お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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王宮に呼ばれました

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悪魔は夜も本当に私のベッドで一緒に寝た。もうなんでもいい…人間、諦めが肝心だ。

次の日、王宮に行く準備をし、ギデオンさんと共に馬車に揺られる。

「フィー、今から王太子に会いますが、まさか惚れ直したとかなしですよ」

悪魔のバカ発言を無視して、私は流れる車窓を眺めた。

「離宮から王宮まではどのくらい距離があるのかな」

「離宮のうちでも、一番離れた場所にフィーは押し込められましたからね。たぶん10kmはあるかと」

往復20Kmか…早く走れるようになりたいな。王宮に来ていいって陛下も言ってくれたし。走っていけるようになったら楽しいだろう。早く痩せたい…!悪魔から与えられるストレスなんかに負けず、頑張らないと!

王宮に着くと入り口に、それはそれは素敵なイケおじが立っていた。私を見てニコッとする。やめて!私がなめくじだったら溶けてます!浄化される…!

「妃殿下、お待ちしておりました。わたくしは、宰相を務めております、エリオット・サイデルと申します。…今後は、ソフィア様とお呼びしても?」

妃殿下、なんて呼ばれるよりそっちのほうがありがたい。キチンと一人の人間として認められているみたいで嬉しい。しかも、こんな素敵なおじさまに…!

「はい、是非とも。ソフィアとお呼びください」

またニコッとしてくれる。灰色の髪を七三に撫で付けた緑色の瞳のおじさまは…艶っぽい。なんなの…私の脳内フィルターでは誘い受けにしか見えない…!

悪魔に破壊された脳内フィルターが甦ってくれたようだ。やはりBL妄想は楽しい。幸せ。

誘い受けの宰相様のお相手はどんな方(あくまで妄想)なんだろう…見たい…。

「フィー。それでなくても弛んでいる顔が更に残念なことになっていますよ。しっかりなさい」

悪魔にグサグサ抉られ、途端に現実に引き戻された。くそう…。

宰相様の後をついていく。王宮は、当たり前だけど離宮とは比べ物にならないくらいに広かった。

「ソフィア様、こちらです。ギデオンさ…ギデオンは、ここで待機するよう陛下から言われております」

「わかりました。フィー、しっかり立っているんですよ。寝ちゃダメですよ」

いちいち一言多いんだよ、悪魔!

「…返事はどうしました?」

冷酷な瞳に射ぬかれ、「ひゃいっ!すみません!」と条件反射のように謝罪の言葉が出る。恐怖って、人を従順にしちゃうのね。

宰相様が開いてくれた扉を入る。とても広い部屋で、赤い絨毯が入り口から真っ直ぐ伸びている。その先の玉座には、チンピラが座っていた。

「おー、遅れず来たな。エライ。ソフィア、こっちに来い」

その声に合わせるように、玉座の前に居並ぶ面々が振り向いた。私の向かって右側から、側妃、王太子。この二人はソフィアの脳内に残っていて知っている。その隣の二人、男性と少女はわからない。この二人が昨日陛下が言っていたボールドウィン伯爵と、王太子のミューズ、ライラ・ボールドウィンなのだろう。

「ソフィア、おまえはこっちに来い」

陛下は立ち上がると、私を玉座の隣に立たせた。…え?

「陛下!?なぜ、」

側妃が叫ぶのを途端に冷たい瞳で睨み付けた陛下は、「黙れ」とだけ言った。底冷えする声に、自分が言われたのではないとわかっていてもお腹がギュっと痛くなる。

「発言を赦してない。…宰相、頼む」

「はい、陛下」

宰相様は、手に持っていた紙を目の前に並ぶ四人に手渡し始めた。その後、段を登ってきて私にも渡してくれる。そのまま、私とは反対側の陛下の隣に立った。

「読め」

また冷たい声が飛ぶ。紙に書かれた文字を目で追うと、昨日の離縁誓約書だった。

しばらくの間沈黙が続く。そっと目を上げると、王太子に睨み付けられていた。その顔にムカムカして睨み返すと、ヤツは驚いたような顔になった。

「…目は通したな。何か質問があるか」 

スッ、と手を挙げたのはボールドウィン伯爵と思われる男性だった。

「陛下、わたくしがなぜこの場に呼ばれたのか、これを読んだものの理解できません。ご説明いただけますか」

スラリとした長身のボールドウィン伯爵は、青みがかった黒髪に赤い瞳の男性だった。理知的な顔をしたイケメン…。攻めと見せかけた受けである、と私の脳内フィルターは弾き出した。

「おまえの娘、ライラ・ボールドウィンが王太子の恋人だからだ」

「…恋人?」

ギッと鋭い目付きで隣の少女を見た伯爵は、「ライラ。どういうことか説明しろ」と低い声で告げた。

「父上、どういうことですか!?ライラ嬢が私の恋人などと、」

突然叫んだ王太子に「ここは公的な場だ!父上とはなんだ!愚か者が!」と威圧を放つ陛下。怖い。隣にいる私にもビシビシ伝わってくる。手加減して欲しい。倒れる。

「も、申し訳ありません、陛下、しかしっ」

「これは、キチンとした調査の結果だ。俺が嘘を付いていると言うのか?それならばそれなりの証拠を出せ。俺の手元には、おまえとそこな女が乳くりあっている証拠があるぞ。それを覆すだけのモノがあるんだろうな?」

ボールドウィン伯爵は、「乳くりあう…?」と呟いたあと、隣の少女を平手打ちした。凄い力だったのだろう、少女が床に倒れる。

「おまえは…っ!また、男を漁っていたのか…!しかも、相手は王太子殿下だと!?」

ボールドウィン伯爵をギッと睨み上げた少女は、「何が問題なのですか!?私と殿下は愛し合っているのです!」と叫ぶ。王太子が駆け寄り、少女を抱き起こした。

「大丈夫か、ライラ!伯爵、手を上げるなど…!」

覚めた目付きで王太子を見据えたボールドウィン伯爵は、「陛下」と壇上に呼び掛けた。

「なんだ」

「わたくしは、娘と…そこな売女と今すぐ縁を切ります。売女のために我が家が危機にさらされるのは我慢なりません。親として監督不行き届きだと仰るなら、相応の罰を受けます。今すぐ、弟に家督を譲り、わたくしは隠居しても構いません。この文書から、我が家の記載を消していただきたい。お願いいたします」

陛下とボールドウィン伯爵の間に火花が飛んでいる…バチバチと…そう思っちゃうくらいの迫力のふたりだ。
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