血統鑑定士の災難

やよい

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血統鑑定士のそれから【続き 不定期更新】

1 夢の中での会合

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暗闇に目が慣れてきた頃、耳に届くのは誰かの甘やかな喘ぎ声と淫らな水音。

スポットライトに当たったかの様に浮かび上がった姿態は、誰かに跨り抱き締められたまま貫かれて悦ぶ姿。

「しょーぐん、しょーぐんっ♡あっ、あんっ、もっとっ、もっとしてぇ」

エドゥバルドは一心不乱に腰を振り、相手の怒張を体内に収めて啼く青年を見て目を見開く。

「ロアン?」

髪の色も肌の色も、声だって違う。姿かたちがまるで違うのにエドゥバルドは誰かに抱かれて嬉しそうに啼く青年をロアンだと確信していた。

やめろ、やめてくれっ

エドゥバルドは己以外に抱かれて悦ぶロアンが許せなくて、見たくもなくて手を伸ばす。

「触るな。これは『俺の』だ。『お前の』じゃない」

触れる一歩手前で掛けられた声にビクリと手を止めた。掛けられた声の主は、青年を抱く男。
愛おしそうに青年の頭を撫で、背中に掌を這わすと、青年は声にならない喘ぎを上げて背を反らすとクタリと男へ身体を預けた。肩に預けた頭を揺らし、唇を首筋に寄せてリップ音を立てていた。

「『お前の』は、ここには居ない。・・・いいか、『これ』は『俺の』だ。触ろうとすんじゃねぇ」
「・・・『お前』は『俺』か?」
「おぉ、随分と理解が早いな。流石、『俺』・・・そうだ、『俺』は『お前』だ。前世、とでも言うのかもな」
「じゃあ・・・」
「あぁ、『こいつ』はお前の魂の伴侶の前世だ。『俺』の伴侶だ」

未だ貫かれたままの青年の顎を掴み、キスをする『俺』に俺は唇を噛んだ。

「そうだ。『こいつ』はお前のじゃない。が、魂は同じだからな。苦しいのも解る」
「・・・この現象はなんだ?ただの夢にしては納得いかん」
「ふっ、お前なら話になるか・・・要は、お前の伴侶に子を産ませろ。『お前』の子だ。必ず産ませろ」
「それは・・・、産んでくれるのなら俺は嬉しいが・・・無理はさせられん」
「無理でもなんでも、やれ。『こいつ』の強い望みが『お前』以外の伴侶を作った・・・解るか?『こいつ』は『俺』との子を孕む事を望み、叶えられず散った。俺の目の前でな」

スリ・・・と愛おしそうに嬉しそうに男にすり寄る青年を男は憐憫の目を向ける。

「俺たちは出会うのが遅すぎた。そして、生きている時間も短すぎた。・・・仕方のない事だとは思っている。戦乱の世の敵も味方も入り混じったような、どうしようもない世界だった。そして、俺は一国を背負う身で、こいつは敵国の捕虜だった。だが、一目見たときに俺はこいつに囚われたんだ。身も、心も。国に置いてきた好き勝手してる嫁の事なんぞ一瞬にしてどっかに飛んで行ったよ。解放するはずのこいつを寝所に引き摺り込み、無理やり割り開いた。事が終わった時にはすっかりこいつに骨抜きにされて、色狂いって噂が立ったぐらいだ」

はっはっはっ。と大笑いする男に俺は「笑いごとかよ」と口を引きつらせた。

「ま、んで、俺には嫁はいたが、子が居ない。そして、男の魂の伴侶を得た俺は、王位継承権を剝奪された。戦時中にだぞ?終わった後でもよくねぇか?って思ったもんだけどな・・・。それをこいつが気に病んだ。そして魂の伴侶は男でも孕めるっていう、僅かな希望に藁を掴む思いで縋ったんだ。・・・大変だったぞー、毎晩毎晩、それこそ時間も場所も構わず勤しんだ。結果、」
「色狂いの噂か」
「おう。『王位継承権を剥奪された哀れな将軍は、敵国の捕虜を昼夜問わず慰み者に』なんて言われてるぜ、後世では。ま、何をしてもこいつが可愛いから俺も望まれるままに励んだけどな・・・っと、まだ足りないか?」
「ん・・・、これ・・・ぢゅっ」

青年は自ら男から降りると、男の股座に顔を寄せて萎えていない男のモノを口に含む。
ロアンではない。ないが、ロアンと同じ気配のする青年が自分であっても自分ではない男のものを嬉しそうに舐めている所など見たくない。とエドゥバルドは目を逸らした。

「俺一人じゃ、到底間に合わんかった。時間も足りなかったんだろう。身体の変化すら見られず、こいつは俺を庇って死んだ」

青年の死をあっさりと言った男に俺は息を飲んだ。

「その時にな、俺は《覇王》のギフトが顕現した。怒り狂って戦場を敵味方関係なく蹂躙して・・・気付いた時には数多の屍の上に建った大陸統一の巨大国家の国主様だ・・・何が国主だ。好いた奴ひとり守れず、それどころか庇われて・・・死に際に生きろと言われたから生きながらえただけのちっぽけな男だ」
「色狂いの将軍、《覇王》のギフトの顕現・・・あんた、元メルガルト帝国の初代か・・・」
「ふん、お前の時代じゃ、随分切り売りされて、どこかの属国に成り果ててるだろ。今じゃ日和見の情けない王が必死に王座にしがみついてるってな。・・・情けない」
「・・・それで、なんで、『俺』に子を作らせようとする?」
「あん?こいつの悲願だぞ?こいつの願いは強く、俺たちは次の代に生まれ変わったが・・・」

「どうしても無理だった。俺の時はね、時間がすれ違い過ぎた。出会ったらポックリ逝っちゃいそうな友達の祖父に手を出せって?俺が殺されちゃうよ」

突然後ろから声がかかった。
また姿が違うが、『俺』だと分かった。

「出会えただけ良かったじゃないか。終ぞ、私は出会えなかった」

「あらぁ、じゃあ、私はまだましかしら?でも、私が孕んでどうするのよ。って『あれ』に怒られたわよ。いいじゃないの、あの子との子供じゃないのさ」

肉感的な女性が出てきて、『元メルガルト帝国の初代』の男を指さした。

「僕は一応、恵まれていたんですかね?幼馴染で、二人ともそこまで珍しくはなかったけれど、ギフトを持っていて・・・でも、できなかった。・・・頑張ったんですけど、一歩手前で」
「「「腹上死」」」
「はっ!?」
「ひ弱な僕では、体力お化けには着いていけませんでした・・・」

細身で、病弱そうな身体の青年がもじ・・・と恥ずかしそうに話す。

「ま、そんなこんなで何度試しても、子を産ませてやれなくてな。女神も哀れに思ったのか、2人目を用意した。解るか?」
「トゥマ・・・か」

「君のところはそういう名前なんだね。まぁ、自己紹介は要らないかな。僕があの子の2人目。女神の救済措置みたいなものだよ」
「でも、それでも足りなかったの。・・・、女神の奇跡って何?ってちょっと呪っちゃった」
「出会えたり、出会えなかったり。片方だけと会ったり、あの子抜きで出会っちゃったり、ま、色々あったけど、どんなに次へと託しても出来なかった」

次々と浮かんでは、言葉を残して消えていく。トゥマエレと魂が同じ者達。

「タイミングがな。絶妙に悪いんだ。あいつらは・・・」

深くため息を吐いた男の股座にはもう青年はいなかった。

「じゃあ、無理やり合わせよう。いつ来てもいい様に。って、僕は願ったんだ。それが、『今』の僕」

悠久の時の流れに身を置くことになったトゥマエレの理由がロアンだったとは・・・まさに運命なのかもしれない。

「フェルは・・・」
「確実に。って事でな。『俺達』が願った」
「俺と将軍を合わせてくれた子を、ね・・・。可愛いんだよ?一生懸命、世話を焼いてくれてね。俺達二人共が好きなんだって、幸せをいつまでもいつまでも願ってます。って俺よりも先に逝ってしまった子が居たんだ」
「死に方がちと壮絶でな・・・怖がって次に生まれ変わるのを暫く拒んでいたんだが・・・」
「○○さんの幸せのためにっ!僕は頑張ります!」
「って、立ち上がってくれたんだ。可愛いでしょ」

ロアンと同じ魂の青年が、キラキラと目を輝かせて男と青年を見る少年の頭を撫でた。
男も少年の頭をぽんぽんと軽く叩く。
嬉しそうにはにかむ少年は全くフェルの面影はない。が、魂は同じだと感じられた。

「生まれた環境、育った時間が人格を形成する。魂は同じでも、俺たちは違うもんだと解るだろ?」
「あぁ」
「だが、『こいつ』の強い願いはどうにも強力でな。魂にこびり付いている。・・・お前のが、子を望んだら、それこそ止まらんからな。覚悟しろよ?搾り取られるからな」
「腹上死だけは避けてね。ふふっ・・・、・・・ごめんね、止められないんだ。どうしても、この人との子を産みたい・・・おかしいよね、肉体は滅びて、こうしてあんた達の代になっても俺の願いがとてつもなく影響しているって・・・」

――・・ル。ヴァル、起き・・・

「あぁ、ほら、お前のが呼んでいる。応えてやれ」
「あぁ。あの、な・・・」
「順番か?なに、お前との子が産まれるのなら、先でも後でも構わんさ」
「ちょとぐらいは目を瞑るよ。・・・ちゃんと産ませてくれるならね」
「すみません、なんか、生まれた先が厄介だったみたいで・・・」
「いいの」
「構わん」

――ヴァルっ、起きてっ

「おっと、随分ご機嫌ななめだな。ほら、目を開けろ。お前の伴侶をその目に映せ」
「これが最初で最後の会合になる事を祈ってるよ」

男は青年の腰を抱き、暗闇の向こうへと、すう・・・と消えていく。その後ろを急いで着いていく少年はくるりとこちらに向きなおった。

「ギフト《覇王》は強い怒りで発動します。発動したら最後、怒りの原因を消滅させるまで止まらない。気を付けてください。じゃ・・・」

俺に爆弾を投下して、ペコリとお辞儀をして暗闇へと消えていった。

「ヴァルっ!」
「ん・・・、おはよう、ロアン」
「おはようではありませんよ。今何時だと思っているんですか・・・朝食を食べている時間はありませんよ?ただでさえ、ここから王宮は遠いのに・・・ヴァル?」

ローブを身に着け、既に出かける準備が整っていたロアンは、どうしたんですか?と覗き込んできた。そんなロアンにエドゥバルドは、チュッと触れるだけのキスをする。

ロアンは驚き、仰け反ると顔を真っ赤にして「な・・・な・・・」とわなわなと口を震わせる。

「おはようのキスぐらいはさせてくれるか?」
「・・・っ、もう、仕方のない人ですね」

まだ恥ずかしいのか、目を泳がせると覚悟を決めたロアンがベッドへと上がってくる。
ギシ・・・とスプリングが音を立てた。
寄せられる唇を黙って受け入れたエドゥバルドは、そろ・・・と出されたロアンの舌を吸い上げてたっぷりと口内を味わう。

「んっ、んんっ・・・ヴァ・・・ルぅ」
「ん、ちゅっ・・・、すっかりキスでとろとろになるようになったな。そんなに好きか?」
「・・・ヴァルが好きだから、そうなるんです」
「んん゛っ」
「ヴァル?」

なんの計算もなく、素直に意見を述べるロアンの言動に、すっかり小悪魔に成り果てて・・・とエドゥバルドは押し倒しそうになる己を律し、ベッドから降りた。これで押し倒したら、後が怖い。

一糸纏わぬ姿でベッドにいたため、裸を惜しげもせずに晒し着替えていくエドゥバルドの身体をぽーっと見ているロアンに、クスリと笑う。

「そんな顔で見詰められると、仕事に行けなくなりそうだ」
「・・・あっ・・・ごめんな、さい」
「謝ることはない。・・・夜まで、待っていなさい。まだ、二人だけの蜜月期間が残っているからね」
「っ、ヴァ、ヴァルッ」
「さ、仕事と行こうか。・・・切り替えなさい、リリカント鑑定士長代理」
「―――――っ、・・・はい。エドゥバルド鑑定士長」

揶揄い気味にクラバットを締めつつ流し目で見ると、食い入るようにエドゥバルドの裸を見ていた事に気付いたロアンは小さく恥ずかしそうに謝った。
あんなにも情交を交わし、昨夜も余すところなど無いかの様に見せ合っているというのにまだ初心な様子が残るロアンに、エドゥバルドはあの青年よりやはりこちらの方が好みだ。と頷くと、赤くなるロアンの耳元で囁いた。
益々真っ赤になり、慌てるロアンはエドゥバルドに「仕事」と言われ、なんとか切り替えると扉を開けて待つエドゥバルドに駆け寄り、2人は寝室から出って行った。

パタン、と扉が閉まり、カチャリと鍵が下りる音が誰もいない寝室に響いた。
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