お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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王宮に呼ばれました

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「わかった。おまえは、今後一切、娘とは関わらないということでいいんだな。しかし、学園を卒業するまではどうやって生活させる?その後は、あいつと…リチャードと結婚するからいいだろうが」

「こいつの母親の家にやります。これを機に、わたくしは妻とも縁を切ります。今、この時から、この女はわたくしとは他人です」

「おまえの妻の家は…たしか、ダレン子爵家だったな?」

「はい。ライラ・ダレン、と記載を訂正してください。ボールドウィン家はまったく関係がないと。そう記載をしていただきたい。…わたくしは、失礼させていただいてよろしいですか?離縁の手続きをしてまいりますので」

「赦す」

踵を返すボールドウィン伯爵に「お父様…っ!」と少女はすがりついたが、足蹴にされてしまっていた。…壮絶…。

「今言ったところは訂正を入れてくれ」

陛下から指示を受ける宰相様が、ペンを入れていく。

「陛下、この離縁誓約書とは、」

すがるような目で見る王太子を無表情のまま見た陛下は淡々と告げた。

「おまえはソフィアと婚約していながら、そこな女と付き合い、にもかかわらずソフィアと婚約を解消するどころかそのまま結婚したな。
俺に隠れてコソコソと…3年したらソフィアを離縁すると言ったんだろ?てめえが決めたことじゃねぇか。何が問題なんだよ。ソフィアが俺の出した条件をクリアできれば、おまえと、その女が3年後婚姻することも決定だ。よかったな」

王太子の視線が私に向く。

「おまえ…っ!余計なことを…っ!」

余計なこととはなんですか?ミューズについて話したこと?

「コソコソ卑怯な男のくせに、そんなこと言う権利ないと思うけど。私は、離縁すると言われたことについて公的に3年後離縁すると認めてくださいと陛下に申し上げただけです。絶対に、絶対に、離縁したいから。あんたみたいな浮気男、受け入れるのなんて絶対無理だから」

まさかソフィアに言い返されるとは思っていなかったのか、王太子は呆けたような顔になった。

「ソフィアが求めたのは必ず離縁したいということ、そして、離縁後、自分の身が脅かされないこと、それだけだ。他の項目は、すべて俺が決めた。文句があるなら俺に言え」

黙って事のなり行きを見ていた側妃は、「良かったじゃない、リチャード。あんな、家柄だけの女と離縁できるのよ。陛下がそう仰るのだから、ありがたく受け入れましょうよ。清々するわ」と私を見てニヤリと嗤った。私も清々しますよ。ありがたいです。

「…母上が、そう仰るなら」

王太子はそう言いながら、傍らの少女の腰を引き寄せた。

「これでなんの障害もなくなったよ、僕のミューズ」

「リチャード様っ!嬉しいっ」

茶番劇を始めたバカっプルに、冷や水をぶっかけるように宰相様が告げる。

「では、内容を訂正次第、承認のサインをいただきます。ここにいる方、全員です。内容に異存はないのですね?この後はもう聞きませんよ」

誰も異を唱えないのを満足そうに見た宰相様は、一度退出するとすぐに戻ってきた。裏手で新しく作らせていたのだろう。仕事のできる男…受けなのに、仕事は攻め!宰相様のお相手も、そのギャップに悶えているに違いない!(あくまで妄想です)

側妃、王太子とその恋人、そして私にサインをさせた宰相様は、最後に陛下に手渡した。サインをした陛下は、

「今この時を持って、この誓約書は効力を発する。全員異存はねぇな。じゃ、ソフィア以外の3人は退がれ。宰相、ソフィアの近衛を呼んでくれ」

…なぜ悪魔を呼ぶ?一人で出ていけるし!

私の心の叫び虚しく、悪魔が入ってきてしまった。

あの嬉しそうな顔…この会談の中身を聞いて、私を苛めたいんだろう。なんて意地の悪い…!

扉からこちらに向かってきた悪魔と、退出しようと歩き始めた3人が顔を合わせた…とたん、王太子が「おまえ…っ!?」と叫んだ。続けて側妃が、「近衛ですって…!?」と叫んでいる。…なに?私だけじゃなく、みんなにも悪魔に見えるの?やっぱり悪魔だったの?

すると陛下から、

「項目11に反するぞ、おまえら。処刑されてえのか?今すぐやるぞ」

と不穏な言葉が飛んだ。当の悪魔はまったく意に介することなくスタスタとこちらに向かってくる。

「フィー、行きましょう。昼食の準備ができたそうです」

…この雰囲気で、よくご飯の話ができるね?さすが悪魔は違う。肝の座りが違う。

私の手を掴むと、「陛下、先に参りますので。お早く来てください」と言って歩きだした。ずいぶん不遜な…ありなの?陛下に向かってそんな態度?

私の焦りとは裏腹に、陛下はニヤリとすると、「おう」とだけ返答した。

入り口近くで茫然と立ち尽くす側妃と王太子、そして悪魔に熱い視線を送る少女に目もくれず、私の手をガッチリ握って悪魔はスタスタ歩いて行く。

「おい、おまえ…っ」

いきなり王太子に腕を掴まれ、後ろにグイッと引っ張られた…とたん、その手をギデオンさんが叩き払う。

「…何をするっ」

「項目2、8、10に違反しますよ。小汚ない手でフィーに触れないでください。それでなくてもフィーはバカなのに、更にバカになったらどうしてくれるんですか」

…庇ってもらったはずなのに、まったく喜べない。そして、名指しこそしなかったとは言え、今、暗に「おまえがバカ」発言したよね、王太子に向かって。

「今後も同様です。フィーには触れない、見ない、話し掛けないでください。いいですね。処刑をお望みならどうぞ。さ、行きますよ、フィー」

ギデオンさんを茫然と見つめる王太子の後ろで、恋人の少女が、なぜか私を睨み付けていた。
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