お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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悪魔がペットを好きすぎる件

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次の日目が覚めると、ギデオンさんはベッドにいなかった。朝から贅肉を揉まれたりしたらライフがゴリゴリ削られてしまう。ありがたい。

今日から王妃陛下とお勉強が始まるため、午前中は掃除をすることにした。離宮は2階建てで、タージ・マハルのような可愛らしい外観。あれはお墓だけど…ここも私のお墓になるってことなのかな…。そうならないように勉強頑張らないと。何で利益を上げるべきか見当もつかないからこそ、どんな小さなことも見逃さないように貪欲に取り組もう。

心の中で拳を突き上げ決意を新たにしていると、後ろからギュッと抱き付かれた。

「おはようございます、フィー。よく眠れました」

「良かったですね、ギデオンさん。お役に立てて何よりです」

モフモフのペットを可愛がる飼い主の気持ちなのだろう。私は残念ながらモフモフではなく、ギデオンさんの言うところの駄豚だが。変態ドS悪魔には可愛いペットに見えるのかもしれない。この贅肉だらけのカラダを抱き締めて「気持ちいい」発言をする変態だからね。

「フィーを抱っこして眠れたのもそうですが、昨夜フィーが約束してくれたのが嬉しくて」

私の贅肉で盛り上がった腹に手を回し、髪の毛にチュッ、チュッと口づけるギデオンさんがかなりウザイ。この人ほんとに距離感ゼロだな。ペットと全力で触れあいたい人種なのね、きっと。

「昨夜の約束ってなんですか?何かしましたっけ」

とたんに、グルッとすごい力で向きを変えられた。勢いが付きすぎて一回転半した後、ギデオンさんの正面でピタッと止められる。

「…フィー?」

「ひいっ」

地の底から響く悪魔の声が恐ろしく、意識せずに悲鳴がもれる。

私を正面から見据える悪魔の瞳は、怒りで爛々と光っていた。

「…まさか。また、忘れてしまったのですか?いくらバカでも、そんなことありませんよね?」

「ね?」という言葉と共にギデオンさんの指がギリギリと両肩に食い込む。痛い…!

「ギデオンさん、いつ!?昨日のいつ、何を約束したのかな、私!?覚えてないんだけど!」

「…覚えてない?」

小さく呟いたギデオンさんの指から力が抜け、ようやく解放される。

そのまま私をじっと見たギデオンさんはニコリとした。

「覚えてなくてもいいです。わたくしが覚えていますし、フィーは、いいと言ったんですから」

ニコニコする悪魔が怖い。私、何を約束しちゃったの?

「ギデオンさん、あの、約束した内容を、」

「ダメです。覚えていないフィーが悪いんですから。教えてあげません。でも、約束は守ってもらいますよ。フィーはいいと言いました」

いいと言いました、って言われても、

「内容わからなくちゃ、守りようがないじゃないですか!教えてください、お願いします!」

「ダメです」

「だって、そしたらギデオンさんの都合のいいように中身を変えられても、私には反抗しようがないじゃないですか…っ!」

そのとたん、悪魔の瞳が冷たく細められた。

「バカですぐになんでも忘れてしまうフィーのために、もう一度言ってあげますね。わたくしは、フィーに嘘をついたりごまかしたりしません。もし、そうなってしまったとしたら、それはわたくしの意志ではなく、外部からの圧力による不可抗力です。昨夜の約束の内容も、わたくしが勝手に変更したりしません。…フィーに、お願いして、せっかくいいと返事をもらったのに。中身を変えたりしませんよ」

最後の方はまたニコニコしながら呟く悪魔…ああ!時間を巻き戻して、誰かぁ!

現実に、悪魔と契約してしまうとは…愚かな自分にため息しか出なかった。

朝食の後、踏み台と共に庭に出て生え放題の雑草を抜く。範囲を決めてやらないとやりすぎて筋肉痛になり明日はできない、なんてことに成りかねない。少しずつ、コツコツやる。それが前回のダイエット&掃除に取り組んだ半年で身に付いたことだ。

気持ち、キレイになった庭に満足していると、アネットさんが「昼食です」と呼びに来てくれた。

ソルマーレ国は小麦が主食の国。米は存在していない。

「…おにぎりが食べたい」

思わずボソリと呟くと、対面に座るギデオンさんが、

「フィー、おにぎりとはジャポン皇国の食事のことですか?白い粒粒の…米、と言ったかと思いますが」

「え!?ギデオンさん、なんで知ってるの!?ジャポン皇国に米があるの!?」

「ええ、あ、の…王妃陛下に、献上されたジャポン皇国の書物の中に、確か載っていました」

…なんで王妃陛下の書物をギデオンさんが?ギデオンさんて、王妃陛下の近衛だったの?いや、違うよね。ソフィアと同じ年で、ミーハーに騒がれ過ぎて3日で騎士をやめるとこだった、って陛下が言ってたんだから。ギデオンさん、盗み見が趣味なのかな…。悪魔だから、何か特別な手段を持っているのだろうか。

何はともあれ、王妃陛下にお会いしたらさっそく書物について質問することにした。楽しみ…!私の想像通りのおにぎりでありますように…!
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