11 / 31
新しい婚約者
王の筋書き
しおりを挟む
僕はルイーザ嬢と連れたって玉座へと向かう。
一歩進むたびに貴族たちのざわめきが広がっていく。
理由は明白だ。
僕たちは、腕を組んでいなかった。
普通、パーティーでのエスコートは腕を組むものだ。
陛下に呼ばれた僕は、エスコートのため、ルイーザ嬢に手のひらを差し出した。
「ルイーザ嬢、お手をどうぞ」
貴族たちは、カップルのやりとりをにこやかに見つめる。
そんな状況で、ルイーザ嬢は――
「……申し訳ございません。いまは、まだ…………」
と、弱弱しい声で僕のエスコートを断ったのだった。
以上が、僕とルイーザ嬢が玉座へ向かうまでのいきさつだ。
これでは誰も僕らをカップルとは呼べない。
僕たちは、たまたま同じ方へ、同じスピードで歩く、他人同士だった。
祝福ムードだった貴族たちが、不可解なものを見る目に変わる。
「両陛下の目の前ですのに!」
「ルイーザ嬢はどうしてエスコートを断ったの?」
「アルフレッド殿下も、なぜそれを受け入れるんだ?」
めでたい婚約発表パーティーで、いったいなにが起きているのか。
――渦中の僕にも、まったく分かっていなかった。
考えても無駄だ。どれだけ考えたところで、きっと僕に答えはだせない。
ならば。
僕はルイーザ嬢の顔をちらりと覗く。
――この人についていこう。
今日の目的を意識していたわけじゃない。
ただ、ルイーザ嬢の思惑に応えることができれば、彼女をもっとよく知れる気がした。
「さあ、さあ。セオドアとコリン嬢の隣へ並びなさい」
陛下は僕たちの確固たる歩みに戸惑いつつも、国王としての振る舞いを崩さなかった。
王妃陛下は、すごい顔をしていた。何重も縦に線が入っているのがわかる。
「みなも知っているだろうが、セオドアとルイーザ・ハリウェル侯爵令嬢は、幼いころより許嫁だった」
陛下は、壇上から語り掛ける。
「その婚約に、解消を申し入れられた。当の本人たちからだ」
ざわつく貴族たち。
やっぱり、と口にする者もいれば、どうして、と疑問を投げかける者も。
ス――と陛下が腕をあげると、大広間はシン、と静まった。
「これまでに例のないことだが、私も、そしてハリウェル侯爵も、それを承知することとした。なぜなら――」
溜めて、
「真実の愛がふたつも見つかったのだからな! みんな、祝福してくれ!」
陛下の言葉に歓声が沸いた。
……なるほど。
僕は頭の中で整理する。この状況、そして陛下の言ったことを。
そもそも、婚約破棄というのはタブーとされている。信用問題だ。
しかし、セオドアは譲らなかった。ノース辺境伯の了解を得たうえで、父に申し入れた。
父は考えたのだろう。
「この縁談は、辺境伯とのつながりを強固にする」
辺境伯は強い力を持つ人物だ。また、国境警備の要であり、軍事力も厚い。
ここ数世代、王家と辺境伯家には、政治上の表面的なかかわりしかなかった。
血が交わるというのは、これ以上ないくらいの強いつながりだ。
それでハリウェル侯に持ち掛けた。
「ハリウェル侯爵領には便宜をはかる。婚約解消を受け入れてくれ。かわりに第三王子をやる」
ハリウェル侯爵ははじめから、娘の婚約など政治の道具にしか思っていなかったのだろう。
王妃になるのと同様の待遇をもらえるなら、と娘の婚約破棄を受け入れたのだ。
セオドアとルイーザの婚約破棄をすすめたい者たちは、考えたはずだ。
――タブーである婚約破棄を、貴族たちに、そして国民に受け入れてもらうにはどうしたらいいか。
そうしてつくられた筋書きが「真実の愛」だ。
ロマンティックなラブストーリーは、マグノリア国で多くの者に好まれている。
「ルイーザ嬢、申し訳ありません。僕は真実の愛を知ったのです!」
「セオドア殿下、謝らないでくださいませ。私も真実の愛を知ったのですから!」
「そうですか! ならばお互い、真実の愛を貫きましょう!」
「そうですね! 婚約は解消してもかまいません。なぜなら、お互いに真実の愛が見つかったのですから!」
セオドアとルイ―ザが、「真実の愛」に目覚め、「偽りの愛」である婚約を解消した、という物語があれば、人々はふたりの選択を応援するだろう。
本来、セオドアからの一方的な婚約破棄だったのが……
これなら、王家への反発も最小限で済む。
むしろ民衆からは、婚約という古い伝統に、愛のため逆らった第一王子として、より親近感と信頼を得るかもしれない。
……陛下が考えそうなことだ。
呆れる僕をよそに、婚約発表のあいさつは続いていた。
「では、アルフレッドとセオドア。コリン嬢とルイーザ嬢も。ぜひ挨拶を」
陛下にうながされ、セオドアが口を開く。
「私たちのためにお集まりいただき、ありがとうございます。陛下、この場を設けてくださり、ありがとうございます。そして、ルイーザ・ハリウェル嬢は、僕の愚かな申し出を聞き入れてくれました。ありがとう」
セオドアはガラス細工に触れるような繊細さで、ルイーザ嬢の名前を呼ぶ。
ルイーザは、名前を呼ばれてもセオドアの方を向かない。まっすぐ前を見つめている。
「コリンと出会って、僕は真実の愛を知りました。知り合ってまだ日は浅いけれど……みなさまに見守っていただきながら、ふたりでマグノリアのために尽くしていきたい所存です」
はにかみながら愛と忠誠を語るセオドア第一王子。
貴族たちはうっとりとしながら、憧れの混じる息をこぼした。
「コリン」
セオドアが婚約者の名前を優しく呼ぶ。
コリン・ノースはびくっと肩をふるわせ、ぎくしゃくと顔をかたむけたまま口をひらいた。
一歩進むたびに貴族たちのざわめきが広がっていく。
理由は明白だ。
僕たちは、腕を組んでいなかった。
普通、パーティーでのエスコートは腕を組むものだ。
陛下に呼ばれた僕は、エスコートのため、ルイーザ嬢に手のひらを差し出した。
「ルイーザ嬢、お手をどうぞ」
貴族たちは、カップルのやりとりをにこやかに見つめる。
そんな状況で、ルイーザ嬢は――
「……申し訳ございません。いまは、まだ…………」
と、弱弱しい声で僕のエスコートを断ったのだった。
以上が、僕とルイーザ嬢が玉座へ向かうまでのいきさつだ。
これでは誰も僕らをカップルとは呼べない。
僕たちは、たまたま同じ方へ、同じスピードで歩く、他人同士だった。
祝福ムードだった貴族たちが、不可解なものを見る目に変わる。
「両陛下の目の前ですのに!」
「ルイーザ嬢はどうしてエスコートを断ったの?」
「アルフレッド殿下も、なぜそれを受け入れるんだ?」
めでたい婚約発表パーティーで、いったいなにが起きているのか。
――渦中の僕にも、まったく分かっていなかった。
考えても無駄だ。どれだけ考えたところで、きっと僕に答えはだせない。
ならば。
僕はルイーザ嬢の顔をちらりと覗く。
――この人についていこう。
今日の目的を意識していたわけじゃない。
ただ、ルイーザ嬢の思惑に応えることができれば、彼女をもっとよく知れる気がした。
「さあ、さあ。セオドアとコリン嬢の隣へ並びなさい」
陛下は僕たちの確固たる歩みに戸惑いつつも、国王としての振る舞いを崩さなかった。
王妃陛下は、すごい顔をしていた。何重も縦に線が入っているのがわかる。
「みなも知っているだろうが、セオドアとルイーザ・ハリウェル侯爵令嬢は、幼いころより許嫁だった」
陛下は、壇上から語り掛ける。
「その婚約に、解消を申し入れられた。当の本人たちからだ」
ざわつく貴族たち。
やっぱり、と口にする者もいれば、どうして、と疑問を投げかける者も。
ス――と陛下が腕をあげると、大広間はシン、と静まった。
「これまでに例のないことだが、私も、そしてハリウェル侯爵も、それを承知することとした。なぜなら――」
溜めて、
「真実の愛がふたつも見つかったのだからな! みんな、祝福してくれ!」
陛下の言葉に歓声が沸いた。
……なるほど。
僕は頭の中で整理する。この状況、そして陛下の言ったことを。
そもそも、婚約破棄というのはタブーとされている。信用問題だ。
しかし、セオドアは譲らなかった。ノース辺境伯の了解を得たうえで、父に申し入れた。
父は考えたのだろう。
「この縁談は、辺境伯とのつながりを強固にする」
辺境伯は強い力を持つ人物だ。また、国境警備の要であり、軍事力も厚い。
ここ数世代、王家と辺境伯家には、政治上の表面的なかかわりしかなかった。
血が交わるというのは、これ以上ないくらいの強いつながりだ。
それでハリウェル侯に持ち掛けた。
「ハリウェル侯爵領には便宜をはかる。婚約解消を受け入れてくれ。かわりに第三王子をやる」
ハリウェル侯爵ははじめから、娘の婚約など政治の道具にしか思っていなかったのだろう。
王妃になるのと同様の待遇をもらえるなら、と娘の婚約破棄を受け入れたのだ。
セオドアとルイーザの婚約破棄をすすめたい者たちは、考えたはずだ。
――タブーである婚約破棄を、貴族たちに、そして国民に受け入れてもらうにはどうしたらいいか。
そうしてつくられた筋書きが「真実の愛」だ。
ロマンティックなラブストーリーは、マグノリア国で多くの者に好まれている。
「ルイーザ嬢、申し訳ありません。僕は真実の愛を知ったのです!」
「セオドア殿下、謝らないでくださいませ。私も真実の愛を知ったのですから!」
「そうですか! ならばお互い、真実の愛を貫きましょう!」
「そうですね! 婚約は解消してもかまいません。なぜなら、お互いに真実の愛が見つかったのですから!」
セオドアとルイ―ザが、「真実の愛」に目覚め、「偽りの愛」である婚約を解消した、という物語があれば、人々はふたりの選択を応援するだろう。
本来、セオドアからの一方的な婚約破棄だったのが……
これなら、王家への反発も最小限で済む。
むしろ民衆からは、婚約という古い伝統に、愛のため逆らった第一王子として、より親近感と信頼を得るかもしれない。
……陛下が考えそうなことだ。
呆れる僕をよそに、婚約発表のあいさつは続いていた。
「では、アルフレッドとセオドア。コリン嬢とルイーザ嬢も。ぜひ挨拶を」
陛下にうながされ、セオドアが口を開く。
「私たちのためにお集まりいただき、ありがとうございます。陛下、この場を設けてくださり、ありがとうございます。そして、ルイーザ・ハリウェル嬢は、僕の愚かな申し出を聞き入れてくれました。ありがとう」
セオドアはガラス細工に触れるような繊細さで、ルイーザ嬢の名前を呼ぶ。
ルイーザは、名前を呼ばれてもセオドアの方を向かない。まっすぐ前を見つめている。
「コリンと出会って、僕は真実の愛を知りました。知り合ってまだ日は浅いけれど……みなさまに見守っていただきながら、ふたりでマグノリアのために尽くしていきたい所存です」
はにかみながら愛と忠誠を語るセオドア第一王子。
貴族たちはうっとりとしながら、憧れの混じる息をこぼした。
「コリン」
セオドアが婚約者の名前を優しく呼ぶ。
コリン・ノースはびくっと肩をふるわせ、ぎくしゃくと顔をかたむけたまま口をひらいた。
704
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる