キューピットのクソ野郎が俺を失恋させる気です

萌葱 千佳

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第6話

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 カーテンの隙間から差し込む陽を浴びて目を擦る。壁に掛かっている時計を見上げると11時を回っていた。ベッドの中で大きく伸びをすると、すぐ隣でこちらをじっと見つめる視線に気が付く。

「うおっ!?」
「おはよう」
 リュカの眼差しがどこか優しげに感じる。何お前見てんだよ! と昨日までは返していたかもしれない。でもこれがリュカと過ごせる最後の週末だ。くだらない言い争いをし続けたらきっと後悔が残る――そう思うと、恥ずかしさを堪えながらぼそぼそと呟く。
「……おはよ」
「ん」
 リュカの手がこちらに伸び、寝癖を直すかのように髪を撫でる。
「よく寝てたな」
「起こしてくれても良かったのに」
「気持ち良さそうに寝てたから。あと寝溜めしたいって言ってただろ」
 そのまま頬を撫でられ、どきりと心臓が跳ね上がる。なんだこいつ。昨日までとはどこか違う空気感に当てられて顔が火照っていく。

「今日は何も予定ないんだったな、二度寝するか?」
「いや、いい。起きる」
 ゆっくりと身体を起こすと、先にベッドから出たリュカが俺の手を取って引き上げる。両手をリュカに握られたまま、同じ目線にある紺色の瞳がこちらをじっと見つめていた。
「……えっと、どうした?」
「何でもない」
 するりと離れていく手を追い掛けたい衝動に駆られる。こいつも、俺自身も、何かがおかしい。そう思いながら熱い頬を冷やすために洗面所に向かった。


「なぁ、リュカ」
 朝食を食べ終わって一息ついたところで、リュカにコントローラーを差し出す。こちらに視線を合わせたリュカが不思議そうな表情を浮かべた。
「積んでるゲームがあるんだけど、2人プレイ専用のやつでさ」
「ゲーム?」
 コントローラーを受け取ったリュカがぎこちなくボタンを押す。家から出ず、言い争いもせず、リュカと一緒の時間を最大限に楽しめる方法はないか――そう考えた時に、航平と遊ぼうと思って買っておいたゲームがあったのを思い出した。今ここでリュカとクリアしたら、きっともう航平と一緒にプレイすることはないだろう。それでもいいから残り少ないリュカとの時間を味わいたかった。

「俺はゲームをしたことがないから、晴斗の足を引っ張ってしまうかもしれない」
「大丈夫大丈夫、操作も簡単だしすぐ慣れるって」
 ゲーム機の電源を入れ、ソフトを起動する。コントローラーを持つリュカの手にそっと重ねるように自分の手を添えた。
「ここで左右の移動、んでこっちでジャンプ」
 たどたどしくリュカの操作するキャラクターが画面を移動する。
「合ってるか?」
「ん、できてる。じゃあとりあえずやってみるぞ」

 それは2人でギミック解除やモンスター討伐をしながらダンジョンの奥へと進む協力ゲームだった。最初は困惑していたリュカも、次第にゲームの操作に慣れていく。
「……わっかんねぇな」
「1つ前の部屋まで戻ってみるか?」
「あー……ここのボタンじゃない? リュカ右側の押せる?」
 2人で別々のスイッチを押すと、道を塞いでいた壁が崩れ去る。行き詰っていたギミックの解除成功に思わずハイタッチを促すと、心地良い乾いた音が部屋に響いた。俺の顔を見たリュカの口角が上がる。

「……なんだよ」
「いや、楽しいなと」
 柔らかく微笑むリュカと肩が触れ合う。どこか照れ臭くなり視線を画面に戻しながら口を開いた。
「そうだな。俺もすげー楽しい」
 試行錯誤しながらも、ダンジョンに出現するモンスターとの戦闘スタイルが次第に固まっていく。まずはリュカが遠距離から弓で攻撃し、ある程度体力ゲージを削ったところで俺が大剣で一気に薙ぎ払う。

「ナイス!」
 ダンジョンを1つクリアする毎に自然とハイタッチが起こる。
「やっぱリュカ弓上手いな~! 弓は癖強いから使いこなせない人が多いって聞いたけど、すげぇ当たるからびびった」
「まぁ、本物をいつも触ってるから」
 どことなく得意げなリュカは淡々とモンスターに狙いを定めていく。最初は攻撃の度に掛け声をすることで連携を図っていたが、いつの間にか声を掛けずとも息が合うようになった。

 ――楽しい。自分とリュカの境界線が曖昧になって、1つの塊として敵に挑んでいるかのように感じる。痒い所に手が届くかのように、攻撃のピースがハマっていくのがたまらなく心地良い。ナイス、と重なる声が一体感を加速させる。こんなにも誰かと足並みを揃えることで心が沸き立つのか、そう思いながらコントローラーを握り締めていた。
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