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婚約破棄
庭師と王子
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マグノリアローズを美しく咲かせるには、肥料と献身と、なによりも根気が必要だ。
「さ、咲いてる……」
「なかなかきれいに花びらが開きましたね」
「ジャック! マグノリアローズだぞ! 僕の薔薇だ!」
僕が抱きつかんばかりに喜ぶと、庭師のジャックは苦笑いをした。
目の前に咲いたダスティピンクの薔薇は、しっとりとした花びらをほころばせていた。
これまでに何度も失敗してきたマグノリアローズを、やっと咲かせることができたのだ。
「これでお勉強に集中できますね、アルフレッド様」
「いやだ。僕はこれからも花を育てる」
「あんた、来月には成人するじゃないですか。王子様は王子様の――仕事をしないと」
ジャックは庭園を見渡して言った。
城の前に広がる美しい庭園。芝の手入れが毎日なされ、季節ごとに花は色を変える。
子供のころから僕の遊び場だった。
ジャックは庭師の子供で、自然と年の近い僕の遊び相手になった。
年を重ねるにつれて、僕たちの遊びは、かけっこから土いじりに変わった。
王子が土を触るなんて、と母は良い顔をしない。
「でも僕は、花とか、庭とか、そういうものが好きなんだ。軍事とか政治とか、そういうものには興味が持てない」
「俺だって、アルフレッド様と一緒に過ごすのは楽しいですよ」
「そうだろ?」
ジャックの言葉に、僕は続ける。
「国のことは大丈夫さ。だって僕には“お兄様”と“お姉様”がいるんだぜ」
マグノリアには優秀なふたりの王子がいる。
優しく慈悲深い第一王子、セオドア。僕の兄。
厳格で勇敢な第二王子、アンドレア。僕の姉。
そして――三番目の王子である僕は、優秀なふたりの影に隠れて、のんびりと庭いじりをして過ごしている。
僕にこの国を任せたいと思っているやつなんて、世界のどこを探したっていない。
「王になりたい気持ちだってない。僕には、王子様らしいことなんてなんにもできないんだ」
自身満々に僕は言った。
ジャックは困ったように笑う。
「アルフレッド様―! お約束の時間ですー! アルフレッド様―!」
「げっ。兄さんに呼ばれてたんだ。じゃあ、ジャック、また明日!」
遠くから侍女の声が聞こえる。城中に僕の名前を叫び続けられたらたまったもんじゃない。
僕は慌ててジャックに別れを告げ、手の土をはらいながら侍女のもとへ向かった。
「……俺は、アルフレッドみたいな王様がいても、いいと思うけどな」
ぽつり、とジャックがこぼした言葉は、マグノリアローズだけが聞いていた。
「さ、咲いてる……」
「なかなかきれいに花びらが開きましたね」
「ジャック! マグノリアローズだぞ! 僕の薔薇だ!」
僕が抱きつかんばかりに喜ぶと、庭師のジャックは苦笑いをした。
目の前に咲いたダスティピンクの薔薇は、しっとりとした花びらをほころばせていた。
これまでに何度も失敗してきたマグノリアローズを、やっと咲かせることができたのだ。
「これでお勉強に集中できますね、アルフレッド様」
「いやだ。僕はこれからも花を育てる」
「あんた、来月には成人するじゃないですか。王子様は王子様の――仕事をしないと」
ジャックは庭園を見渡して言った。
城の前に広がる美しい庭園。芝の手入れが毎日なされ、季節ごとに花は色を変える。
子供のころから僕の遊び場だった。
ジャックは庭師の子供で、自然と年の近い僕の遊び相手になった。
年を重ねるにつれて、僕たちの遊びは、かけっこから土いじりに変わった。
王子が土を触るなんて、と母は良い顔をしない。
「でも僕は、花とか、庭とか、そういうものが好きなんだ。軍事とか政治とか、そういうものには興味が持てない」
「俺だって、アルフレッド様と一緒に過ごすのは楽しいですよ」
「そうだろ?」
ジャックの言葉に、僕は続ける。
「国のことは大丈夫さ。だって僕には“お兄様”と“お姉様”がいるんだぜ」
マグノリアには優秀なふたりの王子がいる。
優しく慈悲深い第一王子、セオドア。僕の兄。
厳格で勇敢な第二王子、アンドレア。僕の姉。
そして――三番目の王子である僕は、優秀なふたりの影に隠れて、のんびりと庭いじりをして過ごしている。
僕にこの国を任せたいと思っているやつなんて、世界のどこを探したっていない。
「王になりたい気持ちだってない。僕には、王子様らしいことなんてなんにもできないんだ」
自身満々に僕は言った。
ジャックは困ったように笑う。
「アルフレッド様―! お約束の時間ですー! アルフレッド様―!」
「げっ。兄さんに呼ばれてたんだ。じゃあ、ジャック、また明日!」
遠くから侍女の声が聞こえる。城中に僕の名前を叫び続けられたらたまったもんじゃない。
僕は慌ててジャックに別れを告げ、手の土をはらいながら侍女のもとへ向かった。
「……俺は、アルフレッドみたいな王様がいても、いいと思うけどな」
ぽつり、とジャックがこぼした言葉は、マグノリアローズだけが聞いていた。
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