森の民たち

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 森の中に住まうことをどうして先祖たちは選んだのだろう。老いたる者たちはいくつかに分かれ、知恵や知識の根を支え教えるために若者たちを待つ。オルビオスとクァルマの二人は疑問を深めては仲間に導き入れる〈智慧〉の祝福に与っており、老いたる〈智慧〉イプセと共に暮らしていた。
 二人は親を知らない。いやむしろ、大人たちはみな、この二人の親であり、二人どころか、若者たちはみなその兄弟姉妹なのであり、共に一つの屋根の下に暮らすのは、オルビオスにとってのクァルマ、〈もう一人(ヘテロス)〉、そしてイプセ、〈老いたるもの(ゲライオス)〉だけだ。だが若者たちは「父さん」とも「母さん」とも言わない。兄や妹と言った言葉は彼らにはない。それはなぜか。
 若者たちは先祖より受け継いだ言葉によって名づけられた名前を呼び合う。この村に同じ名の者は二人といない。誰かが死ねばその名を引き継ぐことはあっても、記憶の中に生き続ける限りはその名を引き継ぐことはない。引き継ぎは墓碑に刻まれた名にのみ遺された人から譲られる。
 先祖は何故ここを住処としたのだ。どこから来た。どこへ行く。何のために。何も応えぬ森に、そうした問いは押し籠められる定めにあると、時代は紡いできた。しかし〈智慧〉はいつからかその問いに立ち向かってきた。二人は少しずつ知っていく。森の民であることの宿命と、意志の高まりを。
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