こんな私でも、クーデレ幼馴染に「ドキドキしてる」って言わせたい!

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二章 鼓動の音に問いかけて

鼓動の音に問いかけて.4

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『――ということで、ごめんなさい、莉音。夜重が当分の間はうるさそうだから、すぐに答えは出せないかも』

 私は心の底から申し訳ない、という気持ちをメッセージに込めて送信した後、莉音からの返信を待たずして携帯をベッドの上に放り投げた。

 莉音からどんな返信がくるのか、考えただけでも不安になった。なにぶん、自分でもどうしてこうなったと不思議になるような状況だったからだ。

「夜重のやつ…本当、意地っ張りなうえ性格が悪いんだから」

 なにが、『よかったわね?理解ある幼馴染が美少女で。私で試してもドキドキしないなら、誰に対してもならないわよ』だ。一体全体、どんだけ自分の顔に自信があったらそんな台詞が吐けるんだ。私、多分だけど一生吐く機会ないわ。

 それにしても、まあ珍しいことでもあった。夜重が自分のことを美少女だとか言うなんて。

 強気な性格に合った、ちょっと吊り目がちな瞳。日本人にしては高めの鼻筋、白い頬、繊細そうな指先、血色の良い唇に、なんといっても、夜の闇すら裸足で逃げ出すくらい美しく澄んだ黒髪。

 普段から、夜重は綺麗だ。美少女かどうかなんて、いちいち言われなくとも、十年近くその顔を隣で見続けてきた私のほうがよぉく理解している。そのへんのアイドルよりかわいい。

 でも…今日は少し、いつもと違った。

「夜重、顔真っ赤だったなぁ…」

 まだ夕暮れが山を染める時間でもなかったのに、夜重の顔は赤く色づいていて、とても、なんか、その…。

「――かわいかった、なんて…」

 女の子同士とか、関係ないくらい、こう、ぐっときた。胸が苦しくなるあの感覚は、知っているようで知らない、胸のトキメキとかいうやつなんじゃないかな。

 そこまで考えてから、私はハッとする。

「あー!ダメ、ダメ!夜重の思うつぼだよ、これじゃあ!」

 おのれ、夜重め。私の頭の中にまで攻撃を仕掛けてくるだなんて…。本当、油断も隙もないやつだ。

 そうしているうちに、ポン、とベッドの上の携帯がメッセージの着信を知らせる音を響かせた。

 もしかしなくとも、と画面を恐る恐る覗き込むと、そこには『莉音』の文字が。

 うぅ、ちょっと緊張する。怒られたり、呆れられたらどうしよう。

 でも、確認してみたところそんなことはなかった。むしろ、莉音は丁寧な文章で、私と夜重の気が済むまで確かめるといいよ、と言ってくれた。

 あぁ、こんなに優しいなんて…夜重に数滴でもいいから爪の垢を煎じて飲ませてやってほしいものである。

『ありがとう』と私が返すと、ややあって、莉音からこんなメッセージが送られてきた。
『それにしても、すごいね、夜重ちゃん』

 ん?なにがだろう?

『いくら幼馴染のためとはいえ、わざわざそんなことにまで付き合うなんてね。普通じゃないと思うよ』

 これは夜重が悪く言われてるんだろうか。だとしたら、ちょっと複雑。

『夜重は、昔からちょっと変わってるからなー』
『ふぅん』
『でも、悪い子じゃないんです!少しばかり性格が歪んでて、執念深くて嫌味っぽいだけなんです!』
『ははっ、私も悪い子じゃないとは思うよ。往生際は悪そうと思ったけどね』

 よかった。莉音もこう言ってくれている。

 でも、続く莉音の言葉に、私はまた考えさせられることになった。

『夜重ちゃんって、他の友だちにもそんな感じ?』
『え、いや、どうだろう。嫌味っぽいのは同じだけど、執念深さとかは感じないかも』

『へぇ』と短い返事の後に、文章は続く。『なんで祈里だけなんだろうね?』

 なんでって…。

 そんなこと考えたこともなかった。単純に付き合いが長いから、素を出してくるだけなんじゃないだろうか。

 私がそんなふうに返すと、莉音から、モルモットみたいなキャラが虚無的な瞳を浮かべているスタンプが送られてきた。

 え、なにこのスタンプ。どういう感情なの。

 私が反応に困ったままでいると、莉音のほうから、『夜重ちゃんに、前途多難だね。頑張ってって伝えておいて』とよく分からない文章が送られてきた。

 伝えるって、夜重に?

 ダメダメ。粘着質な夜重のことだ、莉音と連絡取ってるなんて知れたら、どうせまた面倒なことになるんだから。
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