お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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前世 橋本菜緒子

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「あのさ。遠回しに言うの苦手だから、単刀直入に言うけど。菜緒子の旦那、浮気してるよ」

親友の言葉に呼応するように出てきたのは「やっぱりかー」だった。

「やっぱり…?菜緒子、気づいてたの?気づいてたのに黙ってるの?離婚したくないから赦すってこと?見て見ぬふりしてこの先も生きていくの?人生あと何年あるかわからないのに、」

捲し立てる親友…麗の口をふさぐ。モゴモゴしながら睨み付けると、ふさいだ私の手を取り払った。

「ねぇ!」

「…落ち着いて」

私と麗は似た者同士だ。かなり沸点が低く、激昂しやすい。ただ、相手が激昂するのを見ると途端に冷静になる。

「三年くらい前に、寝室が別になったの」

「…は?」

「結婚してから二年もせずにレスになったけど、それでも寝室は一緒だったの」

麗は、呆けたような顔になった。

「…そのあんまり聞きたくない情報と、あんたの旦那の浮気がどう繋がるの」

「それまで普通に隣で寝てたのに、いきなり寝室別、しかも内鍵外鍵付きにしたんだよ?なんかヤバイことでも始めるのかと思ってさー…大麻の栽培とか、」

「いや、そんな方向に行くあんたの妄想が怖いわ」

呆れた目を向けられるが仕方ない。ほんとにそう思ったんだから。

「時を同じくして、今まで気にもしなかった私の勤務シフトを教えろと言い出したの。夫の義務だって」

ふんふん、と頷く麗。

そう、あの時、あまりにも突然すぎて素で「なんで?」って聞いた私に、裕さんは「知られちゃマズイ何かがあるのか!?疚しいことでもあるのか!」って怒鳴ったのだ。

またもや予想もしないことを言われて唖然とする私を見て、気まずそうな顔になった裕さんは目を逸らしながら「…妻の勤務シフトも知らないなんて、なんかあったとき困るだろ?夫としての義務だから」とボソボソ呟いたのだ。

結婚して七年目に、いきなり「夫の義務」。なんにもないと思うほうがおかしい。その疑惑を裏付ける日は案外早くやってきた。

その日、シフトでは遅番だったのだが前日に「シフトを交換してほしい」と同僚に言われ、急遽早番になった。早番でも裕さんより出勤が遅いので、気づかなかったのだろう。私も、特に言う必要はないと伝えなかった。

ドラッグストアに正社員として勤める私は、子どもがないこともあり遅番のシフトが多い。営業は21時までだからそんなに遅いわけでもないし、不満もなく勤めている。数えるほどの早番の日と、休みの日にはせめてもと夕飯を作ることにしていて、その日も作って待っていたのだが。

裕さんは遅くとも19時くらいに帰ってくるのが常だったのだが、その日玄関が開いたのは21時だった。開いたと同時に「菜緒子!」と玄関で呼ばれた。

玄関に行くと、ものすごい顔で睨み付けられ「なんでいんの!?」と怒鳴られた。その時裕さんから、ふわりと。せっけんの香りがしたのだ。

あれ、と違和感を覚える私に「なんでいんのか聞いてんだけど」と畳み掛けるように言う。

「…シフト代わったから」

くしゃりと顔を歪めると、「言えよな!びびるだろうが!」と靴を脱ぎ捨てドスドス廊下を歩いていった。

そのあと、しばらくしてから取り繕うように

「さっきはごめん、びっくりしちゃってさ。いないと思ったのに電気ついてるからまさか泥棒?とか思っちゃって」

とヘラヘラ笑っていたが、私は笑うこともできなくて、「ごはんは?」とだけなんとか絞り出した。

「いや、外で食ってきた。菜緒子言わないからさー」

サラッと私のせいだと責める言葉を織り込んでくる。じゃあおまえのその匂いはなんなんだよ、と言ってやりたかったがバカらしくてやめた。

つらつらそんなことを話す私を覚めた目で見る麗は、ため息をつき。

「…もう棄てたんだ」

「うん。もう廃棄したの」

結婚して二年でレスになったのは生活時間の違いだと裕さんは言い訳にしたが、そうではない。私は遅番でも21時30分には家にいるし、裕さんだって23時、24時まで起きてるのはざらだ。下手したら私のほうが早く寝ることもあった。要は、したくない。それだけだろう。

私は腐女子で、BL本も激しめエッチ、ドSが攻めで受けをアンアン言わせちゃう漫画が大好きだから、読めばアソコもキュンキュンするし、妄想含めセックスは好きなほうだと自負している。だけど、結婚した相手は私とはしたくないらしい。そしたら、自慰するしかないよね。おかげでいろんなオモチャが増えましたよ!さすがに恥ずかしいからコンドームは職場とは違うドラッグストアで買ってるけど!

他の男と、なんてのも…メンドクサイ。ひたすら妄想と漫画で凌いでまいりました。

そんな私を知ることも顧みることも労ることもなく、他の女とエッチしてるようなゴミ…廃棄しかないでしょ。

「じゃあ、なんで離婚しないの」

「私が言うのおかしいでしょ。誠心誠意、離婚してくれって頼むべきはあっちでしょ。いつでも別れるよ。慰謝料とかいらないし」

ふーん、とバカにしたような目になった麗は、「これ。音声データ」と、いきなり再生した。

『ねぇ、ゆうくん。いつになったら奥さんと離婚するの?』

若そうな、高い女性の声。ゆうくん、とは…他ならぬ私の夫か。40過ぎのおっさんを、ゆうくんとは。言われてニヤニヤしてるんだろうなぁ、おっさん。

『すぐにでも離婚して、飛鳥と再婚したいんだけどさぁ。ちょっと考えがあって…あいつを有責にして慰謝料取れないかな、って』

…なんですと?

『家事もまともにやらないような女、妻としての責任果たしてないじゃん?デブだしさー。結婚してからの10年で、どれだけ太ったんだっつーの!よく恥ずかしくなくいられるわ。あの体型でドラッグストアで痩せるサプリメントとか売ってんだぜ?客も、まずおまえが飲んでみろって思うだろうよ』

『ゆうくん、ひどーい』

ひどーい、といいながら二人で大笑いしている。

「…ま。不倫してるのはともかく、菜緒子、あんたほんとに太ったよね」

「それ以前に、これ犯罪じゃないの」

麗はニヤニヤすると、「いやー、必要にかられてだから」

確かに太った。結婚した10年前から、たぶん…12キロは増えた。

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