き、そのあと今度は真っ青になった。

「蘇芳様、…蘇芳様は、私には欲情できないということなんですね。だから離縁したいと…」

またボロボロ涙をこぼしはじめた撫子さんは、「蘇芳様、申し訳ありませんでした」と顔を覆い声をあげて泣き出した。

「ち、違う!撫子、違うんだよ!聞いて、僕の話を聞いて!」

蘇芳さんはギュウッと撫子さんを抱きしめ、顔を自分に向けさせた、そして、…口づけた。…呪い殺してもいいよね?何見せつけられてるの、私?

「蘇芳様、…んっ」

撫子さんは必死に抵抗しているが蘇芳さんはまったく離す気配がない。もう我慢ならん。私は目の前のテーブルに両拳を叩きつけた。

ビクッとカラダを震わせ離れる蘇芳さんと撫子さん。

「あの。そういうのは後でふたりきりでやってくれますか。とりあえず、話の続きをお願いします」

ギロリと蘇芳さんを睨み付けてやる。離縁したい、は、どこから出てきたんだよ!なんじゃ、その愛情まみれのキスは!

「す、すみません、つい、…ええと。あのね、撫子。僕、はね。結婚したとは言え、戸籍上夫婦になったとは言え、すぐにキミのカラダを暴くつもりはなくて、…僕はこんな、…その、デブだし。ブサイクだし。だから、少しでも、僕を好きになってくれてから、と思って、撫子を抱くのは我慢してたの。でも、1ヶ月過ぎたころ、撫子がキスしてくれて、僕、嬉しくて…それからは、なんか、許された気がして、手を繋いだり、抱きしめたり、その、…一緒に寝てみたりしてみたんだけど。少しずつ、距離を縮められたら、って」

だけど、と悲しそうな顔になった蘇芳さん。

「…撫子が求めてくれてる、って思って、撫子を抱きたい、って、思って、でも、…勃たなくて…医師にこっそりかかったんだけど、相手が魅力的じゃないからです、相手を変えたら勃起しますよ、なんていい加減なこと言われてそれ以上相談できなくて…」

「蘇芳様、やっぱり、私が太ってるから…魅力がないから、」

「撫子!自分のこと、そんなふうに言うのはやめて!何度も言ってるでしょ?僕は撫子だけが好き。誰が何て言おうと、僕にとって撫子は魅力的だよ。抱きたいんだよ、本当に!でも、カラダが、反応してくれなくて…」

そう言うと蘇芳さんも泣き出した。

「ごめん、撫子。僕が不甲斐ないばかりに。キミを抱くこともできなくて、子どもを作ることもできない。こんな男にいつまでも捕まってたら撫子が幸せになれない…っ!…だから、離縁して欲しいんだ。撫子を、カラダも心も愛して、幸せにしてくれる男と…っ」

「蘇芳様!」

今度は撫子さんが蘇芳さんの頬に手をそっと添えて口づけた。…私、お邪魔虫でしかないよね、これ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...