お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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ジャポン皇国へ

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ジャポン皇国は、玄武州、青龍州、朱雀州、白虎州の4つの州から成り立つ国で、それを治める皇帝陛下は首都を戴く朱雀州に住まいを構える。チンピラ国王から聞いた外観は、日本の姫路城のようだった。

日本地図と合わせるようにして見ると、北海道、東北地方、新潟県を合わせたのが玄武州。関東、甲信越地方が青龍州。中部、近畿、中国地方が朱雀州。四国、九州地方が白虎州。

船の中でこの世界の地図を見ながら、チンピラが言っていたことを思い出す。

「ジャポン皇国は地図には存在するんだが、なかなか辿り着くことができねぇんだよ。国交を開いた今、ソルマーレ国の船は受け入れてもらえるが」

「ソルマーレ国以外にも、国交を開いている国はあるんですか?」

「あとは、反対側の大陸にあるタイトレア国だな。皇帝が言うにはうちとタイトレアと2国だけらしい。
ジャポン皇国は、この大陸から船で2日もあれば行ける国だ。それなのに攻め込まれることもなく、属国になることなく300年以上の歴史を重ねている。なんでだと思う?」

「なんにも魅力のない国だから?」

途端にまた頭をグリグリやられる。握力!握力考えて!潰される…!

「俺はさっき、辿り着くことができねぇんだ、って言っただろ。人の話を聞いてんのか?知性がない豚に逆戻りしたのか?」

グサグサ抉るのはやめて欲しい。変態近衛と一緒になって、私を豚呼ばわりするのは何とかならないのか。変態近衛に至ってはペットの駄豚認識である。…やはり痩せて体型を変えるしかない。

「なんで辿り着くことができないんですか」

チンピラはニヤリとすると、

「あの国はな。おまえのように、前世の記憶を持ってる人間や、召還?って言ってたと思うんだが、違う世界から来た、ニッポン人とかいうのが作った国なんだと。
ジャポン皇国が受け入れる、としない限りジャポン皇国には永久に辿り着くことができない、目眩まし?みたいな技術があるんだと。おまえもそういうことできんのか?」

そんな技術聞いたことない。国全体を、丸々存在しないように他者の目から隠すってこと?

「私が生活してた日本には、そんな技術はありませんでした」

そんな、透明人間になれちゃう!みたいな技術…存在したら大変なことだ。犯罪に使われ放題になってしまう。

その懸念を話すと、「皇帝が言うには、あくまでも国を隠す技術だから個人で使うことはできねぇらしいよ。今いる人間で、その技術を生み出すことはできねぇらしい」

「技術を継承しなかったということですか?」

「そのあたりは企業秘密だと言われた」

…国家機密の間違いでは?

「そんな国に、陛下はどうやってたどり着いたんですか?そもそも何故、国交を開きたいと?」

チンピラは私をじっと見ると、「おまえは、目の前にいる人間…まあ、人間に限らなくてもいいんだが、新しいこと、未知なるものを知りたいという欲求はねぇのか?たとえばおまえの近衛のギデオンについて、とか」と探るような目付きになった。

なぜここで変態近衛の名前が出てくるのかわからない。

「…なんでギデオンさんですか?」

「いや、まあ…おまえの近くにいるのは、ギデオンとアネットの二人だろ?あの二人について、どんな生まれとか、家族構成とか、知りたいと思わねぇのか?特にギデオンは男だろ、その…たとえば恋人はいるのか、とか、気にならねぇのか?」

なぜ私が変態近衛に恋人がいるかどうかを気にしなくてはならないのだろう…え、まさか、

「ギデオンさんから苦情が出たんですか?離宮にいるおかげで恋人と会えないって?だったらいつでもお返ししますから、陛下、連れて帰ってくださいよ」

私の言葉を聞いたチンピラはなんとも言えない顔になった。…それ、なんの感情?

「…おまえはほんとにギデオンに興味がねぇんだな。あいつは、見た目はいい男だと思うんだが…カッコいい、とか、こんなイケメンに守られちゃって好きになっちゃいそう!顔が良すぎて!とかねぇのか?」

そんなに見た目だけ、みたいな言い方しなくても…変態近衛が少し気の毒になる。

「確かにカッコいいでしょうけど、」

「だろ!?」

…そんな被せ気味に言うことなの?

「カッコいい、って思ってはいるんだな?」

「うーん…なんて言えばいいんですかね。一般論としてなら確かにカッコいいでしょうけど、私は別にそれで相手を好きになったり、付き合いたいとか思わないので」

だいたいソフィアの贅肉だらけのカラダを触って「気持ちいい」発言をする変態なのに、ギデオンさんは。物理的攻撃もしてくるし、ゴリゴリ精神も削られるし、いくらカッコいいからと言ってあれはない。距離感ゼロだし。会ったばかりで「一緒に寝る」って言って、ほんとに実行しちゃうんだよ?どういう育ち方してきたのか…ご両親の顔が見たい。

チンピラは、「…そうか」と呟いた。なんだか困ったような、それでいて心持ち嬉しそうな顔になる。

「それより、ギデオンさんとジャポン皇国との国交と、何がどう繋がるんですか?」

「いや、だから…未知なるものは、知りたいと思わねぇのか、ってことだよ。俺はな、地図に存在してるのに誰も詳しいことを知らないジャポン皇国について、知りたくて知りたくて仕方なかったんだよ。
だから、船でそのあたりまで行って、さらに小舟にひとりで乗り込んで、真っ裸で叫んだんだ。あんたたちのことを知りたい、純粋に、ただ知りたい、ぜひとも俺にチャンスをくれ、ってな」

…なんだと?

「あの、陛下…」

「なんだ」

「言葉が通じない可能性は考えなかったんですか…?」

チンピラはキョトンとした顔になった。その顔、似合わない。似合わなすぎるからやめて。

「そんなこと考えてたら新しいことなんて何にも知ることができねぇだろ。なんとかなる、って気持ちだけだよ。100回行って、ようやく中に入れてもらえたんだ」

その執念…こんなチンピラに見初められてしまった王妃陛下が気の毒になる。ジャポン皇国も、きっと根負けしてしまったのだろう…お気の毒…。そのおかげで、私は米に再会できそうだけど。

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