22 / 161
王宮に呼ばれました
6
しおりを挟む
悪魔は夜も本当に私のベッドで一緒に寝た。もうなんでもいい…人間、諦めが肝心だ。
次の日、王宮に行く準備をし、ギデオンさんと共に馬車に揺られる。
「フィー、今から王太子に会いますが、まさか惚れ直したとかなしですよ」
悪魔のバカ発言を無視して、私は流れる車窓を眺めた。
「離宮から王宮まではどのくらい距離があるのかな」
「離宮のうちでも、一番離れた場所にフィーは押し込められましたからね。たぶん10kmはあるかと」
往復20Kmか…早く走れるようになりたいな。王宮に来ていいって陛下も言ってくれたし。走っていけるようになったら楽しいだろう。早く痩せたい…!悪魔から与えられるストレスなんかに負けず、頑張らないと!
王宮に着くと入り口に、それはそれは素敵なイケおじが立っていた。私を見てニコッとする。やめて!私がなめくじだったら溶けてます!浄化される…!
「妃殿下、お待ちしておりました。わたくしは、宰相を務めております、エリオット・サイデルと申します。…今後は、ソフィア様とお呼びしても?」
妃殿下、なんて呼ばれるよりそっちのほうがありがたい。キチンと一人の人間として認められているみたいで嬉しい。しかも、こんな素敵なおじさまに…!
「はい、是非とも。ソフィアとお呼びください」
またニコッとしてくれる。灰色の髪を七三に撫で付けた緑色の瞳のおじさまは…艶っぽい。なんなの…私の脳内フィルターでは誘い受けにしか見えない…!
悪魔に破壊された脳内フィルターが甦ってくれたようだ。やはりBL妄想は楽しい。幸せ。
誘い受けの宰相様のお相手はどんな方(あくまで妄想)なんだろう…見たい…。
「フィー。それでなくても弛んでいる顔が更に残念なことになっていますよ。しっかりなさい」
悪魔にグサグサ抉られ、途端に現実に引き戻された。くそう…。
宰相様の後をついていく。王宮は、当たり前だけど離宮とは比べ物にならないくらいに広かった。
「ソフィア様、こちらです。ギデオンさ…ギデオンは、ここで待機するよう陛下から言われております」
「わかりました。フィー、しっかり立っているんですよ。寝ちゃダメですよ」
いちいち一言多いんだよ、悪魔!
「…返事はどうしました?」
冷酷な瞳に射ぬかれ、「ひゃいっ!すみません!」と条件反射のように謝罪の言葉が出る。恐怖って、人を従順にしちゃうのね。
宰相様が開いてくれた扉を入る。とても広い部屋で、赤い絨毯が入り口から真っ直ぐ伸びている。その先の玉座には、チンピラが座っていた。
「おー、遅れず来たな。エライ。ソフィア、こっちに来い」
その声に合わせるように、玉座の前に居並ぶ面々が振り向いた。私の向かって右側から、側妃、王太子。この二人はソフィアの脳内に残っていて知っている。その隣の二人、男性と少女はわからない。この二人が昨日陛下が言っていたボールドウィン伯爵と、王太子のミューズ、ライラ・ボールドウィンなのだろう。
「ソフィア、おまえはこっちに来い」
陛下は立ち上がると、私を玉座の隣に立たせた。…え?
「陛下!?なぜ、」
側妃が叫ぶのを途端に冷たい瞳で睨み付けた陛下は、「黙れ」とだけ言った。底冷えする声に、自分が言われたのではないとわかっていてもお腹がギュっと痛くなる。
「発言を赦してない。…宰相、頼む」
「はい、陛下」
宰相様は、手に持っていた紙を目の前に並ぶ四人に手渡し始めた。その後、段を登ってきて私にも渡してくれる。そのまま、私とは反対側の陛下の隣に立った。
「読め」
また冷たい声が飛ぶ。紙に書かれた文字を目で追うと、昨日の離縁誓約書だった。
しばらくの間沈黙が続く。そっと目を上げると、王太子に睨み付けられていた。その顔にムカムカして睨み返すと、ヤツは驚いたような顔になった。
「…目は通したな。何か質問があるか」
スッ、と手を挙げたのはボールドウィン伯爵と思われる男性だった。
「陛下、わたくしがなぜこの場に呼ばれたのか、これを読んだものの理解できません。ご説明いただけますか」
スラリとした長身のボールドウィン伯爵は、青みがかった黒髪に赤い瞳の男性だった。理知的な顔をしたイケメン…。攻めと見せかけた受けである、と私の脳内フィルターは弾き出した。
「おまえの娘、ライラ・ボールドウィンが王太子の恋人だからだ」
「…恋人?」
ギッと鋭い目付きで隣の少女を見た伯爵は、「ライラ。どういうことか説明しろ」と低い声で告げた。
「父上、どういうことですか!?ライラ嬢が私の恋人などと、」
突然叫んだ王太子に「ここは公的な場だ!父上とはなんだ!愚か者が!」と威圧を放つ陛下。怖い。隣にいる私にもビシビシ伝わってくる。手加減して欲しい。倒れる。
「も、申し訳ありません、陛下、しかしっ」
「これは、キチンとした調査の結果だ。俺が嘘を付いていると言うのか?それならばそれなりの証拠を出せ。俺の手元には、おまえとそこな女が乳くりあっている証拠があるぞ。それを覆すだけのモノがあるんだろうな?」
ボールドウィン伯爵は、「乳くりあう…?」と呟いたあと、隣の少女を平手打ちした。凄い力だったのだろう、少女が床に倒れる。
「おまえは…っ!また、男を漁っていたのか…!しかも、相手は王太子殿下だと!?」
ボールドウィン伯爵をギッと睨み上げた少女は、「何が問題なのですか!?私と殿下は愛し合っているのです!」と叫ぶ。王太子が駆け寄り、少女を抱き起こした。
「大丈夫か、ライラ!伯爵、手を上げるなど…!」
覚めた目付きで王太子を見据えたボールドウィン伯爵は、「陛下」と壇上に呼び掛けた。
「なんだ」
「わたくしは、娘と…そこな売女と今すぐ縁を切ります。売女のために我が家が危機にさらされるのは我慢なりません。親として監督不行き届きだと仰るなら、相応の罰を受けます。今すぐ、弟に家督を譲り、わたくしは隠居しても構いません。この文書から、我が家の記載を消していただきたい。お願いいたします」
陛下とボールドウィン伯爵の間に火花が飛んでいる…バチバチと…そう思っちゃうくらいの迫力のふたりだ。
次の日、王宮に行く準備をし、ギデオンさんと共に馬車に揺られる。
「フィー、今から王太子に会いますが、まさか惚れ直したとかなしですよ」
悪魔のバカ発言を無視して、私は流れる車窓を眺めた。
「離宮から王宮まではどのくらい距離があるのかな」
「離宮のうちでも、一番離れた場所にフィーは押し込められましたからね。たぶん10kmはあるかと」
往復20Kmか…早く走れるようになりたいな。王宮に来ていいって陛下も言ってくれたし。走っていけるようになったら楽しいだろう。早く痩せたい…!悪魔から与えられるストレスなんかに負けず、頑張らないと!
王宮に着くと入り口に、それはそれは素敵なイケおじが立っていた。私を見てニコッとする。やめて!私がなめくじだったら溶けてます!浄化される…!
「妃殿下、お待ちしておりました。わたくしは、宰相を務めております、エリオット・サイデルと申します。…今後は、ソフィア様とお呼びしても?」
妃殿下、なんて呼ばれるよりそっちのほうがありがたい。キチンと一人の人間として認められているみたいで嬉しい。しかも、こんな素敵なおじさまに…!
「はい、是非とも。ソフィアとお呼びください」
またニコッとしてくれる。灰色の髪を七三に撫で付けた緑色の瞳のおじさまは…艶っぽい。なんなの…私の脳内フィルターでは誘い受けにしか見えない…!
悪魔に破壊された脳内フィルターが甦ってくれたようだ。やはりBL妄想は楽しい。幸せ。
誘い受けの宰相様のお相手はどんな方(あくまで妄想)なんだろう…見たい…。
「フィー。それでなくても弛んでいる顔が更に残念なことになっていますよ。しっかりなさい」
悪魔にグサグサ抉られ、途端に現実に引き戻された。くそう…。
宰相様の後をついていく。王宮は、当たり前だけど離宮とは比べ物にならないくらいに広かった。
「ソフィア様、こちらです。ギデオンさ…ギデオンは、ここで待機するよう陛下から言われております」
「わかりました。フィー、しっかり立っているんですよ。寝ちゃダメですよ」
いちいち一言多いんだよ、悪魔!
「…返事はどうしました?」
冷酷な瞳に射ぬかれ、「ひゃいっ!すみません!」と条件反射のように謝罪の言葉が出る。恐怖って、人を従順にしちゃうのね。
宰相様が開いてくれた扉を入る。とても広い部屋で、赤い絨毯が入り口から真っ直ぐ伸びている。その先の玉座には、チンピラが座っていた。
「おー、遅れず来たな。エライ。ソフィア、こっちに来い」
その声に合わせるように、玉座の前に居並ぶ面々が振り向いた。私の向かって右側から、側妃、王太子。この二人はソフィアの脳内に残っていて知っている。その隣の二人、男性と少女はわからない。この二人が昨日陛下が言っていたボールドウィン伯爵と、王太子のミューズ、ライラ・ボールドウィンなのだろう。
「ソフィア、おまえはこっちに来い」
陛下は立ち上がると、私を玉座の隣に立たせた。…え?
「陛下!?なぜ、」
側妃が叫ぶのを途端に冷たい瞳で睨み付けた陛下は、「黙れ」とだけ言った。底冷えする声に、自分が言われたのではないとわかっていてもお腹がギュっと痛くなる。
「発言を赦してない。…宰相、頼む」
「はい、陛下」
宰相様は、手に持っていた紙を目の前に並ぶ四人に手渡し始めた。その後、段を登ってきて私にも渡してくれる。そのまま、私とは反対側の陛下の隣に立った。
「読め」
また冷たい声が飛ぶ。紙に書かれた文字を目で追うと、昨日の離縁誓約書だった。
しばらくの間沈黙が続く。そっと目を上げると、王太子に睨み付けられていた。その顔にムカムカして睨み返すと、ヤツは驚いたような顔になった。
「…目は通したな。何か質問があるか」
スッ、と手を挙げたのはボールドウィン伯爵と思われる男性だった。
「陛下、わたくしがなぜこの場に呼ばれたのか、これを読んだものの理解できません。ご説明いただけますか」
スラリとした長身のボールドウィン伯爵は、青みがかった黒髪に赤い瞳の男性だった。理知的な顔をしたイケメン…。攻めと見せかけた受けである、と私の脳内フィルターは弾き出した。
「おまえの娘、ライラ・ボールドウィンが王太子の恋人だからだ」
「…恋人?」
ギッと鋭い目付きで隣の少女を見た伯爵は、「ライラ。どういうことか説明しろ」と低い声で告げた。
「父上、どういうことですか!?ライラ嬢が私の恋人などと、」
突然叫んだ王太子に「ここは公的な場だ!父上とはなんだ!愚か者が!」と威圧を放つ陛下。怖い。隣にいる私にもビシビシ伝わってくる。手加減して欲しい。倒れる。
「も、申し訳ありません、陛下、しかしっ」
「これは、キチンとした調査の結果だ。俺が嘘を付いていると言うのか?それならばそれなりの証拠を出せ。俺の手元には、おまえとそこな女が乳くりあっている証拠があるぞ。それを覆すだけのモノがあるんだろうな?」
ボールドウィン伯爵は、「乳くりあう…?」と呟いたあと、隣の少女を平手打ちした。凄い力だったのだろう、少女が床に倒れる。
「おまえは…っ!また、男を漁っていたのか…!しかも、相手は王太子殿下だと!?」
ボールドウィン伯爵をギッと睨み上げた少女は、「何が問題なのですか!?私と殿下は愛し合っているのです!」と叫ぶ。王太子が駆け寄り、少女を抱き起こした。
「大丈夫か、ライラ!伯爵、手を上げるなど…!」
覚めた目付きで王太子を見据えたボールドウィン伯爵は、「陛下」と壇上に呼び掛けた。
「なんだ」
「わたくしは、娘と…そこな売女と今すぐ縁を切ります。売女のために我が家が危機にさらされるのは我慢なりません。親として監督不行き届きだと仰るなら、相応の罰を受けます。今すぐ、弟に家督を譲り、わたくしは隠居しても構いません。この文書から、我が家の記載を消していただきたい。お願いいたします」
陛下とボールドウィン伯爵の間に火花が飛んでいる…バチバチと…そう思っちゃうくらいの迫力のふたりだ。
56
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる