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ここはどこ、わたしはだれ
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「アネットさん私!死に損ねたおかげで別人になったみたい!」
「…意味がわかりません」
私だってわからないよ!だけどじゃあなんて説明すればいいの!
逆ギレしたいがあの短剣が気になり口には出せない。怖い。怖すぎる。まだ死にたくない。橋本菜緒子は不本意に殺されちゃったのに、カラダも世界も違えどもう一度生きられるチャンスが与えられた今、まだ死にたくはない!
「意味はわかりませんが、そうするとこの不審物の説明はつくのかもしれませんね。これらに見覚えはありますか」
アネットさんが短剣で指した方向に恐る恐る目を向ける。まさか目を逸らした瞬間に、後ろから襲われたりしないよね!?
視界に写ったのは、私の…菜緒子の寝室だった。
「…え?」
「ついさっきまでこんなものは存在していなかったのに、貴女が目を覚ましたときに、これが現れていました。見覚えはありますか」
アネットさんは、「立ってください」と私をグイッと引っ張りベッドから立たせた。女性なのに凄い力だ。
震える足をなんとか動かし進んでいくと、本棚には確かに私の愛読書、BL漫画のコレクションが整然と並んでいた…!なんてこと…!
「これは、ジャポン皇国の文字ですよね。妃殿下は、バカで不勉強なデブなのになぜジャポン皇国の書物を持っているのですか。ここにあるモノも、見たことのないモノばかりです。別人になったと言いましたが、ではあなたは誰なのですか…聞いてますか!?」
嬉しくてニヤニヤしてた、まずい。
「…すみません」
「すみませんじゃなくて!なぜジャポン皇国の書物を持っていて、貴女は誰なのか説明しなさい!」
短剣突きつけるのやめて!アネットさん、怖すぎる!
「あの、私は橋本菜緒子と言いましてっ!これは、私が買い揃えた趣味の本です!…ジャポン皇国っていいました?」
ベタすぎる名前に鳥肌がたつ。
「ええ。ジャポン皇国です。なんにもわからないバカな妃殿下に教えてさしあげますね」
アネットさんは懐から何かを取り出した。広げられたそれは地図のようだ。
「ここがソルマーレ」
大きな陸地の海に面した国をマルで囲み、
「ここがジャポン皇国です」
海に囲まれたその島は、北海道から九州までをギュッと縮めた…間の海がなくなり、陸地すべてが繋がった形をしていた。
「ジャポン皇国は、我が国と最近交流が始まったばかり…つい1か月前に国交を開いたばかりです。ジャポン語を話せる人もまだまだ限られています。不勉強な妃殿下が読めるわけがない。母国語であるソルマーレ語すらまともに使いこなせないのですから。…貴女は、妃殿下とは別人の、知識を持ったブタなのですね」
いちいち貶めるのやめてくれないかな、太ってるのは本当だけど。この毒舌っぷり…麗みたい。
親友の顔を思い出し思わず笑みが洩れた私を不思議そうに見たアネットさんは、
「ソフィア様についての知識はあるのですか」
「さっき、頭が痛くなって。その時映像が流れ込んでくる感覚になって、…なんで自殺を謀ったのかはわかりました。夫になった王太子がいかにクズかということも。ソフィアという人間が、どれだけダメな人間かということも」
「では、3年後に離縁すると、王太子殿下に廃棄宣言されたこともご存知なのですね」
廃棄宣言…まあ、そう言えなくもない。
「アネットさん、王太子が3年後ソフィアと…私と離縁するってこと、国王陛下は知ってるのかな」
「…なぜです?」
「だって、生まれたその日にソフィアを婚約者にしたのは誰でもない国王陛下でしょ。誰に何を言われてもこんなダメ女を婚約者のままにしてたのは理由があるからなんでしょ?バカなのに、結婚させて王妃にするつもりだったんでしょ、ソフィアを。王太子が勝手に離縁するなんて、いくら法律があっても認めてくれるのかな」
「認めてくれるのかな…?妃殿下は離縁したいのですか?もし今の推察通りで国王陛下が王太子殿下の主張をお認めにならなければ、妃殿下のままでいられるのですよ、そこに愛もセックスもないお飾り妃であっても」
探るようなアネットさんの視線をしっかり受け止め、じっと見返す。
「アネットさん。さっき言った私、橋本菜緒子は、夫に浮気されてたの。その浮気相手に刺されて死んじゃって、ここに来たんだと思う、この世界に。
あれ、私の趣味の愛読書なんだけど、恋愛モノで、ネトラレとか共有は性癖として受け入れられないの。浮気男も絶対にイヤ。僕のミューズ、なんて美辞麗句並べて酔っ払ってるけど要はただの浮気野郎でしょ。絶対離縁したい。むしろこっちから願い出たい。いますぐ離縁したって構わないよ、なんなら」
鼻息荒く捲し立てる私とは対照的にアネットさんは冷静だった。
「妃殿下、今すぐ離縁して、それからどうするのですか?何か宛はあるのですか?ご実家に帰られるのですか?王太子妃から外れた貴女を、ご実家の皆様は温かく迎えてくださると、まさかそんな夢みたいなこと考えていらっしゃらないですよね。知性があるように思いましたが、やはり知性のないブタのままだったのですか?」
グサグサ抉ってくるなぁ…。
「…意味がわかりません」
私だってわからないよ!だけどじゃあなんて説明すればいいの!
逆ギレしたいがあの短剣が気になり口には出せない。怖い。怖すぎる。まだ死にたくない。橋本菜緒子は不本意に殺されちゃったのに、カラダも世界も違えどもう一度生きられるチャンスが与えられた今、まだ死にたくはない!
「意味はわかりませんが、そうするとこの不審物の説明はつくのかもしれませんね。これらに見覚えはありますか」
アネットさんが短剣で指した方向に恐る恐る目を向ける。まさか目を逸らした瞬間に、後ろから襲われたりしないよね!?
視界に写ったのは、私の…菜緒子の寝室だった。
「…え?」
「ついさっきまでこんなものは存在していなかったのに、貴女が目を覚ましたときに、これが現れていました。見覚えはありますか」
アネットさんは、「立ってください」と私をグイッと引っ張りベッドから立たせた。女性なのに凄い力だ。
震える足をなんとか動かし進んでいくと、本棚には確かに私の愛読書、BL漫画のコレクションが整然と並んでいた…!なんてこと…!
「これは、ジャポン皇国の文字ですよね。妃殿下は、バカで不勉強なデブなのになぜジャポン皇国の書物を持っているのですか。ここにあるモノも、見たことのないモノばかりです。別人になったと言いましたが、ではあなたは誰なのですか…聞いてますか!?」
嬉しくてニヤニヤしてた、まずい。
「…すみません」
「すみませんじゃなくて!なぜジャポン皇国の書物を持っていて、貴女は誰なのか説明しなさい!」
短剣突きつけるのやめて!アネットさん、怖すぎる!
「あの、私は橋本菜緒子と言いましてっ!これは、私が買い揃えた趣味の本です!…ジャポン皇国っていいました?」
ベタすぎる名前に鳥肌がたつ。
「ええ。ジャポン皇国です。なんにもわからないバカな妃殿下に教えてさしあげますね」
アネットさんは懐から何かを取り出した。広げられたそれは地図のようだ。
「ここがソルマーレ」
大きな陸地の海に面した国をマルで囲み、
「ここがジャポン皇国です」
海に囲まれたその島は、北海道から九州までをギュッと縮めた…間の海がなくなり、陸地すべてが繋がった形をしていた。
「ジャポン皇国は、我が国と最近交流が始まったばかり…つい1か月前に国交を開いたばかりです。ジャポン語を話せる人もまだまだ限られています。不勉強な妃殿下が読めるわけがない。母国語であるソルマーレ語すらまともに使いこなせないのですから。…貴女は、妃殿下とは別人の、知識を持ったブタなのですね」
いちいち貶めるのやめてくれないかな、太ってるのは本当だけど。この毒舌っぷり…麗みたい。
親友の顔を思い出し思わず笑みが洩れた私を不思議そうに見たアネットさんは、
「ソフィア様についての知識はあるのですか」
「さっき、頭が痛くなって。その時映像が流れ込んでくる感覚になって、…なんで自殺を謀ったのかはわかりました。夫になった王太子がいかにクズかということも。ソフィアという人間が、どれだけダメな人間かということも」
「では、3年後に離縁すると、王太子殿下に廃棄宣言されたこともご存知なのですね」
廃棄宣言…まあ、そう言えなくもない。
「アネットさん、王太子が3年後ソフィアと…私と離縁するってこと、国王陛下は知ってるのかな」
「…なぜです?」
「だって、生まれたその日にソフィアを婚約者にしたのは誰でもない国王陛下でしょ。誰に何を言われてもこんなダメ女を婚約者のままにしてたのは理由があるからなんでしょ?バカなのに、結婚させて王妃にするつもりだったんでしょ、ソフィアを。王太子が勝手に離縁するなんて、いくら法律があっても認めてくれるのかな」
「認めてくれるのかな…?妃殿下は離縁したいのですか?もし今の推察通りで国王陛下が王太子殿下の主張をお認めにならなければ、妃殿下のままでいられるのですよ、そこに愛もセックスもないお飾り妃であっても」
探るようなアネットさんの視線をしっかり受け止め、じっと見返す。
「アネットさん。さっき言った私、橋本菜緒子は、夫に浮気されてたの。その浮気相手に刺されて死んじゃって、ここに来たんだと思う、この世界に。
あれ、私の趣味の愛読書なんだけど、恋愛モノで、ネトラレとか共有は性癖として受け入れられないの。浮気男も絶対にイヤ。僕のミューズ、なんて美辞麗句並べて酔っ払ってるけど要はただの浮気野郎でしょ。絶対離縁したい。むしろこっちから願い出たい。いますぐ離縁したって構わないよ、なんなら」
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「妃殿下、今すぐ離縁して、それからどうするのですか?何か宛はあるのですか?ご実家に帰られるのですか?王太子妃から外れた貴女を、ご実家の皆様は温かく迎えてくださると、まさかそんな夢みたいなこと考えていらっしゃらないですよね。知性があるように思いましたが、やはり知性のないブタのままだったのですか?」
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