お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
8 / 161
前世 橋本菜緒子

しおりを挟む
お風呂を最速で上がり、身支度を整え、必要なものをすべて寝室に移すことにした。昨日の朝みたいに待ち伏せされて腕を掴まれたりすると面倒だから、ランニングシューズを四足とも部屋に入れる。縄跳びも靴箱から寝室に持っていく。

台所にある料理の本も移し、冷蔵庫に貼り付けてあるタイマーも移す。タイマーは運動の時自分の寝室に持っていき、台所に戻していたのだが、考えてみればカップ麺を食べなくなったから台所でタイマーは使わない。今さらだけど。

寝室が別になったのは三年前、当然のように裕さんが今までの寝室を使うことになった。私は自分の寝室としてフローリングの六畳間、ウォークインクローゼットが付いている部屋をもらった。収納がきちんとあるので、ベッドはやめて布団を使っていたのだが、半年前に少し奮発して低反発の疲れにくいという布団にした。マットレス。素晴らしく寝心地がよく、同じ会社の枕も買った。おかげで肩凝りしらず…運動を始めたおかげもあるんだろうけど。

同じく半年前に、テレビと録画機能付きのDVDデッキも買った。主に運動のためだが、旅番組等で楽しむこともできる。ダイエットを決意してすぐ、無謀にも京都マラソンに申し込んだ。当選するかどうか保証はないし、なにしろその時点でまったく走っていなかったのだが、憧れていた伏見稲荷大社に参拝したいがために京都マラソンを選んだ。もし走れなくても別に構わない、と不純な動機だったのが良かったのか当選してしまった。

来年2月に、京都に行ける。ここ最近は京都のガイドブックや、神社の参拝マナーなど、また、神様に興味が湧き、神話や古事記なども読んでいた。麗にはBL漫画をやめていた、と言ったが、現在興味があるのが別なものだった、という理由もある。居間や台所にちらほら置いていたそれらの本も寝室に引き上げる。

掃除機やらコロコロやら掃除用具一式は元々寝室の収納場所に置いてある。使い始めたら愛着が湧いたのと、目につく場所にあると掃除しようという気持ちになれるから。

持ってきたものを整理して収納していると、ドアがノックされた。…戻ってきたのか。

「菜緒子。ちょっとだけきて、お願いだから」

しぶしぶドアを開けて素早く出て閉める。中を見られたくない一心である。

裕さんはそのまま居間に向かうので着いていくと、ソファに女性が一人座っていた。…誰?

こちらに気づいた女性にめっちゃ睨まれる。会ったことない人だと思うんだけど…。

「菜緒子、この人が、俺が浮気してた相手。信じてくれないから連れてきた。ほら、」

裕さんは女性を見て促すように、

「俺とはもう別れたって妻に証言してよ」

と宣った。…この人ほんとに、どういう思考回路してんの?よく浮気相手連れてこれるね?まぁ私の持ち家じゃないからいいけど。

相手の女性は手元のバッグをギュウッと音が出そうなほどに握りしめ立ち上がると、「私、別れるって言ってない!」と叫んだ。

あー…痴話喧嘩とかマジでやめて欲しい。

「いや、俺はもう別れるって言ったよね。菜緒子と…妻とやり直すから。菜緒子も了承済みだから」

はぁ!?

ボロクソ怒鳴り付けてやろうとしたら、案の定矛先がこちらに向いてしまった。

「なんでこんなおばさんがいいの!?飛鳥と結婚するって言ったじゃない!おばさんも恥ずかしくないの!?浮気してた旦那とやり直すなんて!キッパリ諦めてよ!ゆうくんは私にちょうだい!」

どうぞ、是非ともお願いします、と言おうとしたら裕さんに口を塞がれた。気持ち悪いっ!

「菜緒子はおばさんじゃないし、俺はもうおまえとは別れるって言った。とりあえずもういいよ。帰って」

あまりの言いぐさにびっくりして見上げてしまう。この人どこまで自分勝手なの!?

…なんて思考に占められて、気づくのが遅れた。

「あんたなんて死ねばいいんだ!あんたがいなくなればゆうくんは私のものになるんだから!」

キンキンした叫び声とともに、脇腹に焼けるような痛みが走る。

みんなが呆然となる中、最初に覚醒したのは裕さんだった。突き飛ばされた女性が倒れるのを横目に、私も足の力が抜けて膝から崩れ落ちる。痛い。

「おまえ、何してんだよ!?」

「ゆうくんと別れないあのおばさんが悪いの!」

倒れてもキャンキャン叫び続ける彼女、…若いってすごい、なんてぼんやり考えてしまう。離婚する、って言ったのに。いつでも離婚して、こんな男引きとってもらいたかったのに。なんでこんなことに…。刺さっている箇所が、怖くて見れない。カラダが震え始める。

「菜緒子、しっかりしろ!今、救急車呼ぶから!」

抱き上げようとする裕さんに、必死に抵抗する。こんなふうになった原因の人に触られたくない。あー…。今さらだけど、…気づいた時点で、離婚するべきだったんだなぁ…受け身でいた自分の行動を悔やむ。何時間か前まで、麗と一緒にすごく楽しかったのになぁ。

スゥッと、地面に吸い込まれるような感覚に襲われ、そのまま意識が途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...