あふぃあめいしょん!

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よろしく、お嬢様

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アリアの強引な誘いを受け、屋敷に連行されたレンとカノンは、なぜかフェンネル家の当主の前にいた。その横にアリアもいる。
フェンネル家当主の名前はグラム。顎ひげを蓄えたダンディーな男だった。護衛もつけずレンたちに会っているところを見ると豪胆な人物かもしれない。
「君かね、私のかわいい娘にちょっかいを掛けたというのは…」
神妙な顔つきで応える。(いやいやいや、ちょっかい掛けたのは貴方の娘さんですよ?僕は何もしてません!)そう言いたかったがレンにはそこまでの勇気がない。
「パパ聞いてよ、こいつがねー!私の話を聞かないで、しかも私の提案を断ったのよ!」
「そうなのかね…断ったというのは?」
「まぁ、はい…家来にしてやると言われたので…その、僕らにも目的がありますので、断りました」
これ以上ない正直な感想であると思う。
「…アリア…お前はどうしたいのだ?」
「私はこいつをコロシアムに出してけちょんけちょんにしてやるつもりよ!」
金色の髪を靡かせながら高らかに宣言した。こいつ…調子に乗っている…。
「お前の言い分は分かった。ということだ、悪いが、君にはコロシアムに出てもらう。もちろん約束したという報酬は払うが…負ければわかるね?」
「わーい、パパ大好き!」
なにが、ということだ、だ。デメリットを明確にしてほしかった。
「アリア、ちょっと外に出ていなさい。私はこの方たちと話がある」
「はーい、それじゃあね、せいぜい負けた後のことだけ考えてなさい!」
アリアは捨て台詞を吐くと部屋から出ていった。少しの間、静寂が訪れる。グラムはと言うと、未だ神妙な顔つきでレンを見ていた。
「…ない…」
グラムが何かを呟く様に言った。
「はい?」
「誠に申し訳ない!!」客間が揺れるかと思うぐらいの声量でグラムが叫ぶように言った。レンの顔に唾が直撃した。
「うちのアリアは本当はとってもとーってもいい子なんだ!ただ私の父上が甘やかしてしまったせいで少し傲慢になってしまっただけなのだ!」
「旅人くん、どうかあの子がもっといい子になるように協力してほしい!」
「はい?」
「まず、旅人くんにはコロシアムに出てもらい!順繰りに勝ってもらって、優勝してほしい!そうすればあの子も、少しは君のことを見直すだろう!」
「あの…」
「そこからが問題だ!そろそろあの子も一人立ちしなければならない頃だから!旅人くんの力で王都に連れて行ってほしい!」
「…もちろん、礼ははずむ。優勝さえしてくれればそれだけでも中央大陸に行く船賃は、アリアを連れて行ってくれれば、王都に行くための旅費は総て、総て私が負担しよう」
「なぜそんなことを僕に任すんです?」
「あの子がほかの人に興味を示すことなど、そうないからだ。だからこれはチャンスと見た」
グラムは真っすぐにレンを見ながら答えた。その眼に嘘偽りの兆しはない。
「…その話、本当でしょうね」
「偽りの道化話ではない」
どうせあの子には、一度敗北を経験してほしい。それに旅費がタダになるのは素晴らしき事だ。
「分かりました。その話に乗りましょう。その代わり旅の主導権はこちらでよろしいですね」
「もちろんだとも。優勝してくれさえすれば、あの子もきっと…。ありがとう旅人くん」
「大会はいつからなのです?」
「明日から開かれる予定だ。相手は人間ではない、魔物だ。勝ち抜き戦で行われる。危なくなったら兵が止めに入るから大丈夫だ。宿はもう取ってあるからそこに泊まってくれたまえ」
「分かりました」
「ああそれと…」
最後にグラムに呼び止められ、少し話をした後、レンたちは客間を後にした。
大扉を開き廊下に出て何気なく窓の外を見ると屋敷の広場でアリアが魔法の練習をしていた。火球を掌から的に向けて放っている。火球は的からずれた場所に着弾しているが、それでもアリアは放ち続けていた。
「彼女に、魔法の才能はあまりないようです。マナを良く吸えていませんね、あれでは魔力が分散してしまいます」
「カノンは魔法が使えるの?」
「いいえ。メイド教会の守護隊には魔法が使えるものは一人もいません。私は教導隊に所属していた時に少し習っただけです」
「魔法っていうのは勇者は使えるの?」
「いいえ。魔法が使えるのはこの世界で生まれた人間だけです。転生者にはマナを循環させる機能が備わっていないのです。なので、レン様は珍しいタイプなのですよ」
確かにレンは「気」と「マナ」両方を扱うことができる。マナはほんのフレーバー程度だが、師匠も珍しがっていた気がする。
「とりあえず今日は宿屋に急ごう。明日に備えて早く寝る。魔物が相手なら情報収集も必要ない。師匠のところで嫌というほど戦ってきたからね」
「かしこまりました」
レンたちは屋敷を後に後にして、宿屋に向かった。部屋に通された後、レンは一つ考えていた。大会の事ではなく、王都の事でもない。アリアの事だ。
グラムが最後に言っていた話についてだ。「アリアの母は幼いころに亡くなってしまった。だからアリアは人に対する何の興味も失ってしまった」ということについて。
それがアリアの胸に大きく穴を穿っているものであるなら、何が彼女の心に自分を引き付けさせたのか、それがどうしても分からなかった。自分と初めて会ったあの時もそんなにいい出会いではなかったはずだ。
はぁ、とため息をつく。後ろに気配がして振り返ると、カノンがマグカップをもって立っていた。
「レン様、お茶を入れました。あまり悩まれていると、明日に響きます」
「ありがとう、カノン。ねぇ、カノンはどう思う?アリアの事」
お茶を受け取りカノンに聞いてみる。
「アリア様ですか、そうですね。私は寂しさからあのようになったのでは、ない、と思います」
「寂しさ以外ならなんだと思う?僕にはどうしてもそれが分からないんだ」
「おそらくアリア様の根底にあるものは認めてほしいという欲求です。母が亡くなった時、きっとアリア様は幼いながらに自分が父の助けにならなければと考えたのです」
「人に対する興味を失ったわけではなく、家族に認めてほしいという部分に大きく倒錯してしまっているのです。それにおじい様の過度な甘やかしも原因の一つと考えていいでしょう」
「甘やかされたことで付いてしまった傲慢さと父を助けたいという気持ち、それを家族に認めてほしいという欲求に挟まれているのです」
「おじい様は確かにアリア様を愛したでしょう。しかし、彼女の頑張りに気付かなかった。父であるグラム様もそうです」
「ですから、あのようなねじ曲がった性格になってしまっているのでしょう。そしてレン様という存在。自分が甘えてきた者たちとは違う反応に惹かれたのではないでしょうか。私はそう思います」
「そういう考え方も、出来る…か。分かったよ。ありがとうカノン」
「たとえコロシアムで優勝できたとしても、アリアとの関係がどうにかならないと意味がない。だから僕は僕のできる方法で、彼女の心を開いて見せる」
決意を胸にレンは一夜を明かした。

コロシアムはフィネスの南東部に聳え立つ塔だった。もともとは魔物を争わせるだけの賭け事の場だったようだが、現当主の先代が人間と魔物を戦わせることを思いついて、塔のように改築したらしい。
船上にあるとはいえ海底にがっしりと柱が刺さっているらしく思ったよりも揺れは少ない。
レンはと言うと朝早くからコロシアムの受付を済ませ控室の椅子に座っていた。周りの挑戦者たちは皆、レンより年上で、THE海の男という人物が多かった。
以外にも歳の幼いレンを見て嘲笑するものは少なく、皆、自分の世界に入っているものが多かった。むしろ、頑張れよと声を掛けられることがあったほどだ。
八の目の柵上に分かれたコロシアムは一人一人、振り分けられ、一斉に魔物と戦闘をすると説明を受けている。魔物を倒せば次の魔物が補充され、一番早く最後の魔物を倒したものが優勝というルールだった。
刻々と時間が過ぎていき、レンの鼓動も徐々に早くなっていった。

ついに、時間になり、レンは自分のフィールドに案内される。周りの席は大勢の観客でにぎわっていた。
「これより、フィネスコロシアムのスピードバトルを開始する!今日の挑戦者の中にはこんな可愛い坊やも混じっているぞぉ!」
スピーカーから放送が聞こえる。マイクパフォーマンスが続く中、司会はアリアの差し金か、レンのことを過剰にピックアップしている。
会場上部の映像術式にフィールドが映し出され、会場は熱気の渦に突入した。
「最初は簡単に、ホーンウルフから始めよう!」
レンとは因縁浅からぬ相手に少し苦笑しつつ天貫術の構えをとる。ゲートが開き、ホーンウルフが五頭放たれた。
「おおっと、ここでアクシデント発生かぁあ!?坊やのフィールドだけ数が少し多いみたいだ!どうする?降参するかい?」
うっとおしい司会の声を背にどの順番で魔物を片付けるかを瞬時に判断した。この程度の数など、今のレンにとっては「舐められすぎている」ようなものだ。
低く腰を下ろし足に気を溜める。
「天貫術、第六、円陣」一匹のホーンウルフが動いた瞬間、レンの加速した蹴りが、魔物の頭を的確にとらえ、弾け飛ばした。
「円陣、追、雷乂!」続いて、跳びかかろうとしたホーンウルフ全てに分散し圧縮させた気が命中し、一撃で打ち砕いた。
円陣はまずマナを自身の周りに張り、そこに入った相手を自動迎撃する居合術だ。雷乂は迎撃した相手から円を広げ、高速で跳び、圧縮させておいた気を上空から打ち込む技だ。まず、人間相手でも初見で避けられるものなどまずいないだろう。
「これはー!なんとお、坊やだと思ってた小さな勇者はぁ!一瞬で魔物をやっちまったぜぇえ!!」
会場から歓声があがる。レンは徐々に気を体中に巡らせている。
次のゲートが開き、中からは鋼鉄のような外殻をもつ巨大なサソリのような魔物が現れた。おそらく相手を一突きするだろう尻尾が驚異的だろう。
「お次は!グラムシザースだぁ!わざわざ西大陸から取り寄せた特注品ならぬ特注魔物だ!どうする!」
レンは、左拳を握りしめ、深く引き絞り、右腕をミサイルの発射台のように鋭く伸ばした。マナを左肘に集めブースターのように使う。
グラムシザースの渾身の突きをひらりと躱し、加速させた左拳を頭部に叩き込んだ。
「天貫術、第七、金剛拳、破ぁ!!」
ぐしゃりという音とともに拳が外殻を物ともせず、貫通した。余波でグラムシザースの頭部から、尻尾にかけてがはじけ飛ぶ。
「はあ!!」気を弾けさせ、腕の周りにまとわりつく粘液を飛ばし、気をいったん静める。
会場はどよめきが起こっていた。当たり前だ、普通なら鎧を着た人間でも苦戦するであろう魔物を、たった十数歳の子供が一撃で粉砕したのだ。
「次!」レンの声だけがフィールドに響く。
「これはこれは!とんだ化け物が混じってたみいですねー!最後の相手はースペシャルマッチだぁー!」
ゲートが開き、ドゴォという、重い足音が聞こえた。レンは死の気配を感じ取り咄嗟に右に避ける。次の瞬間でかい斧のようなものが回転しながら飛んできて地面に突き刺さった。
(武器を使う魔物?まさか…)冷汗が噴き出る。
「今回のスペシャルマッチはぁー!ミノタウロスだぁあああああ!」
司会の絶叫が会場を包み込んだ。会場も再び熱狂の嵐が巻き起こる。
「本気か?一人相手にぶつける規模が可笑しいぞ…」
つい本音が口から飛び出す。師匠と一緒にいるとき、図鑑だけでは見たことがある。魔物というよりは獣人に近い生態をした生物で、武具を扱うだけの知能も持つ。
「グオオオオオオオ!!!」
絶叫とともに突進しながら現れたその姿は、茶色い肌に、鋭いく鋭角な角。防具こそ纏ってはいなかったが、肉体は恐ろしく堅そうで三メートルくらいはありそうなほど巨大だった。
ミノタウロスは斧を拾い上げ、振りかぶりながら、レンの方に目を向ける。
下半身に気を集め、加速する術技を瞬時に掛ける。駄々をこねる子供のように乱雑に斧を振り回すミノタウロスの攻撃を紙一重で躱しながら、どう戦うべきか考える。考える時間はそう長くは取れない。
金剛拳は発動するのにわずかなタメと発動後に術技の解除がいる。この相手には向かない。まず小さな連撃で、奴の反応を確かめることとした。
斧の連撃にわざと突っ込み、間合いに入る。
「っ!!」素早い連撃をミノタウロスの腹に叩き込んだ。少したじろいだが想像以上に堅い、反応も薄いことから見るに、軽い連撃では体力を一分も削れないだろう。
地面を叩き上に跳び、顔に蹴りを放つ。ミノタウロスは顔を抑え後ろに下がった。よし、顔はそこまで堅くない、重点的に攻めれば何とかなるか?レンも後ろに下がり、足に気を込める。
「ゴアアアアアア!!」
斧を両手で持ちグルグルと回転しながら、突進を繰り出してきた。受ければ死あるのみであり、回避するしかない。が、レンはニヤリと笑うと、右拳を強く握りしめ、足に込められた気を解放した。
「奥義!、獅子光刃!!」超高速の光となった状態でミノタウロスのがら空きの足元に突撃する。そのまま上方に奥義を叩き込んだ。回転が止まり、浮いた両手をすり抜けるように上り、ミノタウロスの眼前に迫る。
両掌を組みミノタウロスの顔面に拳を振り下ろす。ミノタウロスはぐらりと巨体を揺らし膝をついた。レナはそのまま空中でマナを放出し姿勢を正すと左手の気をミノタウロスの頭上から放つ「剛波、一点!!」
「剛波、散」とは違い、槍のように形成した気で対象を穿つ術技。ミノタウロスの頭は鋭い一撃で穿たれ、そのまま頭から地面に倒れ込んだ。
息を整え地面に着地する。骸と化したミノタウロスを見ながらレンは昂る気を抑え構えを解いた。
「勝ちやがった…ミノタウロスにたった一人で勝ちやがりました!!これは、コロシアム始まって以来の快挙です!!!」
司会の絶叫とともに大きな歓声があがった。観客たちは狂喜乱舞している。
「今大会の優勝は!レンに決まりだああ!!」
浴びたことのない歓声の中でレンは拳を宙に掲げた。

その頃、上階級向けの観覧室では、アリアが一人呆然と佇んでいた。ありえない、たった一人で、しかも自分と同じくらいの年齢の男の子が。自分が用意した上級の魔物を一瞬で蹴散らしたのだから。
「ありえない、ありえない、ありえないわ!こんなこと!」
どう計算したって考えられない結末だ。しかし俄然興味も沸いていた。あの男の子の力さえあれば、自分の夢も達成できるかもしれないからだ。
「お父様に報告して、私の夢の階段にしてあげるわ」
そう、いうが早いか、アリアは観覧室を飛び出していった。

「さすが、我が主。この程度敵ではありませんでしたね」
控室でカノンは相変わらずの無表情のままレンを祝福していた。
「いやいやいや、アレは無理だよ」
カノンの言葉に呆れながら反論する。今回は運が良かっただけで、下手をうてば死んでいた可能性もある。
「相手の頭がもう少し良ければ殺されていた。それぐらいヤバかったんだよ」
「しかしこれで船賃はタダですよ。やりましたね。まぁ…あとはあのお嬢様が問題ですが…」
「僕たちを素直に返してくれるとは思わないね。絶対に何かやらかしてくるとは思う」
そう言った時控室の扉がノックされて、グラムが入ってきた。顔は晴れ晴れとしている。
「よくやってくれた!、君を信じていたよ旅人くん!」
無理やり握手されレンは困惑する。(信じていた?よく言うよ)
「約束通り、船賃はタダで中央大陸までは送ろう。それよりも、アリアの事なんだが…」
グラムがそう言いかけた時、ドタドタという足音とともに、扉が勢いよく開いた。扉の向こうでは、アリアが仁王立ちして立っていた。
「レンとか言ったわね、あなた!もう一度言うわ!私の家来になりなさい!これは命令よ!」
「…悪いけど、君の家来にはなれない。僕たちにも目的があるからね」
「なんでよ!どうしてなの!」
「でも…友達にならなれるよ」
「とも、だち?私とあなたが?」
「そう、だから…」
レンはアリアの瞳をじっと見ながら口を開く。
「僕と友達になってください」
レンの精一杯の言葉に素っ頓狂な顔になったアリアは、少し考える素振りをしてから、うつむいてしまった。
「友達かぁ…まぁ…あなたぐらい強いのがいれば…それは…いいかもしれないわね…友達…」
なぜか顔を赤くしぼそぼそと聞き取れないような声で独り言を言うアリアにレンはさらに追い打ちをかける。
「友達になってくれたら、一緒にここを出よう。旅に出るんだ。その旅先で起こったことが、きっと君の後押しになる」
「…分かった…分かったわよ!私とあなたは今から友達、友達になるわ!」
「私と友達になれるんだから光栄に思いなさいよね!それと私の事は今後、アリアでいいわ。呼び捨てでいいのよ、友達だものね!」
少しだけだがアリアとの距離が縮まった気がした。レンはほっとして少し笑顔になった。
「友達なんだから、もういいわよね、手、繋いで頂戴!」
アリアの顔は相変わらず赤い。おずおずと差し出された手をレンは優しく握った。
「これからよろしく、アリア」
「…ええ、よろしくだわ、レン」
近くで様子を見ていたグラムとカノンは互いに顔を向け静かに握手した。
「ゴホン、では約束通り王都までの旅費は全額負…」
「待って!」
グラムがそう言いかけて、遮るようにアリアが口を出した。
「中央大陸に着いたら、列車なんて使わないわ、徒歩で王都まで行くのよ!」
「!?」
「だってそっちの方が、いろんなものを見て触れて経験できるじゃない!」
「しかし…」
「お父様は黙っていて!、ね、いいでしょ、レン!」
これまでで一番の笑顔のままアリアは言った。
「……分かったよアリア、君の言うことももっともだ。歩いて王都を目指そう」
「正気ですかレン様、いくら国礼祭はまだまだとはいえ、旅の経験もない子供を連れていくようでは…」
「あら失礼ね、私だって旅の経験くらいあるわよ。それに私は、魔法だって使えるのよ!戦いの面だって戦力になるわ」
「大丈夫だよカノン、アリアは今まで折れずにここまでこれたんだ。王都までくらいどうってことないよ」
「さすが私の友達ね!理解が早くて助かるわ。それじゃあ明日出発しましょう!レン、あなたは今日の疲れを存分に癒しておくのよ!」
そう言って笑顔のままのアリアは駆け足で部屋を出ていった。
「カノン、ごめんね」
「いいえ、レン様がお決めになった事ですから、私はそれに従うまでです」
「お二方、どうか、娘を頼みます」
グラムが深々と頭を下げる。
「なんとか、やってみます」
レンとカノンは互いに顔を見合わせ決意の表情で答えた。

「レン!レーン!用意は出来たかしら?私はとっくに終わっているわよ!」
早朝に騒がしい声で目覚めを邪魔されたレンは苦い顔で起き上がった。時計の針はまだ四時を指している。
カノンはと言うと、用意はとっくに済ませており、レンの食事の支度をしていた。
「ずいぶん早いねアリア。まだ四時だよ…」
「一番早い出の船で中央大陸まで向かうのよ!カノン!準備は出来ているのでしょう?」
「はい、あとはレン様がお召し物を変えるだけです」
「じゃあ、ここで待っててあげるから、早く着替えなさい」
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昨日までとは一転してずっと笑顔を見せているアリアをレンは親鳥のような気持ちで見ていた。
もしかしたら師匠もこんな気分だったのだろうか。
「今、行くよ」
そう言ってリュックを背負ったレンは新たな旅の仲間を得て、新たな一歩を踏み出した。

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