お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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王宮に呼ばれました

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私の手を引く悪魔がスタスタ向かった先は、それはそれは立派なテーブルが鎮座する部屋だった。こういうの、イギリスの映画とかで見たことある…!貧相なイメージしかない自分が残念でならない。

しばし見とれていると、「おい、早く入れよ」と頭を小突かれた。言うまでもないチンピラ陛下だ。息を吸うように手を出してくるな、この人。

「フィーが歩くのが遅いから追い付かれてしまったではありませんか。さ、フィーも早く座って。皆さんお待ちですよ」

…皆さん?

よくみると、一番上座に座ったチンピラの隣に女性がひとり。その対面に少年がふたり、座っている。

「フィーはここに座って」

悪魔は私を座らせると、自分はその隣に座った…え?

「ギデオンはソフィアとペアだからな。一緒に飯を食うことにした」

…悪魔は、近衛騎士だよね。普通に国王と同席して食事するとかあり得るの?いや。チンピラがやることだ。自由な国なんだ。きっとそうだ。答えを求めるだけムダだ。

「ソフィア、こいつが俺の妻のイングリットだ。可愛いだろ?」

惚気るチンピラをどうしたものかと眺め、隣の女性に視線を移す…

「可愛いっ!!なに、なんでこんなに可愛いの!?なんで陛下の妻に?まさか脅迫!?…痛いっ!ギデオンさん、やめて!」

「フィー、駄豚っぷりをさらけ出すのはやめなさい。不敬ですよ。養豚場に行きたいんですか」

「俺を脅迫者呼ばわりした時点で養豚場行きは決定だぞ、ソフィア」

王妃陛下は、ドSふたりに攻撃…悪魔には物理的攻撃をされている私のところに歩いてくると、

「可愛いだなんて、とっても嬉しいわ。ありがとう、ソフィアちゃん」

と、ギュッと抱き締めてくれた。いい匂い…!!

思わず恍惚とする私を覗きこむと、イタズラっぽく「ふふっ」と笑った。可愛い!同じ妻でも、側妃と全然違う!どういう基準で選んだんだろ、チンピラは?

「ソフィアちゃん、私の隣にどうぞ。女性に手を出す男の隣では美味しく食べられないでしょう?」

悪魔から守ってくださるとは…!まさか天使!?天使なの!?

キュッ、と握ってくれる手の柔らかさ。私はフラフラと王妃陛下に手を引かれ、王妃陛下の隣に座らせられた。

「…っ、王妃、陛下っ!」

叫ぶ悪魔を華麗に無視し、「ソフィアちゃん、対面に座っているのが私の息子たちよ」と言った王妃陛下は、「陛下の隣がディーン、その隣がゼイン。双子なの。今、高等部の2年生よ」と紹介してくれた。もれなくイケメンの双子は、金髪に淡いピンクの瞳。王妃陛下と同じ色の瞳だ。

ふたりは立ち上がると、「こんにちは、ソフィア様。よろしくお願いいたします」と揃ってニッコリしてくれた。優しい…!見た目で判断せずに、挨拶してくれるなんて!悪魔に抉られてばかりいた心にしみて、思わずポロリと涙が零れてしまった。

「ソフィア様!?大丈夫ですか!?」

ふたり揃って対面から駆け寄ってくれる。優しい…!そして、お手を煩わせてすみません…!泣くつもりなんてなかったのに…!

「フィー!?どうしたのですか!?」

慌てた様子で立ち上がった悪魔を、王妃陛下が「貴方はそこにいなさい」と冷たく見据えた。美人は怒ると迫力が増す。どんな顔でも美人とはこれいかに。

「…っ、しかしっ」

「貴方がソフィアちゃんを小突いたりするからでしょう。今日はディーンとゼインにソフィアちゃんを送らせます。貴方は王宮に泊まりなさい」

「そんな、」

「わかったわね?さ、ソフィアちゃん、泣かないで。ご飯にしましょ?ディーン、ゼイン、貴方たちもソフィアちゃんの隣に座りなさい」

イケメン双子は、これまた揃ってハンカチを差し出してくれた。「勿体なくて使えましぇん…」と噛んだ私を「面白いですね、ソフィア様」「気になさらずお使いください。使ってもらったほうがハンカチも喜びます」とイケメン発言で慰めてくれた。優しい…!

ポツンとひとり立っている悪魔を陛下が「ギデオン、おまえ、ここに座れ」と呼び寄せている。心なしか悪魔の顔が青ざめている。そりゃそうか、最高権力者の妻に怒られちゃったんだから。私が泣いたりしたせいだな…申し訳ない。

「…ごめんね、ギデオンさん」

「…こちらこそ、すみませんでした、…フィー、あの、」

「さ、ソフィアちゃん!美味しいわよ、食べて!」

悪魔の言葉をぶったぎるように、ニコニコしながら王妃陛下は私の皿に次々と盛り付けてくれる。反対側ではイケメンふたりが料理の解説をしてくれている。目の前に座る悪魔は、しょんぼりと俯いていた。…ご飯食べればいいのに。

「あ、そうだ。ソフィア、おまえの家庭教師、イングリットだから」

陛下の爆弾発言に思わず手が止まる。

「…え?」

「イングリットは最高級の知識と教養を持っている、ふたりといない俺の自慢の妃だぞ。なんか文句があるのか?あ?」

凄んでくるチンピラの発言は正しい、正しいだろうけど、

「そんな素晴らしい方に、ましてや、王妃陛下なんですよ!?私なんかに時間を割かせる意味がわかりません!」

焦る私の気持ちなど意に介さず、「おまえ、離縁したいんだろ?」

「…したいです」

「だったら、最高級の教師につくのが一番だろ。イングリットがやってやるって言ってんだ、好意はありがたく受けとるべきだろ。あと、私なんか、って言うな。おまえはソフィアであってソフィアじゃねえだろ。努力する豚になるんだろ?」

じゃあ貶める発言やめてよ。でもチンピラの言うことも確かにその通りかもしれない。

私は立ち上がり、王妃陛下に頭を下げた。

「何も分からない人間ですが、お言葉に甘えさせていただきます。ぜひご教授ください」

「もちろんよ、ソフィアちゃん!一緒に頑張りましょうね!」

ソフィアの頭の中に、王妃陛下の記憶はない。接点はなかったはずなのに、なんでこんなに親切にしてくれるのかな。優しい方だ。
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