30 / 161
ジャポン皇国へ
1
しおりを挟む
ジャポン皇国は、玄武州、青龍州、朱雀州、白虎州の4つの州から成り立つ国で、それを治める皇帝陛下は首都を戴く朱雀州に住まいを構える。チンピラ国王から聞いた外観は、日本の姫路城のようだった。
日本地図と合わせるようにして見ると、北海道、東北地方、新潟県を合わせたのが玄武州。関東、甲信越地方が青龍州。中部、近畿、中国地方が朱雀州。四国、九州地方が白虎州。
船の中でこの世界の地図を見ながら、チンピラが言っていたことを思い出す。
「ジャポン皇国は地図には存在するんだが、なかなか辿り着くことができねぇんだよ。国交を開いた今、ソルマーレ国の船は受け入れてもらえるが」
「ソルマーレ国以外にも、国交を開いている国はあるんですか?」
「あとは、反対側の大陸にあるタイトレア国だな。皇帝が言うにはうちとタイトレアと2国だけらしい。
ジャポン皇国は、この大陸から船で2日もあれば行ける国だ。それなのに攻め込まれることもなく、属国になることなく300年以上の歴史を重ねている。なんでだと思う?」
「なんにも魅力のない国だから?」
途端にまた頭をグリグリやられる。握力!握力考えて!潰される…!
「俺はさっき、辿り着くことができねぇんだ、って言っただろ。人の話を聞いてんのか?知性がない豚に逆戻りしたのか?」
グサグサ抉るのはやめて欲しい。変態近衛と一緒になって、私を豚呼ばわりするのは何とかならないのか。変態近衛に至ってはペットの駄豚認識である。…やはり痩せて体型を変えるしかない。
「なんで辿り着くことができないんですか」
チンピラはニヤリとすると、
「あの国はな。おまえのように、前世の記憶を持ってる人間や、召還?って言ってたと思うんだが、違う世界から来た、ニッポン人とかいうのが作った国なんだと。
ジャポン皇国が受け入れる、としない限りジャポン皇国には永久に辿り着くことができない、目眩まし?みたいな技術があるんだと。おまえもそういうことできんのか?」
そんな技術聞いたことない。国全体を、丸々存在しないように他者の目から隠すってこと?
「私が生活してた日本には、そんな技術はありませんでした」
そんな、透明人間になれちゃう!みたいな技術…存在したら大変なことだ。犯罪に使われ放題になってしまう。
その懸念を話すと、「皇帝が言うには、あくまでも国を隠す技術だから個人で使うことはできねぇらしいよ。今いる人間で、その技術を生み出すことはできねぇらしい」
「技術を継承しなかったということですか?」
「そのあたりは企業秘密だと言われた」
…国家機密の間違いでは?
「そんな国に、陛下はどうやってたどり着いたんですか?そもそも何故、国交を開きたいと?」
チンピラは私をじっと見ると、「おまえは、目の前にいる人間…まあ、人間に限らなくてもいいんだが、新しいこと、未知なるものを知りたいという欲求はねぇのか?たとえばおまえの近衛のギデオンについて、とか」と探るような目付きになった。
なぜここで変態近衛の名前が出てくるのかわからない。
「…なんでギデオンさんですか?」
「いや、まあ…おまえの近くにいるのは、ギデオンとアネットの二人だろ?あの二人について、どんな生まれとか、家族構成とか、知りたいと思わねぇのか?特にギデオンは男だろ、その…たとえば恋人はいるのか、とか、気にならねぇのか?」
なぜ私が変態近衛に恋人がいるかどうかを気にしなくてはならないのだろう…え、まさか、
「ギデオンさんから苦情が出たんですか?離宮にいるおかげで恋人と会えないって?だったらいつでもお返ししますから、陛下、連れて帰ってくださいよ」
私の言葉を聞いたチンピラはなんとも言えない顔になった。…それ、なんの感情?
「…おまえはほんとにギデオンに興味がねぇんだな。あいつは、見た目はいい男だと思うんだが…カッコいい、とか、こんなイケメンに守られちゃって好きになっちゃいそう!顔が良すぎて!とかねぇのか?」
そんなに見た目だけ、みたいな言い方しなくても…変態近衛が少し気の毒になる。
「確かにカッコいいでしょうけど、」
「だろ!?」
…そんな被せ気味に言うことなの?
「カッコいい、って思ってはいるんだな?」
「うーん…なんて言えばいいんですかね。一般論としてなら確かにカッコいいでしょうけど、私は別にそれで相手を好きになったり、付き合いたいとか思わないので」
だいたいソフィアの贅肉だらけのカラダを触って「気持ちいい」発言をする変態なのに、ギデオンさんは。物理的攻撃もしてくるし、ゴリゴリ精神も削られるし、いくらカッコいいからと言ってあれはない。距離感ゼロだし。会ったばかりで「一緒に寝る」って言って、ほんとに実行しちゃうんだよ?どういう育ち方してきたのか…ご両親の顔が見たい。
チンピラは、「…そうか」と呟いた。なんだか困ったような、それでいて心持ち嬉しそうな顔になる。
「それより、ギデオンさんとジャポン皇国との国交と、何がどう繋がるんですか?」
「いや、だから…未知なるものは、知りたいと思わねぇのか、ってことだよ。俺はな、地図に存在してるのに誰も詳しいことを知らないジャポン皇国について、知りたくて知りたくて仕方なかったんだよ。
だから、船でそのあたりまで行って、さらに小舟にひとりで乗り込んで、真っ裸で叫んだんだ。あんたたちのことを知りたい、純粋に、ただ知りたい、ぜひとも俺にチャンスをくれ、ってな」
…なんだと?
「あの、陛下…」
「なんだ」
「言葉が通じない可能性は考えなかったんですか…?」
チンピラはキョトンとした顔になった。その顔、似合わない。似合わなすぎるからやめて。
「そんなこと考えてたら新しいことなんて何にも知ることができねぇだろ。なんとかなる、って気持ちだけだよ。100回行って、ようやく中に入れてもらえたんだ」
その執念…こんなチンピラに見初められてしまった王妃陛下が気の毒になる。ジャポン皇国も、きっと根負けしてしまったのだろう…お気の毒…。そのおかげで、私は米に再会できそうだけど。
日本地図と合わせるようにして見ると、北海道、東北地方、新潟県を合わせたのが玄武州。関東、甲信越地方が青龍州。中部、近畿、中国地方が朱雀州。四国、九州地方が白虎州。
船の中でこの世界の地図を見ながら、チンピラが言っていたことを思い出す。
「ジャポン皇国は地図には存在するんだが、なかなか辿り着くことができねぇんだよ。国交を開いた今、ソルマーレ国の船は受け入れてもらえるが」
「ソルマーレ国以外にも、国交を開いている国はあるんですか?」
「あとは、反対側の大陸にあるタイトレア国だな。皇帝が言うにはうちとタイトレアと2国だけらしい。
ジャポン皇国は、この大陸から船で2日もあれば行ける国だ。それなのに攻め込まれることもなく、属国になることなく300年以上の歴史を重ねている。なんでだと思う?」
「なんにも魅力のない国だから?」
途端にまた頭をグリグリやられる。握力!握力考えて!潰される…!
「俺はさっき、辿り着くことができねぇんだ、って言っただろ。人の話を聞いてんのか?知性がない豚に逆戻りしたのか?」
グサグサ抉るのはやめて欲しい。変態近衛と一緒になって、私を豚呼ばわりするのは何とかならないのか。変態近衛に至ってはペットの駄豚認識である。…やはり痩せて体型を変えるしかない。
「なんで辿り着くことができないんですか」
チンピラはニヤリとすると、
「あの国はな。おまえのように、前世の記憶を持ってる人間や、召還?って言ってたと思うんだが、違う世界から来た、ニッポン人とかいうのが作った国なんだと。
ジャポン皇国が受け入れる、としない限りジャポン皇国には永久に辿り着くことができない、目眩まし?みたいな技術があるんだと。おまえもそういうことできんのか?」
そんな技術聞いたことない。国全体を、丸々存在しないように他者の目から隠すってこと?
「私が生活してた日本には、そんな技術はありませんでした」
そんな、透明人間になれちゃう!みたいな技術…存在したら大変なことだ。犯罪に使われ放題になってしまう。
その懸念を話すと、「皇帝が言うには、あくまでも国を隠す技術だから個人で使うことはできねぇらしいよ。今いる人間で、その技術を生み出すことはできねぇらしい」
「技術を継承しなかったということですか?」
「そのあたりは企業秘密だと言われた」
…国家機密の間違いでは?
「そんな国に、陛下はどうやってたどり着いたんですか?そもそも何故、国交を開きたいと?」
チンピラは私をじっと見ると、「おまえは、目の前にいる人間…まあ、人間に限らなくてもいいんだが、新しいこと、未知なるものを知りたいという欲求はねぇのか?たとえばおまえの近衛のギデオンについて、とか」と探るような目付きになった。
なぜここで変態近衛の名前が出てくるのかわからない。
「…なんでギデオンさんですか?」
「いや、まあ…おまえの近くにいるのは、ギデオンとアネットの二人だろ?あの二人について、どんな生まれとか、家族構成とか、知りたいと思わねぇのか?特にギデオンは男だろ、その…たとえば恋人はいるのか、とか、気にならねぇのか?」
なぜ私が変態近衛に恋人がいるかどうかを気にしなくてはならないのだろう…え、まさか、
「ギデオンさんから苦情が出たんですか?離宮にいるおかげで恋人と会えないって?だったらいつでもお返ししますから、陛下、連れて帰ってくださいよ」
私の言葉を聞いたチンピラはなんとも言えない顔になった。…それ、なんの感情?
「…おまえはほんとにギデオンに興味がねぇんだな。あいつは、見た目はいい男だと思うんだが…カッコいい、とか、こんなイケメンに守られちゃって好きになっちゃいそう!顔が良すぎて!とかねぇのか?」
そんなに見た目だけ、みたいな言い方しなくても…変態近衛が少し気の毒になる。
「確かにカッコいいでしょうけど、」
「だろ!?」
…そんな被せ気味に言うことなの?
「カッコいい、って思ってはいるんだな?」
「うーん…なんて言えばいいんですかね。一般論としてなら確かにカッコいいでしょうけど、私は別にそれで相手を好きになったり、付き合いたいとか思わないので」
だいたいソフィアの贅肉だらけのカラダを触って「気持ちいい」発言をする変態なのに、ギデオンさんは。物理的攻撃もしてくるし、ゴリゴリ精神も削られるし、いくらカッコいいからと言ってあれはない。距離感ゼロだし。会ったばかりで「一緒に寝る」って言って、ほんとに実行しちゃうんだよ?どういう育ち方してきたのか…ご両親の顔が見たい。
チンピラは、「…そうか」と呟いた。なんだか困ったような、それでいて心持ち嬉しそうな顔になる。
「それより、ギデオンさんとジャポン皇国との国交と、何がどう繋がるんですか?」
「いや、だから…未知なるものは、知りたいと思わねぇのか、ってことだよ。俺はな、地図に存在してるのに誰も詳しいことを知らないジャポン皇国について、知りたくて知りたくて仕方なかったんだよ。
だから、船でそのあたりまで行って、さらに小舟にひとりで乗り込んで、真っ裸で叫んだんだ。あんたたちのことを知りたい、純粋に、ただ知りたい、ぜひとも俺にチャンスをくれ、ってな」
…なんだと?
「あの、陛下…」
「なんだ」
「言葉が通じない可能性は考えなかったんですか…?」
チンピラはキョトンとした顔になった。その顔、似合わない。似合わなすぎるからやめて。
「そんなこと考えてたら新しいことなんて何にも知ることができねぇだろ。なんとかなる、って気持ちだけだよ。100回行って、ようやく中に入れてもらえたんだ」
その執念…こんなチンピラに見初められてしまった王妃陛下が気の毒になる。ジャポン皇国も、きっと根負けしてしまったのだろう…お気の毒…。そのおかげで、私は米に再会できそうだけど。
46
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる