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前世 橋本菜緒子
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麗の家を出て、書店の駐車場に車を停める。形から入るのが大好きなので、まずは指南書みたいなものを手にしてみようかと考えたのだ。だいたい、買って満足して終わるんだけど。
7月、という季節柄なのか、ダイエットを特集した雑誌がたくさん出ている。何度もダイエットに挑戦してはリバウンドしてきたが、この10年はダイエットのダの字すら頭に浮かばなかった。ただただ、自堕落に生きてきた。
表紙をいろいろ見ていくうちに、「低糖質ダイエット」という文字に目が留まる。実は職場の同僚が、痩せたのだ。このダイエット方法で。
いろいろ話していたが、何も努力しないくせに妬む気持ちだけはイッチョマエの私の耳はきちんと聞くことを拒否してしまった。痩せた自慢なんて聞きたくもない、と不貞腐れていたあの日の自分を蹴っ飛ばしたい。
ひとまず反省したフリをして、その雑誌を手に取る。気持ちを盛り上げるために、ランニングの雑誌も買うことにする。あとは手軽にできそうな運動…独身時代に購入したDVDがあるけど、新しいものが欲しい…と、目に入ってきたのが「HIIT」という運動方法の本。そんなに時間をかけなくてもできそうなので、それも購入することにした。
そのあと大好きなBL漫画の棚にフラフラ吸い寄せられそうになったとき、先程投げつけられた麗の爆弾を思い出した。
「あんたさぁ、かっこいい!ドS攻め、素晴らしい肉体美!とか言って、鼻血出る!とか悶えてるくせに、自分はそんな汚いブヨブヨのカラダで恥ずかしくないの?神の前によくそんな醜いカラダをさらけだせるね?今までは黙ってたけど、もう甘やかさないよ。ブタ!少しは痩せろ!神を崇めるのは痩せてからにしろ!自重しろ!」
…言葉もない。
クルリと背を向け、棚から離れる。新刊も手に取れない…自業自得だけど。まずは真面目にダイエットしよう。
記録する、という地道な作業が出来ないためいつも挫折してきたのだが、今回こそはと記録のための大学ノートを買う。…実家には、中途半端になって放置された大学ノートが何冊もある。いつも最後までいった試しがない。だらしなさここに極まれり、という典型である。
そういえば昔母に、「菜緒子。あんたA型なんだから、コツコツやるってできるはずよ。きちんと積み重ねることを覚えなさい!習慣が人生を造るのよ!」と説教されたことがある。血液型でそれはどうかと思ったが、確かに母はコツコツやる人だった。私はだらしない習慣しか身に付いていない、だからこそのこの体型、この人生だ。
裕さんとのことも、もっと対話をすればよかったのに、メンドクサくて、メールもほぼしなくて、裕さんから来ていた帰るよメールもいつの間にか来なくなってた。
浮気を肯定するわけじゃないけど、裕さんが他の女性に目を移すのもある意味仕方ないことなのかもしれない。釣った魚に餌はやらないって男の人の話は聞くけど、私もある意味そうなのかもな。ひとりの世界で完結しちゃってたのかも。
駐車場に戻り、車の中で独りごちる。
「…いつ切り出されてもいいように、準備を始めよう」
今住んでいる家は、元々裕さんの実家の一軒家で、裕さんのご両親は海外に移住してしまった。のんびり暮らしたいから、日本はせせこましくて落ち着かない、と。ずいぶん思い切ったことをするご両親と違い、裕さんは石橋を叩いて渡るタイプ。だから何か自分の中で成立するまで、離婚も言い出してこないんだろう。私を有責にしたい、なんて発言もあったし。
裕さんもなんだかんだ言いつつ、家の掃除はほとんどしない。たぶん10年前に比べるとかなり薄汚れているだろう。見かねて草むしりは裕さんがやっていたが、…それも不満そうだったもんなぁ。子どもがいなくて共働きでも、家事は女がやる仕事!と思ってるのかも。私の場合、やらなすぎだけど。
裕さんに未練もなにもないけれど、今まで生活してきたご両親の建てた家は、キレイにしてから出ていきたい。結婚の挨拶に行ったとき、嬉しそうにしてくれたご両親にせめてもの恩返しにしたい。お二人が帰ってくるかどうかはわからないけれど。
がぜん気持ちが燃えてきた私は、そのまま職場のドラッグストアに向かうことにした。今までまともに掃除もしてないから、それこそまともな掃除用具もない。お風呂は裕さんは使ってる様子なし、私もシャワーで済ませてるから、…あの浴槽がどんな状態なのか考えただけでも恐ろしい。トイレも、マット替えたのいつだっけ?近くの衣料品店にも行ってみよう。
いろいろやることを考えはじめたら、なんとなく楽しくなってきた。だらしない、メンドクサイが口癖の私といつかオサラバできるように今日から頑張ろう。
7月、という季節柄なのか、ダイエットを特集した雑誌がたくさん出ている。何度もダイエットに挑戦してはリバウンドしてきたが、この10年はダイエットのダの字すら頭に浮かばなかった。ただただ、自堕落に生きてきた。
表紙をいろいろ見ていくうちに、「低糖質ダイエット」という文字に目が留まる。実は職場の同僚が、痩せたのだ。このダイエット方法で。
いろいろ話していたが、何も努力しないくせに妬む気持ちだけはイッチョマエの私の耳はきちんと聞くことを拒否してしまった。痩せた自慢なんて聞きたくもない、と不貞腐れていたあの日の自分を蹴っ飛ばしたい。
ひとまず反省したフリをして、その雑誌を手に取る。気持ちを盛り上げるために、ランニングの雑誌も買うことにする。あとは手軽にできそうな運動…独身時代に購入したDVDがあるけど、新しいものが欲しい…と、目に入ってきたのが「HIIT」という運動方法の本。そんなに時間をかけなくてもできそうなので、それも購入することにした。
そのあと大好きなBL漫画の棚にフラフラ吸い寄せられそうになったとき、先程投げつけられた麗の爆弾を思い出した。
「あんたさぁ、かっこいい!ドS攻め、素晴らしい肉体美!とか言って、鼻血出る!とか悶えてるくせに、自分はそんな汚いブヨブヨのカラダで恥ずかしくないの?神の前によくそんな醜いカラダをさらけだせるね?今までは黙ってたけど、もう甘やかさないよ。ブタ!少しは痩せろ!神を崇めるのは痩せてからにしろ!自重しろ!」
…言葉もない。
クルリと背を向け、棚から離れる。新刊も手に取れない…自業自得だけど。まずは真面目にダイエットしよう。
記録する、という地道な作業が出来ないためいつも挫折してきたのだが、今回こそはと記録のための大学ノートを買う。…実家には、中途半端になって放置された大学ノートが何冊もある。いつも最後までいった試しがない。だらしなさここに極まれり、という典型である。
そういえば昔母に、「菜緒子。あんたA型なんだから、コツコツやるってできるはずよ。きちんと積み重ねることを覚えなさい!習慣が人生を造るのよ!」と説教されたことがある。血液型でそれはどうかと思ったが、確かに母はコツコツやる人だった。私はだらしない習慣しか身に付いていない、だからこそのこの体型、この人生だ。
裕さんとのことも、もっと対話をすればよかったのに、メンドクサくて、メールもほぼしなくて、裕さんから来ていた帰るよメールもいつの間にか来なくなってた。
浮気を肯定するわけじゃないけど、裕さんが他の女性に目を移すのもある意味仕方ないことなのかもしれない。釣った魚に餌はやらないって男の人の話は聞くけど、私もある意味そうなのかもな。ひとりの世界で完結しちゃってたのかも。
駐車場に戻り、車の中で独りごちる。
「…いつ切り出されてもいいように、準備を始めよう」
今住んでいる家は、元々裕さんの実家の一軒家で、裕さんのご両親は海外に移住してしまった。のんびり暮らしたいから、日本はせせこましくて落ち着かない、と。ずいぶん思い切ったことをするご両親と違い、裕さんは石橋を叩いて渡るタイプ。だから何か自分の中で成立するまで、離婚も言い出してこないんだろう。私を有責にしたい、なんて発言もあったし。
裕さんもなんだかんだ言いつつ、家の掃除はほとんどしない。たぶん10年前に比べるとかなり薄汚れているだろう。見かねて草むしりは裕さんがやっていたが、…それも不満そうだったもんなぁ。子どもがいなくて共働きでも、家事は女がやる仕事!と思ってるのかも。私の場合、やらなすぎだけど。
裕さんに未練もなにもないけれど、今まで生活してきたご両親の建てた家は、キレイにしてから出ていきたい。結婚の挨拶に行ったとき、嬉しそうにしてくれたご両親にせめてもの恩返しにしたい。お二人が帰ってくるかどうかはわからないけれど。
がぜん気持ちが燃えてきた私は、そのまま職場のドラッグストアに向かうことにした。今までまともに掃除もしてないから、それこそまともな掃除用具もない。お風呂は裕さんは使ってる様子なし、私もシャワーで済ませてるから、…あの浴槽がどんな状態なのか考えただけでも恐ろしい。トイレも、マット替えたのいつだっけ?近くの衣料品店にも行ってみよう。
いろいろやることを考えはじめたら、なんとなく楽しくなってきた。だらしない、メンドクサイが口癖の私といつかオサラバできるように今日から頑張ろう。
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