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ここはどこ、わたしはだれ
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ふわっ、と意識が戻った感覚に、そっと目を開ける。目に写るのは、見たことのない天井。豪華絢爛なシャンデリアが垂れ下がるこの部屋…病院には見えないんだけど…。私、刺されたよね?
傷を確認しようと起き上がろうとしたのだが、うまくカラダを起こせない。ここ最近は、軽やかに起きられるようになっていたのに…。違和感を覚えて刺されたお腹に手を伸ばすと…、
「…なに、これ」
手に触れるお腹には、ムニムニとした明らかなる贅肉が余すことなくついている。…なんで?刺されて、入院してる間にこんなに肉がついた…?そんなことあり得るの?…どんな栄養入れたんだよ、医者ぁ!
あんなにあんなに頑張ったのに、なんでこんなカラダに!?本気で殺意が沸いてきた。
どうにか起き上がり、ズリズリお尻で下がってベッドの背凭れに寄りかかる。起き上がると更に腹肉の圧が凄い。ダイエットを始めたあの日よりも腹が出ている…泣きたくなってきた。
これ、どうすればいいの…。
途方に暮れて呆然としていると、キィ、と音がした。
「…妃殿下、目を覚まされたのですか!?」
駆け寄ってきた人に、…まったく見覚えがない。見覚えがないどころか、瞳が赤い。こんな色味の人、地球のどこかにいるの?私が知らないだけで?よく見ると、髪の毛は5月頃の瑞々しい新緑の色。ない。絶対にない。染めてるの?
その時、頭がギリギリと締め付けられるように痛み、ヒュッ、と息が詰まる。呼吸がうまくできない。
突然頭の中に、映像が流れ込んでくる。
『キミと結婚することはお互いの意思がない、生まれ落ちた瞬間に決められていたことだ。父上の…陛下の決定だから覆すことはできないし、逆らうつもりもない。だから、このまま結婚する。
しかし、キミも知っているだろう?我が国の法律を。…3年、こどもができなければ、その夫婦は関係を解いて構わないと。
僕は出会ってしまったんだ。僕の妃となるにふさわしいミューズに。キミのような、自分を気にもせず、周りにどう思われているのか頓着もしない、家柄だけが取り柄の醜い女が、将来の国王である僕の妃にはふさわしくないんだよ。…キミがいくら頭が悪くても、わかるだろう?僕が言っていることは』
醜い、と言い放つこの男の方がよっぽど醜い顔をして嗤っている。金髪碧眼のスラリとしたイケメンだが、この嗤いは受け入れられない。いったいこいつ何なの?上から理論の裕さんを思い出してイライラしてくる。…まだ続くようだ。
『僕のミューズは、学年が2つ下…卒業してから1年待たせてしまうが、陛下の面目を保つためにもキミとの結婚生活は3年継続するしかないからね。
3年、好き勝手に暮らせるのだから慰謝料はもちろんなしだ。お飾りとは言え、3年も皇太子妃として生きられるのだから文句はないだろう?
ただ、僕のミューズに変な誤解を抱かせたくない…キミのような、女とも言えない醜いカラダの人間を抱くなんて無理な話だが、僕のミューズへの気持ちを疑われては困るからね。キミは、3年間、離宮で生活してくれ。僕との接触も最低限に頼むよ。できればこの先もう、僕の視界に入らないでくれ…あまりに醜くて、見るに耐えない』
そこから視界が暗転して、…激しい痛みに意識を飛ばされた。
「妃殿下!妃殿下、しっかりなさってください!」
カラダを揺さぶられ、もれなく肉が揺れる感触に心が折れそうになりながら、なんとか目を開ける。目の前には、先ほどの女性の顔が。
ホッとしたように息を吐いたその人は、私の腕を取り脈をみる。…腕、太っ!!これ、私の腕なんだよね…なんで…。
「妃殿下、大丈夫ですか」
「…アネットさん」
ああ、私、あの時死んじゃったんだ。そしてここに、異世界に来たんだ。私の名前は、
「…ソフィア・エヴァンス」
「妃殿下…?やはりまだ、体調がよろしくないのでは」
そりゃよろしくないだろう。人生で最高に幸せなはずの入籍日に、あんなこと言われたんだから。夫になった、リチャード・エヴァンス…このソルマーレ国の王太子に。私はソフィア・エヴァンス、王太子妃になった。そう、ほんの3日前、ソルマーレ暦1580年4月1日に。結婚式すら挙げてもらえず、あいつは早々に私をこの離宮に押し込んだ。
王太子は自分のことを好きだと根拠のない自信に満ち溢れていたソフィアは、初夜だというのに来ない夫を朝まで待ち続け、結局訪れがなかった事実に心が粉々に砕け散った。
絶望の中呪いの言葉を吐いて部屋で首を吊って自殺を図ったのだが、残念なことに部屋の梁はソフィアの体重に耐えきれず、そのまま落下してしまった。
生きてて良かった。あんな身勝手な論理を展開する男どものために2回も死ぬなんて、まっぴらゴメンだ。
傷を確認しようと起き上がろうとしたのだが、うまくカラダを起こせない。ここ最近は、軽やかに起きられるようになっていたのに…。違和感を覚えて刺されたお腹に手を伸ばすと…、
「…なに、これ」
手に触れるお腹には、ムニムニとした明らかなる贅肉が余すことなくついている。…なんで?刺されて、入院してる間にこんなに肉がついた…?そんなことあり得るの?…どんな栄養入れたんだよ、医者ぁ!
あんなにあんなに頑張ったのに、なんでこんなカラダに!?本気で殺意が沸いてきた。
どうにか起き上がり、ズリズリお尻で下がってベッドの背凭れに寄りかかる。起き上がると更に腹肉の圧が凄い。ダイエットを始めたあの日よりも腹が出ている…泣きたくなってきた。
これ、どうすればいいの…。
途方に暮れて呆然としていると、キィ、と音がした。
「…妃殿下、目を覚まされたのですか!?」
駆け寄ってきた人に、…まったく見覚えがない。見覚えがないどころか、瞳が赤い。こんな色味の人、地球のどこかにいるの?私が知らないだけで?よく見ると、髪の毛は5月頃の瑞々しい新緑の色。ない。絶対にない。染めてるの?
その時、頭がギリギリと締め付けられるように痛み、ヒュッ、と息が詰まる。呼吸がうまくできない。
突然頭の中に、映像が流れ込んでくる。
『キミと結婚することはお互いの意思がない、生まれ落ちた瞬間に決められていたことだ。父上の…陛下の決定だから覆すことはできないし、逆らうつもりもない。だから、このまま結婚する。
しかし、キミも知っているだろう?我が国の法律を。…3年、こどもができなければ、その夫婦は関係を解いて構わないと。
僕は出会ってしまったんだ。僕の妃となるにふさわしいミューズに。キミのような、自分を気にもせず、周りにどう思われているのか頓着もしない、家柄だけが取り柄の醜い女が、将来の国王である僕の妃にはふさわしくないんだよ。…キミがいくら頭が悪くても、わかるだろう?僕が言っていることは』
醜い、と言い放つこの男の方がよっぽど醜い顔をして嗤っている。金髪碧眼のスラリとしたイケメンだが、この嗤いは受け入れられない。いったいこいつ何なの?上から理論の裕さんを思い出してイライラしてくる。…まだ続くようだ。
『僕のミューズは、学年が2つ下…卒業してから1年待たせてしまうが、陛下の面目を保つためにもキミとの結婚生活は3年継続するしかないからね。
3年、好き勝手に暮らせるのだから慰謝料はもちろんなしだ。お飾りとは言え、3年も皇太子妃として生きられるのだから文句はないだろう?
ただ、僕のミューズに変な誤解を抱かせたくない…キミのような、女とも言えない醜いカラダの人間を抱くなんて無理な話だが、僕のミューズへの気持ちを疑われては困るからね。キミは、3年間、離宮で生活してくれ。僕との接触も最低限に頼むよ。できればこの先もう、僕の視界に入らないでくれ…あまりに醜くて、見るに耐えない』
そこから視界が暗転して、…激しい痛みに意識を飛ばされた。
「妃殿下!妃殿下、しっかりなさってください!」
カラダを揺さぶられ、もれなく肉が揺れる感触に心が折れそうになりながら、なんとか目を開ける。目の前には、先ほどの女性の顔が。
ホッとしたように息を吐いたその人は、私の腕を取り脈をみる。…腕、太っ!!これ、私の腕なんだよね…なんで…。
「妃殿下、大丈夫ですか」
「…アネットさん」
ああ、私、あの時死んじゃったんだ。そしてここに、異世界に来たんだ。私の名前は、
「…ソフィア・エヴァンス」
「妃殿下…?やはりまだ、体調がよろしくないのでは」
そりゃよろしくないだろう。人生で最高に幸せなはずの入籍日に、あんなこと言われたんだから。夫になった、リチャード・エヴァンス…このソルマーレ国の王太子に。私はソフィア・エヴァンス、王太子妃になった。そう、ほんの3日前、ソルマーレ暦1580年4月1日に。結婚式すら挙げてもらえず、あいつは早々に私をこの離宮に押し込んだ。
王太子は自分のことを好きだと根拠のない自信に満ち溢れていたソフィアは、初夜だというのに来ない夫を朝まで待ち続け、結局訪れがなかった事実に心が粉々に砕け散った。
絶望の中呪いの言葉を吐いて部屋で首を吊って自殺を図ったのだが、残念なことに部屋の梁はソフィアの体重に耐えきれず、そのまま落下してしまった。
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