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悪魔がペットを好きすぎる件
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あまりに突然のことに目もつぶれず、ドアップすぎる悪魔のキレイな瞳と目がバッチリ合ってしまう。
…この人。ほんと、ペットと全力で触れ合いたい人種なんだなぁ。幼い頃、隣に住んでいたご家族は飼っている犬が大好きで、よく口づけているところを目にした。私はペットを飼ったことがなかったので、そのご家族の飼い犬に対する溢れ出る愛情に驚いたものだ。「可愛い」と思うと、もっと深く触れ合いたいと思うのかもしれない。悪魔が私を「可愛い」と思っているかどうかはまた別の話だが。
そんなことを考えていると、悪魔が唇を離した。
真っ赤な顔で、嬉しそうにしている。
「フィー、気持ちいいです。口づけとは、こんなに気持ちいいものなのですね」
悪魔の「初めて」発言に私は心底悪魔が気の毒になった。自分のペット…しかも、駄豚と呼んで憚らないペットとファーストキスを迎えてしまうとは。…あ、ペットだからゼロカウントでいいか。良かったね、ギデオンさん。
「フィー、もう一度してもいいですか」
「ギデオンさん、」
「お願いします。フィー、お願いします」
そんな真剣な顔で頼まなくても…ペットなんだから、好きにすればいい。寝せないとか、横暴にしてるくせになんでこんな時ばかり「お願い」などと言うのか。
「ギデオンさん、ギデオンさんはせっかくのイケメンなんですよ。私はギデオンさんのせいでBLのドS攻めをキライになりそうですが、普通の女性ならギデオンさんにお願いしてでもキスして欲しいと思うくらいのイケメンです、たぶん。そんなギデオンさんが、私にわざわざお願いします、なんて言う必要はないですよ。好きにしてください」
「…好きにしていいんですか」
「いいでしょ、今までだって好きにしてきたじゃないですか」
毎日毎日隣で寝てるくせに、何を今さら、だ。
悪魔は、私をじっと見ると、懐から何かを取り出し私の手を取った。
「フィー、これは、わたくしの母が結婚前に父から贈られた指輪です。これをつけて、ジャポン皇国に行ってください」
私の右手の薬指にそっと指輪をはめた悪魔は、満足そうに「ふふ」と笑った。
「ギデオンさん、そんな大切なものを」
「いいんです。これは、フィーがわたくしのものだという証になりますよね、ね、フィー、なりますよね」
ああ、悪魔のペットだと周知しておきたいんだ。確かにまだ太ってはいるが、たぶんジャポン皇国の方々には私は人間に見えるはず。私をペットにしたいなんて人が出てくるはずもないのに。心配性な悪魔だ。
まあでも、首輪にされなかっただけありがたい。そういう性癖だと思われたら心底困る。
「ギデオンさん、心配しなくても私を欲しがる人はいませんよ」
「でも、つけてください。お願いします」
…本当に、残念なイケメンだ。自分の価値がまったくわかっていない。私相手にお願いなんてしなくても、喜んで指輪を付けてくれるキレイなお姉ちゃんはたくさんいるのに。
私がジャポン皇国に行っている間、そういう対象がギデオンさんに現れてくれるといいなと思っていると、悪魔がまた口づけてきた。
チュッ、チュッ、と何度も繰り返す悪魔が可愛らしくなり、なんとなく頭を撫でてみると、「フィー、」と感極まったような声で呟き、舌を入れてきた。そうか。私で練習できれば、イケメンの上にキスもうまいドSになれるんじゃない?見た目だけじゃなく、テクニックもあればさらにお姉ちゃんたちはイチコロだろう。
私も別にうまくはないだろうが、経験があるぶんギデオンさんよりはうまいはず。私はギデオンさんの頬に手をあて、自分の方に引き寄せた。角度を変え、唇を重ね、ギデオンさんの舌に舌を絡める。スリスリしたり、チュッと吸い上げたり、唇を舐めたり。
「フ、フィー、き、気持ちいい、もっと、」
…なんか、ドSを屈伏させたみたいで少しだけ溜飲が下りた。今まで抉られてきたぶんはお返しできただろう。
ギデオンさんは、真っ赤な顔で目がトロンとしてきた。気持ちよくなってくれて良かった。その気持ちよさを与えてあげればお姉ちゃんたちとも闘えるよ、ギデオンさん!
「ギデオンさん、じゃ、私寝るね。指輪ありがとう。大切に持って帰ってくるからね。おやすみ」
「…え?」
気の抜けた返事が聞こえてきたが、私はそれどころではない。早く寝なくては!明日寝坊なんてしたら、王妃陛下に何をされるかわからない!
その後はぐっすり眠ることができ、遠足前の子どもの状態かとツッコミたくなるくらい早く目覚めた。隣には私に絡み付くようにして寝ている悪魔がいる。
悪魔の腕からなんとか抜け出し、支度を始めた。今日は王宮から馬車で港まで行き、船に揺られて船中泊。明日のお昼頃にはジャポン皇国に降り立てるらしい。
カラダを動かすことが難しいだろうから、早く起きたのをいいことに歩いて王宮に向かうことにした。荷物はアネットさんが昨日のうちに運んでくれている。
もう一度寝室に戻ると、悪魔はスヤスヤ眠っていた。キレイな顔。
「行ってきます」
悪魔の額にチュッとする。お姉ちゃんたちと頑張れよ、と気持ちを込めて。私もジャポン皇国でダイエット頑張ってくるから、お互い円満に飼い主とペットの関係を解消しようね!痩せたら抱き枕からも解放してくれるだろう。そしてできることなら、私の近衛騎士からも外れてほしい。王妃陛下ともあんなに親しそうなんだし、イケメン双子王子の近衛とかどうかな?
ウキウキ浮かれポンチ状態だった私は、この時何も知らなかった。
…この人。ほんと、ペットと全力で触れ合いたい人種なんだなぁ。幼い頃、隣に住んでいたご家族は飼っている犬が大好きで、よく口づけているところを目にした。私はペットを飼ったことがなかったので、そのご家族の飼い犬に対する溢れ出る愛情に驚いたものだ。「可愛い」と思うと、もっと深く触れ合いたいと思うのかもしれない。悪魔が私を「可愛い」と思っているかどうかはまた別の話だが。
そんなことを考えていると、悪魔が唇を離した。
真っ赤な顔で、嬉しそうにしている。
「フィー、気持ちいいです。口づけとは、こんなに気持ちいいものなのですね」
悪魔の「初めて」発言に私は心底悪魔が気の毒になった。自分のペット…しかも、駄豚と呼んで憚らないペットとファーストキスを迎えてしまうとは。…あ、ペットだからゼロカウントでいいか。良かったね、ギデオンさん。
「フィー、もう一度してもいいですか」
「ギデオンさん、」
「お願いします。フィー、お願いします」
そんな真剣な顔で頼まなくても…ペットなんだから、好きにすればいい。寝せないとか、横暴にしてるくせになんでこんな時ばかり「お願い」などと言うのか。
「ギデオンさん、ギデオンさんはせっかくのイケメンなんですよ。私はギデオンさんのせいでBLのドS攻めをキライになりそうですが、普通の女性ならギデオンさんにお願いしてでもキスして欲しいと思うくらいのイケメンです、たぶん。そんなギデオンさんが、私にわざわざお願いします、なんて言う必要はないですよ。好きにしてください」
「…好きにしていいんですか」
「いいでしょ、今までだって好きにしてきたじゃないですか」
毎日毎日隣で寝てるくせに、何を今さら、だ。
悪魔は、私をじっと見ると、懐から何かを取り出し私の手を取った。
「フィー、これは、わたくしの母が結婚前に父から贈られた指輪です。これをつけて、ジャポン皇国に行ってください」
私の右手の薬指にそっと指輪をはめた悪魔は、満足そうに「ふふ」と笑った。
「ギデオンさん、そんな大切なものを」
「いいんです。これは、フィーがわたくしのものだという証になりますよね、ね、フィー、なりますよね」
ああ、悪魔のペットだと周知しておきたいんだ。確かにまだ太ってはいるが、たぶんジャポン皇国の方々には私は人間に見えるはず。私をペットにしたいなんて人が出てくるはずもないのに。心配性な悪魔だ。
まあでも、首輪にされなかっただけありがたい。そういう性癖だと思われたら心底困る。
「ギデオンさん、心配しなくても私を欲しがる人はいませんよ」
「でも、つけてください。お願いします」
…本当に、残念なイケメンだ。自分の価値がまったくわかっていない。私相手にお願いなんてしなくても、喜んで指輪を付けてくれるキレイなお姉ちゃんはたくさんいるのに。
私がジャポン皇国に行っている間、そういう対象がギデオンさんに現れてくれるといいなと思っていると、悪魔がまた口づけてきた。
チュッ、チュッ、と何度も繰り返す悪魔が可愛らしくなり、なんとなく頭を撫でてみると、「フィー、」と感極まったような声で呟き、舌を入れてきた。そうか。私で練習できれば、イケメンの上にキスもうまいドSになれるんじゃない?見た目だけじゃなく、テクニックもあればさらにお姉ちゃんたちはイチコロだろう。
私も別にうまくはないだろうが、経験があるぶんギデオンさんよりはうまいはず。私はギデオンさんの頬に手をあて、自分の方に引き寄せた。角度を変え、唇を重ね、ギデオンさんの舌に舌を絡める。スリスリしたり、チュッと吸い上げたり、唇を舐めたり。
「フ、フィー、き、気持ちいい、もっと、」
…なんか、ドSを屈伏させたみたいで少しだけ溜飲が下りた。今まで抉られてきたぶんはお返しできただろう。
ギデオンさんは、真っ赤な顔で目がトロンとしてきた。気持ちよくなってくれて良かった。その気持ちよさを与えてあげればお姉ちゃんたちとも闘えるよ、ギデオンさん!
「ギデオンさん、じゃ、私寝るね。指輪ありがとう。大切に持って帰ってくるからね。おやすみ」
「…え?」
気の抜けた返事が聞こえてきたが、私はそれどころではない。早く寝なくては!明日寝坊なんてしたら、王妃陛下に何をされるかわからない!
その後はぐっすり眠ることができ、遠足前の子どもの状態かとツッコミたくなるくらい早く目覚めた。隣には私に絡み付くようにして寝ている悪魔がいる。
悪魔の腕からなんとか抜け出し、支度を始めた。今日は王宮から馬車で港まで行き、船に揺られて船中泊。明日のお昼頃にはジャポン皇国に降り立てるらしい。
カラダを動かすことが難しいだろうから、早く起きたのをいいことに歩いて王宮に向かうことにした。荷物はアネットさんが昨日のうちに運んでくれている。
もう一度寝室に戻ると、悪魔はスヤスヤ眠っていた。キレイな顔。
「行ってきます」
悪魔の額にチュッとする。お姉ちゃんたちと頑張れよ、と気持ちを込めて。私もジャポン皇国でダイエット頑張ってくるから、お互い円満に飼い主とペットの関係を解消しようね!痩せたら抱き枕からも解放してくれるだろう。そしてできることなら、私の近衛騎士からも外れてほしい。王妃陛下ともあんなに親しそうなんだし、イケメン双子王子の近衛とかどうかな?
ウキウキ浮かれポンチ状態だった私は、この時何も知らなかった。
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