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ジャポン皇国へ
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「それで、あの、…私に頼みたいこととは、」
「それが、今話した長男の離縁のことで…長男と妻の離縁を回避させて欲しいのです」
…はい?
英樹さんが言っていることがまったく理解できず、呆けたように見る私を英樹さんも黙って見ている。
「…あの」
「はい」
「私は、今日こちらに来たばかりでそのおふたりとも面識すらありません。離縁したいという話も今聞いたばかりで、…何がどう繋がると、私に離縁を回避させろという話になるんでしょうか?そもそも、ご長男が離縁したいと言ったその理由はなんなのですか?」
英樹さんはまた困ったような顔になった。
「それが、その…恥ずかしいから言いたくないと言うのです。身内には話したくない、自分たちを知っている人間にも話したくないと。まったく知らない人になら話してもいいと言うので…ソフィアさんが適任かと。ふたりの離縁を阻止するまで、ソフィアさんをソルマーレ国に帰すことはできません。帰りたければ、ふたりの離縁を回避させてください」
無茶苦茶だ。無茶苦茶すぎる。
「あの、先ほど、ソルマーレ国の陛下に事情は話したと言いませんでしたか…?ご長男が離縁したいと仰ったのは一昨日なのですよね、どうやって陛下と話したのですか?」
「長男の嫁はトゥランクメント族だと言いましたね。トゥランクメント族は、大なり小なり魔術が使えるのですが、彼女は転移魔術を使えるのです」
「…転移魔術?」
「ええ。彼女と共にソルマーレ国にお邪魔したのです、昨日」
昨日…私が船に揺られていた時?そんな便利な術を使えるなら私のことも一緒に連れてきてくれればいいのに。
私のジト目に何かを感じ取ったのか、英樹さんは「トゥランクメント族の魔術は企業秘密なので」と呟いて目を逸らした。国家機密でしょ…?
「それで、ソフィアさんをしばらくお借りしたいと申し上げたのです。国王陛下、王妃陛下ともに快諾してくださったのですが、ご子息が怒りだしまして…『期限も設けず、他人の離縁を阻止するまで帰さないなんて、何を考えているのですか!?今すぐ彼女を返してください!』と、それはスゴイ剣幕で…お聞きしたところでは、皇太子殿下ではないとのことでしたが…」
皇太子が私を返せなんて言うはずがない。そもそもジャポン皇国に私が来ることすら知らないはずだ。生きてるか死んでるか、興味もないんだし。あいつが興味があるのはミューズのことだけだろう。
だとしたらイケメン双子たちだろうか…。
「あの、どんな方でしたか?」
「金髪で、青い瞳の男性です」
陛下は「俺は皇太子以外に息子が3人いる」と言っていた。イケメン双子は瞳がピンクだし、私が会ったことのないもう一人の息子なんだろうけど…会ったことがない私のためになんでそんな怒ったりするんだろう…。モヤモヤする。
「あの、奥様は…ご長男の奥様は、私が介入することを了承してくださっているのですか?」
「はい。彼女…撫子というのですが、撫子は蘇芳と離縁したくないと。蘇芳は蘇芳で、離縁したい理由を第三者…まったくの赤の他人である、自分たちを知らない第三者を挟んでなら、撫子と話し合ってもいいと言っているので。私が思うに、蘇芳も正直なところ撫子と離縁したいとは思っていない…あのふたりは、それはそれは仲が良くて…次男も四男も、素直に妻を愛せて、妻にも愛される兄さんが羨ましいというくらいなのです。今はまだ、同じ城内に住んでいますからね。ふたりの仲睦まじい様子が目に入るのでしょう。よく庭園を散歩していますし、食事の時も本当に楽しそうに会話をしていますから」
英樹さんはその光景を思い浮かべているように目を瞑った。
なんだかまったく知らないところで責任重大な案件を背負わされてしまった…なんで他人ならいいんだろう?身内には話せない恥ずかしいことってなんなんだろう。
思い返してみれば、ドラッグストアで働いていたとき、確かにお客さんからいろんな相談をされてはいた。そんなことまで私なんかに話しちゃっていいの!?そんな親しくないよね!?って心配するくらい際どい話もあったりしたけど、…誰かに話すことでスッキリする、ってこともあるのかもしれない。私に適切なアドバイスができるかどうかはわからないけど…ジャポン皇国に来てしまって、チンピラ国王も許可したというならばやるしかないのかもなぁ…。何より、撫子さんを庇ってあげたという蘇芳さんの力になれるなら…。
「ご期待にそえるかどうかわかりませんが、とりあえずお話をお聞きします。おふたりとも了承されているのであれば」
英樹さんは嬉しそうに目を細めると、「よろしくお願いします、ソフィアさん」と微笑んだ。
「それが、今話した長男の離縁のことで…長男と妻の離縁を回避させて欲しいのです」
…はい?
英樹さんが言っていることがまったく理解できず、呆けたように見る私を英樹さんも黙って見ている。
「…あの」
「はい」
「私は、今日こちらに来たばかりでそのおふたりとも面識すらありません。離縁したいという話も今聞いたばかりで、…何がどう繋がると、私に離縁を回避させろという話になるんでしょうか?そもそも、ご長男が離縁したいと言ったその理由はなんなのですか?」
英樹さんはまた困ったような顔になった。
「それが、その…恥ずかしいから言いたくないと言うのです。身内には話したくない、自分たちを知っている人間にも話したくないと。まったく知らない人になら話してもいいと言うので…ソフィアさんが適任かと。ふたりの離縁を阻止するまで、ソフィアさんをソルマーレ国に帰すことはできません。帰りたければ、ふたりの離縁を回避させてください」
無茶苦茶だ。無茶苦茶すぎる。
「あの、先ほど、ソルマーレ国の陛下に事情は話したと言いませんでしたか…?ご長男が離縁したいと仰ったのは一昨日なのですよね、どうやって陛下と話したのですか?」
「長男の嫁はトゥランクメント族だと言いましたね。トゥランクメント族は、大なり小なり魔術が使えるのですが、彼女は転移魔術を使えるのです」
「…転移魔術?」
「ええ。彼女と共にソルマーレ国にお邪魔したのです、昨日」
昨日…私が船に揺られていた時?そんな便利な術を使えるなら私のことも一緒に連れてきてくれればいいのに。
私のジト目に何かを感じ取ったのか、英樹さんは「トゥランクメント族の魔術は企業秘密なので」と呟いて目を逸らした。国家機密でしょ…?
「それで、ソフィアさんをしばらくお借りしたいと申し上げたのです。国王陛下、王妃陛下ともに快諾してくださったのですが、ご子息が怒りだしまして…『期限も設けず、他人の離縁を阻止するまで帰さないなんて、何を考えているのですか!?今すぐ彼女を返してください!』と、それはスゴイ剣幕で…お聞きしたところでは、皇太子殿下ではないとのことでしたが…」
皇太子が私を返せなんて言うはずがない。そもそもジャポン皇国に私が来ることすら知らないはずだ。生きてるか死んでるか、興味もないんだし。あいつが興味があるのはミューズのことだけだろう。
だとしたらイケメン双子たちだろうか…。
「あの、どんな方でしたか?」
「金髪で、青い瞳の男性です」
陛下は「俺は皇太子以外に息子が3人いる」と言っていた。イケメン双子は瞳がピンクだし、私が会ったことのないもう一人の息子なんだろうけど…会ったことがない私のためになんでそんな怒ったりするんだろう…。モヤモヤする。
「あの、奥様は…ご長男の奥様は、私が介入することを了承してくださっているのですか?」
「はい。彼女…撫子というのですが、撫子は蘇芳と離縁したくないと。蘇芳は蘇芳で、離縁したい理由を第三者…まったくの赤の他人である、自分たちを知らない第三者を挟んでなら、撫子と話し合ってもいいと言っているので。私が思うに、蘇芳も正直なところ撫子と離縁したいとは思っていない…あのふたりは、それはそれは仲が良くて…次男も四男も、素直に妻を愛せて、妻にも愛される兄さんが羨ましいというくらいなのです。今はまだ、同じ城内に住んでいますからね。ふたりの仲睦まじい様子が目に入るのでしょう。よく庭園を散歩していますし、食事の時も本当に楽しそうに会話をしていますから」
英樹さんはその光景を思い浮かべているように目を瞑った。
なんだかまったく知らないところで責任重大な案件を背負わされてしまった…なんで他人ならいいんだろう?身内には話せない恥ずかしいことってなんなんだろう。
思い返してみれば、ドラッグストアで働いていたとき、確かにお客さんからいろんな相談をされてはいた。そんなことまで私なんかに話しちゃっていいの!?そんな親しくないよね!?って心配するくらい際どい話もあったりしたけど、…誰かに話すことでスッキリする、ってこともあるのかもしれない。私に適切なアドバイスができるかどうかはわからないけど…ジャポン皇国に来てしまって、チンピラ国王も許可したというならばやるしかないのかもなぁ…。何より、撫子さんを庇ってあげたという蘇芳さんの力になれるなら…。
「ご期待にそえるかどうかわかりませんが、とりあえずお話をお聞きします。おふたりとも了承されているのであれば」
英樹さんは嬉しそうに目を細めると、「よろしくお願いします、ソフィアさん」と微笑んだ。
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