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ジャポン皇国へ
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「あの、帰れないとは、」
「…こちらに来ていただくために、あえて伏せていただいたのです。ソルマーレ国王は、一応事情はわかっております。その上で、とりあえず3年後まで帰してくれればいいと許可をいただいておりますので」
…あいつ。なんなの。本人が預かり知らぬところで勝手に取り引きするなんて…。
でもそうだよな。私は、ただ生かされてるお飾り妃に過ぎないんだから…なんか、皇太子と側妃を除く王室の方々によくしてもらってたから勘違いしちゃってたけど、…チンピラにとっては私は形式上、義理の娘、ってだけで。いてもいなくても、なんにも感じない存在でしかないんだよね。
冷静にそんなことを考えて、じんわり涙がにじむ。私…チンピラ国王をはじめ、なんか、家族みたいに思ってたんだけど…勘違いも甚だしかったんだなぁ…。もしかしたら今回のこれも、体よく追い出したかっただけなのかもしれない。恥ずかしい…。
思わず俯いてしまう。3年後には離宮で軟禁生活を送るしかないのか…。
「あの、ソフィアさん、勘違いされては困るんですが、」
英樹さんを見上げると、困ったような顔をしていた。
「ソルマーレ国王から、貴女の事情はお聞きしています。皇太子殿下と離縁を前提にしていらっしゃる、離縁が認められるのは国王陛下が出した課題をクリアできた場合だと。離縁についても、一方的に皇太子殿下から申し渡されたそうですね?貴女は、それで構わない、むしろ喜んで離縁すると仰ったと。
国王陛下は、手紙にこう書かれていました。『表だって手を貸すことはできないが、義理の娘になるソフィアが望むことはできるだけ叶えてやりたい。新しいソフィアを私は応援してやりたい。ふつつかな娘ではあるが、よろしくお願いしたい』と。
ジャポン皇国は前世の貴女が住んでいた日本と重なるところも多いでしょう。だからこそ、何かしらヒントが掴めるのではないかと、国王陛下は貴女を送り出すことにしたようですよ。愛されてますね」
思いもしなかったことを聞かされて涙腺が決壊する。じゃあなんで、帰れないなんて、
「帰さない、というのは、わたくしどもの意向です。ソフィアさん、貴女にお願いしたいことがあるのです」
「お願い、…したい、こと?」
エグエグしながら英樹さんを見ると、ハンカチを手渡された。ありがたく借りることにする。
「ええ。その前に…ソフィアさん、貴女は、ジャポン皇国の皇位継承の方法をご存知ですか?」
首を横に振ると、「では、そこからまずお話します」と言って話し始めた。
「ジャポン皇国は、4つの州から成りますが、この4州の知事は皇帝の実子がなると決まっています。新しい皇帝が決まったときに、新しい州知事も決まります。
州知事から皇帝に選ばれる条件はふたつ。ひとつは、実子が4人以上いること。ジャポン皇国は一夫一妻制の国です。もし夫に愛人がいても、その愛人が産んだ子どもは夫婦間の子どもではないため実子とは認めません。妻が愛人を持って、子どもをつくった場合も同様です」
「その子どもが夫婦間の子どもであるかどうか、どうやって判断するのですか?奥様が浮気していた場合、なかなか判断は難しいのではないかと思うのですが」
だって、自分で産むんだから。よっぽど似てないとかない限り、わかりづらいんじゃ?
「ジャポン皇国に召還された日本人は、いろいろな技術を置いていきまして…国王陛下からお聞きになったと思いますが、国を外界から隠す技術しかり、実子かどうか判別する技術しかり。我が国には、『DNA鑑定しちゃうもん』という機械があるのです」
…なにそのふざけた名前。
ジャポン皇国といい、ネーミングセンスがマイナスの人間しか召還されなかったの?
「その機械の前に対象者が立つと光が照射され、その人間の父と母が誰なのか印刷されて出てくるのです。今の我々には、そのような機械を作る技術はないのですが」
そんな技術、私も知らない。私よりも時間軸がさらに未来の日本から召還されたのだろうか。
「今でこそ、この『DNA鑑定しちゃうもん』は存在が公になっていますが、以前は州知事になった人間しか知らない内容だったため、…何代か前に悲劇が起こりましてね」
ある州知事は子どもができにくい男性不妊だったが、自分は皇帝になる気持ちなどさらさらなかったため、子どもができないことに何の焦りもなかった。しかし、その妻は違った。子どもがいなければ夫は皇帝に選ばれるスタートラインにもたてない。夫が皇帝になれば自分は皇后。せっかくのチャンスを潰したくないと、妻はひそかに愛人を作り、4人、男児を産んだ。
皇帝陛下は65歳で次代に譲位することが決まっており、譲位する半年前には州知事の子ども全員が『DNA鑑定しちゃうもん』の前に立たされる。
それを知った妻は狂乱し、自殺してしまったのだという。子どもたちも州知事の子どもではないと鑑定され、成人はしていたものの印刷されて出てきた父親の子どもとして戸籍が作り直された。妻に自殺された州知事はひっそりと引きこもり、誰にも看取られることなく亡くなったと…州知事まで務めた人間とは思えないほど、寂しい最期だったという。
「その一件から、『DNA鑑定しちゃうもん』は全国民が知るところとなりまして。今は申請すれば誰でも鑑定を受けることができることになりました。まあ、だいたいが夫からの申し出…妻が浮気して作った子どもなんじゃないかと妄想したり、言いがかりをつけて離婚まで持ち込もうとしたり、あまり良い方向では使われていないのが現状です。疑いをかけられた妻に愛想を尽かされ捨てられるパターンが多いですね」
「…こちらに来ていただくために、あえて伏せていただいたのです。ソルマーレ国王は、一応事情はわかっております。その上で、とりあえず3年後まで帰してくれればいいと許可をいただいておりますので」
…あいつ。なんなの。本人が預かり知らぬところで勝手に取り引きするなんて…。
でもそうだよな。私は、ただ生かされてるお飾り妃に過ぎないんだから…なんか、皇太子と側妃を除く王室の方々によくしてもらってたから勘違いしちゃってたけど、…チンピラにとっては私は形式上、義理の娘、ってだけで。いてもいなくても、なんにも感じない存在でしかないんだよね。
冷静にそんなことを考えて、じんわり涙がにじむ。私…チンピラ国王をはじめ、なんか、家族みたいに思ってたんだけど…勘違いも甚だしかったんだなぁ…。もしかしたら今回のこれも、体よく追い出したかっただけなのかもしれない。恥ずかしい…。
思わず俯いてしまう。3年後には離宮で軟禁生活を送るしかないのか…。
「あの、ソフィアさん、勘違いされては困るんですが、」
英樹さんを見上げると、困ったような顔をしていた。
「ソルマーレ国王から、貴女の事情はお聞きしています。皇太子殿下と離縁を前提にしていらっしゃる、離縁が認められるのは国王陛下が出した課題をクリアできた場合だと。離縁についても、一方的に皇太子殿下から申し渡されたそうですね?貴女は、それで構わない、むしろ喜んで離縁すると仰ったと。
国王陛下は、手紙にこう書かれていました。『表だって手を貸すことはできないが、義理の娘になるソフィアが望むことはできるだけ叶えてやりたい。新しいソフィアを私は応援してやりたい。ふつつかな娘ではあるが、よろしくお願いしたい』と。
ジャポン皇国は前世の貴女が住んでいた日本と重なるところも多いでしょう。だからこそ、何かしらヒントが掴めるのではないかと、国王陛下は貴女を送り出すことにしたようですよ。愛されてますね」
思いもしなかったことを聞かされて涙腺が決壊する。じゃあなんで、帰れないなんて、
「帰さない、というのは、わたくしどもの意向です。ソフィアさん、貴女にお願いしたいことがあるのです」
「お願い、…したい、こと?」
エグエグしながら英樹さんを見ると、ハンカチを手渡された。ありがたく借りることにする。
「ええ。その前に…ソフィアさん、貴女は、ジャポン皇国の皇位継承の方法をご存知ですか?」
首を横に振ると、「では、そこからまずお話します」と言って話し始めた。
「ジャポン皇国は、4つの州から成りますが、この4州の知事は皇帝の実子がなると決まっています。新しい皇帝が決まったときに、新しい州知事も決まります。
州知事から皇帝に選ばれる条件はふたつ。ひとつは、実子が4人以上いること。ジャポン皇国は一夫一妻制の国です。もし夫に愛人がいても、その愛人が産んだ子どもは夫婦間の子どもではないため実子とは認めません。妻が愛人を持って、子どもをつくった場合も同様です」
「その子どもが夫婦間の子どもであるかどうか、どうやって判断するのですか?奥様が浮気していた場合、なかなか判断は難しいのではないかと思うのですが」
だって、自分で産むんだから。よっぽど似てないとかない限り、わかりづらいんじゃ?
「ジャポン皇国に召還された日本人は、いろいろな技術を置いていきまして…国王陛下からお聞きになったと思いますが、国を外界から隠す技術しかり、実子かどうか判別する技術しかり。我が国には、『DNA鑑定しちゃうもん』という機械があるのです」
…なにそのふざけた名前。
ジャポン皇国といい、ネーミングセンスがマイナスの人間しか召還されなかったの?
「その機械の前に対象者が立つと光が照射され、その人間の父と母が誰なのか印刷されて出てくるのです。今の我々には、そのような機械を作る技術はないのですが」
そんな技術、私も知らない。私よりも時間軸がさらに未来の日本から召還されたのだろうか。
「今でこそ、この『DNA鑑定しちゃうもん』は存在が公になっていますが、以前は州知事になった人間しか知らない内容だったため、…何代か前に悲劇が起こりましてね」
ある州知事は子どもができにくい男性不妊だったが、自分は皇帝になる気持ちなどさらさらなかったため、子どもができないことに何の焦りもなかった。しかし、その妻は違った。子どもがいなければ夫は皇帝に選ばれるスタートラインにもたてない。夫が皇帝になれば自分は皇后。せっかくのチャンスを潰したくないと、妻はひそかに愛人を作り、4人、男児を産んだ。
皇帝陛下は65歳で次代に譲位することが決まっており、譲位する半年前には州知事の子ども全員が『DNA鑑定しちゃうもん』の前に立たされる。
それを知った妻は狂乱し、自殺してしまったのだという。子どもたちも州知事の子どもではないと鑑定され、成人はしていたものの印刷されて出てきた父親の子どもとして戸籍が作り直された。妻に自殺された州知事はひっそりと引きこもり、誰にも看取られることなく亡くなったと…州知事まで務めた人間とは思えないほど、寂しい最期だったという。
「その一件から、『DNA鑑定しちゃうもん』は全国民が知るところとなりまして。今は申請すれば誰でも鑑定を受けることができることになりました。まあ、だいたいが夫からの申し出…妻が浮気して作った子どもなんじゃないかと妄想したり、言いがかりをつけて離婚まで持ち込もうとしたり、あまり良い方向では使われていないのが現状です。疑いをかけられた妻に愛想を尽かされ捨てられるパターンが多いですね」
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