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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)
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「水仙も、英樹たちが幼い頃はそんな感じではなかったんだけどねぇ。ある程度子育てが終わって時間ができたら実家に入り浸るようになってね。子どもを放ったまま、あちらの家でかなりお楽しみだったらしいよ。実の父親とね」
実の、…父親?
それは、まさか、
「いわゆる近親相姦だね。まさか自分の義父と妻が、そんな関係だとは…影から報告が上がってきた時は自分の耳を疑ったよ」
淡々と話す陛下の表情からは何も読み取ることができない。それ以上に、そんな皇室の恥みたいなこと、他国の今日会ったばかりの私に話したりしていいの!?なんだかもう、ズブズブ足を捕られて抜け出せないようにされているとしか思えない…ここまで聞いたんだから断るとかなしだよ、と。怖い。
「私と結婚する前からの関係らしくてね。そこまでは私の母も…前皇帝も見抜けなかったみたいだよ。かなりの曲者なんだ、あの家は。まぁバカみたいに証拠を残してくれたおかげで取り潰すことに成功したんだけどね。よほど私をバカだと思って油断していたんだろうねぇ」
冷ややかに嗤う皇帝陛下に恐怖しか感じない。あの人のよさそうなおじさまはどこへ…つい何分か前までいらっしゃったはずなのに…。
「ソフィアさん、わたくしは8人兄弟姉妹だと先ほど申し上げましたが…本当は9人だったんです。戸籍上。今は戸籍上も、現実にも、8人になりましたが」
「…どういうことですか?」
英樹さんは私をじっと見つめる。その瞳からは何の感情も読み取れない。
「私の母…母などと呼びたくもないが遺伝子上間違いなく母親なので…あいつは、わたくしたち8人がある程度手を離れると、実家に入り浸っていたと言いましたでしょう?その時に、自分の実の父親の子どもを身籠り、図々しくもこの世に産み落としたのです。年が離れているから、父が皇帝に決まった時に『DNA鑑定しちゃうもん』からは逃れられると思ったのでしょうね、その子どもは。州知事に就任できるような年齢ではないからと。浅はかですよね。全員、間違いなく鑑定する、と法律で定められているのに」
その子どもが、
「私の末の子どもとしていたのが、証拠になったんだよ。あいつは、鑑定前に暴れてねぇ。この子は知事になれるわけでもないのに鑑定の必要なんてない、なんて。自分が疚しいことをしたと暴露しているようなものだよね。鑑定で出てきたのは、あいつと、あいつの父親の名前。その時あいつは、なんて言ったと思う?」
考える間もなくすぐに陛下は口を開いた。答えなんて求めてないですよね、わかります。
「『わたくしは、父上に襲われた被害者なのです、あなた!憐れなわたくしにどうかご慈悲を…!まさか父上の子どもだなんて知らなかったのです!』と。我が身を守ることしか言わなかったんだよ。だから、その通り、犯罪者としてあいつの実家を取り潰すことにしたの。元凶の父親、あとは母親、兄弟も全部処刑。大々的に発表もしてやった。娘を襲う、厚顔無恥な鬼畜一家だとね。そして、末の子どもだと騙されたから、その子どもも可哀想だけど処刑したの。あいつの目の前で。おまえのせいであの幼子は死ぬんだ、って言ってやったんだけど、涙を流しもしなかったなぁ。自分が助かったからむしろ清々した、みたいな顔をしてたよ」
壮絶すぎて言葉も出ない。…あれ、
「では、一応奥様のことはお許しになったということですか?」
「うん、その時はね。犯された、なんて言葉が独り歩きしちゃってさ。被害者って立場になっちゃったから」
「だから、今でも食事をご一緒にされるのですね」
私だったら顔も見たくないけど。
そんなふうに思っていたら、陛下と英樹さんが顔を見合わせた。
「ああ、先ほど、みんなで食事をすると言ったからですね。ソフィアさん、あのババアはわたくしの最愛を傷つけたんです。だから、その罪を償ってもらってるんですよ」
「罪を、償う?」
「ええ。食事の時は必ず同席させるんです。一応、生きてるかどうか確認しなくてはならないので」
…どういうこと?
「食事の時間以外はね、地下牢に入れてるんですよ。朝食後から昼食までと、昼食後から夕食までは基本水の中ですが。顔が、ね」
今、なんて言った?顔が、
「顔が水の中、って?どういうことなんですか?」
「拷問官に、死なない程度で水攻めをさせているんです。彼らの貴重な時間をあんな死に損ないの腐れババアに費やさせているのは大変心苦しいのですが、早苗を傷つけられたことをわたくしは許すことができなくて」
まだまだ修行が足りません、とサラリという英樹さんに恐怖しか感じない。
「なぜ、あの、」
「なぜ処刑しないのか、って聞きたいのかな、ソフィアさん」
英樹さんではなく陛下が口を開く。ブンブンと首を縦に振ってみせる。だって、なんでそんな…!
「ただ死なせたらなんの償いにもならないじゃない。私は別に償いなんていらないよ、もう名目だけの妻だから。でもさ、あいつの保身のために幼い子どもまで死んだじゃない。英樹が大切にしてる早苗まで傷つけたじゃない。だから、そのぶんは返してもらわないとねぇ。とにかく苦しんでもらいたくてね。だから水攻めなの。見た目わからないでしょ、傷がつくわけでもないし」
…もう、帰りたい。
実の、…父親?
それは、まさか、
「いわゆる近親相姦だね。まさか自分の義父と妻が、そんな関係だとは…影から報告が上がってきた時は自分の耳を疑ったよ」
淡々と話す陛下の表情からは何も読み取ることができない。それ以上に、そんな皇室の恥みたいなこと、他国の今日会ったばかりの私に話したりしていいの!?なんだかもう、ズブズブ足を捕られて抜け出せないようにされているとしか思えない…ここまで聞いたんだから断るとかなしだよ、と。怖い。
「私と結婚する前からの関係らしくてね。そこまでは私の母も…前皇帝も見抜けなかったみたいだよ。かなりの曲者なんだ、あの家は。まぁバカみたいに証拠を残してくれたおかげで取り潰すことに成功したんだけどね。よほど私をバカだと思って油断していたんだろうねぇ」
冷ややかに嗤う皇帝陛下に恐怖しか感じない。あの人のよさそうなおじさまはどこへ…つい何分か前までいらっしゃったはずなのに…。
「ソフィアさん、わたくしは8人兄弟姉妹だと先ほど申し上げましたが…本当は9人だったんです。戸籍上。今は戸籍上も、現実にも、8人になりましたが」
「…どういうことですか?」
英樹さんは私をじっと見つめる。その瞳からは何の感情も読み取れない。
「私の母…母などと呼びたくもないが遺伝子上間違いなく母親なので…あいつは、わたくしたち8人がある程度手を離れると、実家に入り浸っていたと言いましたでしょう?その時に、自分の実の父親の子どもを身籠り、図々しくもこの世に産み落としたのです。年が離れているから、父が皇帝に決まった時に『DNA鑑定しちゃうもん』からは逃れられると思ったのでしょうね、その子どもは。州知事に就任できるような年齢ではないからと。浅はかですよね。全員、間違いなく鑑定する、と法律で定められているのに」
その子どもが、
「私の末の子どもとしていたのが、証拠になったんだよ。あいつは、鑑定前に暴れてねぇ。この子は知事になれるわけでもないのに鑑定の必要なんてない、なんて。自分が疚しいことをしたと暴露しているようなものだよね。鑑定で出てきたのは、あいつと、あいつの父親の名前。その時あいつは、なんて言ったと思う?」
考える間もなくすぐに陛下は口を開いた。答えなんて求めてないですよね、わかります。
「『わたくしは、父上に襲われた被害者なのです、あなた!憐れなわたくしにどうかご慈悲を…!まさか父上の子どもだなんて知らなかったのです!』と。我が身を守ることしか言わなかったんだよ。だから、その通り、犯罪者としてあいつの実家を取り潰すことにしたの。元凶の父親、あとは母親、兄弟も全部処刑。大々的に発表もしてやった。娘を襲う、厚顔無恥な鬼畜一家だとね。そして、末の子どもだと騙されたから、その子どもも可哀想だけど処刑したの。あいつの目の前で。おまえのせいであの幼子は死ぬんだ、って言ってやったんだけど、涙を流しもしなかったなぁ。自分が助かったからむしろ清々した、みたいな顔をしてたよ」
壮絶すぎて言葉も出ない。…あれ、
「では、一応奥様のことはお許しになったということですか?」
「うん、その時はね。犯された、なんて言葉が独り歩きしちゃってさ。被害者って立場になっちゃったから」
「だから、今でも食事をご一緒にされるのですね」
私だったら顔も見たくないけど。
そんなふうに思っていたら、陛下と英樹さんが顔を見合わせた。
「ああ、先ほど、みんなで食事をすると言ったからですね。ソフィアさん、あのババアはわたくしの最愛を傷つけたんです。だから、その罪を償ってもらってるんですよ」
「罪を、償う?」
「ええ。食事の時は必ず同席させるんです。一応、生きてるかどうか確認しなくてはならないので」
…どういうこと?
「食事の時間以外はね、地下牢に入れてるんですよ。朝食後から昼食までと、昼食後から夕食までは基本水の中ですが。顔が、ね」
今、なんて言った?顔が、
「顔が水の中、って?どういうことなんですか?」
「拷問官に、死なない程度で水攻めをさせているんです。彼らの貴重な時間をあんな死に損ないの腐れババアに費やさせているのは大変心苦しいのですが、早苗を傷つけられたことをわたくしは許すことができなくて」
まだまだ修行が足りません、とサラリという英樹さんに恐怖しか感じない。
「なぜ、あの、」
「なぜ処刑しないのか、って聞きたいのかな、ソフィアさん」
英樹さんではなく陛下が口を開く。ブンブンと首を縦に振ってみせる。だって、なんでそんな…!
「ただ死なせたらなんの償いにもならないじゃない。私は別に償いなんていらないよ、もう名目だけの妻だから。でもさ、あいつの保身のために幼い子どもまで死んだじゃない。英樹が大切にしてる早苗まで傷つけたじゃない。だから、そのぶんは返してもらわないとねぇ。とにかく苦しんでもらいたくてね。だから水攻めなの。見た目わからないでしょ、傷がつくわけでもないし」
…もう、帰りたい。
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