お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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ここはどこ、わたしはだれ

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次の日、朝っぱらから陛下がやってきた。まだ7時なんだけど!?

「陛下、おはようございます。早いですね。早すぎませんか。早すぎますよね。なんでこんな朝早くから来るんですか」

「おまえ昨日、いつでも来ていいって言ったじゃねぇか」

言ったよ。言いましたよ。だけどさ、こんな早くに来ると思わないじゃん!

「おい、ぶすくれた顔すんな。かわいくねぇぞ」

余計なお世話だ。だいたい、昨日まで接点ゼロだったのに、なんでこんなに親しそうな感じでズカズカ入ってくんの?おかしくない?

思わずムスッとしてしまう。大人気ないとわかっちゃいるが、パーソナルスペースが近すぎる、この人。「拗ねんなよー」って…なんで頭撫でるのよ!

「犬みたいで可愛い。バカ犬ほど可愛いからな」

「陛下、妃殿下は犬ではなくブタです」

そうだったな、と盛り上がるふたりを燃やしたい。燃やしても文句は言われないはず。

「ソフィア、案作ってきたぞ」

いそいそと紙を取り出しこちらを見る陛下の瞳には、「俺様すごいだろ?褒めてもいいぞ、赦す」と書いてある。誰が褒めてやるもんか…なんか気安すぎてこっちも素になっちゃってるけど、後から処刑されたりしないよね。…一応ゴマすっとくか。

「…早いですね。仕事が。ありがとうございます」

「心がこもってねぇ。照れてんのか?」

断じて違う。それより。

「陛下、後ろにいらっしゃる方は…」

陛下と共に入ってきたその人は、陛下を若くしたような、やはりドS攻めにしか見えない男性だった。

サラサラの金髪は短く整えられ清潔感を漂わせている。鋭い、切れ長の青い瞳。身長も陛下と同じくらいかなぁ…どちらかと言えば細マッチョのお兄さん。

…けなげ受けを虐めて喜んじゃうタイプかな。それとも、無理矢理受けのハジメテを奪って閉じ込めちゃう執着タイプかな。控え目に言っても…萌える…。

「おい、ソフィア。俺に対する目付きと違いすぎねぇか?俺の方がかっこいいだろうが」

「…すみません、陛下くらいの年齢の方だと、受けの方が好みで…」

「何を言ってるのか理解できねぇが、俺を好みじゃないと言ったのだけはわかった」

途端、グリグリとげんこつで頭をやられる。

「痛い!痛いです、陛下!そういう意味ではありません!」

「じゃあかっこいいと言え」

「…カッコイイデス」

「もう一回くらいたそうだな」

「陛下!素敵!かっこいい!だいすき!」

「わかってる」

なんなんだ、この人。ほんとに近所のあんちゃんみたいで、近すぎて困るんだけど。陛下の後ろの男性の視線が痛い。不敬ですよね、わかります。

「こいつが、昨日言ってたおまえの近衛だ。名前はギデオン。第二騎士隊所属、おまえと同い年だ。今年で19になる。ギデオン、ソフィアのことは知ってるな」

無言で頷く男性からの圧が凄い。…怒ってるのかな。そうだよねぇ、お飾り王太子妃の近衛なんかにされちゃって…。お断りするか。なるべく穏便に。

「あの、陛下」

「なんだ」

「ギデオンさんは、優秀な騎士に見えます。私なんかに付けるのもったいなくないんですか」

陛下は一瞬ポカンとした顔になると、大声で笑いだした。

「ソフィア、おまえはギデオンに興味がないのか?」

へ?

「…どういう意味ですか?」

「いや、普通よぉ。こんなイケメンが近衛になってくれるとなったら喜びこそすれ、断るなんてねぇだろ?実際、王宮の女どもは身分関係なくこいつに夢中なんだぞ」

おい!そんな注目の的を私に付けるってなんの嫌がらせなんだよ!

「じゃあ王宮から引き抜くのやめてくださいよ!私が悪者になるじゃないですか!」

「いいじゃねぇか。ギデオンは、王宮でキャーキャー騒がれすぎて、騎士になってまだ3日目にして早くも退職しようとしてやがったんだ。この離宮はちょうどいいんだよ」

私は良くないよ。

「…妃殿下」

呼び掛けられるひっくい声に思わず背筋がゾクリとする。なんか…ひんやりする…。

「…はい」

こちらをじっと見据えるギデオンさん。やっぱり怒ってるようにしか見えないんだけど…嫌なら自分で断ってよ!私に求めないで!

「妃殿下は、わたくしではご不満なのですか」

予想外の言葉に、すぐに返事が出てこない。…わたくしでは不満?

「わたくしではご不満なのですか」

あー、この人も返事が来るまで繰り返すタイプ…見た目だけじゃなくて、中身も似てるんだ、陛下に。ドS攻めの共通項なの?

「わたくしでは」

「あの、ギデオンさん」

「わたくしではご不満なのですか」

「…不満じゃないです」

「不満じゃない、でも満足でもない、ということですか」

…しっつこい!!しかも若干ネガティブ!!

「満足でもない、と」

「あの!ギデオンさん!私は選べる立場ではないし、そもそも、他の近衛騎士の方を知らないので比べようもないし、だから、不満だとか、満足だとか、ないんです!
ギデオンさんのようにカッコイイと騒がれている人が、こんな離れにいるなんて勿体ないと思ってるだけです!」

ギデオンさんは表情を変えず、またじっとこちらを見た。

「では、わたくしでいいですね」

「…あの、聞いてました?私の話?」

「妃殿下、わたくしでよろしいですね、と聞いているのですが。お答えいただけないのでしょうか」

…おい。目の前で顔真っ赤にして笑いを堪えてるそこの親父。そもそもおまえのチョイスの不味さがこの状況を産み出したんだぞ!反省しろ!何笑ってんだ!

「妃殿下」

「いいです、ギデオンさんでいいです!」

「ギデオンさん、で?」

「ギデオンさんがいいです!」

その瞬間、ギデオンさんはニヤリ、と笑った。愚かな人間を騙して契約を結んだ悪魔のような顔…。

「では、決まりですね。陛下とアネットさんが証人です。替えは利きませんよ。今日からよろしくお願いいたします」

この国のドSは、しつこいのだと学習した。…朝からぐったりだ。
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