お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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前世 橋本菜緒子

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お風呂を最速で上がり、身支度を整え、必要なものをすべて寝室に移すことにした。昨日の朝みたいに待ち伏せされて腕を掴まれたりすると面倒だから、ランニングシューズを四足とも部屋に入れる。縄跳びも靴箱から寝室に持っていく。

台所にある料理の本も移し、冷蔵庫に貼り付けてあるタイマーも移す。タイマーは運動の時自分の寝室に持っていき、台所に戻していたのだが、考えてみればカップ麺を食べなくなったから台所でタイマーは使わない。今さらだけど。

寝室が別になったのは三年前、当然のように裕さんが今までの寝室を使うことになった。私は自分の寝室としてフローリングの六畳間、ウォークインクローゼットが付いている部屋をもらった。収納がきちんとあるので、ベッドはやめて布団を使っていたのだが、半年前に少し奮発して低反発の疲れにくいという布団にした。マットレス。素晴らしく寝心地がよく、同じ会社の枕も買った。おかげで肩凝りしらず…運動を始めたおかげもあるんだろうけど。

同じく半年前に、テレビと録画機能付きのDVDデッキも買った。主に運動のためだが、旅番組等で楽しむこともできる。ダイエットを決意してすぐ、無謀にも京都マラソンに申し込んだ。当選するかどうか保証はないし、なにしろその時点でまったく走っていなかったのだが、憧れていた伏見稲荷大社に参拝したいがために京都マラソンを選んだ。もし走れなくても別に構わない、と不純な動機だったのが良かったのか当選してしまった。

来年2月に、京都に行ける。ここ最近は京都のガイドブックや、神社の参拝マナーなど、また、神様に興味が湧き、神話や古事記なども読んでいた。麗にはBL漫画をやめていた、と言ったが、現在興味があるのが別なものだった、という理由もある。居間や台所にちらほら置いていたそれらの本も寝室に引き上げる。

掃除機やらコロコロやら掃除用具一式は元々寝室の収納場所に置いてある。使い始めたら愛着が湧いたのと、目につく場所にあると掃除しようという気持ちになれるから。

持ってきたものを整理して収納していると、ドアがノックされた。…戻ってきたのか。

「菜緒子。ちょっとだけきて、お願いだから」

しぶしぶドアを開けて素早く出て閉める。中を見られたくない一心である。

裕さんはそのまま居間に向かうので着いていくと、ソファに女性が一人座っていた。…誰?

こちらに気づいた女性にめっちゃ睨まれる。会ったことない人だと思うんだけど…。

「菜緒子、この人が、俺が浮気してた相手。信じてくれないから連れてきた。ほら、」

裕さんは女性を見て促すように、

「俺とはもう別れたって妻に証言してよ」

と宣った。…この人ほんとに、どういう思考回路してんの?よく浮気相手連れてこれるね?まぁ私の持ち家じゃないからいいけど。

相手の女性は手元のバッグをギュウッと音が出そうなほどに握りしめ立ち上がると、「私、別れるって言ってない!」と叫んだ。

あー…痴話喧嘩とかマジでやめて欲しい。

「いや、俺はもう別れるって言ったよね。菜緒子と…妻とやり直すから。菜緒子も了承済みだから」

はぁ!?

ボロクソ怒鳴り付けてやろうとしたら、案の定矛先がこちらに向いてしまった。

「なんでこんなおばさんがいいの!?飛鳥と結婚するって言ったじゃない!おばさんも恥ずかしくないの!?浮気してた旦那とやり直すなんて!キッパリ諦めてよ!ゆうくんは私にちょうだい!」

どうぞ、是非ともお願いします、と言おうとしたら裕さんに口を塞がれた。気持ち悪いっ!

「菜緒子はおばさんじゃないし、俺はもうおまえとは別れるって言った。とりあえずもういいよ。帰って」

あまりの言いぐさにびっくりして見上げてしまう。この人どこまで自分勝手なの!?

…なんて思考に占められて、気づくのが遅れた。

「あんたなんて死ねばいいんだ!あんたがいなくなればゆうくんは私のものになるんだから!」

キンキンした叫び声とともに、脇腹に焼けるような痛みが走る。

みんなが呆然となる中、最初に覚醒したのは裕さんだった。突き飛ばされた女性が倒れるのを横目に、私も足の力が抜けて膝から崩れ落ちる。痛い。

「おまえ、何してんだよ!?」

「ゆうくんと別れないあのおばさんが悪いの!」

倒れてもキャンキャン叫び続ける彼女、…若いってすごい、なんてぼんやり考えてしまう。離婚する、って言ったのに。いつでも離婚して、こんな男引きとってもらいたかったのに。なんでこんなことに…。刺さっている箇所が、怖くて見れない。カラダが震え始める。

「菜緒子、しっかりしろ!今、救急車呼ぶから!」

抱き上げようとする裕さんに、必死に抵抗する。こんなふうになった原因の人に触られたくない。あー…。今さらだけど、…気づいた時点で、離婚するべきだったんだなぁ…受け身でいた自分の行動を悔やむ。何時間か前まで、麗と一緒にすごく楽しかったのになぁ。

スゥッと、地面に吸い込まれるような感覚に襲われ、そのまま意識が途切れた。
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