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ジャポン皇国へ
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もうひとつの条件は、州知事になってから自州の納税額の累計金額が一番多いこと、だという。
「…ただし、ほぼ例外なく毎年一番納税額が多いのは首都機能のあるこの朱雀州です。つまり、朱雀州知事に選ばれた時点で次代の皇帝になる第一条件はクリアしたと言っても過言ではありません」
それならば、誰もが朱雀州の知事になりたいだろう。
「その、新しく皇帝陛下になるお子様たちは、最低限4人ということで、もっとたくさんお子様がいる場合もありますよね?その中から誰がどの州の知事になるか、どうやって決めるのですか?」
「新しい州知事を決めるのは、譲位する皇帝が決めるのです」
皇帝陛下が決める…。
「…何を基準にするのですか?」
英樹さんはちょっと困ったような顔になった。何か変なことを聞いてしまったのだろうか。
「ソフィアさん。先ほど貴女は、最低限4人、と言いましたね。その通りで、わたくしは兄弟が7人おります。わたくしを含め、8人兄弟姉妹です。州知事になるのに、男女の別はありません。
皇帝になるふたつの明確な条件のようなものは、州知事選定にはなくてですね…言うなれば、皇帝陛下の感覚で決まるのです」
「感覚…?皇帝陛下の好き嫌いで決まるということですか?」
「そう言われても否定はできません。皇帝陛下の一存ですべてが決まります。…わたくしはね、ソフィアさん。他に7人も兄弟姉妹がいて、自分がまさか朱雀州知事に選ばれるなんて考えもしなかったんですよ。他の兄弟のほうが明らかに優秀だと思っていましたし、時の皇帝…わたくしたちの祖母にあたりますが、兄弟姉妹がアピール合戦をする中、わたくしはあまり祖母に近寄らなかったんです。朱雀州どころか4人の中からも洩れると思っていましたし…それでいいと…将来は教師になろうと考えていたので、そちらの勉強に時間を割いていました。わたくしが朱雀州知事と発表された時、かなり大騒ぎになりました。でも、一番驚いたのは他ならぬわたくしなのです」
英樹さんは、ホゥッと小さく息を吐いた。
「どのような基準で選んだのか、皇帝に聞くことは許されません。決定は絶対なのです。残り3州の知事に選ばれた兄弟たちはとたんにやる気をなくしましてね。知事としての職責を果たしてはいますが、それ以上を求めて何かをしようとはしていません。そしてつい一昨日、わたくしが次代の皇帝だと発表され、その際陛下から、新しい州知事の配置も発表されました」
ここまではわかった。これまでの話と、私に頼みたいことと、いったいどう繋がるというのだろう?
「今の陛下はわたくしの父なのですが、知事を任命するためにもうだいぶ前から準備をしていたのかと、…今回の発表で思いました。
わたくしの子どもは息子ばかり4人で、彼らの妻たちは父が決めたのです。全員が別々の州の出身で、今回、その妻の出身地の知事にすると発表したのです。朱雀州出身の妻がいる三男は大喜びでした。傍目に見て、あまり気持ちがいいものではない喜び方で…。そしてその夜、長男が、妻と離縁したいと言いに来たのです」
…なぜ離縁に繋がるのだろう。
「妻のせいで朱雀州知事に選ばれなかったから、という理由なのですか?」
英樹さんは眉をギュッとしかめると、「ソフィアさん」と言った。
「はい」
「長男は、蘇芳というのですが…蘇芳は、そんな男ではないのです。先ほど、息子たちの嫁はわたくしの父が選んだと言いましたね?最初の時点では、蘇芳の妻になるのは朱雀州出身の娘だったのです。ところが三男が、自分の嫁だと言われた玄武州出身の娘をひどく罵りだしまして」
「なぜですか?」
「玄武州の娘は、この国の原住民であるトゥランクメント族の娘なのですが、彼女の見た目が気持ち悪いと…緑色の髪の毛もおぞましいし、青い瞳は冷たさしか感じない、同じジャポン皇国の国民とはとても思えない。魔術などという、理屈のわからない邪なものを使うのも気持ちが悪い。寝首をかかれる心配しかない。太っているし、年増だし、なんでこんなブスと俺が結婚しなくてはならないのかと、それはもう聞いているこちらの気分が悪くなるほど悪し様に罵りまして。さすがに叱りつけようとしたところ、父に目配せされまして…余計な口を挟むな、と」
悪口のオンパレードに心底ムカムカしていた私は会ったこともない皇帝陛下が俄然だいっきらいになった。女性を公衆の面前で貶めるようなクズになんの制裁もしないで黙ってろなんて…!
「彼女は、泣きそうになりながらも凛とした姿勢で立っていました。すると蘇芳が、『貴女はわたくしと同い年だから、よかったらわたくしと結婚してくれないか』と言ったのです。玄武州出身の彼女も太っているのですが、蘇芳も、その…なかなかの体型でして。三男など、『デブ同士お似合いだ』と大笑いしましてね。それに同調して笑っていたのが、…蘇芳の嫁になるはずだった朱雀州の娘だったのです」
私から言わせれば、心根が汚い人間同士お似合いだよ。人を見た目でしか判断できない自分を恥ずかしいと思えない傲慢な人間。
「そんなわけで三男…上総の嫁が朱雀州出身の娘になりまして。次男の羅刹の嫁は青龍州出身、四男の朝霧の嫁は白虎州の娘に決まりました」
「…ただし、ほぼ例外なく毎年一番納税額が多いのは首都機能のあるこの朱雀州です。つまり、朱雀州知事に選ばれた時点で次代の皇帝になる第一条件はクリアしたと言っても過言ではありません」
それならば、誰もが朱雀州の知事になりたいだろう。
「その、新しく皇帝陛下になるお子様たちは、最低限4人ということで、もっとたくさんお子様がいる場合もありますよね?その中から誰がどの州の知事になるか、どうやって決めるのですか?」
「新しい州知事を決めるのは、譲位する皇帝が決めるのです」
皇帝陛下が決める…。
「…何を基準にするのですか?」
英樹さんはちょっと困ったような顔になった。何か変なことを聞いてしまったのだろうか。
「ソフィアさん。先ほど貴女は、最低限4人、と言いましたね。その通りで、わたくしは兄弟が7人おります。わたくしを含め、8人兄弟姉妹です。州知事になるのに、男女の別はありません。
皇帝になるふたつの明確な条件のようなものは、州知事選定にはなくてですね…言うなれば、皇帝陛下の感覚で決まるのです」
「感覚…?皇帝陛下の好き嫌いで決まるということですか?」
「そう言われても否定はできません。皇帝陛下の一存ですべてが決まります。…わたくしはね、ソフィアさん。他に7人も兄弟姉妹がいて、自分がまさか朱雀州知事に選ばれるなんて考えもしなかったんですよ。他の兄弟のほうが明らかに優秀だと思っていましたし、時の皇帝…わたくしたちの祖母にあたりますが、兄弟姉妹がアピール合戦をする中、わたくしはあまり祖母に近寄らなかったんです。朱雀州どころか4人の中からも洩れると思っていましたし…それでいいと…将来は教師になろうと考えていたので、そちらの勉強に時間を割いていました。わたくしが朱雀州知事と発表された時、かなり大騒ぎになりました。でも、一番驚いたのは他ならぬわたくしなのです」
英樹さんは、ホゥッと小さく息を吐いた。
「どのような基準で選んだのか、皇帝に聞くことは許されません。決定は絶対なのです。残り3州の知事に選ばれた兄弟たちはとたんにやる気をなくしましてね。知事としての職責を果たしてはいますが、それ以上を求めて何かをしようとはしていません。そしてつい一昨日、わたくしが次代の皇帝だと発表され、その際陛下から、新しい州知事の配置も発表されました」
ここまではわかった。これまでの話と、私に頼みたいことと、いったいどう繋がるというのだろう?
「今の陛下はわたくしの父なのですが、知事を任命するためにもうだいぶ前から準備をしていたのかと、…今回の発表で思いました。
わたくしの子どもは息子ばかり4人で、彼らの妻たちは父が決めたのです。全員が別々の州の出身で、今回、その妻の出身地の知事にすると発表したのです。朱雀州出身の妻がいる三男は大喜びでした。傍目に見て、あまり気持ちがいいものではない喜び方で…。そしてその夜、長男が、妻と離縁したいと言いに来たのです」
…なぜ離縁に繋がるのだろう。
「妻のせいで朱雀州知事に選ばれなかったから、という理由なのですか?」
英樹さんは眉をギュッとしかめると、「ソフィアさん」と言った。
「はい」
「長男は、蘇芳というのですが…蘇芳は、そんな男ではないのです。先ほど、息子たちの嫁はわたくしの父が選んだと言いましたね?最初の時点では、蘇芳の妻になるのは朱雀州出身の娘だったのです。ところが三男が、自分の嫁だと言われた玄武州出身の娘をひどく罵りだしまして」
「なぜですか?」
「玄武州の娘は、この国の原住民であるトゥランクメント族の娘なのですが、彼女の見た目が気持ち悪いと…緑色の髪の毛もおぞましいし、青い瞳は冷たさしか感じない、同じジャポン皇国の国民とはとても思えない。魔術などという、理屈のわからない邪なものを使うのも気持ちが悪い。寝首をかかれる心配しかない。太っているし、年増だし、なんでこんなブスと俺が結婚しなくてはならないのかと、それはもう聞いているこちらの気分が悪くなるほど悪し様に罵りまして。さすがに叱りつけようとしたところ、父に目配せされまして…余計な口を挟むな、と」
悪口のオンパレードに心底ムカムカしていた私は会ったこともない皇帝陛下が俄然だいっきらいになった。女性を公衆の面前で貶めるようなクズになんの制裁もしないで黙ってろなんて…!
「彼女は、泣きそうになりながらも凛とした姿勢で立っていました。すると蘇芳が、『貴女はわたくしと同い年だから、よかったらわたくしと結婚してくれないか』と言ったのです。玄武州出身の彼女も太っているのですが、蘇芳も、その…なかなかの体型でして。三男など、『デブ同士お似合いだ』と大笑いしましてね。それに同調して笑っていたのが、…蘇芳の嫁になるはずだった朱雀州の娘だったのです」
私から言わせれば、心根が汚い人間同士お似合いだよ。人を見た目でしか判断できない自分を恥ずかしいと思えない傲慢な人間。
「そんなわけで三男…上総の嫁が朱雀州出身の娘になりまして。次男の羅刹の嫁は青龍州出身、四男の朝霧の嫁は白虎州の娘に決まりました」
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