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二章 鼓動の音に問いかけて
鼓動の音に問いかけて.8
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「つまり、なんなの、青葉。あ、貴方、私と祈里をその、『そういう関係』として捉えていたというの…?」
運ばれてきたチキン南蛮の匂いが漂う中、夜重は、とても信じられないことを聞かされている、といったふうに青葉の説明を繰り返した。
「ち、違うって!あくまで、あくまでね?私の頭の中でだけ、そういう扱いだったってこと!分かるかな?分かるよね、夜重、頭良いもんね!?」
必死に弁明する青葉は、先ほどの私たち並みに顔が紅潮していた。まあ、自分が頭の中だけとはいえ、クラスメイトたちをカップリングしていたことがバレたら、そりゃあ死ぬほど恥ずかしいだろう…なむぅ…。
「…いえ、全くもって理解できないわ…ごめんなさい、力になれなくて…」
「謝んなしっ!余計恥ずかしくなるわっ!」と机を軽く叩いた青葉は、次に私へと顔を向ける。
「い、祈里は…」
どうやら、私に対しても弁明が始まるらしい。なんかもう、恥ずかしいやらなにやらで私も頭がいっぱいだが、青葉が誰がどう見ても混乱してくれているおかげで比較的冷静になれていた。
そのおかげで、話を聞く前から、『まあ、ちゃんと説明すれば許してやらんこともないぞ』という心持ちになりつつある。
「…ほら、馬鹿だから、適当に流してくれたらいいよ」
「おおぃっ!」
たしかに、私の成績は下から数えたほうが早いけども!
「この扱いの差!許すまじ!訴えてやる、戦争じゃ!」
「…裁判所に訴えるのか、武力に訴えるのかどちらかにしなさい」
横から重箱の隅を夜重が突いてくるが、その声に力はない。見ると悄然としているふうだった。無理もない。
「うっさい!けなされてばかりの私の気持ち、頭の良い夜重には分からんでしょうよ」
「まあ…」
まあ、じゃないよ。そこは謙虚に受け止めなよ。
「ぐ、ぐぬぬ…!」
私が怒りの矛先を夜重に移すと、目の前で呉羽が、「ふふっ」と笑った。それでまた視線を正面に戻したのだが、彼女は口元を綻ばせ、初めて表情という表情を私の前に浮かべていた。
「お姉ちゃんの言う通り。尊いですね…」
ぶちっ。
堪忍袋の緒が切れた音がして、私は腰を浮かせる。
どうしてこうも、誰もかれも人の話を聞かないやつばっかりなんだ!
「誤解しないでよ!私はただ、女の子同士でもドキドキするかを夜重と試してるだけなの!だから、別に付き合ってないの!」
しぃん、と静まり返る店内。
耳に痛い静寂が、私の怒りの炎に冷や水を浴びせる。
あっという間に血の気が引いていく感覚がして、思わず、夜重のほうを一瞥すると、彼女は真っ赤な顔で俯き、「だから祈里は、馬鹿って言われるのよ」とぼやいていた。
運ばれてきたチキン南蛮の匂いが漂う中、夜重は、とても信じられないことを聞かされている、といったふうに青葉の説明を繰り返した。
「ち、違うって!あくまで、あくまでね?私の頭の中でだけ、そういう扱いだったってこと!分かるかな?分かるよね、夜重、頭良いもんね!?」
必死に弁明する青葉は、先ほどの私たち並みに顔が紅潮していた。まあ、自分が頭の中だけとはいえ、クラスメイトたちをカップリングしていたことがバレたら、そりゃあ死ぬほど恥ずかしいだろう…なむぅ…。
「…いえ、全くもって理解できないわ…ごめんなさい、力になれなくて…」
「謝んなしっ!余計恥ずかしくなるわっ!」と机を軽く叩いた青葉は、次に私へと顔を向ける。
「い、祈里は…」
どうやら、私に対しても弁明が始まるらしい。なんかもう、恥ずかしいやらなにやらで私も頭がいっぱいだが、青葉が誰がどう見ても混乱してくれているおかげで比較的冷静になれていた。
そのおかげで、話を聞く前から、『まあ、ちゃんと説明すれば許してやらんこともないぞ』という心持ちになりつつある。
「…ほら、馬鹿だから、適当に流してくれたらいいよ」
「おおぃっ!」
たしかに、私の成績は下から数えたほうが早いけども!
「この扱いの差!許すまじ!訴えてやる、戦争じゃ!」
「…裁判所に訴えるのか、武力に訴えるのかどちらかにしなさい」
横から重箱の隅を夜重が突いてくるが、その声に力はない。見ると悄然としているふうだった。無理もない。
「うっさい!けなされてばかりの私の気持ち、頭の良い夜重には分からんでしょうよ」
「まあ…」
まあ、じゃないよ。そこは謙虚に受け止めなよ。
「ぐ、ぐぬぬ…!」
私が怒りの矛先を夜重に移すと、目の前で呉羽が、「ふふっ」と笑った。それでまた視線を正面に戻したのだが、彼女は口元を綻ばせ、初めて表情という表情を私の前に浮かべていた。
「お姉ちゃんの言う通り。尊いですね…」
ぶちっ。
堪忍袋の緒が切れた音がして、私は腰を浮かせる。
どうしてこうも、誰もかれも人の話を聞かないやつばっかりなんだ!
「誤解しないでよ!私はただ、女の子同士でもドキドキするかを夜重と試してるだけなの!だから、別に付き合ってないの!」
しぃん、と静まり返る店内。
耳に痛い静寂が、私の怒りの炎に冷や水を浴びせる。
あっという間に血の気が引いていく感覚がして、思わず、夜重のほうを一瞥すると、彼女は真っ赤な顔で俯き、「だから祈里は、馬鹿って言われるのよ」とぼやいていた。
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