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ジャポン皇国へ
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チンピラは呆れた顔でこちらを見ている。
「まあ…ソフィア自体がまったく知らなかったことだから仕方ねぇが…エリオットは、優しくねぇぞ。この国の宰相、信頼する俺の右腕だからな。
あいつはな、ソフィア。自分の息子を切り捨てたんだ。国のためにならないと言ってな。親子の情よりもあいつは、…ソルマーレ国を考えてくれたんだ。ツラかっただろうに、そんなことは微塵もみせねぇ。あいつは、ほんと…いいヤツなんだよ」
チンピラが途端にしんみりする。
「息子さんを切り捨てたって、どういうことですか?」
「…おまえの書類上の夫がいるだろ」
「…陛下の息子ですよね」
私の言葉を流してもう一度チンピラは「おまえの書類上の夫が、」と言った。なんなの。
「夢中になってるあの女…ライラ・ダレンがいるだろ。あの女はな、高位貴族の見た目がいい子息に近づいちゃ、自分のカラダを餌に貢がせて贅沢三昧する性悪女なんだよ」
…え?
「自分のカラダを餌に?え?もう、処女じゃないってこと?」
チンピラは「これだから駄豚と呼ばれるんだぞおまえは」と嘆息する。ちょっと。その呆れきったみたいな態度やめて。
「あの調印式の時に俺とおまえの書類上の夫、そしてボールドウィン伯爵の会話を聞いてなかったのか?あ?」
凄まれても困る。
「…何か重要なこと言ってましたっけ」
ミューズが足蹴にされたのがあまりに衝撃的すぎて、会話なんて頭に残ってない。ほぼ。
「おまえの書類上の夫とあの女が乳繰り合っている証拠がある、と俺は言った。それを聞いたボールドウィンは、また男漁りをしていたのか、と言ったんだ。男をたらしこむ天性の売女なんだよ、あれは。…エリオットの息子もそれにひっかかっちまってなぁ。自分の家…公爵家の権威を振りかざして、あの女に要求されるままに貢ぎまくったんだよ。金も払わずに、商品ばかり巻き上げてな」
「そんな、女、なのに…なんで、」
「おまえの書類上の夫は、見たくない、聞きたくないものは自分の頭に残さない天性のクズだ。エリオットの息子はじめ、一年半前には大騒ぎだったんだぞ。あの売女もさすがにマズイと思ったのか半年ほどは鳴りを潜めてたんだが…学園に入学して父親の目が離れた途端、クズに目をつけたんだよ」
チンピラ国王のまとってる雰囲気がだんだん険悪になってきて怖い。
「エリオットは、バカ息子がこさえた借金をすべて精算し、被害を受けた店の主たちに毎日のように謝罪に行った。あの憔悴ぶりは見てらんなくてなぁ…。店の主たちも、エリオットが悪いわけじゃないと赦してくれたんだが、エリオットは女にうつつを抜かした自分の息子を廃嫡した。その時、妻から離縁したいと言われ、それを承諾した」
「え?なぜ宰相様と離縁したいなんて、」
「息子を庇うどころか廃嫡なんてする男には愛想がつきたんだとよ。バカ女が。そもそもまともに面倒も見ず教育もせず、あんなバカに育てたのはてめぇのくせに、すべてエリオットのせいにして暴言を吐いたそうだ。スティーブが、見るに耐えなかった、あのまま続いていたらあの女を斬り殺すところでしたと…あの温厚なスティーブが凶悪な顔で吐き捨てるくらいだからよっぽどひどかったんだろうよ」
おおう…わんこが「斬り殺す」なんて…。似合わなすぎる。ほんわかかわいいのに、スティーブさん。自分が守っている宰相様が貶められて頭にきたんだろうなあ。私は宰相様のことしか知らないし、奥様…元奥様についてソフィアの頭にはないからわからないけど、今のチンピラの話を聞くに宰相様に悪いところはひとつも見当たらない。逆恨みもいいところだ。
「幸い、次男は聡くてな。母親は一緒に連れて行く気満々だったらしいが『父上に暴言を吐くようなクズはさっさと出ていけ。二度と公爵家の敷居を跨ぐな。連絡も寄越すな。誓約書を作るから署名しろ。あ、元兄上も同様ですよ。もし破ったら、僕の手であんたたちを処刑する』と叩きつけたらしい。ブリザードが吹き荒れているような冷たさだったと、これまたスティーブが言っていた」
「その、宰相様のご子息はおいくつなんですか?」
「上…元長男が20歳になる。おまえらの一個上だな。現長男は、売女と同じ学年だ。俺の双子の息子と同級生だ。おまえの書類上の夫が学園を卒業しただろ?いねぇことをいいことに、アピールがすげえらしいよ。さすがに噂は出回ってるから、カラダ目当てじゃない限りひっかかる男はいねぇらしいがな。ディーンもゼインも、隙あらば腕を組んでこようとするあの女に嫌気がさして、『今度触ろうとしたら不敬罪で処刑する。触るな、売女』って宣言したらしいぜ。王族の権利を振りかざすような真似をして申し訳ありません、なんて謝罪にきやがって…まったく、いい息子たちだよ」
あのイケメン双子にそこまで言わせるとは…ある意味大物だな、ミューズ。
「あの売女は、俺の長男も狙ってるらしくてな」
その発言に「ん?」とハテナマークが浮かぶ。
「…陛下の長男は、もう手に入れたも同然じゃないですか。私が陛下の課題をクリアできれば結婚できるんだし、何しろ皇太子自身がミューズにベタぼれなんですよ?」
私の言葉にハッ、としたような顔になった国王は、「…そうだったな。そうだった」とボソリと呟いた。
「…おまえに接触はねぇのか、売女は。離宮の場所は知らねぇからまず大丈夫だろうが、王宮には頻繁に来てるみてぇだぞ、おまえの書類上の夫に集りに」
そう言われても、目にしたことないなぁ。皇太子の姿も、ミューズの姿も。
「まあ…ソフィア自体がまったく知らなかったことだから仕方ねぇが…エリオットは、優しくねぇぞ。この国の宰相、信頼する俺の右腕だからな。
あいつはな、ソフィア。自分の息子を切り捨てたんだ。国のためにならないと言ってな。親子の情よりもあいつは、…ソルマーレ国を考えてくれたんだ。ツラかっただろうに、そんなことは微塵もみせねぇ。あいつは、ほんと…いいヤツなんだよ」
チンピラが途端にしんみりする。
「息子さんを切り捨てたって、どういうことですか?」
「…おまえの書類上の夫がいるだろ」
「…陛下の息子ですよね」
私の言葉を流してもう一度チンピラは「おまえの書類上の夫が、」と言った。なんなの。
「夢中になってるあの女…ライラ・ダレンがいるだろ。あの女はな、高位貴族の見た目がいい子息に近づいちゃ、自分のカラダを餌に貢がせて贅沢三昧する性悪女なんだよ」
…え?
「自分のカラダを餌に?え?もう、処女じゃないってこと?」
チンピラは「これだから駄豚と呼ばれるんだぞおまえは」と嘆息する。ちょっと。その呆れきったみたいな態度やめて。
「あの調印式の時に俺とおまえの書類上の夫、そしてボールドウィン伯爵の会話を聞いてなかったのか?あ?」
凄まれても困る。
「…何か重要なこと言ってましたっけ」
ミューズが足蹴にされたのがあまりに衝撃的すぎて、会話なんて頭に残ってない。ほぼ。
「おまえの書類上の夫とあの女が乳繰り合っている証拠がある、と俺は言った。それを聞いたボールドウィンは、また男漁りをしていたのか、と言ったんだ。男をたらしこむ天性の売女なんだよ、あれは。…エリオットの息子もそれにひっかかっちまってなぁ。自分の家…公爵家の権威を振りかざして、あの女に要求されるままに貢ぎまくったんだよ。金も払わずに、商品ばかり巻き上げてな」
「そんな、女、なのに…なんで、」
「おまえの書類上の夫は、見たくない、聞きたくないものは自分の頭に残さない天性のクズだ。エリオットの息子はじめ、一年半前には大騒ぎだったんだぞ。あの売女もさすがにマズイと思ったのか半年ほどは鳴りを潜めてたんだが…学園に入学して父親の目が離れた途端、クズに目をつけたんだよ」
チンピラ国王のまとってる雰囲気がだんだん険悪になってきて怖い。
「エリオットは、バカ息子がこさえた借金をすべて精算し、被害を受けた店の主たちに毎日のように謝罪に行った。あの憔悴ぶりは見てらんなくてなぁ…。店の主たちも、エリオットが悪いわけじゃないと赦してくれたんだが、エリオットは女にうつつを抜かした自分の息子を廃嫡した。その時、妻から離縁したいと言われ、それを承諾した」
「え?なぜ宰相様と離縁したいなんて、」
「息子を庇うどころか廃嫡なんてする男には愛想がつきたんだとよ。バカ女が。そもそもまともに面倒も見ず教育もせず、あんなバカに育てたのはてめぇのくせに、すべてエリオットのせいにして暴言を吐いたそうだ。スティーブが、見るに耐えなかった、あのまま続いていたらあの女を斬り殺すところでしたと…あの温厚なスティーブが凶悪な顔で吐き捨てるくらいだからよっぽどひどかったんだろうよ」
おおう…わんこが「斬り殺す」なんて…。似合わなすぎる。ほんわかかわいいのに、スティーブさん。自分が守っている宰相様が貶められて頭にきたんだろうなあ。私は宰相様のことしか知らないし、奥様…元奥様についてソフィアの頭にはないからわからないけど、今のチンピラの話を聞くに宰相様に悪いところはひとつも見当たらない。逆恨みもいいところだ。
「幸い、次男は聡くてな。母親は一緒に連れて行く気満々だったらしいが『父上に暴言を吐くようなクズはさっさと出ていけ。二度と公爵家の敷居を跨ぐな。連絡も寄越すな。誓約書を作るから署名しろ。あ、元兄上も同様ですよ。もし破ったら、僕の手であんたたちを処刑する』と叩きつけたらしい。ブリザードが吹き荒れているような冷たさだったと、これまたスティーブが言っていた」
「その、宰相様のご子息はおいくつなんですか?」
「上…元長男が20歳になる。おまえらの一個上だな。現長男は、売女と同じ学年だ。俺の双子の息子と同級生だ。おまえの書類上の夫が学園を卒業しただろ?いねぇことをいいことに、アピールがすげえらしいよ。さすがに噂は出回ってるから、カラダ目当てじゃない限りひっかかる男はいねぇらしいがな。ディーンもゼインも、隙あらば腕を組んでこようとするあの女に嫌気がさして、『今度触ろうとしたら不敬罪で処刑する。触るな、売女』って宣言したらしいぜ。王族の権利を振りかざすような真似をして申し訳ありません、なんて謝罪にきやがって…まったく、いい息子たちだよ」
あのイケメン双子にそこまで言わせるとは…ある意味大物だな、ミューズ。
「あの売女は、俺の長男も狙ってるらしくてな」
その発言に「ん?」とハテナマークが浮かぶ。
「…陛下の長男は、もう手に入れたも同然じゃないですか。私が陛下の課題をクリアできれば結婚できるんだし、何しろ皇太子自身がミューズにベタぼれなんですよ?」
私の言葉にハッ、としたような顔になった国王は、「…そうだったな。そうだった」とボソリと呟いた。
「…おまえに接触はねぇのか、売女は。離宮の場所は知らねぇからまず大丈夫だろうが、王宮には頻繁に来てるみてぇだぞ、おまえの書類上の夫に集りに」
そう言われても、目にしたことないなぁ。皇太子の姿も、ミューズの姿も。
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