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ここはどこ、わたしはだれ
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「妃殿下、起きてください」
ゆさゆさ揺さぶられて目を開けるとアネットさんの顔が目の前に。美女のアップは心臓に悪い。
「寝てばかりいると、さらにブタになりますよ」
「…すみません」
いつの間にか眠ってしまったようだ。素直に謝るしかない。太ってるし、何にもしてこなかったから体力もないんだよね。勉強するにも体力は必須事項だ。明日から歩こう。どのくらい歩けるのかわからないけど、とにかく動くしかない。ベッドから起き上がると、
「陛下が、お会いくださるそうです」
え、早い。
「会ってくださるんですか?今まで私、お言葉をかけてもらったことすらないんだけど、」
「入るぞ」
…え?
ノックもなしに入ってきたのは、遠くで見掛けたことしかない国王陛下その人だった。
頭に映像で流れてきたひょろい王太子と違い、がっしりとしたカラダ。身長は、190cmはあるのではなかろうか。美しく煌めく金髪をオールバックに無造作に撫で付け、野性味溢れる男っぷり。日本で言えばタンクトップの似合うガテン系の男性。青い瞳は目付きも鋭く、…
(間違いなく攻めだわ。しかも、ドがつくS!ドSの攻めだわ!)
脳内妄想を繰り広げようとした私の頭をアネットさんが容赦ない力で叩いた。
「妃殿下、いくらバカでも挨拶くらいしてください」
その様子を見る陛下は、…面白いものを見る顔つきをしていた。
「アネット、いい。突然来た俺が悪い。ソフィアの見た目だが中身はソフィアじゃなくなったと聞いた。だから話を聞きにきた。座っていいか?」
いいか、と言いながらもう椅子に腰掛けている。
「おまえも座れ」
鋭い目付きながら、ニカッと笑う顔は気のいい近所のあんちゃんのようだ。
「失礼します」
対面に腰かけると、アネットさんが私の愛読書を陛下に手渡していた。ちょっと!?
「これは、ジャポン皇国の文字だろ?『キミとどこまでも』?」
「や、やめてくださいーっ!」
思わず立ち上がって引ったくってしまった。こんな…中身見られたりしたら…立ち直れない!
「妃殿下、そんな俊敏に動けたんですね」
「おい、なんで取り上げるんだよ」
不満そうな顔で見られるが、これは絶対に見られたくない。腐ってることを恥ずかしく思ったことはないが、男性の前で誇らしげに自分の性癖を語る胆力はない!
「…中身はお見せできません。許してください」
不思議そうにクビを傾げた陛下は、「まあ、いい」と言ってまた笑った。
「おまえも、それが読めるんだな?」
「はい。私の本ですから」
「アネットから聞いたと思うが、ジャポン皇国とうちはほんの1ヶ月前に国交を結んだばかりだ。ソフィアにその文字が読めるわけがない。王太子すら読めないんだからな。おまえが、ソフィアと別人だということを認める。で?それを踏まえた上で、俺に話があるんだろう?…アネット、わりぃがお茶淹れてくれねぇか」
アネットさんは「かしこまりました」と出て行った。
「で?」
めっちゃせっかちな人だな。
「陛下は、王太子殿下が私を3年後に離縁するつもりだということをご存知ですか」
「…初耳だな」
私は入籍当日に言われたこと…王太子の言う「ミューズ」について話した。
「その方を妃に迎えたいので、白い結婚のまま3年後法律に乗っ取って離縁したいそうです。私も離縁することに否やはありません。それを、公的な文書として残していただきたいのです」
陛下の目付きが鋭くなる。
「もし俺が離縁は認めないと言ったら?」
…どういうこと?
「王太子殿下の後ろ楯がなくなるからですか?公爵家という後ろ楯が?」
陛下はそれには答えず、また「離縁を認めないと言ったらどうする?」と繰り返した。
「…どうして認めてくださらないのか、理由を教えてください」
「仮定の話だ。認めなかったらおまえはどうするか、と聞いているんだ。あいつが、…王太子が離縁したいと言っても俺が認めない限りできないぞ。おまえはさっき、離縁することに否やはない、と言った。おまえも離縁したい、と、そういうことだよな。なんで離縁したい?このままいれば、お飾りとは言え王太子妃として生きていけるんだぞ。俺が死んだら離縁されるかもしれないが、それまでは贅沢に暮らせるじゃないか。何が不満だ?」
「私は、浮気男は無理なんです」
「貴族は、ましてや王族はこどもを残すのが仕事だ。浮気ではない」
「浮気です。王太子は、ソフィアという婚約者がいて、不満に思っていたくせに結局貴方に…すみません、陛下に逆らいたくないからと私との婚約を解消しなかった。それなのに、他の女を妃にするなんて、誠意がなさすぎる。こどもを残すのが仕事、それはわかります。だったら、抱けないような女とは婚約を解消するべきだった。矛盾しているじゃないですか。職責を果たしていないのはあいつです。離縁させてください」
陛下は目を丸くすると、大声で笑いだした。
「…っ、なるほどなぁ、確かにおまえはソフィアじゃない。面白い。…そうだな」
ニヤリとすると、また鋭い目付きで私を見据え、
「俺が今から言うことをこなせたら、離縁を認めてやる」
「…なんですか?」
まさか王太子と子ども作れとか言い出さないよね!やだよ、浮気男なんて無理だって言ったじゃん!
イライラしながら見返す私をまた面白そうに見た陛下は、
「ソルマーレ国に利益をもらたす、実績を作れ。何でも構わない、種類は問わない。国に利益をもたらすこと、…それができたら、おまえと王太子の離縁を認めてやる」
とニヤリとした。
ゆさゆさ揺さぶられて目を開けるとアネットさんの顔が目の前に。美女のアップは心臓に悪い。
「寝てばかりいると、さらにブタになりますよ」
「…すみません」
いつの間にか眠ってしまったようだ。素直に謝るしかない。太ってるし、何にもしてこなかったから体力もないんだよね。勉強するにも体力は必須事項だ。明日から歩こう。どのくらい歩けるのかわからないけど、とにかく動くしかない。ベッドから起き上がると、
「陛下が、お会いくださるそうです」
え、早い。
「会ってくださるんですか?今まで私、お言葉をかけてもらったことすらないんだけど、」
「入るぞ」
…え?
ノックもなしに入ってきたのは、遠くで見掛けたことしかない国王陛下その人だった。
頭に映像で流れてきたひょろい王太子と違い、がっしりとしたカラダ。身長は、190cmはあるのではなかろうか。美しく煌めく金髪をオールバックに無造作に撫で付け、野性味溢れる男っぷり。日本で言えばタンクトップの似合うガテン系の男性。青い瞳は目付きも鋭く、…
(間違いなく攻めだわ。しかも、ドがつくS!ドSの攻めだわ!)
脳内妄想を繰り広げようとした私の頭をアネットさんが容赦ない力で叩いた。
「妃殿下、いくらバカでも挨拶くらいしてください」
その様子を見る陛下は、…面白いものを見る顔つきをしていた。
「アネット、いい。突然来た俺が悪い。ソフィアの見た目だが中身はソフィアじゃなくなったと聞いた。だから話を聞きにきた。座っていいか?」
いいか、と言いながらもう椅子に腰掛けている。
「おまえも座れ」
鋭い目付きながら、ニカッと笑う顔は気のいい近所のあんちゃんのようだ。
「失礼します」
対面に腰かけると、アネットさんが私の愛読書を陛下に手渡していた。ちょっと!?
「これは、ジャポン皇国の文字だろ?『キミとどこまでも』?」
「や、やめてくださいーっ!」
思わず立ち上がって引ったくってしまった。こんな…中身見られたりしたら…立ち直れない!
「妃殿下、そんな俊敏に動けたんですね」
「おい、なんで取り上げるんだよ」
不満そうな顔で見られるが、これは絶対に見られたくない。腐ってることを恥ずかしく思ったことはないが、男性の前で誇らしげに自分の性癖を語る胆力はない!
「…中身はお見せできません。許してください」
不思議そうにクビを傾げた陛下は、「まあ、いい」と言ってまた笑った。
「おまえも、それが読めるんだな?」
「はい。私の本ですから」
「アネットから聞いたと思うが、ジャポン皇国とうちはほんの1ヶ月前に国交を結んだばかりだ。ソフィアにその文字が読めるわけがない。王太子すら読めないんだからな。おまえが、ソフィアと別人だということを認める。で?それを踏まえた上で、俺に話があるんだろう?…アネット、わりぃがお茶淹れてくれねぇか」
アネットさんは「かしこまりました」と出て行った。
「で?」
めっちゃせっかちな人だな。
「陛下は、王太子殿下が私を3年後に離縁するつもりだということをご存知ですか」
「…初耳だな」
私は入籍当日に言われたこと…王太子の言う「ミューズ」について話した。
「その方を妃に迎えたいので、白い結婚のまま3年後法律に乗っ取って離縁したいそうです。私も離縁することに否やはありません。それを、公的な文書として残していただきたいのです」
陛下の目付きが鋭くなる。
「もし俺が離縁は認めないと言ったら?」
…どういうこと?
「王太子殿下の後ろ楯がなくなるからですか?公爵家という後ろ楯が?」
陛下はそれには答えず、また「離縁を認めないと言ったらどうする?」と繰り返した。
「…どうして認めてくださらないのか、理由を教えてください」
「仮定の話だ。認めなかったらおまえはどうするか、と聞いているんだ。あいつが、…王太子が離縁したいと言っても俺が認めない限りできないぞ。おまえはさっき、離縁することに否やはない、と言った。おまえも離縁したい、と、そういうことだよな。なんで離縁したい?このままいれば、お飾りとは言え王太子妃として生きていけるんだぞ。俺が死んだら離縁されるかもしれないが、それまでは贅沢に暮らせるじゃないか。何が不満だ?」
「私は、浮気男は無理なんです」
「貴族は、ましてや王族はこどもを残すのが仕事だ。浮気ではない」
「浮気です。王太子は、ソフィアという婚約者がいて、不満に思っていたくせに結局貴方に…すみません、陛下に逆らいたくないからと私との婚約を解消しなかった。それなのに、他の女を妃にするなんて、誠意がなさすぎる。こどもを残すのが仕事、それはわかります。だったら、抱けないような女とは婚約を解消するべきだった。矛盾しているじゃないですか。職責を果たしていないのはあいつです。離縁させてください」
陛下は目を丸くすると、大声で笑いだした。
「…っ、なるほどなぁ、確かにおまえはソフィアじゃない。面白い。…そうだな」
ニヤリとすると、また鋭い目付きで私を見据え、
「俺が今から言うことをこなせたら、離縁を認めてやる」
「…なんですか?」
まさか王太子と子ども作れとか言い出さないよね!やだよ、浮気男なんて無理だって言ったじゃん!
イライラしながら見返す私をまた面白そうに見た陛下は、
「ソルマーレ国に利益をもらたす、実績を作れ。何でも構わない、種類は問わない。国に利益をもたらすこと、…それができたら、おまえと王太子の離縁を認めてやる」
とニヤリとした。
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