お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
39 / 161
拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)

しおりを挟む
「水仙も、英樹たちが幼い頃はそんな感じではなかったんだけどねぇ。ある程度子育てが終わって時間ができたら実家に入り浸るようになってね。子どもを放ったまま、あちらの家でかなりお楽しみだったらしいよ。実の父親とね」

実の、…父親?

それは、まさか、

「いわゆる近親相姦だね。まさか自分の義父と妻が、そんな関係だとは…影から報告が上がってきた時は自分の耳を疑ったよ」

淡々と話す陛下の表情からは何も読み取ることができない。それ以上に、そんな皇室の恥みたいなこと、他国の今日会ったばかりの私に話したりしていいの!?なんだかもう、ズブズブ足を捕られて抜け出せないようにされているとしか思えない…ここまで聞いたんだから断るとかなしだよ、と。怖い。

「私と結婚する前からの関係らしくてね。そこまでは私の母も…前皇帝も見抜けなかったみたいだよ。かなりの曲者なんだ、あの家は。まぁバカみたいに証拠を残してくれたおかげで取り潰すことに成功したんだけどね。よほど私をバカだと思って油断していたんだろうねぇ」

冷ややかに嗤う皇帝陛下に恐怖しか感じない。あの人のよさそうなおじさまはどこへ…つい何分か前までいらっしゃったはずなのに…。

「ソフィアさん、わたくしは8人兄弟姉妹だと先ほど申し上げましたが…本当は9人だったんです。戸籍上。今は戸籍上も、現実にも、8人になりましたが」

「…どういうことですか?」

英樹さんは私をじっと見つめる。その瞳からは何の感情も読み取れない。

「私の母…母などと呼びたくもないが遺伝子上間違いなく母親なので…あいつは、わたくしたち8人がある程度手を離れると、実家に入り浸っていたと言いましたでしょう?その時に、自分の実の父親の子どもを身籠り、図々しくもこの世に産み落としたのです。年が離れているから、父が皇帝に決まった時に『DNA鑑定しちゃうもん』からは逃れられると思ったのでしょうね、その子どもは。州知事に就任できるような年齢ではないからと。浅はかですよね。全員、間違いなく鑑定する、と法律で定められているのに」

その子どもが、

「私の末の子どもとしていたのが、証拠になったんだよ。あいつは、鑑定前に暴れてねぇ。この子は知事になれるわけでもないのに鑑定の必要なんてない、なんて。自分が疚しいことをしたと暴露しているようなものだよね。鑑定で出てきたのは、あいつと、あいつの父親の名前。その時あいつは、なんて言ったと思う?」

考える間もなくすぐに陛下は口を開いた。答えなんて求めてないですよね、わかります。

「『わたくしは、父上に襲われた被害者なのです、あなた!憐れなわたくしにどうかご慈悲を…!まさか父上の子どもだなんて知らなかったのです!』と。我が身を守ることしか言わなかったんだよ。だから、その通り、犯罪者としてあいつの実家を取り潰すことにしたの。元凶の父親、あとは母親、兄弟も全部処刑。大々的に発表もしてやった。娘を襲う、厚顔無恥な鬼畜一家だとね。そして、末の子どもだと騙されたから、その子どもも可哀想だけど処刑したの。あいつの目の前で。おまえのせいであの幼子は死ぬんだ、って言ってやったんだけど、涙を流しもしなかったなぁ。自分が助かったからむしろ清々した、みたいな顔をしてたよ」

壮絶すぎて言葉も出ない。…あれ、

「では、一応奥様のことはお許しになったということですか?」

「うん、その時はね。犯された、なんて言葉が独り歩きしちゃってさ。被害者って立場になっちゃったから」

「だから、今でも食事をご一緒にされるのですね」

私だったら顔も見たくないけど。

そんなふうに思っていたら、陛下と英樹さんが顔を見合わせた。

「ああ、先ほど、みんなで食事をすると言ったからですね。ソフィアさん、あのババアはわたくしの最愛を傷つけたんです。だから、その罪を償ってもらってるんですよ」

「罪を、償う?」

「ええ。食事の時は必ず同席させるんです。一応、生きてるかどうか確認しなくてはならないので」

…どういうこと?

「食事の時間以外はね、地下牢に入れてるんですよ。朝食後から昼食までと、昼食後から夕食までは基本水の中ですが。顔が、ね」

今、なんて言った?顔が、

「顔が水の中、って?どういうことなんですか?」

「拷問官に、死なない程度で水攻めをさせているんです。彼らの貴重な時間をあんな死に損ないの腐れババアに費やさせているのは大変心苦しいのですが、早苗を傷つけられたことをわたくしは許すことができなくて」

まだまだ修行が足りません、とサラリという英樹さんに恐怖しか感じない。

「なぜ、あの、」

「なぜ処刑しないのか、って聞きたいのかな、ソフィアさん」

英樹さんではなく陛下が口を開く。ブンブンと首を縦に振ってみせる。だって、なんでそんな…!

「ただ死なせたらなんの償いにもならないじゃない。私は別に償いなんていらないよ、もう名目だけの妻だから。でもさ、あいつの保身のために幼い子どもまで死んだじゃない。英樹が大切にしてる早苗まで傷つけたじゃない。だから、そのぶんは返してもらわないとねぇ。とにかく苦しんでもらいたくてね。だから水攻めなの。見た目わからないでしょ、傷がつくわけでもないし」

…もう、帰りたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...