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前世 橋本菜緒子
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麗の家に一泊し、朝食を軽く食べてお互いダラダラと過ごす。気心が知れているとわざわざ会話をしなくても済む。この半年、ほとんどお預け状態だったBL漫画を読む。
「あー…今書店に行ったら、バカみたいに散財する予感しかない」
「反動が凄そう。バカだね、小出しにしないからだよ」
「醜いカラダで神を崇めるなんてって言ったのは麗でしょ」
ペロッと舌を出した麗は、「まさか律儀に守るとは」と揶揄うように言ってニヤニヤした。
「…で。これからどうするの?」
「いやー…正直、どういうことなのかさっぱりわからないから、自分がどう出ればいいのかわからないんだよね。まずはイヤだけど、話し合うしかないだろうねぇ…ユウウツ。あの上から目線の論理展開をまた聞かなくちゃいけないかと思うと」
「いきなり出てけ、って言われたらとりあえずうちに来なよ。キレイにすることを覚えた菜緒子ならいつでも大歓迎だよ」
「うん、ありがとう」
その後もまったりし、15時に麗の家を出る。
今夜は久しぶりにチキンでも食べようとドライブスルーに並び、フライドチキンを二本買う。冷蔵庫にレタスはあるからスーパーには寄らず真っ直ぐ帰る。
まさかいないよね、と家に着くと車はなかった。金曜日だし仕事に行ったんだろう。ホッとして家に入る。
そう言えば、とスマホの電源を入れると、「…うわあ」
すごい数の着信履歴とメッセージ。
『早く帰ってきて』
『電話出て』
『待ってる』
の繰り返し。
最後のメッセージは今朝5時30分のもので、なんと、
『今夜帰ってこなかったら捜索願い出すからな』
という脅迫文だった。スクショし、麗に転送すると『気持ち悪い』と返ってきた。
昨日と同じ18時30分、裕さんが帰ってきた。
「菜緒子、ただいま」
「おかえりなさい」
振り向きもせずに自分のために台所でレタスを洗っていたら、後ろからいきなり抱き締められた。ゾワゾワしかない。
「裕さん、やめて。私昨日言ったよね。他の女と寝る男に触られたくないの」
「俺、相手と別れた」
「だから?」
「だから、って…」
裕さんの腕から抜け出し睨み付ける。
「離婚する意思は変わらないよ。自分だって離婚したかったんだから、離婚して飛鳥さん?と結婚しなよ」
「…だから!別れたって言ってるじゃん!俺は菜緒子と別れないよ、絶対に」
「あのさ。おんなじことを何回も何回も言わされてうんざりなんだけど、もう一回言うね。まず、結婚してるのに他の女を抱く男は無理。次に、もう八年セックスレス。次に、三年も浮気しておいていきなり何?相手に捨てられたの?声聞く限り若い子みたいだけど」
「菜緒子、話し合おう。誤解もあるだろ?」
すぐに触ろうとしてくるのやめてほしい。なんなのこの人。
「今話したことに誤解なんてないけど」
「相手に捨てられたんじゃなくて、俺が別れたいって言ったの。菜緒子とやりなおしたいから」
「あのさぁ。裕さん、私のことトドとかブタとか女じゃないとか好き放題言ってて、私が痩せて都合のいい女になったからってやり直す?意味がわからない。自分本位もいい加減にしなよ。だいたい、22日も外泊してたでしょ。浮気相手と仲良くやりなよ」
今から食事だというのに、邪魔するのやめて欲しい。夕飯後は掃除もしたい。あ、お風呂沸かさないと。
裕さんの脇をすり抜けて風呂場に向かう。キレイに洗ってあるのでシャワーで浴槽をさっと流し、栓をしてお湯を張る。浴室から出ると裕さんが立っている。いちいち着いてこないでくれないかな。
「私、今からご飯食べるから」
「俺の分は?」
「三年前に、食事しないって言ったのは裕さんだよね。都合の悪いことは忘れる主義なの?なんにも準備なんかしてないよ」
「じゃあ、買ってくる。一緒に、」
いい加減にしてほしい。
「裕さん。私は私、裕さんは裕さんでずっと生活してきたの。特に私は、半年前から自分のペースを作り上げてきたの。今さらそれを崩されたくない。裕さんに、そんな権利ないよ。早く離婚しよう。私、明日遅番だから午前中に離婚届もらってくるから」
それだけ言い捨て、台所に向かう。食卓に運びご飯を食べようとすると、玄関の開く音が聞こえた。さっさと浮気相手に泣きつけよ。なんで今になって関わりをもとうとしてくるのか理解に苦しむ。
夜は主食は食べないのでチキンとレタス、もずく酢を食べる。基本的に、ダイエットを始めてからは飲酒もやめた。昨日のような特別な日のみ、自分に許すことにした。
片付けを済ませ、お風呂に入る。念のため内鍵をかける。ほんとにやだなー。こんなふうにグルグル悩むのも、変に気を使わなくちゃならないことも。うんざりする。
「あー…今書店に行ったら、バカみたいに散財する予感しかない」
「反動が凄そう。バカだね、小出しにしないからだよ」
「醜いカラダで神を崇めるなんてって言ったのは麗でしょ」
ペロッと舌を出した麗は、「まさか律儀に守るとは」と揶揄うように言ってニヤニヤした。
「…で。これからどうするの?」
「いやー…正直、どういうことなのかさっぱりわからないから、自分がどう出ればいいのかわからないんだよね。まずはイヤだけど、話し合うしかないだろうねぇ…ユウウツ。あの上から目線の論理展開をまた聞かなくちゃいけないかと思うと」
「いきなり出てけ、って言われたらとりあえずうちに来なよ。キレイにすることを覚えた菜緒子ならいつでも大歓迎だよ」
「うん、ありがとう」
その後もまったりし、15時に麗の家を出る。
今夜は久しぶりにチキンでも食べようとドライブスルーに並び、フライドチキンを二本買う。冷蔵庫にレタスはあるからスーパーには寄らず真っ直ぐ帰る。
まさかいないよね、と家に着くと車はなかった。金曜日だし仕事に行ったんだろう。ホッとして家に入る。
そう言えば、とスマホの電源を入れると、「…うわあ」
すごい数の着信履歴とメッセージ。
『早く帰ってきて』
『電話出て』
『待ってる』
の繰り返し。
最後のメッセージは今朝5時30分のもので、なんと、
『今夜帰ってこなかったら捜索願い出すからな』
という脅迫文だった。スクショし、麗に転送すると『気持ち悪い』と返ってきた。
昨日と同じ18時30分、裕さんが帰ってきた。
「菜緒子、ただいま」
「おかえりなさい」
振り向きもせずに自分のために台所でレタスを洗っていたら、後ろからいきなり抱き締められた。ゾワゾワしかない。
「裕さん、やめて。私昨日言ったよね。他の女と寝る男に触られたくないの」
「俺、相手と別れた」
「だから?」
「だから、って…」
裕さんの腕から抜け出し睨み付ける。
「離婚する意思は変わらないよ。自分だって離婚したかったんだから、離婚して飛鳥さん?と結婚しなよ」
「…だから!別れたって言ってるじゃん!俺は菜緒子と別れないよ、絶対に」
「あのさ。おんなじことを何回も何回も言わされてうんざりなんだけど、もう一回言うね。まず、結婚してるのに他の女を抱く男は無理。次に、もう八年セックスレス。次に、三年も浮気しておいていきなり何?相手に捨てられたの?声聞く限り若い子みたいだけど」
「菜緒子、話し合おう。誤解もあるだろ?」
すぐに触ろうとしてくるのやめてほしい。なんなのこの人。
「今話したことに誤解なんてないけど」
「相手に捨てられたんじゃなくて、俺が別れたいって言ったの。菜緒子とやりなおしたいから」
「あのさぁ。裕さん、私のことトドとかブタとか女じゃないとか好き放題言ってて、私が痩せて都合のいい女になったからってやり直す?意味がわからない。自分本位もいい加減にしなよ。だいたい、22日も外泊してたでしょ。浮気相手と仲良くやりなよ」
今から食事だというのに、邪魔するのやめて欲しい。夕飯後は掃除もしたい。あ、お風呂沸かさないと。
裕さんの脇をすり抜けて風呂場に向かう。キレイに洗ってあるのでシャワーで浴槽をさっと流し、栓をしてお湯を張る。浴室から出ると裕さんが立っている。いちいち着いてこないでくれないかな。
「私、今からご飯食べるから」
「俺の分は?」
「三年前に、食事しないって言ったのは裕さんだよね。都合の悪いことは忘れる主義なの?なんにも準備なんかしてないよ」
「じゃあ、買ってくる。一緒に、」
いい加減にしてほしい。
「裕さん。私は私、裕さんは裕さんでずっと生活してきたの。特に私は、半年前から自分のペースを作り上げてきたの。今さらそれを崩されたくない。裕さんに、そんな権利ないよ。早く離婚しよう。私、明日遅番だから午前中に離婚届もらってくるから」
それだけ言い捨て、台所に向かう。食卓に運びご飯を食べようとすると、玄関の開く音が聞こえた。さっさと浮気相手に泣きつけよ。なんで今になって関わりをもとうとしてくるのか理解に苦しむ。
夜は主食は食べないのでチキンとレタス、もずく酢を食べる。基本的に、ダイエットを始めてからは飲酒もやめた。昨日のような特別な日のみ、自分に許すことにした。
片付けを済ませ、お風呂に入る。念のため内鍵をかける。ほんとにやだなー。こんなふうにグルグル悩むのも、変に気を使わなくちゃならないことも。うんざりする。
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