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二章 鼓動の音に問いかけて
鼓動の音に問いかけて.1
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私は教室の窓越しに、雨で霞む山々をただ上の空で見ていた。
考えるのは、莉音のこと――ではなく、昨日、唐突に意味の分からないことを口走った蒼井夜重のこと。
――『試すのなら、私とにしなさい』。
うぅん…わけ分からん。
その前のやり取りから考えると、まるで私が女同士でも恋愛感情を持てるかどうかを夜重自身で試せ、といったような感じだ。
だけど、そんなのありえない。
夜重がそんなことを言わなきゃいけない理由が、一つもないじゃん。
頭はいいけど、時々よく分からなくなる幼馴染のことを考えてたせいで、あっという間に放課後になっていた。
(ま、考えても仕方がないか)
一日かけて出した答えを無造作に頭のゴミ箱にぽいっと放り込んだ私は、いつものように夜重の姿を探したのだが、彼女の影一つ教室には残っていなかった。
「あれ、夜重は?」
青葉を呼び止めてそう尋ねると、「夜重なら、放課後になった瞬間外に出てったよ」と言われた。
おのれ、夜重め…。意味の分からないことを言ってきたくせに、私を避けてやがる。
お互い、部活に所属してないから、帰り道はだいたい一緒。示し合わせるでもなく、いつも一緒になる。それが普通だった。
「ちぇっ、ありがと」
「ん?なに?すねてんの?」
「は?」青葉の煽るような声に、唇を尖らせて私は答える。「違うよ。夜重がなんの説明もしないから怒ってんの!」
すると、青葉が首を傾げて尋ねてきた。
「説明?なんの?」
「え、あ、いやぁ…」
やばい。これは説明できない。なんでか分からないけど、べらべらしゃべらないほうがいい気がする。
私は適当にその場を誤魔化すと、自分もバックを持って教室を出た。
昇降口に着いて、もしかすると、ここで夜重が待ってないかなぁと期待したが、彼女の影はやはり残っていない。
(…夜重の馬鹿。いつもいつも、勝手なんだから)
そうしてイライラしたまま校門を抜けたとき、不意に背後から声をかけられて、私は飛び上がって驚いてしまった。
「祈里」
「ぴぃっ!?」
変な声出た。従兄弟の飼ってるモルモットの鳴き声みたいな。
慌てて振り返れば、そこには先に帰ったとばかり思っていた夜重が立っていた。風に流れる髪を片手でなんか抑えたりして、本当に絵になる美少女だ。
それでさらなる怒りに目覚めた(大げさ)私は、両手を振り下ろしながら夜重に文句を叩きつける。
「もう、夜重!びっくりするじゃん!」
「ご、ごめんなさい」
率直に謝られ、私は不覚にも言葉を失う。てっきり夜重のことだから、『私がいなくなった時点で、予測ぐらい立てなさい』とでも言うと思っていた。
こいつ、本当に夜重か…?
疑いの眼差しで夜重の顔を見つめていると、その視線に気がついた夜重がさっと顔を俯かせた。照れたような行動と染まった頬に、初なアイドルみたいな魅力を覚えたのだが…。
「ん…?」
まじまじと見つめた夜重の顔。ほんのりと赤い頬は、ただの赤面ではなさそうだった。
「あれ?夜重、ちょっと化粧してる?」
「え、ええ」
花の女子高生だ。うっすらと化粧をしている生徒なんてそう珍しくもない。そういうのに興味がなさそうな夜重でさえ、二人で出かけるときは軽く化粧をしてくる。
でも、夜重が学校で化粧をしているなんて初めてのことだった。ってか、さっきまでしてたか?
「珍しいね、学校で化粧なんて」
「まあ…ね。変、かしら?」
変か、だって?
私はじろり、と夜重を睨みつける。
本来、化粧がいらないくらい整った顔立ちにきめ細やかな肌をしているのだ。そんな人間界のメスゴジラみたいなやつが完全武装を始めて、弱くないわけがないだろう。
「なにそれ、嫌味?」と嫌味で返そうとすると、夜重は、「え?」と間抜けな顔をしてみせる。どうやら、嫌味じゃないらしい。
…だったら、しょうがない。真剣に答えてやるか。
「はぁー…変なわけないじゃん。そういうのもかわいいよ、夜重」
「…ありがとう」
「ぐっ」
嬉しそうな顔で俯く夜重に、妙な声が出る。
なんなんだ、今日の――いや、最近の夜重は。全く意味が分からん。女性ホルモンが暴走していて、情緒があれなのか?
普段のツンケンしている感じは、それはそれで頭にくるときも多いが、やっぱり落ち着くのはそっちだ。
今の夜重は…こう、むず痒い。
このままこうしているとなんか余計な話をしそうだと思った私は、「ほら、バス来ちゃうよ」と歩き出したのだが、夜重は動き出すことなく立ち止まっていた。
「夜重?」と声をかける。
「…祈里、久しぶりに歩いて帰らないかしら?」
考えるのは、莉音のこと――ではなく、昨日、唐突に意味の分からないことを口走った蒼井夜重のこと。
――『試すのなら、私とにしなさい』。
うぅん…わけ分からん。
その前のやり取りから考えると、まるで私が女同士でも恋愛感情を持てるかどうかを夜重自身で試せ、といったような感じだ。
だけど、そんなのありえない。
夜重がそんなことを言わなきゃいけない理由が、一つもないじゃん。
頭はいいけど、時々よく分からなくなる幼馴染のことを考えてたせいで、あっという間に放課後になっていた。
(ま、考えても仕方がないか)
一日かけて出した答えを無造作に頭のゴミ箱にぽいっと放り込んだ私は、いつものように夜重の姿を探したのだが、彼女の影一つ教室には残っていなかった。
「あれ、夜重は?」
青葉を呼び止めてそう尋ねると、「夜重なら、放課後になった瞬間外に出てったよ」と言われた。
おのれ、夜重め…。意味の分からないことを言ってきたくせに、私を避けてやがる。
お互い、部活に所属してないから、帰り道はだいたい一緒。示し合わせるでもなく、いつも一緒になる。それが普通だった。
「ちぇっ、ありがと」
「ん?なに?すねてんの?」
「は?」青葉の煽るような声に、唇を尖らせて私は答える。「違うよ。夜重がなんの説明もしないから怒ってんの!」
すると、青葉が首を傾げて尋ねてきた。
「説明?なんの?」
「え、あ、いやぁ…」
やばい。これは説明できない。なんでか分からないけど、べらべらしゃべらないほうがいい気がする。
私は適当にその場を誤魔化すと、自分もバックを持って教室を出た。
昇降口に着いて、もしかすると、ここで夜重が待ってないかなぁと期待したが、彼女の影はやはり残っていない。
(…夜重の馬鹿。いつもいつも、勝手なんだから)
そうしてイライラしたまま校門を抜けたとき、不意に背後から声をかけられて、私は飛び上がって驚いてしまった。
「祈里」
「ぴぃっ!?」
変な声出た。従兄弟の飼ってるモルモットの鳴き声みたいな。
慌てて振り返れば、そこには先に帰ったとばかり思っていた夜重が立っていた。風に流れる髪を片手でなんか抑えたりして、本当に絵になる美少女だ。
それでさらなる怒りに目覚めた(大げさ)私は、両手を振り下ろしながら夜重に文句を叩きつける。
「もう、夜重!びっくりするじゃん!」
「ご、ごめんなさい」
率直に謝られ、私は不覚にも言葉を失う。てっきり夜重のことだから、『私がいなくなった時点で、予測ぐらい立てなさい』とでも言うと思っていた。
こいつ、本当に夜重か…?
疑いの眼差しで夜重の顔を見つめていると、その視線に気がついた夜重がさっと顔を俯かせた。照れたような行動と染まった頬に、初なアイドルみたいな魅力を覚えたのだが…。
「ん…?」
まじまじと見つめた夜重の顔。ほんのりと赤い頬は、ただの赤面ではなさそうだった。
「あれ?夜重、ちょっと化粧してる?」
「え、ええ」
花の女子高生だ。うっすらと化粧をしている生徒なんてそう珍しくもない。そういうのに興味がなさそうな夜重でさえ、二人で出かけるときは軽く化粧をしてくる。
でも、夜重が学校で化粧をしているなんて初めてのことだった。ってか、さっきまでしてたか?
「珍しいね、学校で化粧なんて」
「まあ…ね。変、かしら?」
変か、だって?
私はじろり、と夜重を睨みつける。
本来、化粧がいらないくらい整った顔立ちにきめ細やかな肌をしているのだ。そんな人間界のメスゴジラみたいなやつが完全武装を始めて、弱くないわけがないだろう。
「なにそれ、嫌味?」と嫌味で返そうとすると、夜重は、「え?」と間抜けな顔をしてみせる。どうやら、嫌味じゃないらしい。
…だったら、しょうがない。真剣に答えてやるか。
「はぁー…変なわけないじゃん。そういうのもかわいいよ、夜重」
「…ありがとう」
「ぐっ」
嬉しそうな顔で俯く夜重に、妙な声が出る。
なんなんだ、今日の――いや、最近の夜重は。全く意味が分からん。女性ホルモンが暴走していて、情緒があれなのか?
普段のツンケンしている感じは、それはそれで頭にくるときも多いが、やっぱり落ち着くのはそっちだ。
今の夜重は…こう、むず痒い。
このままこうしているとなんか余計な話をしそうだと思った私は、「ほら、バス来ちゃうよ」と歩き出したのだが、夜重は動き出すことなく立ち止まっていた。
「夜重?」と声をかける。
「…祈里、久しぶりに歩いて帰らないかしら?」
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