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悪魔がペットを好きすぎる件
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それからの1ヶ月はあっという間に過ぎ去った。平日は王妃陛下のスパルタ教育を受け、土曜日はイケメン双子王子に平仮名、片仮名を教え、離宮の庭の草むしりをし、とにかく歩いた。毎日倒れ込むように眠ったおかげで、ペット大好き悪魔が隣に寝ていてもまったく気にならなかった。悪魔はかなり不満そうでいろいろ話掛けてくるのだが、毎晩王宮から帰る→風呂→ベッドで抱き締められる、というコースで寝るな、というほうが無茶だ。
「フィー、」
明日いよいよジャポン皇国に出発する、というその日も例に洩れずすぐウトウトしてきた私を呼ぶ悪魔。
「…な、ん…です、か…ギデオンさん、…ねむ、い…」
悪魔はいきなり私の頬をギュッと挟み込む。眠いって言ってるのに!ペットにだって寝る権利を認めるべきじゃないの!?
「…ギデオンさん!眠いの!明日は出発も早いし、眠らせて!」
なんとか目を開き抗議すると、私をじっと見つめていた悪魔は、ベッドからスルリと出て行った。
わかってくれたようでありがたい。
そのまままたウトウトしていると、今度はカラダを起こされた。
「フィー、寄りかかって。座ってください」
悪魔が私の起こしたカラダをベッドの背もたれに寄りかからせる。この怒涛の1ヶ月のおかげで、私の腹を始めとする贅肉は控え目になり、こうして座るのも苦ではなくなった。なくなったのだが…。
そのまま隣に座る悪魔を見上げる。なんて意地の悪い飼い主なの?眠いって言ってるのに!
せっかく眠りにつけそうだったところを無理矢理起こされた私の頭は、ぼんやりしきっていた。
「フィー、この1ヶ月で、ずいぶん痩せましたよね」
「…そう、で、…です、ね」
アネットさんが準備してくれた体重計は、初日77キロだったのだが、今朝は70キロという数値を指し示した。元が太っているから、いきなり7キロも落とせることに驚きつつも嬉しかった。
悪魔はいつものように私の腹の肉を揉み始めた。明日いなくなるペットと最後のスキンシップなのだろうか…眠い…。頭がグラグラゆれる。
しかし、悪魔の衝撃発言に頭がスッキリと覚醒した。
「フィー、性交したくなりましたか。性欲が出てきましたか。痩せたら、性欲が出ると言っていました」
「え…?」
「どうなんです。フィー、答えてください」
思わずポカンとなる。この悪魔は何を言ってるんだ?
見上げる私をじっと見下ろす悪魔は私の様子を観察しているようだが、腹を揉む手は止まらない。そちらの方が気になり、頭がうまく働かない。
「ギデオンさん、一度離して」
「イヤです。なぜですか、なぜ離さなくてはいけないのですか、フィーは明日いなくなってしまうのですよ。なぜ触ってはいけないのですか」
捲し立てるように言われるが、とりあえず何とか腹を揉む手を離させた。また揉まれると困るので、仕方なくそのまま手を繋ぐ。
「フィー」
悪魔の顔がかなり恐ろしいことになっている…真っ赤になってきたかと思うと、いきなり頭突きされた。
「いったぁ!?」
「あ、す、すみません、フィー、あの、焦ってしまって、あの、」
「焦って頭突きって何!ギデオンさん、酷いよ!」
悪魔は真っ赤な顔のまま、「頭突きじゃないです」と呟くと、
「あの、フィー、あの、」
「どうしたんですか。…具合が悪いんですか?アネットさんを呼びますか?」
「だ、大丈夫です!呼ばないでください!フィー、さっきのわたくしの質問に答えてください。性交したくなりましたか」
まだ続いてたんだ…。頭突きまでして聞きたいことなんだろうか。
真剣な顔でこちらを見る悪魔の顔はまだほんのり赤かった。なに?ペットに性欲があるとジャポン皇国でご迷惑になるってこと?
「ギデオンさん。私のこの1ヶ月の生活、見てましたよね。夜はもうぐったりで自慰行為どころじゃなかったし、頭を使いすぎて性欲なんてありませんでした!」
「…じゃあまだ、睡眠欲だけですか」
ほんと執念深いというか…人の何気無い発言をよくこうやって覚えていられるな。あ、だから、揚げ足とりができるのか。
「見てわかりませんか」
「…フィーの口から聞きたかったんです」
悪魔は私をギュッとすると、
「フィー、お願いがあるんです。やっぱり卑怯なので、黙ってやるのはやめます」
…何を?さっき黙って頭突きしたじゃん!
「お願いを聞けるかどうか…、」
「いいと言ってください」
「…まず、お願いを言ってください」
「イヤです。フィーが、いいと言えばいいんです。フィーは、わたくしがイヤだと言ったのに結局ジャポン皇国に行ってしまうんですよ!?わたくしのお願いを一度断ったのですから、今度はきくべきです」
ジャポン皇国にそんなに行かせたくないの?ペットロスを恐れてるんだろうけど、私の人生がかかっているんだからそこは絶対に譲れない!
…じゃあ譲るしかないのか、今からされるお願いは。ほんとに我が儘な飼い主だよ、悪魔め!
「命に関わることじゃなければ、あと、明日はやっぱり行くなということじゃなければ、ギデオンさんのお願いをききます」
悪魔はとたんに嬉しそうな顔になり、また私を抱き締めてきた。
「フィー、ありがとうございます。では、さっそく」
そう言って悪魔は、…私の唇に自分の唇を重ねた。
「フィー、」
明日いよいよジャポン皇国に出発する、というその日も例に洩れずすぐウトウトしてきた私を呼ぶ悪魔。
「…な、ん…です、か…ギデオンさん、…ねむ、い…」
悪魔はいきなり私の頬をギュッと挟み込む。眠いって言ってるのに!ペットにだって寝る権利を認めるべきじゃないの!?
「…ギデオンさん!眠いの!明日は出発も早いし、眠らせて!」
なんとか目を開き抗議すると、私をじっと見つめていた悪魔は、ベッドからスルリと出て行った。
わかってくれたようでありがたい。
そのまままたウトウトしていると、今度はカラダを起こされた。
「フィー、寄りかかって。座ってください」
悪魔が私の起こしたカラダをベッドの背もたれに寄りかからせる。この怒涛の1ヶ月のおかげで、私の腹を始めとする贅肉は控え目になり、こうして座るのも苦ではなくなった。なくなったのだが…。
そのまま隣に座る悪魔を見上げる。なんて意地の悪い飼い主なの?眠いって言ってるのに!
せっかく眠りにつけそうだったところを無理矢理起こされた私の頭は、ぼんやりしきっていた。
「フィー、この1ヶ月で、ずいぶん痩せましたよね」
「…そう、で、…です、ね」
アネットさんが準備してくれた体重計は、初日77キロだったのだが、今朝は70キロという数値を指し示した。元が太っているから、いきなり7キロも落とせることに驚きつつも嬉しかった。
悪魔はいつものように私の腹の肉を揉み始めた。明日いなくなるペットと最後のスキンシップなのだろうか…眠い…。頭がグラグラゆれる。
しかし、悪魔の衝撃発言に頭がスッキリと覚醒した。
「フィー、性交したくなりましたか。性欲が出てきましたか。痩せたら、性欲が出ると言っていました」
「え…?」
「どうなんです。フィー、答えてください」
思わずポカンとなる。この悪魔は何を言ってるんだ?
見上げる私をじっと見下ろす悪魔は私の様子を観察しているようだが、腹を揉む手は止まらない。そちらの方が気になり、頭がうまく働かない。
「ギデオンさん、一度離して」
「イヤです。なぜですか、なぜ離さなくてはいけないのですか、フィーは明日いなくなってしまうのですよ。なぜ触ってはいけないのですか」
捲し立てるように言われるが、とりあえず何とか腹を揉む手を離させた。また揉まれると困るので、仕方なくそのまま手を繋ぐ。
「フィー」
悪魔の顔がかなり恐ろしいことになっている…真っ赤になってきたかと思うと、いきなり頭突きされた。
「いったぁ!?」
「あ、す、すみません、フィー、あの、焦ってしまって、あの、」
「焦って頭突きって何!ギデオンさん、酷いよ!」
悪魔は真っ赤な顔のまま、「頭突きじゃないです」と呟くと、
「あの、フィー、あの、」
「どうしたんですか。…具合が悪いんですか?アネットさんを呼びますか?」
「だ、大丈夫です!呼ばないでください!フィー、さっきのわたくしの質問に答えてください。性交したくなりましたか」
まだ続いてたんだ…。頭突きまでして聞きたいことなんだろうか。
真剣な顔でこちらを見る悪魔の顔はまだほんのり赤かった。なに?ペットに性欲があるとジャポン皇国でご迷惑になるってこと?
「ギデオンさん。私のこの1ヶ月の生活、見てましたよね。夜はもうぐったりで自慰行為どころじゃなかったし、頭を使いすぎて性欲なんてありませんでした!」
「…じゃあまだ、睡眠欲だけですか」
ほんと執念深いというか…人の何気無い発言をよくこうやって覚えていられるな。あ、だから、揚げ足とりができるのか。
「見てわかりませんか」
「…フィーの口から聞きたかったんです」
悪魔は私をギュッとすると、
「フィー、お願いがあるんです。やっぱり卑怯なので、黙ってやるのはやめます」
…何を?さっき黙って頭突きしたじゃん!
「お願いを聞けるかどうか…、」
「いいと言ってください」
「…まず、お願いを言ってください」
「イヤです。フィーが、いいと言えばいいんです。フィーは、わたくしがイヤだと言ったのに結局ジャポン皇国に行ってしまうんですよ!?わたくしのお願いを一度断ったのですから、今度はきくべきです」
ジャポン皇国にそんなに行かせたくないの?ペットロスを恐れてるんだろうけど、私の人生がかかっているんだからそこは絶対に譲れない!
…じゃあ譲るしかないのか、今からされるお願いは。ほんとに我が儘な飼い主だよ、悪魔め!
「命に関わることじゃなければ、あと、明日はやっぱり行くなということじゃなければ、ギデオンさんのお願いをききます」
悪魔はとたんに嬉しそうな顔になり、また私を抱き締めてきた。
「フィー、ありがとうございます。では、さっそく」
そう言って悪魔は、…私の唇に自分の唇を重ねた。
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