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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
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「そんなわけで、とりあえず三男夫婦は無視していただいて構いません。食事の時にしか顔を合わせないので。もちろんわたくしの遺伝子上の母親である腐れババアも無視してください。まあ、ババアに関しては声を出すことができないですし、他に気を使う余裕はないので。死なないギリギリまで毎日追い詰められてますからね」
…またなんか、怖い情報が出てきたような。怖いけど、気になるから聞いてみることにする。
「声を出せないとは、」
「嘘つきだから声帯をつぶしてやったの。喚くしか能がないし、ちょうどいいかなって」
ちょうどいい…ちょうどいいって…。
もう、思考がついていけない。仕方がないので、放置することにした。理解が追い付かないことをどうにかしようとしても無駄だし、この闇に足を踏み入れたくない。
「とりあえず、…ご長男夫婦と話をさせていただきます」
「そうだね、よろしくね、ソフィアさん。申し訳ないけど英樹が言ったように離縁を阻止できるまではソルマーレに帰せないから…その代わり、こちらでできることはなんでもするよ。遠慮しないでなんでも言ってね」
「わかりました」
考えてみれば、チンピラは私に「3年後の期限まで帰ってくれば、いつまでいても構わない」と言っていた。せっかくだし、ソルマーレの国益になるような何かを手に入れられるようにがんばろう。
「ではソフィアさん、蘇芳たちのところに参りましょう」
皇帝陛下の部屋を出て、また英樹さんに付いていく。
「私の息子たちは、2階と3階をそれぞれ東と西にわけて暮らしています。蘇芳は3階の東側です。同じ階の西側は四男の朝霧夫婦が住んでいます。ソフィアさんには東側のゲストルームを準備しましたので、何か足りないものがあればおっしゃってください。わたくしたち夫婦と陛下は4階におります。何か質問はありますか?」
「ええと、…食事の時間は決まっているのですか?」
「はい。朝は7時、夜も7時です。昼は個別に取りますがなるべくソフィアさんをひとりにしたくないので、わたくしの妻と一緒にしてもらえますか?どこであのバカ…失礼、あの三男夫婦がちょっかいをかけてくるかわかりませんので。護衛をつけても、皇族風を吹かされるとなかなか対処が難しいでしょうから。わたくしからは厳しく伝えますが、何かありましたら必ず教えてくださいね。これは義務だと思ってください。ソルマーレで貴女を待っている方々に安心してもらうためにも。
あ、そうだ、ソフィアさん。国王陛下と王妃陛下から、一週間に一度手紙を寄越すよう伝えてくれと言われました」
「手紙、ですか?」
「はい。どんなふうに過ごしているか知りたいそうです。先ほどお話した内容はもうあちらにも伝えてありますし、ソフィアさんの近況を知らせるようにしてください」
「…わかりました」
「毎週、月曜日にこちらから船を出します。水曜日にはあちらから戻ってきますので。大丈夫でしょうか」
「はい」
一週間に一度は、なかなか大変だけど…まあ、長々書く必要もないし、一応国のお金で来させてもらってるんだから報告は義務だよね。
そんなことを話ながら、3階にたどり着いた。そのまま進み、一番奥の部屋を英樹さんがノックする。
「蘇芳、ソフィアさんを連れてきた。入るよ」
中に入ると、大変大柄な男性が立ち上がるところだった。一言で言うならばお相撲さんのような体型である。短く揃えた黒髪に、黒い瞳。眼鏡の奥のその瞳は、とても優しそうだった。
「はじめましてソフィアさん、ようこそいらっしゃいました。お疲れではないですか?僕は、州知事の長男の拝田蘇芳です。…撫子」
蘇芳さんが声をかけると、奥のドアから女性が出てきた。私と同じくらいの体型だ。緑色の髪の毛は肩のあたりで切り揃えられている。こちらも穏やかそうな、優しい感じの女性だ。
「ソフィアさんですね。私は、蘇芳の妻の撫子と申します。どうぞ仲良くしてください。あの、」
「はい?」
「…ソフィアお姉さまとお呼びしても?」
…お姉さま?
「あの、…私は撫子さんより年が下で、」
「でも、実際は、というか、中身は40歳とお聞きしていますし、…あの、お姉さま。私を助けてください。私は、」
そういうと撫子さんはくしゃりと顔を歪め、ボロボロと泣き出してしまった。
「撫子さん!?」
「撫子!?」
蘇芳さんもかなり慌てた様子で撫子さんに近づき、そっと背中に手を当てさすってあげている。もう片方の手にはハンカチが握られていた。
「撫子、泣かないで」
「…お姉さま、私は、蘇芳様と離縁したくないのです。蘇芳様は、私に離縁したい理由を教えてくださらない。…私が、太っているからですか?だから、やっぱり紫陽さんのほうが良かったと思って、…朱雀州知事に本当はなれたのに、私を庇ったりしたから、だから、イヤになったのですか、」
ボロボロ涙をこぼす撫子さんを「そんなことない!」と蘇芳さんは宥めているけど…と見ていたら、パタン、とドアの閉まる音がした。振り向くと、英樹さんがいない。…ひどい。この空間に置き去りとか。
しかし蘇芳さんは、ホッとしたように私を見た。
「父は、気を利かせてくれたようです。聞かれたくないと伝えていたので…撫子、泣かないで。きちんと、話をするから。ソフィアさん、着いて早々で申し訳ないのですが、聞いていただけますか」
泣いている撫子さんにもじっと見つめられ、断れるような雰囲気ではない。私はそっとため息をつき、蘇芳さんに頷いてみせた。修羅場とか…立ち会った経験ないんだけどなぁ…。
…またなんか、怖い情報が出てきたような。怖いけど、気になるから聞いてみることにする。
「声を出せないとは、」
「嘘つきだから声帯をつぶしてやったの。喚くしか能がないし、ちょうどいいかなって」
ちょうどいい…ちょうどいいって…。
もう、思考がついていけない。仕方がないので、放置することにした。理解が追い付かないことをどうにかしようとしても無駄だし、この闇に足を踏み入れたくない。
「とりあえず、…ご長男夫婦と話をさせていただきます」
「そうだね、よろしくね、ソフィアさん。申し訳ないけど英樹が言ったように離縁を阻止できるまではソルマーレに帰せないから…その代わり、こちらでできることはなんでもするよ。遠慮しないでなんでも言ってね」
「わかりました」
考えてみれば、チンピラは私に「3年後の期限まで帰ってくれば、いつまでいても構わない」と言っていた。せっかくだし、ソルマーレの国益になるような何かを手に入れられるようにがんばろう。
「ではソフィアさん、蘇芳たちのところに参りましょう」
皇帝陛下の部屋を出て、また英樹さんに付いていく。
「私の息子たちは、2階と3階をそれぞれ東と西にわけて暮らしています。蘇芳は3階の東側です。同じ階の西側は四男の朝霧夫婦が住んでいます。ソフィアさんには東側のゲストルームを準備しましたので、何か足りないものがあればおっしゃってください。わたくしたち夫婦と陛下は4階におります。何か質問はありますか?」
「ええと、…食事の時間は決まっているのですか?」
「はい。朝は7時、夜も7時です。昼は個別に取りますがなるべくソフィアさんをひとりにしたくないので、わたくしの妻と一緒にしてもらえますか?どこであのバカ…失礼、あの三男夫婦がちょっかいをかけてくるかわかりませんので。護衛をつけても、皇族風を吹かされるとなかなか対処が難しいでしょうから。わたくしからは厳しく伝えますが、何かありましたら必ず教えてくださいね。これは義務だと思ってください。ソルマーレで貴女を待っている方々に安心してもらうためにも。
あ、そうだ、ソフィアさん。国王陛下と王妃陛下から、一週間に一度手紙を寄越すよう伝えてくれと言われました」
「手紙、ですか?」
「はい。どんなふうに過ごしているか知りたいそうです。先ほどお話した内容はもうあちらにも伝えてありますし、ソフィアさんの近況を知らせるようにしてください」
「…わかりました」
「毎週、月曜日にこちらから船を出します。水曜日にはあちらから戻ってきますので。大丈夫でしょうか」
「はい」
一週間に一度は、なかなか大変だけど…まあ、長々書く必要もないし、一応国のお金で来させてもらってるんだから報告は義務だよね。
そんなことを話ながら、3階にたどり着いた。そのまま進み、一番奥の部屋を英樹さんがノックする。
「蘇芳、ソフィアさんを連れてきた。入るよ」
中に入ると、大変大柄な男性が立ち上がるところだった。一言で言うならばお相撲さんのような体型である。短く揃えた黒髪に、黒い瞳。眼鏡の奥のその瞳は、とても優しそうだった。
「はじめましてソフィアさん、ようこそいらっしゃいました。お疲れではないですか?僕は、州知事の長男の拝田蘇芳です。…撫子」
蘇芳さんが声をかけると、奥のドアから女性が出てきた。私と同じくらいの体型だ。緑色の髪の毛は肩のあたりで切り揃えられている。こちらも穏やかそうな、優しい感じの女性だ。
「ソフィアさんですね。私は、蘇芳の妻の撫子と申します。どうぞ仲良くしてください。あの、」
「はい?」
「…ソフィアお姉さまとお呼びしても?」
…お姉さま?
「あの、…私は撫子さんより年が下で、」
「でも、実際は、というか、中身は40歳とお聞きしていますし、…あの、お姉さま。私を助けてください。私は、」
そういうと撫子さんはくしゃりと顔を歪め、ボロボロと泣き出してしまった。
「撫子さん!?」
「撫子!?」
蘇芳さんもかなり慌てた様子で撫子さんに近づき、そっと背中に手を当てさすってあげている。もう片方の手にはハンカチが握られていた。
「撫子、泣かないで」
「…お姉さま、私は、蘇芳様と離縁したくないのです。蘇芳様は、私に離縁したい理由を教えてくださらない。…私が、太っているからですか?だから、やっぱり紫陽さんのほうが良かったと思って、…朱雀州知事に本当はなれたのに、私を庇ったりしたから、だから、イヤになったのですか、」
ボロボロ涙をこぼす撫子さんを「そんなことない!」と蘇芳さんは宥めているけど…と見ていたら、パタン、とドアの閉まる音がした。振り向くと、英樹さんがいない。…ひどい。この空間に置き去りとか。
しかし蘇芳さんは、ホッとしたように私を見た。
「父は、気を利かせてくれたようです。聞かれたくないと伝えていたので…撫子、泣かないで。きちんと、話をするから。ソフィアさん、着いて早々で申し訳ないのですが、聞いていただけますか」
泣いている撫子さんにもじっと見つめられ、断れるような雰囲気ではない。私はそっとため息をつき、蘇芳さんに頷いてみせた。修羅場とか…立ち会った経験ないんだけどなぁ…。
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