雪女の約束

null

文字の大きさ
上 下
3 / 5
雪女の約束

雪女の約束.3

しおりを挟む
 リンナの家に入る前にミランダさんは虚空に向かって何かを呟いた。

 それをじっと見ていると私の視線に気づいたのか「エミリアにかけた消音魔法を解いていた」と説明してくれる。

 確かにミランダさんがエミリアさんの声量を抑える為にその魔法をかけていたことは覚えている。

 けれどどうして今それを解除したのだろう。疑問が表情に出ていたのかミランダさんが言葉を発した。


「少しでもあの娘の声が聞こえやすいようによ」


 リンナの家と墓地は一本道だがそれなりに距離がある。

 普通ならこの場にいて墓地からの声なんて聞こえる筈がない。

 ないのだが、相手はエミリアさんである。

 きっと抑制が解かれた今なら、それなりに気合を入れて叫べばここまで聞こえてくるに違いない。

 だから私はそれ以上の疑問を抱くことなくミランダさんをリンナの家へと招いた。

 森へ繋がる方の扉は開かれていたというのに一歩足を踏み入れると土と植物の濃い匂いがした。余りいい香りではない。

 それは隠し切れない腐臭があるからだ。

 けれど先ほどエミリアさんと通った時はここまで不快さを感じなかった。それは何故だろう。

 その時とは状況が変わっているのだろうか。私はゆっくりと室内を見渡す。

 真っ先にリンナの父親の人面花が目に飛び込んできた。正直姿が惨すぎて視線を逸らしたいぐらいだ。


「おじさん……」


 それでも勇気を振り絞り話しかける。ミランダさんは観察の姿勢に入ったのか私の背後で無言を貫いていた。

 墓地に向かったが結局彼の願い通りにリンナの母親を救うことはできなかった。

 なぜなら墓地に彼女が存在しなかったからだ。いたのはリンナの姿をした魔物とレン兄さんとライルだけだった。

 だから私は彼に尋ねる。


「おじさん、おばさんは一体どこにいるの?」

「アディ、ツマヲ、ツマハ……」


 その体から生えている葉は先程のように森を指し示さない。

 ぐったりと力なく下へと垂れ下がっている。

 そう、下へだ。


「……地下室に、いるのね?」

「アディ、ツマハ、ムスメハ……」


 バツヲ、ウケルノダロウカ。

 そう苦し気な声で呟いたきり、人面花は言葉を発しなくなった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

処理中です...