お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
7 / 161
前世 橋本菜緒子

しおりを挟む
麗の家に一泊し、朝食を軽く食べてお互いダラダラと過ごす。気心が知れているとわざわざ会話をしなくても済む。この半年、ほとんどお預け状態だったBL漫画を読む。

「あー…今書店に行ったら、バカみたいに散財する予感しかない」

「反動が凄そう。バカだね、小出しにしないからだよ」

「醜いカラダで神を崇めるなんてって言ったのは麗でしょ」

ペロッと舌を出した麗は、「まさか律儀に守るとは」と揶揄うように言ってニヤニヤした。

「…で。これからどうするの?」

「いやー…正直、どういうことなのかさっぱりわからないから、自分がどう出ればいいのかわからないんだよね。まずはイヤだけど、話し合うしかないだろうねぇ…ユウウツ。あの上から目線の論理展開をまた聞かなくちゃいけないかと思うと」

「いきなり出てけ、って言われたらとりあえずうちに来なよ。キレイにすることを覚えた菜緒子ならいつでも大歓迎だよ」

「うん、ありがとう」

その後もまったりし、15時に麗の家を出る。

今夜は久しぶりにチキンでも食べようとドライブスルーに並び、フライドチキンを二本買う。冷蔵庫にレタスはあるからスーパーには寄らず真っ直ぐ帰る。

まさかいないよね、と家に着くと車はなかった。金曜日だし仕事に行ったんだろう。ホッとして家に入る。

そう言えば、とスマホの電源を入れると、「…うわあ」

すごい数の着信履歴とメッセージ。

『早く帰ってきて』

『電話出て』

『待ってる』

の繰り返し。

最後のメッセージは今朝5時30分のもので、なんと、

『今夜帰ってこなかったら捜索願い出すからな』

という脅迫文だった。スクショし、麗に転送すると『気持ち悪い』と返ってきた。

昨日と同じ18時30分、裕さんが帰ってきた。

「菜緒子、ただいま」

「おかえりなさい」

振り向きもせずに自分のために台所でレタスを洗っていたら、後ろからいきなり抱き締められた。ゾワゾワしかない。

「裕さん、やめて。私昨日言ったよね。他の女と寝る男に触られたくないの」

「俺、相手と別れた」

「だから?」

「だから、って…」

裕さんの腕から抜け出し睨み付ける。

「離婚する意思は変わらないよ。自分だって離婚したかったんだから、離婚して飛鳥さん?と結婚しなよ」

「…だから!別れたって言ってるじゃん!俺は菜緒子と別れないよ、絶対に」

「あのさ。おんなじことを何回も何回も言わされてうんざりなんだけど、もう一回言うね。まず、結婚してるのに他の女を抱く男は無理。次に、もう八年セックスレス。次に、三年も浮気しておいていきなり何?相手に捨てられたの?声聞く限り若い子みたいだけど」

「菜緒子、話し合おう。誤解もあるだろ?」

すぐに触ろうとしてくるのやめてほしい。なんなのこの人。

「今話したことに誤解なんてないけど」

「相手に捨てられたんじゃなくて、俺が別れたいって言ったの。菜緒子とやりなおしたいから」

「あのさぁ。裕さん、私のことトドとかブタとか女じゃないとか好き放題言ってて、私が痩せて都合のいい女になったからってやり直す?意味がわからない。自分本位もいい加減にしなよ。だいたい、22日も外泊してたでしょ。浮気相手と仲良くやりなよ」

今から食事だというのに、邪魔するのやめて欲しい。夕飯後は掃除もしたい。あ、お風呂沸かさないと。

裕さんの脇をすり抜けて風呂場に向かう。キレイに洗ってあるのでシャワーで浴槽をさっと流し、栓をしてお湯を張る。浴室から出ると裕さんが立っている。いちいち着いてこないでくれないかな。

「私、今からご飯食べるから」

「俺の分は?」

「三年前に、食事しないって言ったのは裕さんだよね。都合の悪いことは忘れる主義なの?なんにも準備なんかしてないよ」

「じゃあ、買ってくる。一緒に、」

いい加減にしてほしい。

「裕さん。私は私、裕さんは裕さんでずっと生活してきたの。特に私は、半年前から自分のペースを作り上げてきたの。今さらそれを崩されたくない。裕さんに、そんな権利ないよ。早く離婚しよう。私、明日遅番だから午前中に離婚届もらってくるから」

それだけ言い捨て、台所に向かう。食卓に運びご飯を食べようとすると、玄関の開く音が聞こえた。さっさと浮気相手に泣きつけよ。なんで今になって関わりをもとうとしてくるのか理解に苦しむ。

夜は主食は食べないのでチキンとレタス、もずく酢を食べる。基本的に、ダイエットを始めてからは飲酒もやめた。昨日のような特別な日のみ、自分に許すことにした。

片付けを済ませ、お風呂に入る。念のため内鍵をかける。ほんとにやだなー。こんなふうにグルグル悩むのも、変に気を使わなくちゃならないことも。うんざりする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...