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悪魔がペットを好きすぎる件
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王妃陛下に見せてもらった『我が国の食文化』という書物は、日本食の紹介ブックだった。嬉しい…!
「ソフィアちゃん、お米を知ってるの?」
「はい!陛下からお聞きかと思いますが、ソフィアになる前の私が暮らしていた国…日本の主食なんです!」
うわー、味噌、醤油、砂糖、塩、日本酒…ジャポン酒も!刺身とか、天麩羅とか、トンカツもあるの!?すごい!
涎が出そうになりながら眺める私を面白そうに見ていた王妃陛下は、
「ソフィアちゃん」
と私を呼んだ。
「は、…あ、すみません。せっかくお時間いただいてるのに、」
「ううん、あのね。ソフィアちゃん、良かったら、ジャポン皇国に行かない?」
…え?
「実はね、わたくしもこの本を見て、是非にも食べてみたいと思って…!でも、わたくし自ら行けないから、王宮の料理人を二人ほど派遣しようと陛下に申請してみたの。そうしたら、本人が希望するなら行かせていい、って言ってくれたから。ソフィアちゃん、王太子妃って立場では行かせてあげられないけど、見習い料理人として行かない?どう?」
「いいんですかっ!?」
王妃陛下はニコニコすると、「わたくしがお願いしたいのよ、ソフィアちゃんが行ってくれたら嬉しいわ。知識があるんだもの」とギュッと手を握ってくれる。
「行きたいです、是非にも行か」
「ダメです」
ウキウキした気持ちに水を差したのは、やはり悪魔だった。
反論しようとした私よりも先に、王妃陛下の言葉が飛ぶ。
「なぜダメなの?ソフィアちゃんは適任よ。国交を結んで、これからソルマーレとジャポン皇国は異文化交流を深めていくのよ。その第一歩として、食文化の交流を行うのよ。国のためにすることなのに、なぜダメなのか理由を言いなさい」
天使と悪魔がバチバチと睨み合う。怖くて近づけない。
「フィーは、なんにもわからないバカなんですよ、文化の交流に役立つはずがない」
「だから、食文化だって言ったじゃない。ソフィアちゃんが持ってる知識を活かせるのよ」
「ソルマーレ国を代表して行くのに、ソルマーレについて答えられない人間を行かせるべきではないと考えます」
その言葉を聞いた王妃陛下はニヤリと嗤った。昨日覗いたドSの片鱗が…!
「じゃあ、ソフィアちゃんがソルマーレ国についての知識があれば問題ないということね。言ったわよ、ギデオン」
悪魔から私に視線を移した王妃陛下は、「ソフィアちゃん、ジャポン皇国に行くのは1ヶ月後なの。それまでに、我が国についての知識をかんっぺきに仕上げるわよ。いいわね」と宣言した。目が…目が笑ってない…可愛らしい笑顔なのに…。
「…返事は?」
「はい、やります!」
王妃陛下に対する恐怖もあるが、それを上回る嬉しさがある。米を食べられる…!
「フィー、なぜ!?じゃあわたくしも行きます!」
叫ぶ悪魔に王妃陛下は冷たく告げた。
「ソフィアちゃんは、王太子妃として行くんじゃない、見習い料理人として行くのよ。近衛騎士の貴方が着いていくのおかしいじゃない。何を考えてるの?バカも休み休み言いなさい。ソフィアちゃんをバカ呼ばわりしているけれど、貴方のほうがよっぽどバカよ」
痛い。容赦ない。悪魔も、「ぐぅ…っ」と唸るのみで反論できないようだ。
「さ、邪魔だから出て行きなさい、ギデオン。そもそもなぜ部屋の中にしれっといるのかわからないわ。ここにはわたくしの近衛がいるから安心なさい。貴方はどこかで待機してなさい。夕飯には呼んであげるわ。ただし、ソフィアちゃんの隣はわたくしよ。貴方は陛下の隣にでも座りなさい」
しっ、しっ、と犬を払うように手を振る王妃陛下。強い…!羨ましい…!さすが天使…!
ギデオンさんは恨みがましい目で私をじっと見ていたが、トボトボと出て行った。あの後ろ姿を見ると可哀想になるけど、私はジャポン皇国に行きたい!是非にも行きたい!だから邪魔されては困る。ここはいくら可哀想でも放置するしかない。
そこからの3時間で、王妃陛下は私の中で天使から魔王になった。怖い。容赦ない。しかし目的のために、このしごきに耐えるしかない…!必死にノートをとり、王妃陛下が準備してくれた蔵書を読み、最後に確認テストを受ける。ソフィアの頭には本当に何もない…帰ったら復習しないと!
夕食はマナー講習の場になり、王妃陛下に直された部分をメモする。大変だけど楽しい。ただ、…悪魔の視線が痛い。
離宮に戻る馬車の中で、悪魔は私の手を繋ぎ離さなかった。離宮に着くと私を追いたてるように風呂に入れ、入れ違いに自分も高速で入り、すぐさまベッドに押し込まれた。そのままギュウッと抱き込まれる。
「…ギデオンさん、何がしたいの」
「フィーが、ジャポン皇国に行くなんて言うから悪いんです!本当はお風呂だって一緒に入りたいくらいです!」
「何を言ってるの!?いくら私をペットだと思ってるからって、」
衝撃発言に思わず顔を見上げると、ギデオンさんは不貞腐れた顔でこちらを見ていた。
「…どうしても行くんですか。わたくしは行けないのに」
「行くよ。せっかく王妃様がチャンスを与えてくれたんだよ?もしかしたら、陛下の課題を解決するヒントを掴めるかもしれないじゃない。私は、絶対に王太子と離縁するの。そのために、できることはやる。すぐにやる。やらずに後悔したくないの」
一番は米目当てなんだけど。
ギデオンさんは何も言わず、私をギュウッとする。ペットがいなくなると寂しい気持ちはわかるけど、我慢してもらうしかない。
「フィー」
「なに?」
「わたくしとの約束は、必ず守ってもらいますからね」
…内容わからないのに。脅迫にしか聞こえない。
ギデオンさんに抱き込まれたまま、いつの間にか眠りについた。
「ソフィアちゃん、お米を知ってるの?」
「はい!陛下からお聞きかと思いますが、ソフィアになる前の私が暮らしていた国…日本の主食なんです!」
うわー、味噌、醤油、砂糖、塩、日本酒…ジャポン酒も!刺身とか、天麩羅とか、トンカツもあるの!?すごい!
涎が出そうになりながら眺める私を面白そうに見ていた王妃陛下は、
「ソフィアちゃん」
と私を呼んだ。
「は、…あ、すみません。せっかくお時間いただいてるのに、」
「ううん、あのね。ソフィアちゃん、良かったら、ジャポン皇国に行かない?」
…え?
「実はね、わたくしもこの本を見て、是非にも食べてみたいと思って…!でも、わたくし自ら行けないから、王宮の料理人を二人ほど派遣しようと陛下に申請してみたの。そうしたら、本人が希望するなら行かせていい、って言ってくれたから。ソフィアちゃん、王太子妃って立場では行かせてあげられないけど、見習い料理人として行かない?どう?」
「いいんですかっ!?」
王妃陛下はニコニコすると、「わたくしがお願いしたいのよ、ソフィアちゃんが行ってくれたら嬉しいわ。知識があるんだもの」とギュッと手を握ってくれる。
「行きたいです、是非にも行か」
「ダメです」
ウキウキした気持ちに水を差したのは、やはり悪魔だった。
反論しようとした私よりも先に、王妃陛下の言葉が飛ぶ。
「なぜダメなの?ソフィアちゃんは適任よ。国交を結んで、これからソルマーレとジャポン皇国は異文化交流を深めていくのよ。その第一歩として、食文化の交流を行うのよ。国のためにすることなのに、なぜダメなのか理由を言いなさい」
天使と悪魔がバチバチと睨み合う。怖くて近づけない。
「フィーは、なんにもわからないバカなんですよ、文化の交流に役立つはずがない」
「だから、食文化だって言ったじゃない。ソフィアちゃんが持ってる知識を活かせるのよ」
「ソルマーレ国を代表して行くのに、ソルマーレについて答えられない人間を行かせるべきではないと考えます」
その言葉を聞いた王妃陛下はニヤリと嗤った。昨日覗いたドSの片鱗が…!
「じゃあ、ソフィアちゃんがソルマーレ国についての知識があれば問題ないということね。言ったわよ、ギデオン」
悪魔から私に視線を移した王妃陛下は、「ソフィアちゃん、ジャポン皇国に行くのは1ヶ月後なの。それまでに、我が国についての知識をかんっぺきに仕上げるわよ。いいわね」と宣言した。目が…目が笑ってない…可愛らしい笑顔なのに…。
「…返事は?」
「はい、やります!」
王妃陛下に対する恐怖もあるが、それを上回る嬉しさがある。米を食べられる…!
「フィー、なぜ!?じゃあわたくしも行きます!」
叫ぶ悪魔に王妃陛下は冷たく告げた。
「ソフィアちゃんは、王太子妃として行くんじゃない、見習い料理人として行くのよ。近衛騎士の貴方が着いていくのおかしいじゃない。何を考えてるの?バカも休み休み言いなさい。ソフィアちゃんをバカ呼ばわりしているけれど、貴方のほうがよっぽどバカよ」
痛い。容赦ない。悪魔も、「ぐぅ…っ」と唸るのみで反論できないようだ。
「さ、邪魔だから出て行きなさい、ギデオン。そもそもなぜ部屋の中にしれっといるのかわからないわ。ここにはわたくしの近衛がいるから安心なさい。貴方はどこかで待機してなさい。夕飯には呼んであげるわ。ただし、ソフィアちゃんの隣はわたくしよ。貴方は陛下の隣にでも座りなさい」
しっ、しっ、と犬を払うように手を振る王妃陛下。強い…!羨ましい…!さすが天使…!
ギデオンさんは恨みがましい目で私をじっと見ていたが、トボトボと出て行った。あの後ろ姿を見ると可哀想になるけど、私はジャポン皇国に行きたい!是非にも行きたい!だから邪魔されては困る。ここはいくら可哀想でも放置するしかない。
そこからの3時間で、王妃陛下は私の中で天使から魔王になった。怖い。容赦ない。しかし目的のために、このしごきに耐えるしかない…!必死にノートをとり、王妃陛下が準備してくれた蔵書を読み、最後に確認テストを受ける。ソフィアの頭には本当に何もない…帰ったら復習しないと!
夕食はマナー講習の場になり、王妃陛下に直された部分をメモする。大変だけど楽しい。ただ、…悪魔の視線が痛い。
離宮に戻る馬車の中で、悪魔は私の手を繋ぎ離さなかった。離宮に着くと私を追いたてるように風呂に入れ、入れ違いに自分も高速で入り、すぐさまベッドに押し込まれた。そのままギュウッと抱き込まれる。
「…ギデオンさん、何がしたいの」
「フィーが、ジャポン皇国に行くなんて言うから悪いんです!本当はお風呂だって一緒に入りたいくらいです!」
「何を言ってるの!?いくら私をペットだと思ってるからって、」
衝撃発言に思わず顔を見上げると、ギデオンさんは不貞腐れた顔でこちらを見ていた。
「…どうしても行くんですか。わたくしは行けないのに」
「行くよ。せっかく王妃様がチャンスを与えてくれたんだよ?もしかしたら、陛下の課題を解決するヒントを掴めるかもしれないじゃない。私は、絶対に王太子と離縁するの。そのために、できることはやる。すぐにやる。やらずに後悔したくないの」
一番は米目当てなんだけど。
ギデオンさんは何も言わず、私をギュウッとする。ペットがいなくなると寂しい気持ちはわかるけど、我慢してもらうしかない。
「フィー」
「なに?」
「わたくしとの約束は、必ず守ってもらいますからね」
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