34 / 161
ジャポン皇国へ
5
しおりを挟む
「あの、帰れないとは、」
「…こちらに来ていただくために、あえて伏せていただいたのです。ソルマーレ国王は、一応事情はわかっております。その上で、とりあえず3年後まで帰してくれればいいと許可をいただいておりますので」
…あいつ。なんなの。本人が預かり知らぬところで勝手に取り引きするなんて…。
でもそうだよな。私は、ただ生かされてるお飾り妃に過ぎないんだから…なんか、皇太子と側妃を除く王室の方々によくしてもらってたから勘違いしちゃってたけど、…チンピラにとっては私は形式上、義理の娘、ってだけで。いてもいなくても、なんにも感じない存在でしかないんだよね。
冷静にそんなことを考えて、じんわり涙がにじむ。私…チンピラ国王をはじめ、なんか、家族みたいに思ってたんだけど…勘違いも甚だしかったんだなぁ…。もしかしたら今回のこれも、体よく追い出したかっただけなのかもしれない。恥ずかしい…。
思わず俯いてしまう。3年後には離宮で軟禁生活を送るしかないのか…。
「あの、ソフィアさん、勘違いされては困るんですが、」
英樹さんを見上げると、困ったような顔をしていた。
「ソルマーレ国王から、貴女の事情はお聞きしています。皇太子殿下と離縁を前提にしていらっしゃる、離縁が認められるのは国王陛下が出した課題をクリアできた場合だと。離縁についても、一方的に皇太子殿下から申し渡されたそうですね?貴女は、それで構わない、むしろ喜んで離縁すると仰ったと。
国王陛下は、手紙にこう書かれていました。『表だって手を貸すことはできないが、義理の娘になるソフィアが望むことはできるだけ叶えてやりたい。新しいソフィアを私は応援してやりたい。ふつつかな娘ではあるが、よろしくお願いしたい』と。
ジャポン皇国は前世の貴女が住んでいた日本と重なるところも多いでしょう。だからこそ、何かしらヒントが掴めるのではないかと、国王陛下は貴女を送り出すことにしたようですよ。愛されてますね」
思いもしなかったことを聞かされて涙腺が決壊する。じゃあなんで、帰れないなんて、
「帰さない、というのは、わたくしどもの意向です。ソフィアさん、貴女にお願いしたいことがあるのです」
「お願い、…したい、こと?」
エグエグしながら英樹さんを見ると、ハンカチを手渡された。ありがたく借りることにする。
「ええ。その前に…ソフィアさん、貴女は、ジャポン皇国の皇位継承の方法をご存知ですか?」
首を横に振ると、「では、そこからまずお話します」と言って話し始めた。
「ジャポン皇国は、4つの州から成りますが、この4州の知事は皇帝の実子がなると決まっています。新しい皇帝が決まったときに、新しい州知事も決まります。
州知事から皇帝に選ばれる条件はふたつ。ひとつは、実子が4人以上いること。ジャポン皇国は一夫一妻制の国です。もし夫に愛人がいても、その愛人が産んだ子どもは夫婦間の子どもではないため実子とは認めません。妻が愛人を持って、子どもをつくった場合も同様です」
「その子どもが夫婦間の子どもであるかどうか、どうやって判断するのですか?奥様が浮気していた場合、なかなか判断は難しいのではないかと思うのですが」
だって、自分で産むんだから。よっぽど似てないとかない限り、わかりづらいんじゃ?
「ジャポン皇国に召還された日本人は、いろいろな技術を置いていきまして…国王陛下からお聞きになったと思いますが、国を外界から隠す技術しかり、実子かどうか判別する技術しかり。我が国には、『DNA鑑定しちゃうもん』という機械があるのです」
…なにそのふざけた名前。
ジャポン皇国といい、ネーミングセンスがマイナスの人間しか召還されなかったの?
「その機械の前に対象者が立つと光が照射され、その人間の父と母が誰なのか印刷されて出てくるのです。今の我々には、そのような機械を作る技術はないのですが」
そんな技術、私も知らない。私よりも時間軸がさらに未来の日本から召還されたのだろうか。
「今でこそ、この『DNA鑑定しちゃうもん』は存在が公になっていますが、以前は州知事になった人間しか知らない内容だったため、…何代か前に悲劇が起こりましてね」
ある州知事は子どもができにくい男性不妊だったが、自分は皇帝になる気持ちなどさらさらなかったため、子どもができないことに何の焦りもなかった。しかし、その妻は違った。子どもがいなければ夫は皇帝に選ばれるスタートラインにもたてない。夫が皇帝になれば自分は皇后。せっかくのチャンスを潰したくないと、妻はひそかに愛人を作り、4人、男児を産んだ。
皇帝陛下は65歳で次代に譲位することが決まっており、譲位する半年前には州知事の子ども全員が『DNA鑑定しちゃうもん』の前に立たされる。
それを知った妻は狂乱し、自殺してしまったのだという。子どもたちも州知事の子どもではないと鑑定され、成人はしていたものの印刷されて出てきた父親の子どもとして戸籍が作り直された。妻に自殺された州知事はひっそりと引きこもり、誰にも看取られることなく亡くなったと…州知事まで務めた人間とは思えないほど、寂しい最期だったという。
「その一件から、『DNA鑑定しちゃうもん』は全国民が知るところとなりまして。今は申請すれば誰でも鑑定を受けることができることになりました。まあ、だいたいが夫からの申し出…妻が浮気して作った子どもなんじゃないかと妄想したり、言いがかりをつけて離婚まで持ち込もうとしたり、あまり良い方向では使われていないのが現状です。疑いをかけられた妻に愛想を尽かされ捨てられるパターンが多いですね」
「…こちらに来ていただくために、あえて伏せていただいたのです。ソルマーレ国王は、一応事情はわかっております。その上で、とりあえず3年後まで帰してくれればいいと許可をいただいておりますので」
…あいつ。なんなの。本人が預かり知らぬところで勝手に取り引きするなんて…。
でもそうだよな。私は、ただ生かされてるお飾り妃に過ぎないんだから…なんか、皇太子と側妃を除く王室の方々によくしてもらってたから勘違いしちゃってたけど、…チンピラにとっては私は形式上、義理の娘、ってだけで。いてもいなくても、なんにも感じない存在でしかないんだよね。
冷静にそんなことを考えて、じんわり涙がにじむ。私…チンピラ国王をはじめ、なんか、家族みたいに思ってたんだけど…勘違いも甚だしかったんだなぁ…。もしかしたら今回のこれも、体よく追い出したかっただけなのかもしれない。恥ずかしい…。
思わず俯いてしまう。3年後には離宮で軟禁生活を送るしかないのか…。
「あの、ソフィアさん、勘違いされては困るんですが、」
英樹さんを見上げると、困ったような顔をしていた。
「ソルマーレ国王から、貴女の事情はお聞きしています。皇太子殿下と離縁を前提にしていらっしゃる、離縁が認められるのは国王陛下が出した課題をクリアできた場合だと。離縁についても、一方的に皇太子殿下から申し渡されたそうですね?貴女は、それで構わない、むしろ喜んで離縁すると仰ったと。
国王陛下は、手紙にこう書かれていました。『表だって手を貸すことはできないが、義理の娘になるソフィアが望むことはできるだけ叶えてやりたい。新しいソフィアを私は応援してやりたい。ふつつかな娘ではあるが、よろしくお願いしたい』と。
ジャポン皇国は前世の貴女が住んでいた日本と重なるところも多いでしょう。だからこそ、何かしらヒントが掴めるのではないかと、国王陛下は貴女を送り出すことにしたようですよ。愛されてますね」
思いもしなかったことを聞かされて涙腺が決壊する。じゃあなんで、帰れないなんて、
「帰さない、というのは、わたくしどもの意向です。ソフィアさん、貴女にお願いしたいことがあるのです」
「お願い、…したい、こと?」
エグエグしながら英樹さんを見ると、ハンカチを手渡された。ありがたく借りることにする。
「ええ。その前に…ソフィアさん、貴女は、ジャポン皇国の皇位継承の方法をご存知ですか?」
首を横に振ると、「では、そこからまずお話します」と言って話し始めた。
「ジャポン皇国は、4つの州から成りますが、この4州の知事は皇帝の実子がなると決まっています。新しい皇帝が決まったときに、新しい州知事も決まります。
州知事から皇帝に選ばれる条件はふたつ。ひとつは、実子が4人以上いること。ジャポン皇国は一夫一妻制の国です。もし夫に愛人がいても、その愛人が産んだ子どもは夫婦間の子どもではないため実子とは認めません。妻が愛人を持って、子どもをつくった場合も同様です」
「その子どもが夫婦間の子どもであるかどうか、どうやって判断するのですか?奥様が浮気していた場合、なかなか判断は難しいのではないかと思うのですが」
だって、自分で産むんだから。よっぽど似てないとかない限り、わかりづらいんじゃ?
「ジャポン皇国に召還された日本人は、いろいろな技術を置いていきまして…国王陛下からお聞きになったと思いますが、国を外界から隠す技術しかり、実子かどうか判別する技術しかり。我が国には、『DNA鑑定しちゃうもん』という機械があるのです」
…なにそのふざけた名前。
ジャポン皇国といい、ネーミングセンスがマイナスの人間しか召還されなかったの?
「その機械の前に対象者が立つと光が照射され、その人間の父と母が誰なのか印刷されて出てくるのです。今の我々には、そのような機械を作る技術はないのですが」
そんな技術、私も知らない。私よりも時間軸がさらに未来の日本から召還されたのだろうか。
「今でこそ、この『DNA鑑定しちゃうもん』は存在が公になっていますが、以前は州知事になった人間しか知らない内容だったため、…何代か前に悲劇が起こりましてね」
ある州知事は子どもができにくい男性不妊だったが、自分は皇帝になる気持ちなどさらさらなかったため、子どもができないことに何の焦りもなかった。しかし、その妻は違った。子どもがいなければ夫は皇帝に選ばれるスタートラインにもたてない。夫が皇帝になれば自分は皇后。せっかくのチャンスを潰したくないと、妻はひそかに愛人を作り、4人、男児を産んだ。
皇帝陛下は65歳で次代に譲位することが決まっており、譲位する半年前には州知事の子ども全員が『DNA鑑定しちゃうもん』の前に立たされる。
それを知った妻は狂乱し、自殺してしまったのだという。子どもたちも州知事の子どもではないと鑑定され、成人はしていたものの印刷されて出てきた父親の子どもとして戸籍が作り直された。妻に自殺された州知事はひっそりと引きこもり、誰にも看取られることなく亡くなったと…州知事まで務めた人間とは思えないほど、寂しい最期だったという。
「その一件から、『DNA鑑定しちゃうもん』は全国民が知るところとなりまして。今は申請すれば誰でも鑑定を受けることができることになりました。まあ、だいたいが夫からの申し出…妻が浮気して作った子どもなんじゃないかと妄想したり、言いがかりをつけて離婚まで持ち込もうとしたり、あまり良い方向では使われていないのが現状です。疑いをかけられた妻に愛想を尽かされ捨てられるパターンが多いですね」
41
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる